最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、勇気ある三半規管をたたえる

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 ガコン、ガコンと音を立てながら、ジェットコースターは急坂をのぼっていく。
 車体の振動に混じり、遊のはしゃぐ声が響いた。

「高い! 久美ちゃん! わあーーーーいっ!」
「あははっ! まだ落ちてないよ、遊くん!」

 ……隣の力也くん、静かすぎるのでは?

 ちらりと横を見ると、硬直していた。

「力也くん?」
「…………」
「りき……(やくん)」

 そして——落下。

 ゴゴゴゴゴオォオオォオオオオーーーーッッ!
 
 ……キャーーーーーーーーーーッッ!!

「ひゃっほおおおおおーーーッッ!」

 遊の声が山々にこだまし、久美ちゃんも「キャッハハ!」と笑い混じりに叫ぶ。
 風を切り裂き、コースターはぐるぐると宙返り。

 ほう。園内と遠くの山々が一望できる。
 この加速度はなかなかだ。翼を広げて翔けるのとはまた違った趣がある。栃木よ、那須ハイパークよ、やるではないか。上界の遊園地にも似たものを作るのはどうだろうか。

 ……はて、あれこれ考えていたが。

「力也くん! 風が強いな⁉」

 大声で話しかけたが、反応はない。

「力也くん!」
「…………」
「りき……(やくん)?」

 応答せよ。

 最後の急カーブを抜け、ガタンッ!とブレーキがかかる。

 ——そして、降車。

「最高っ! 久美ちゃん、あとでまた乗ろうよ!」
「うん! 私も楽しかったあっ!」

 遊はこのままもう一度並び直しそうな勢いだ。

 ……一方で。

「………………」

 力也くんは柵につかまり、膝が笑っていた。サングラスを外した瞳も、完全に虚ろである。

「力也くん、俺の腕に掴まりたまえ」
「あ、ありがとうございます……」

 そこへ遊と久美ちゃん、さらに蒼くんとしのぶちゃんも駆け寄ってくる。

「力也せんぱあーい! 俺、おんぶしましょうか?」
「遊……ありがとう……でもそれは恥ずかしいかな……」

 笑みはあるが、心ここにあらず。相当苦手なのに挑戦したのだろう。なかなかの勇気だ。

「力也くんと少し休憩をする。みんなはアトラクションを楽しんでくれ」
「サミュエルさん、僕一人で大丈夫ですよ……?」

 どう見てもふらふらである。

「どこか涼しいところで休もう」

 俺は力也くんを連れ、蒼くんお勧めのレストランへ。
 ダイナーのような造りだ。栃木にいながらアメリカを楽しめる、なんとお手軽!

「何か冷たくて甘いものを飲もう。座って待っていてくれ」
「ありがとうございます……」

 テーブルにうなだれる力也くんを見守りつつ、俺は炭酸飲料を二つ注文。
 フレンチフライもあるのか。つまむのにちょうどよさそうだが……「いもフライのほうが手が込んでいる」などと言った手前、肩身が狭い俺である。

 まずは飲み物だ。購入後、店内の端で周囲を確認し、手のひらをかざして一つのカップにだけ仕掛けを——

 *** パアアアアッ! ***

 カップ全体がオーロラに煌めき、波打つように光が包み込む。回復魔法、これで酔いもスッキリするはずだ。
 
 俺は力也くんの前に座った。

「サミュエルさん、ありがとうございます……。すみません、僕に付き合わせてしまって」
「ははは。問題ない。これを飲むといい、スッキリするぞ」

 力也くんはぷにっとした唇でストローを咥え、炭酸を吸い込んだ。青白かった顔色が、みるみる明るさを取り戻していく。

「……あれ? 僕、すっかり元気になった気がします」
「そうか。よかったな」
「サミュエルさん、まるで魔法を使ったみたいですね?」
 
 炭酸飲料を吹きそうになった。

「……そ、そういえばフレンチフライもあったのだが! 力也くん、食べるか?」

 力也くんははにかみ、肩をすぼめた。

「僕、揚げ物が苦手なので。このジュースだけで充分です、ありがとうございます」

 危うく俺が調子に乗って買い込むところだった。

「サミュエルさあーーん! 力也せんぱあーーい!」

 遊たちが店内に入ってくる。

「混んじゃったら困るからさ、俺たちも早めにランチすることにしたよ!」
「おお、賢明な判断だな」
「さっきのジェットコースター、もう一回乗ったんだ!」
「ははは。よかったな」

 蒼くんが奥の席を指さした。

「俺としのぶは別のところに座りますね。力也くん、だいじ?」

 みんなから心配され、力也くんが照れ笑いを浮かべる。

「はい……僕、子供みたいですね」
「ははは。力也くん、ホットドッグもあったぞ。何か腹に入れなくてだいじか?」

 すっかり『だいじマスター』の最強天使である。

「そうですね、僕も何か食べようと思います」
「俺とサミュエルさんで買ってきます!」

 遊はジャンプして俺の背中にしがみついた。毎度思うのだが、勢いがすごくレディでは耐えられまい。

「遊よ、先日のアイスクリーム屋でも思ったのだが。お前の力は普通ではないぞ」
「サミュエルさんさ、あとで恐竜を観に行こうよ!」

 今朝の微笑み同様、俺の発言は軽やかにスルーされた。

 そしてワンダーランド栃木には、恐竜がまだ生き残って……いや、さすがにそれはない。

「それもアトラクションの一種か?」
「でっかい眼鏡みたいなの装着してさ、VRで楽しめるんだ!」
「……久美ちゃんは興味があるのか?」
「久美ちゃん恐竜好きなんだ!」

 絶叫系と恐竜が大好きな少女。遊と気が合っている。

 しかし、力也くんはまた酔うのでは?三半規管の弱い者は、映像が揺れると拒否反応を示すと聞くぞ。

「これ食ったらさ、俺もう一回さっきのジェットコースター乗ろうかな!」
「……遊よ、さすがに時間を空けたほうがいい。胃の内容物が躍り出るぞ」

 満腹になったところで、我々は恐竜のVR体験へ!



 ——続く——
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