最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト∞

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最強天使、食の恨みを買う

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「私たちも練習始まっちゃうので。サミュエルさん、またねーっ!」
 
 久美ちゃんは手を振り、周りの友人らは互いを力士のようにバシバシ叩き合いながら去った。吹奏楽部には、どうやら気合いが必要らしい。

 ……おや?ポケットが淡く光っている。バレットから連絡がきたようだ。

『おはようございます、サミュエル様。どこかでお電話頂けますと幸いでございます』

 スマホは通話中もオーロラ色に煌めく。見られるわけにはいかぬな。俺は人目を避け、廊下の隅へ。

 ここなら誰も来ないだろう。

「おはよう、バレット」
「サミュエル様。最強天使が部活動のご見学とは、なんとも微笑ましい限りでございます」

 朝からエンジン全開の我が無双執事である。

「ご朝食は白米、納豆、お漬物に、ばっとう汁でらして。実に健康的でいらっしゃいますね」

 む?

「バレットよ。ばっとう汁とはなんだ?」
「……んなッ!? 昨日も宇都宮餃子と一緒に召し上がってらしたでしょう!? 小麦粉を練った団子のようなものと、お野菜をたっぷり入れた味噌仕立ての汁物でございますよ!」

 早口である。息継ぎのタイミングすら見えん。アメリカの女子高生に負けていない。

「ほう。あの汁物には名があったのか」
「さようでございます。栃木の郷土料理でして、『団子汁』とも呼ぶそうでございます」

 やけに詳しいな。眼鏡を光らせ、血眼で調べているバレットの姿が浮かぶぞ。

「昨日の昼食時も、俺をモニターしていたのだな?」
「ええ。宇都宮餃子は、私がずっと気になっている餃子でございます。加えて、家庭料理バージョンという稀有けうなご体験を、私を差し置いて抜けがけッ……!!」
「バレット。通話は一日五分だぞ?」

 電話口の向こうが静かになった。

「失礼致しました、本題に入りましょう。ミッションの件でございます。キューピッドの職務を最強天使が担うのは、やはり無理があるかと」
「まあ、そうだな……」

 だが、どうすればいいものか。あの無邪気な笑顔と、黄金に輝く【0】の数字。天使の助けを必要としていない遊に、無理に悩みごとを作らせるのは奇妙な話だ。

「俺の予想では、遊のミッションは見つからぬ。だが、このままでは我々がペナルティを——」

 俺は腕時計に視線を落とし、口をつぐんだ。再び秒針が右にぶれているぞ。

「どうなさったのです?」
「腕時計の調子が悪い。上界でドアのダイヤルを回す前から、秒針が右にぶれていてな」
、とおっしゃいますのは? 時計はもともと右回りでございますが」

 言われてみれば。

「いや、その……上にずれているのだ」
、とおっしゃいますのは? 左回りということでよろしいでしょうか?」

 最強天使、いまさら時計の仕組みを教わっている。

「ま、まあ、そういうことだ」
「サミュエル様の独特な方向感覚は、秒針にも及ぶということでございますね」

 グサアアァアアッ!!

「サミュエル様。私の記憶違いでなければ、ご愛用中の腕時計は修理に出されたばかりでは?」

 ブラックジョークという名のボディーブローを何度か食らった俺は、脇腹をさすりながら頷いた。

「そ、そうだ。だが、ラファエロが不在でな。ほかの者が対応したのだが、どうも調子が戻らぬのだ」
「……まったく。ですから、私が手配を致しますと申しましたのに。『俺が行く』と聞かないものですから」

 俺は唇を口の内側に巻き込んで、斜め上を見て目をぱちぱちさせた。
 上界の図書館を建て直すと聞き、どんな設計にするのかと興味を持った俺は、ラファエロと少し世間話がしたかったのだ。だが、アポなしで向かってみるとラファエロは不在。バレットのように事前予約をすべきだったと、一人反省したのである。

「サミュエル様。いまのお話を伺い、ひとつ名案が浮かびました。ひょっと致しますと、ペナルティを回避できるかもしれません」
「なにっ!?」

 バレットは優秀である。これまでも、数え切れぬほど打開策をひねり出してきた。彼は無双の称号を与えられた、最高位の執事なのだ。

「天使の腕時計は時を刻むだけでなく、方位もつかさどります。つまりはその働きが正常でない場合、迷子になってしまうのも致し方なし。裁定者に、そうご報告できるかと」
「なるほど!」
「た・だ・しっ! 腕時計に問題がなかった際も、サミュエル様は幾度となく迷子になっていらっしゃいました。その都度、私がワープでお迎えに伺ったことを、お忘れなきようお願い致します」

 ちっくうぅうう。

 最後はやはり棘がある。だが、休暇中も俺を気にかけてくれている。最強ツンデレ無双執事といっていい。最強の称号は俺から授けよう。

「バレットよ、さすがだ。その内容で報告書をまとめてくれぬか?」
「はい、ただちに。遊さ……ま……の……」

 む?まずい!五分が過ぎてしまうぞ!

「遊の、なんだ!?」
「ぎょ……ざ……抜け……が……ぐぬ……ぬ……!」

 ——プツッ。

 切れた。
 最後の言葉は、『遊様の餃子を抜けがけ。ぐぬぬ!』だろうか。

 必死に聞き返した俺の立場はどうなるのだ?バレットよ(笑顔)。



 ——続く——
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