最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、文才の是非

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 爽やかな笑顔で挨拶をしたつもりが、遊によく似た濃い顔立ちの父と、栗毛色の髪をした母は、ぽかんと口を開けて固まってしまった。 

 ……まあ、それが通常の反応だろう。どう見ても俺は高校生ではない。名前はサミュエル、顔は日本人。ルームウェアの半ズボンからは、すね毛が堂々と主張している。パワーワードの連発である。

「ちょ、ちょっと、すっごい体! 水泳選手!?」

 母、大興奮。なぜか笑って手を叩き、そのまま拝んでいる。……え?

「いやあ、イケメンだなあ!! サミュエルさん、もう飯は食ったんですか?」

 父、フランク。

 なぜだ。なぜ、動じぬ?美浜家には、日常的に見知らぬ客が訪れるというのだろうか……?

「ええと、遊くんが冷やし中華と、いもフライを作ってくれまして」
「あ! とーちゃんとかーちゃんのも冷蔵庫にあるよ! タレはあとがけしてね!」

 遊が背後から飛びついてくる。昼間も思ったが、勢いが凄まじい。遊は小柄だが、どうやら力と体力は人一倍あるようだ。

「遊、いつもありがとう。助かるわあ」
「サミュエルさん、ゆっくりしてってくださいね!」

 あっさり受け入れられ、呆気にとられる俺である。この一家、天使が人間に化けているのではないか?いや、俺の目をもってすれば、天使か人間かは、すぐに見抜けるぞ。遊の両親の頭上にも、黄金に輝く【0】が浮かんでいる。つまりは、紛れもない人間だ。

 俺と遊は再び部屋へ戻った。床に置いたスマホが、オーロラ色の光を放っている。

「おや、バレットからメッセージが届いたようだ」
「うわあ! すっげえ綺麗!」

 俺はメッセージをタップした。横から遊が、興味津々に覗き込んでいる。

『サミュエル様。なにを満喫なさってるんですか。居候するおつもりで?』
 
 ぐっ!反論できん。だが、遊の恋模様については触れていないぞ。久美ちゃんとの一件は、モニターしていなかったようだな。

「なんて書いてあるのか読めないや」
「上界の文字だからな。ミッションの件を確認してみよう」
「俺さ、サミュエルさんっ! 告白は、ちゃんと自分でしたいんだっっ!!」

 ……それは昼間も聞いたぞ?なんとも言えぬ顔で頷きつつ、俺はバレットに長めのメッセージを打った。

『バレット。遊が久美ちゃんという少女に恋をしている。その恋を成就させるミッションはどうだろうか? いつも俺が遂行しているものとは異なるが、たまにはキューピッドのような——』

 ——そこまで打ち、気づいた。しまった、これはキューピッドの領分だ!彼らは天使と連携を取ることも多い。勝手に職域を侵せば、快く思われないだろう。

 だが、日付が変わるまで残り数時間。一日一通のメッセージを送らないと無駄になる。明日に繰り越されるわけではない。ええい、もっと簡潔に!これでどうだ!

『バレット。遊が久美ちゃんという少女に恋をしている。その恋を成就させるというミッションを俺は思いついた。いいだろう?』

 我ながら強引である。しかも、最後が謎に自慢のようになった。半ばヤケ気味に送信だ。スマホがオーロラ色に煌めき、文字がひとつひとつ金粉を散らしながら宙へと舞っていく。

「バレットさんのもとに飛んでけー!」
「ははは」

 指先を伸ばす遊。茶色い瞳に、キラキラと光が映り込んでいる。まるで遊が、人差し指から魔法の粉を出しているかのようだ。

 ——コンコンコン。

 ノック音。俺は慌てて、スマホを半ズボンのポケットに滑り込ませた。遊がドアに近寄り、ノブを握る。

「サミュエルさん、この布団使ってください」

 遊がドアを開けると、蒼くんが布団を抱えて立っていた。素早くそれを受け取った遊は、無造作に床に放り投げている。どこまでも豪快な遊である。

「蒼くん、いろいろとありがとう」
「いえ。喉が渇いたら冷蔵庫に麦茶があるので、夜中も自由に飲んでくださいね」

 静かに部屋を去っていく蒼くん。彼は執事タイプだろう。冷静沈着、だが温かい。対して遊は、純粋無垢の天使タイプだ。

 …………。

 なんだか自分を「純粋無垢」だと褒めているように聞こえる。今日一日、俺はずっと空回りしている気がしてならない。

「バレットさんってさ、俺たちのこと見えてるんだよね?」
「休暇中だが、執事専用のスマホがある。どこからでも、我々をモニターできるぞ」
「そうなんだ! おーい!」

 遊が天井に向かって手を振っている。

「いまは上界とは限らんぞ? 下界でしばしのんびりしているかもしれん」
「あ、そっか!」
「可愛いやつめ。ははは」
「へへっ!」

 その瞬間、スマホが再び光を放った。バレットからの返信だ。

『サミュエル様。キューピッドに転職なさるおつもりで? ははは』

 ……真似をされた。一日一通のメッセージ、消滅。



 ——続く——

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