最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

文字の大きさ
16 / 39

最強天使、食の恨みを買う

しおりを挟む
「私たちも練習始まっちゃうので! サミュエルさん、またねっ!」
 
 久美ちゃんは手を振り、周りの友人らは互いを力士のようにバシバシ叩き合いながら去った。吹奏楽部には、どうやら気合いが必要らしい。

 ……おや?ズボンのポケットが淡く光っている。バレットから連絡がきたようだ。

『おはようございます、サミュエル様。どこかでお電話頂けますと幸いでございます』

 スマホは通話中もオーロラ色に煌めく。見られるわけにはいかぬな。俺は人目を避け、廊下の隅へ。ここなら誰も来ないだろう。

「おはよう、バレット」
「サミュエル様。最強天使が部活動のご見学とは、なんとも微笑ましい限りでございます」

 朝からエンジン全開の我が執事である。

「ご朝食は白米に、ばっとう汁。納豆とお漬物でらして。実に健康的でいらっしゃいますね」
「ばっとう汁? それはなんだ?」
「……んなっ!? 昨日も宇都宮餃子と一緒に召し上がってらしたでしょう!? 小麦粉を練った団子のようなものと、お野菜をたっぷり入れた味噌仕立ての汁物でございますよ!!」

 早口である。息継ぎのタイミングすら見えん。アメリカの女子高生に負けていないぞ。

「ほう。あの旨い汁物には、名があったのか」
「ええ、栃木の郷土料理だそうで。ちなみに『団子汁』とも呼ぶそうでございます」

 やけに詳しいな。血眼で調べている姿が目に浮かぶぞ。それにしても——。

「バレットよ。昨日の昼食時、俺たちをモニターしていたのだな?」
「ええ。宇都宮餃子は、私がずっと気になっている餃子でございまして」
「おお、そうだったのか」
「……加えて家庭料理バージョンという、なんとも稀有けうなご体験を、私を差し置いて抜けがけっ!!」
「バレット。通話は一日五分だぞ」

 電話口の向こうが静かになった。

「失礼致しました、本題に入りましょう。ミッションの件でございます。キューピッドの職務を最強天使が担うのは、やはり無理があるかと」
「まあ、そうだな……」

 だが、どうすればいいものか。あの無邪気な笑顔、黄金に輝く【0】の数字。天使の助けを必要としていない遊に、無理に悩みごとを作らせるのは奇妙な話だ。

「俺の予想では、遊のミッションは見つからぬ。だが、このままでは我々がペナルティを——」

 俺は腕時計に視線を落とし、口をつぐんだ。再び秒針が右にぶれているぞ。

「サミュエル様、どうなさったのです?」
「腕時計の調子が悪い。上界でドアのダイヤルを回す前から、秒針が右にぶれていてな」
、とおっしゃいますのは? 時計は、もともと右回りでございますが」

 む?

「いや、その……上にズレているのだ」
、とおっしゃいますのは? 左回りということでよろしいでしょうか?」

 最強天使、いまさら時計の仕組みを教わっている。

「……ま、まあそういうことだ」
「サミュエル様の独特な方向感覚は、秒針にも及ぶということでございますね」

 グサアアァアアッ!!

「サミュエル様。私の記憶違いでなければ、ご愛用中の腕時計は修理に出されたばかりでは?」

 バレットからブラックジョークという名のボディーブローを何度か食らった俺は、脇腹をさすりながら頷いた。

「そ、そうだ。だが、ラファエロが不在でな。ほかの者が対応したのだが、どうも調子が戻らぬのだ」
「……まったく。ですから、私が手配を致しますと申しましたのに。『俺が行く』と聞かないものですから」

 俺は唇を口の内側に巻き込んで、斜め上を見て目をぱちぱちさせた。そんな俺を嘲笑うかのように、秒針が右にぶれ続けている。……違う、上へぶれている。いや、上?下?

「サミュエル様。ひょっといたしますと、ペナルティを回避できる可能性がございます」
「なに!?」

 バレットは優秀である。これまで幾度となく、打開策をひねり出してきた。彼は無双の称号を与えられた、最高位の執事なのだ!

「天使の腕時計は時を刻むだけでなく、方位もつかさどります。つまりは、その動きが正常でない場合、迷子になってしまうのも致し方なし。そう報告できるかと……」
「なるほど!」
「た・だ・し! 腕時計に問題がなかった際も、サミュエル様は幾度となく迷子になっていらっしゃいました。そのたび、私がワープでお迎えに伺ったことを、お忘れなきようお願い致します」

 ちっくうううう。最後はやはり、棘がある。だが、休暇中も俺を気にかけてくれている。めちゃくちゃ考えてくれている。最強ツンデレ無双執事である。

「バレット、ありがとう。その内容で報告書をまとめてくれぬか?」
「はい。ただちに……遊さ……ま……の……」

 まずい!五分が過ぎてしまう!俺はやや大きな声で聞き返した。

「遊の、なんだ!?」
「ぎょ……ざ……抜け……が……ぐぬ……ぬ……」

 ——プツッ。

 切れてしまった。最後のバレットの言葉は、おそらく『遊様の餃子を抜けがけ……ぐぬぬ』だろう。

 必死に聞き返した俺の立場は、いったいどうなるのだバレットよ(笑顔)。



 ——続く——
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...