最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、青春の現場を眺める

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 翌朝。日の出と共に、眩しい夏の太陽が顔を出した。
 バスの一番後ろの席で揺られながら、遊と共に部活に向かう。建ち並ぶ一軒家、自転車に乗る半袖の青年、光の向こうに広がる山の影。
 車窓からのどかな町並みを眺める俺は、いま究極な眠気に襲われている。すぐにでもまぶたが閉じそうだ。
 
 迷子になり、温泉に入り、マジックショーを披露。昨日は疲れ切っていたはずだが、夜中に目を覚ましてしまったのだ。
 原因は、遊のイビキである。

「……ぐぅっおぉおおおおおおーーーッッ!!」
「!!!」

 深夜工事でも始まったのかと疑うほどの、ブルドーザー級の爆音。ベッドで寝ていたはずの遊が俺の隣に転がり、バンザイのポーズで熟睡していた。俺は静かに耳栓を創作し、就寝——。

 そして、顔面に受けた遊のかかと落としで朝を迎えた。
 体を起こすと、遊の頭と足の位置が逆さまになっている。寝ている間にどんだけ動いてるんだ……?痛覚がない我が身に感謝である。

「俺さ、東京の大学に行きたいんだよね!」

 目覚めのいい遊は、朝から元気いっぱいだ。バスの中でもその笑顔を弾けさせている。

「おお、そうなのか」
「栃木も大好きだけどね! 東京での暮らしはどんな感じなんだろうなあ」

 高い鷲鼻に、透き通るような茶色い瞳。遊は栃木で生まれ育っているが、ルーツは外国かもしれん。天使は成人するまで白い衣を纏うのが習わしだが、どれ、遊も似合いそうではないか。ははは。

「東京って冷たいって言われるけどさ、そんなことなくて。ちっちゃい頃に家族で夢の国に行ったとき、俺、迷子になっちゃったんだけど。知らない人たち、みんな優しくしてくれたんだ!」

 妄想を膨らませていた俺だったが、夢の国……ん?

「遊よ。そこは、有名キャラクターが集合した、パレードの美しいテーマパークのことか?」
「そうそう! あ、ここで降りるよ!」

 そこは東京ではなく、千葉である。
 なぜ、天使の俺のほうが把握しているんだ。とはいえ、俺も方向音痴がゆえここにいる。指摘する資格などない。

 塀の向こうにそびえる校舎を、遊と並んで歩きながら眺める。校庭からは、学生たちの明るい声が響いているぞ。なんと爽やかだろうか。

「あっ! 力也せんぱあーい!」

 遊が嬉しそうに駆けだし、校門近くで手を振る青年にハイタッチを求めた。陸上部にしては色白の力也くんは、黒髪をさらさらとなびかせて、歩み寄った俺を上目遣いに見つめた。

「はじめまして。遊の親戚の方でしょうか?」

 背は多少遊より高いが、華奢な身体である。長いまつ毛がどこか妖艶さを漂わせ、その奥には吸い込まれるような真っ黒い瞳がこちらを覗いている。

「この人は、俺の友達のサミュエルさんです! 昨日からうちにお泊まりしてるんですよ!」

 遊が俺の腕を掴み、ぶんぶん揺さぶった。その様子に微笑んだ力也くんは、穏やかな声で挨拶を続ける。

「サミュエルさん。僕は、森力也です。よろしくお願いします」

 ——なんということだろうか。

「力也先輩のこと、俺めっちゃ大好きなんです! 陸上部に入ってよかったあ!」

 遊の無邪気さに、力也くんが屈託のない笑顔を見せた。その表情には、目を奪われる魅力があったが——。

 力也くんの頭上の数字は、三桁に届きそうな【96】である。

「あの……?」

 力也くんは不安げにまばたきをした。【90】を越えた数字は、今までのミッションでも多数見てきたが、栃木に訪れてからは初めてである。
 俺としたことが、言葉を失ってしまった。

