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最強天使、家庭の味に感服す
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美浜家の湯船でさっぱりと汗を流した俺。勉強をする蒼くんの代わりに、夕食を仕上げる遊のそばに近寄った。温泉に浸かったにも関わらず、帰宅後にさらに風呂に入る。清潔な国、日本である!
「遊よ、この串に刺さった旨そうなものはなんだ?」
「いもフライだよ! 栃木のB級グルメ。ソースにはさ、はちみつ混ぜると美味しいんだあ!」
説明しながらも、次々といもフライを仕上げていく遊。蒸したじゃがいもに衣とパン粉を纏わせ、じっくりと油へ沈める。ただの芋の揚げ物と侮ることなかれ。フレンチフライより、はるかに手が込んでいるぞ。もはや芋界の貴族料理だ。
「味見していいよ! あとは冷やし中華も作るからさ」
「おおっ! 俺は、冷やし中華が大好物——」
話してる俺の口に、遊がいもフライを突っ込んできた。おいおい、天使の俺はヤケドをせぬが、これが人間だとしたら……。
「!!!」
サクッとした衣。ふかふかのイモ。甘めのソース。これはB級なのかと問いたくなる旨さである。逆にA級はどんな料理なんだ?教えてくれ、栃木!
「うちの冷やし中華はさ、ゴマダレ派なんだあ」
感激する俺をよそに、家庭菜園で育てたトマトやキュウリをたっぷりと添え、冷やし中華をテキパキと仕上げていく遊。手際がいいぞ。
「遊よ。お前から料理の指南を受けたいくらいだ。魔法で作れようとも、人の手による味わいというものは、やはり違う——」
「えっ! サミュエルさん、刃物持っていいの!?」
錦糸卵を手に、遊が驚いた顔で俺を見上げている。む?
「なぜだ? 特に問題はないぞ」
「そうなんだ! サミュエルさんがカマを持つと、スイッチ入って振り回しちゃうのかと思ってたや! へへっ!」
……死神と誤解されている気がしてならない。そして、包丁がなぜカマへと脳内変換されたのか。情報求ム。
ちなみに、俺が冷やし中華を初めて食したのは、食文化に精通するバレットに誘われ、東京下町の小さな町中華を訪れたときのことだった。その日の東京はうだるような暑さで、ミッションを終えた俺は、バレットと共に早急に上界へ戻ろうとしたのだが——。
「サミュエル様。さっぱりしたものを召し上がってから、戻りませんか?」
暖簾をくぐるバレットのあとを追い、男の客で溢れる店内に足を踏み入れた。促されるまま、目の前に提供された冷やし中華を口にした俺は、思わず声を出してしまった。
「な、なんと!」
夏の暑さなどものともせず、スルスルと胃に収まっていく麺、野菜、ハム、卵。酸味と旨味が絶妙な調和を生んでいる。冷やし中華も日本発祥の料理だというから驚きだ。恐るべし、ニッポン!
