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最強天使、恋と友情の添乗員
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「一緒に連れて行ってくださるなんて、嬉しいです」
「力也せんぱあーい! 会いたかったあー!」
「ふふふ。つい一昨日も会ったばかりじゃない」
力也くんが静かに車に乗り込んだ。淡い水色のTシャツに、胸元へ引っ掛けられたブルーのサングラス。頭上に浮かぶ数字は【95】……よし!
「お兄さん、運転ありがとうございます。サミュエルさん、おはようございます」
「おはよう、力也くん」
さらさらの黒髪。所作のひとつひとつに品がある青年だ。
「にーちゃん、サングラスは?」
遊の声に目を向けると、蒼くんがミラー越しに眩しそうな表情をしている。
「家に忘れたかも……」
ほう。蒼くんでもそんなうっかりをするのか。
「あの……僕のを使いますか?」
「助かる。次の信号で借りていい?」
今日の日差しはひときわ鋭い。これは全員サングラスを掛けるのが正解だろう。
俺は背中に右手を回し、黒いTシャツの中に差し入れた。指先をそっと躍らせて——
*** パアアアアッ! ***
Tシャツの裾からサングラスが次々とこぼれ落ち、俺は左手で器用に受け止めた。
「力也先輩は何に乗りたいですか? メリーゴーランドに行くなら、一緒の馬にしましょう!」
「遊、高校生で二人乗りはダメなんじゃない?」
さて、煌めきも落ち着いただろうか。
「蒼くん、良ければこれを。遊の分もあるぞ」
「……え?」
「わーい! 俺のはブルーだ、力也先輩のと似てる!」
信号で止まった蒼くんが、不思議そうにグレーのサングラスを眺めている。
「サミュエルさん、こんなにたくさんサングラスを持って車に?」
「ぐっ……! そ、その……俺はサングラス収集が趣味なんだ(虚言×無限=白目)!」
やがて、車はとある家の前に停車。門の前で少女が手を振っていた。
「お邪魔しまーす……わあっ! すごい人数!」
白のTシャツに細身のジーンズ。頭上の数字は【0】。蒼くんの彼女、爽やかそのものだ。
「遊くーん、久しぶり!」
「お久しぶりでーす!」
「……あっ、蒼から聞きました! はじめまして、しのぶです!」
しのぶ——忍。
む!くのいちの末裔か!? ジーンズのポケットに手裏剣を隠しているのでは!?
「サミュエルだ。よろしく(身のこなしが早いぞ!?)」
「それと……」
「はじめまして、森力也です。よろしくお願いします」
「力也くん! よろしくね?」
助手席から顔を覗かせたしのぶちゃんが、蒼くんと目を合わせて楽しそうに笑い合う。
「蒼、そんなサングラス持ってたっけ?」
「サミュエルさんのだよ」
お似合いだ。そして蒼くん、実に嬉しそうである。
「あとは……久美ちゃんの家だな。遊、お前の隣に久美ちゃん座るからな?」
「えっ!? 聞いてないんだけど!?」
遊があわあわしている。
「この並び順、どう見てもそうだろ」
「俺さ、久美ちゃんと隣同士とか初めてなんだけど……!」
「弟よ、頑張れー」
蒼くんが軽く励まし、しのぶちゃんが笑い、力也くんもくすくす笑っている。
平和だ。ここにいると、まるで青春映画のワンシーンに紛れ込んだようではないか!ははは!どんどん盛り上がれ!
——一番盛り上がっているのは俺である。
数分走ると、車は住宅街の一角に停まった。白い塀の前で久美ちゃんが待っている。
「今日はよろしくお願いしまーす!」
元気な声とともに駆け寄る久美ちゃん。夏の太陽に映えるピンクのブラウス。ポニーテールが光を弾き、純粋無垢そのものだ。
その姿を見た遊は、口を開けたまま固まっている。アイスクリーム屋で見た表情と同じだ。
「く、久美ちゃん……こっち!」
「遊くん、ありがとう!」
にこっと笑った久美ちゃんが後部座席に乗り込む。ふわっと甘いシャンプーの香りが広がった瞬間——
「ッ!」
遊が声にならない声を漏らし、ぎこちなく体を縮めて窓のほうへ顔を向け、両手でバンバン!と窓ガラスを叩いている。落ち着け。
「久美様……本日は、よ、よろしくお願いします!」
「あはは! 遊くんったら、なに久美様って!」
笑いながら隣に座る久美ちゃんに、遊は耳まで真っ赤だ。湯気でも出そうな勢いである。
「サ、サミュエルさん!」
「うむ」
「俺はさ、だいじっ! だいじだからっ!」
そうか。何も言っていないが。
遊はすでに限界寸前。久美ちゃんがシートベルトを締めただけで肩を跳ねさせる始末。
その様子に、しのぶちゃんが笑い、蒼くんは「まあ頑張れ……」と小声で励まし、力也くんは穏やかに微笑んでいる。
恋愛とは、かくも甘酸っぱいものか。最強天使、観察者としては実に愉快だ。
——続く——
読んでくださりありがとうございます!遊園地編ますます盛り上がりますので、ぜひご覧ください!^^
「力也せんぱあーい! 会いたかったあー!」
「ふふふ。つい一昨日も会ったばかりじゃない」
力也くんが静かに車に乗り込んだ。淡い水色のTシャツに、胸元へ引っ掛けられたブルーのサングラス。頭上に浮かぶ数字は【95】……よし!