「すまない。あまりに美しい、黒い瞳だったものでな」
「ありがとうございます。サミュエルさんこそ、すごく綺麗ですよ?」

 俺と力也くんを交互に見上げていた遊は、おもむろに校舎を指さした。

「サミュエルさん! 暑いから教室から見学してね!」

 一階、二階、三階の窓に人影が見える。みな校庭を眺めているようだ。

「俺も入っていいのか……(不法侵入疑惑×2)?」
「うん! だいじ!」
「ふふふ。遊ったら、サミュエルさんには敬語を使わないの?」

 二人はそのまま部室に向かい、俺は遊の案内通りに一階の教室に入った。
 ほかの家族に紛れ、広々とした校庭を眺める。向かい合わせのサッカーゴールに、大中小の鉄棒。校庭を囲うように生えた木々。フェンスの奥が光っているのは、水に反射するプールだろうか。
 
 ——天使みたいな先輩ならいるんだけどなあ。でも、俺を救わないとダメですよね?——

 あれは力也くんのことだったのか……。
 だが、俺は彼の前に舞い降りたわけではない。力也くんはミッション非対象であり、解決して欲しいことを尋ねられないのだ。

「サミュエルさん! 来てたんですね!?」

 背後から少女の声。振り返ると、おや、久美ちゃんではないか。何人か友達も一緒である。

「おはよう。久美ちゃんも部活か」

 廊下に向かうと、久美ちゃんの友達が一斉に俺を見上げて、キャーキャー騒ぎ出した。

「はじめましてー! 名前なんですか!?」
「なんかスポーツやってましたよね!?」
「目、カラコンじゃないですよね!?」

 ……一気に話しかけてきたぞ。レディのマシンガントークにはいつも圧倒される。イタリアではマンマたちがレストランで大笑いし、アメリカでは女子高生たちがミルクシェイク片手に早口で喋り続けていた。

「みんな落ち着いてよ! サミュエルさんは遊くんの友達だよ!」

 久美ちゃんが制したが、友人らの勢いはとどまることを知らぬ。

「『遊くん』って美浜くん? 外国人の天使みたいだよね!」
「お兄ちゃんは黒髪で、ちょっとクールなんだよね!?」
「なーんで知ってんのお!? ギャハハッ!」

 喉を壊しそうな笑い方である。

「落ち着いてってば! サミュエルさん、私、吹奏楽部なんです。屋内だから、陸上部よりも練習のスタートが遅くて……」

 久美ちゃんが校庭に視線を移した。振り返ると、遊が全力で走り込んでいる。そのスピードは驚異的だ。オリンピックに出られるんじゃなかろうか。
 水分補給をしたり、励まし合ったり。陸上部はみな仲が良さそうだ。力也くんも笑顔を弾けさせている。

「遊くんって足速いけど、スポーツで将来を目指すつもりはないみたいで……」
「うむ。大学進学が目標だと聞いたぞ」
「すごいなあ。二年の私よりも、ちゃんと考えてるや」

 久美ちゃんは困ったように眉を下げ、ぽつりとつぶやいた。
 高校二年生の夏だ。青春真っ只中だろう。

「やりたいことがまだ見つからずとも、焦る必要はない」

 騒いでいた友達も静かになり、久美ちゃんと共に耳を傾ける。俺はそれぞれの少女たちと目線を合わせ、ゆっくり頷いた。

「ピュアな学生諸君。進学後に目標を見つける者もいれば、社会人になったのち、これが自分の道だと気づく者もいる。人生は長い、案ずるな」

 俺の未踏みとうの領域も数知れず。
 それをこの地、栃木で強く感じているのだ。

「サミュエルさん、尊い……!」

 みなで拍手をしている。ははは。そんな大げさなものではないぞ?

「もう一回、さっきのセリフ言ってください!」
「え?」
「フッみたいなキメ顔も一緒にお願いします!!」

 セリフ。キメ顔。
 いやあの、だいぶ恥ずかしいんだが。

「そ、そういうのは不得意だ……」

 咳払いをして顔をそむけると、久美ちゃんたちの笑い声がさらに大きくなった。

「えーっ! サミュエルさん可愛い!」
「もう一回、いまの照れ笑い見せてください!」
 
 最強天使、墓穴を掘るのもまた得意らしい。



 ——続く——
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