「サミュエルさんはさ、醤油とゴマダレどっちが好き?」
昼食(いや、ブランチだったか)と同じ席順で腰を下ろし、夕食スタート。ちゅるちゅるとちぢれ麺をすする遊を横目に見つつ、俺は宣言した。
「……正直に言おう。ゴマダレにハマった(キリッ)」
今後は醤油でなく、ゴマダレを選ぶだろう。遊の魔法にかかり続けているぞ。俺の前で、蒼くんも旨そうに冷やし中華を頬張り、じーちゃんとばーちゃんもぺろりと完食。遊の作る料理は、どれもとんでもなく旨い。上界で「彫刻のようだ」と称えられた俺の肉体が、豊満に変貌していく未来しか見えん。
そんなこんなでまたもや食を楽しんだ俺は、じーちゃんとばーちゃんを見送り、遊の部屋で共にテレビを見てまどろんでいたのだが。
「バレットさんにはさ、もう連絡したの?」
CMに切り替わった瞬間、遊が俺のスマホを唐突に指さした。
「いや、まだだが……」
そういえば、音沙汰がない。だが、バレットは休暇中だ。常に俺をモニターしているわけではあるまい。でなければ、オ・トコマエ・サミュエルマジックショーのあと、「名演技で涙、涙でございました」などと、皮肉が山ほど飛んできたに違いない。
あ。思い出したが、かんぴょう巻きを食べ損ねてしまった。地味に心残りである。
「遊のご両親は、ずいぶん遅くまで働いてるんだな。お腹が空いただろうに」
「途中で食べたりもするみたいだけど、いつもこんな感じかなあ?」
午後九時過ぎである。勤勉すぎるぞ、日本人。電車の到着も、ほぼ定刻通りだと聞いている。朝は学生たちも遅刻をせぬよう、校門に向かって走っている。もう五分早く家を出ればいいものを、「鞄、俺が持つよ!」「いいの?」といった、小さな恋が生まれる瞬間を俺は目撃したことがある。……青春、バンザイ!弾けろ、パッション!しつこい。
「ただいまあー!」
「あ、帰ってきた! ちょっと下に行ってくるね!」
遊が立ち上がり、俺より先に部屋を飛び出した。
……待てよ。考えてみれば、正装でなくてよかったのだろうか?温泉帰りに、日本生まれの格安ファッションブランドへ寄り道。今はそこで調達したルームウェアを着ているのだが。
「俺の部屋着をサミュエルさんが着たら、一瞬で破けそうだよね!」
「家族みんな小さいですからねえ」
「サミュエルさんは、何を召し上がって大きくなられたの?」
「……三人とも。一気に話しかけたら、サミュエルさん困っちゃうから」
いつでも冷静な蒼くんである。ボケとツッコミの塩梅が美浜家は最高だ。ははは。
……いや、思い出し笑いをしている場合ではない。こんなリラックスした格好で本当にいいのだろうか?宿泊許可を頂かねばならぬというのに!
「サミュエルさんっていう友達がさ、お泊まりすることになったから!」
お泊まり。なんと可愛い響きだろうか。遊の話し声を耳に俺は階段を下り、そしてリビングに顔を出した。
「はじめまして、サミュエルです」
遊のご両親、こちらを見て硬直。……こ、この空気、切り裂けるか否か!?
——続く——
「遊よ、この串に刺さった旨そうなものはなんだ?」
「いもフライだよ! 栃木のB級グルメ。ソースにはさ、はちみつ混ぜると美味しいんだあ!」
説明しながらも、次々といもフライを仕上げていく遊。蒸したじゃがいもに衣とパン粉を纏わせ、じっくりと油へ沈める。ただの芋の揚げ物と侮ることなかれ。フレンチフライより、はるかに手が込んでいるぞ。もはや芋界の貴族料理だ。
「味見していいよ! あとは冷やし中華も作るからさ」
「おおっ! 俺は、冷やし中華が大好物——」
話してる俺の口に、遊がいもフライを突っ込んできた。おいおい、天使の俺はヤケドをせぬが、これが人間だとしたら……。
「!!!」
サクッとした衣。ふかふかのイモ。甘めのソース。これはB級なのかと問いたくなる旨さである。逆にA級はどんな料理なんだ?教えてくれ、栃木!
「うちの冷やし中華はさ、ゴマダレ派なんだあ」
感激する俺をよそに、家庭菜園で育てたトマトやキュウリをたっぷりと添え、冷やし中華をテキパキと仕上げていく遊。手際がいいぞ。
「遊よ。お前から料理の指南を受けたいくらいだ。魔法で作れようとも、人の手による味わいというものは、やはり違う——」
「えっ! サミュエルさん、刃物持っていいの!?」
錦糸卵を手に、遊が驚いた顔で俺を見上げている。む?