「お兄さん、運転ありがとうございます。サミュエルさん、おはようございます」
「おはよう、力也くん」
さらさらの黒髪。所作のひとつひとつに品がある青年だ。
「にーちゃん、サングラスは?」
遊の声に目を向けると、蒼くんがミラー越しに眩しそうな表情をしている。
「家に忘れたかも……」
ほう。蒼くんでもそんなうっかりをするのか。
「あの……僕のを使いますか?」
「助かる。次の信号で借りていい?」
今日の日差しはひときわ鋭い。これは全員サングラスを掛けるのが正解だろう。
俺は背中に右手を回し、黒いTシャツの中に差し入れた。指先をそっと躍らせて——
*** パアアアアッ! ***
Tシャツの裾からサングラスが次々とこぼれ落ち、俺は左手で器用に受け止めた。
「力也先輩は何に乗りたいですか? メリーゴーランドに行くなら、一緒の馬にしましょう!」
「遊、高校生で二人乗りはダメなんじゃない?」
さて、煌めきも落ち着いただろうか。
「蒼くん、良ければこれを。遊の分もあるぞ」
「……え?」
「わーい! 俺のはブルーだ、力也先輩のと似てる!」
信号で止まった蒼くんが、不思議そうにグレーのサングラスを眺めている。
「サミュエルさん、こんなにたくさんサングラスを持って車に?」
「ぐっ……! そ、その……俺はサングラス収集が趣味なんだ(虚言×無限=白目)!」
やがて、車はとある家の前に停車。門の前で少女が手を振っていた。
「お邪魔しまーす……わあっ! すごい人数!」
白のTシャツに細身のジーンズ。頭上の数字は【0】。蒼くんの彼女、爽やかそのものだ。
「遊くーん、久しぶり!」
「お久しぶりでーす!」
「……あっ、蒼から聞きました! はじめまして、しのぶです!」
しのぶ——忍。
む!くのいちの末裔か!? ジーンズのポケットに手裏剣を隠しているのでは!?
「サミュエルだ。よろしく(身のこなしが早いぞ!?)」
「それと……」
「はじめまして、森力也です。よろしくお願いします」
「力也くん! よろしくね?」
助手席から顔を覗かせたしのぶちゃんが、蒼くんと目を合わせて楽しそうに笑い合う。
「蒼、そんなサングラス持ってたっけ?」
「サミュエルさんのだよ」
お似合いだ。そして蒼くん、実に嬉しそうである。
「あとは……久美ちゃんの家だな。遊、お前の隣に久美ちゃん座るからな?」
「えっ!? 聞いてないんだけど!?」
遊があわあわしている。
「この並び順、どう見てもそうだろ」
「俺さ、久美ちゃんと隣同士とか初めてなんだけど……!」
「弟よ、頑張れー」
蒼くんが軽く励まし、しのぶちゃんが笑い、力也くんもくすくす笑っている。
平和だ。ここにいると、まるで青春映画のワンシーンに紛れ込んだようではないか!ははは!どんどん盛り上がれ!
——一番盛り上がっているのは俺である。
数分走ると、車は住宅街の一角に停まった。白い塀の前で久美ちゃんが待っている。
「今日はよろしくお願いしまーす!」
元気な声とともに駆け寄る久美ちゃん。夏の太陽に映えるピンクのブラウス。ポニーテールが光を弾き、純粋無垢そのものだ。
その姿を見た遊は、口を開けたまま固まっている。アイスクリーム屋で見た表情と同じだ。
「く、久美ちゃん……こっち!」
「遊くん、ありがとう!」
にこっと笑った久美ちゃんが後部座席に乗り込む。ふわっと甘いシャンプーの香りが広がった瞬間——
「ッ!」
遊が声にならない声を漏らし、ぎこちなく体を縮めて窓のほうへ顔を向け、両手でバンバン!と窓ガラスを叩いている。落ち着け。
「久美様……本日は、よ、よろしくお願いします!」
「あはは! 遊くんったら、なに久美様って!」
笑いながら隣に座る久美ちゃんに、遊は耳まで真っ赤だ。湯気でも出そうな勢いである。
「サ、サミュエルさん!」
「うむ」
「俺はさ、だいじっ! だいじだからっ!」
そうか。何も言っていないが。
遊はすでに限界寸前。久美ちゃんがシートベルトを締めただけで肩を跳ねさせる始末。
その様子に、しのぶちゃんが笑い、蒼くんは「まあ頑張れ……」と小声で励まし、力也くんは穏やかに微笑んでいる。
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