最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、絶叫マシンを攻略す

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 車が緑豊かな山道を抜け、視界がぱっと開けた。
 巨大な観覧車がゆっくりと回り、ねじれたレールのジェットコースターが青空に鮮やかに躍り出ている。

「わぁーっ! 着いたあああ!」

 遊が窓に張りつかんばかりに叫ぶ。隣の久美ちゃんも、ぱっと花が咲いたような笑顔だ。……うむ、すでにお似合いの二人である。

「遊くん、絶叫系は平気?」
「うん! 乗り物でも酔ったことないし!」

 家の中でも、でんぐり返しや側転を繰り返す遊。納得である。

「力也先輩! 絶叫系ばかりじゃなくてもいいので、力也先輩の行きたいアトラクションも行きましょう!」
「ありがとう。でも、ちょっと挑戦してみようかな?」

 遊、フリーズ。

「力也くん、俺と一緒にのんびり楽しもう」

 俺の言葉に力也くんはサングラスをすっとかけ、柔らかく微笑んだ。

「僕、ジェットコースターがどのくらい大丈夫か、試してみたいんです」

 おや。「だいじ」を使わない若者もいるのか。……もとい、無理をするでないぞ!

 駐車場に車を停めると、全員の心はすっかり開園モード。
 夜まで営業しているのかと思いきや、閉園は夕方らしい。栃木の遊園地は健康的である。

「しのぶさんの服、東京で買ったんですか?」
「久美ちゃんが東京に来たら案内してあげる!」
「えー! 嬉しいです!」

 久美ちゃんとしのぶちゃんは、あっという間に打ち解けてマシンガントーク開始。イタリアのマンマ、アメリカの女子高生、栃木生まれの女子。国境も文化も違えど、レディたちはよくしゃべる。

 遊よ、久美ちゃんをしのぶちゃんに取られている場合ではないぞ!?

「力也せんぱあーい! いい匂いがするー!」
「遊もシャンプーの香りがするよ?」

 ……遊は力也くんの腕にすりすりしていた。お前は自由だな。

「まずはどこから行くのがベストかな?」

 蒼くんは冷静にスマホでマップを確認。高い鷲鼻にサングラスがよく似合う。しのぶちゃんも横から覗き込み、二階建てのメリーゴーランドを指さしている。

「久美ちゃんはさ、何に乗りたい?」
「どうしよっかな? 迷っちゃう!」

 恋愛において、最初の一手は重要である。

「ウォーターコースターなら、力也くんもだいじ? 最後に落ちるだけなの」
「うん。僕も乗ってみたいから」
「力也せんぱあーい。本当に無理してませんか?」
「ふふふ。どうもありがとう」

 力也くんが遊の頭をぽんぽんと撫でる。それを見た久美ちゃんとしのぶちゃんは「推せる……!」と両手を合わせて感激。蒼くんはひたすらマップを凝視している。個性が爆発のメンバー。

 そして俺は、どう考えても添乗員である。旗を持っていないのが不思議なくらいだ。

「にいちゃあーん! ウォーターコースターから行こう!」
「オッケー。入口から近いし、ダークキャッスルで涼むのも手だけど」
「……えっ! 俺は行かないよ!」
「あはは。相変わらず、遊はホラーが苦手だな」

 蒼くんに茶化され、遊が横走りで逃げていく。それを見て久美ちゃんがお腹を抱えて笑った。

「遊、とても楽しそうですね?」
「そうだな」

 華奢な身体、細い手首、さらさらと風に揺れる黒髪。
 ……どう見てもか弱い。那須ハイパークの絶叫マシンに挑んだら、気絶するのでは。

「力也くん」
「はい」
「ここのジェットコースターは、かなりハードそうだが……本当に平気か?」

 ガガガガガガガガガガガゴオオオオォォーーッッ!

 ——キャーーーーーーーーーーッッ……!!

 頭上を駆け抜けるコースターに、力也くんは肩をすくめた。すでに顔色は雪のように白い。だいじ?……最強天使は新たな言語『だいじ』を習得した。ゲームふうである。

 ちなみに俺は、どんな重力加速度にも耐える男。我々天使と執事がワープするときの速度は、秒速七十キロを超える。なんの問題もない。むしろ景色を優雅に眺める余裕さえあるだろう。

 まずは、ウォーターコースターへ。丸太型のライドに乗り込み、たぷたぷと水をたたえたコースを進む。

 照り付ける太陽は眩しいが、木々がところどころ心地よい日陰を作っている。のどかだ……そう思わないか?ふわふわ天然パーマの遊よ。後ろから見ていると、ついお前の頭を撫でたく——

 ん?

「なぜ久美ちゃんと二人で乗らず、俺なんだ?」
「サミュエルさんがテンション上がって、魔法使っちゃったら大騒ぎになるからさ!」

 ははは。優しいな。

 ……おい!俺は子供か!

 後ろからは少女たちの賑やかな笑い声。久美ちゃんとしのぶちゃん、そして蒼くんと力也くんが一緒に乗ったようだ。 

「あ、そろそろ落ちるよ!」

 ぐんぐんと上昇し、きらめく水しぶきを浴びながら——落下!
 爽快である。これなら絶叫系が苦手でも楽しめるだろう。

「次はさ、あれにしようよ!」

 蒼くんたちと合流し、遊が指さしたのはまさに絶叫系の最高峰。コースが回転し、轟音が響き、悲鳴が空へと溶けていく。

「力也先輩は、そこのレストランでサミュエルさんと待って……!」
「遊。僕も乗ってみるよ」
「ええっ⁉ 力也せんぱあーい!」

 全員が一斉に心配したが、挑戦することに。

「え……靴、脱ぐんですか?」

 十五分も並ばぬうちに順番が来た。力也くんはすでに身体がガチガチである。安全バーがロックされ、コースターは音を立てて動き出す。
 
 おおはしゃぎの遊。その隣で笑う久美ちゃん。
 その前の席では、蒼くんとしのぶちゃんの楽しそうな会話。

 そして……後列の俺の隣には、口を結んだままの力也くん。

「力也くん?」
「……は、はい」
 
 どう見ても顔面蒼白である。

 ——いざ、絶叫の渦へ!



 ——続く——

 読んでくださりありがとうございます!一緒にジェットコースターに乗ってる気分でご覧ください(笑)!
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