「なぜだ? 特に問題はないぞ」
「そうなんだ! サミュエルさんがカマを持つと、スイッチ入って振り回しちゃうのかと思ってたや! へへっ!」
……死神と誤解されている気がしてならない。そして、包丁がなぜカマへと脳内変換されたのか。情報求ム。
ちなみに、俺が冷やし中華を初めて食したのは、食文化に精通するバレットに誘われ、東京下町の小さな町中華を訪れたときのことだった。その日の東京はうだるような暑さで、ミッションを終えた俺は、バレットと共に早急に上界へ戻ろうとしたのだが——。
「サミュエル様。さっぱりしたものを召し上がってから、戻りませんか?」
暖簾をくぐるバレットのあとを追い、男の客で溢れる店内に足を踏み入れた。促されるまま、目の前に提供された冷やし中華を口にした俺は、思わず声を出してしまった。
「な、なんと!」
夏の暑さなどものともせず、スルスルと胃に収まっていく麺、野菜、ハム、卵。酸味と旨味が絶妙な調和を生んでいる。冷やし中華も日本発祥の料理だというから驚きだ。恐るべし、ニッポン!
「サミュエルさんはさ、醤油とゴマダレどっちが好き?」
昼食(いや、ブランチだったか)と同じ席順で腰を下ろし、夕食スタート。ちゅるちゅるとちぢれ麺をすする遊を横目に見つつ、俺は宣言した。
「……正直に言おう。ゴマダレにハマった(キリッ)」
今後は醤油でなく、ゴマダレを選ぶだろう。遊の魔法にかかり続けているぞ。俺の前で、蒼くんも旨そうに冷やし中華を頬張り、じーちゃんとばーちゃんもぺろりと完食。遊の作る料理は、どれもとんでもなく旨い。上界で「彫刻のようだ」と称えられた俺の肉体が、豊満に変貌していく未来しか見えん。
そんなこんなでまたもや食を楽しんだ俺は、じーちゃんとばーちゃんを見送り、遊の部屋で共にテレビを見てまどろんでいたのだが。
「バレットさんにはさ、もう連絡したの?」
CMに切り替わった瞬間、遊が俺のスマホを唐突に指さした。
「いや、まだだが……」
そういえば、音沙汰がない。だが、バレットは休暇中だ。常に俺をモニターしているわけではあるまい。でなければ、オ・トコマエ・サミュエルマジックショーのあと、「名演技で涙、涙でございました」などと、皮肉が山ほど飛んできたに違いない。
あ。思い出したが、かんぴょう巻きを食べ損ねてしまった。地味に心残りである。
「遊のご両親は、ずいぶん遅くまで働いてるんだな。お腹が空いただろうに」
「途中で食べたりもするみたいだけど、いつもこんな感じかなあ?」
午後九時過ぎである。勤勉すぎるぞ、日本人。電車の到着も、ほぼ定刻通りだと聞いている。朝は学生たちも遅刻をせぬよう、校門に向かって走っている。もう五分早く家を出ればいいものを、「鞄、俺が持つよ!」「いいの?」といった、小さな恋が生まれる瞬間を俺は目撃したことがある。……青春、バンザイ!弾けろ、パッション!しつこい。
「ただいまあー!」
「あ、帰ってきた! ちょっと下に行ってくるね!」
遊が立ち上がり、俺より先に部屋を飛び出した。
……待てよ。考えてみれば、正装でなくてよかったのだろうか?温泉帰りに、日本生まれの格安ファッションブランドへ寄り道。今はそこで調達したルームウェアを着ているのだが。
「俺の部屋着をサミュエルさんが着たら、一瞬で破けそうだよね!」
「家族みんな小さいですからねえ」
「サミュエルさんは、何を召し上がって大きくなられたの?」
「……三人とも。一気に話しかけたら、サミュエルさん困っちゃうから」
いつでも冷静な蒼くんである。ボケとツッコミの塩梅が美浜家は最高だ。ははは。
……いや、思い出し笑いをしている場合ではない。こんなリラックスした格好で本当にいいのだろうか?宿泊許可を頂かねばならぬというのに!
「サミュエルさんっていう友達がさ、お泊まりすることになったから!」
お泊まり。なんと可愛い響きだろうか。遊の話し声を耳に俺は階段を下り、そしてリビングに顔を出した。
「はじめまして、サミュエルです」
遊のご両親、こちらを見て硬直。……こ、この空気、切り裂けるか否か!?
——続く——
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