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最強天使、聖火ランナーと化す
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「お待たせいたしました、いらっしゃいませ!」
——カランカランッ!
甲高いベルの音と共に、アイスクリーム屋がオープン。ものすごい数の人間が、どやどやと店内へ流れ込んでくるぞ。
「こちらに並んでくださーい!」
遊が声を上げると、少女たちは「可愛い!」と大はしゃぎ。遊はアイスクリーム屋のマスコットにもなれそうだ。
その人気は、所在地は千葉にも関わらず、名称に東京をねじ込んでいるあの有名パークのキャラクターたちも、きっとびっくりするだろう。
……誤解しないで頂きたいのは、決して有名パークをいじっているわけではない。
だが、もし俺の語りがストップしたら、「ああ、そういうことか」と察して欲しい。
なんの話だ、これ。
視線を店内に戻す。磨き上げられたウッド調の床。そこかしこに漂う甘い匂い。透き通ったガラスのショーケースには、純白のミルク、鮮やかなイチゴ、爽やかなレモン——。
そして、淡いグリーンが輝くジェラート!遊よ、あれがピスタチオだ!!
少々取り乱したが、開店直後とは思えぬ大盛況ぶりだ。二階からは子どもたちの嬉しそうな声が聞こえ、テラス席ではカップルが大きなパラソルの下、互いにミルクソフトを食べさせ合っている。
ちなみに、俺も例のピンクのエプロンを着用している。この胸に抱かれたニコニコ乳牛。最強天使サミュエル、完全に威厳を喪失したのではないか。
「二階席も空いてますので、どうぞ」
「エプロン可愛いー! お兄さん似合ってるー!」
「ははは……」
少女に「可愛い」と褒められる。下界は奥が深い。
愛想笑いを送る俺をよそに、遊はせっせとカップを補充したり、テーブルを拭いたりと、終始動き回っている。笑顔を絶やさぬ姿勢は、まさに接客の鑑である。
「遊よ。ソフトクリームは巻かぬのか?」
「さっきちょっとやってみたんだけど、ヘビみたいにニョロニョロしちゃったや!」
普段の豪快さを思えば容易に予想できる。遊の家のドアが壊れたら、それは間違いなく彼が原因だ。
「でもさ、ジェラートを盛るのは褒められたんだ!」
「ははは。よかったではないか」
「うん! ……えっ!?」
笑っていた遊の表情が一変。入り口のほうを見て硬直している。どうしたのだと、振り返ると——?
「……く、久美ちゃんが来てる!」
ポニーテールに白いワンピース姿の久美ちゃんが、吹奏楽部の友達と順番を待っている。
あわあわする遊をよそに、店内はさらに賑わいを増していた。窓際では親子がレモン牛乳ソフトを片手に写真を撮り、テーブル席の少女たちはイチゴソフトを掲げて映えを競っている。
「美浜くん。その元気いっぱいな接客で、ジェラートの担当をお願いできるかしら?」
スタッフの一人が声をかける。遊は慌てふためき、自分を指さした。
「俺ですか!?」
「……あれ? 遊くんとサミュエルさんがいる!」
久美ちゃんと友達がこちらに気づいた。俺はにこやかに手を振ったが、遊はガチガチに固まってしまったぞ。
「ど、どうしよう! 久美ちゃんの前じゃ、緊張して上手くできないかも!?」
俺は微笑み、遊の肩にポンッと手を置いた。だいじだ。お前はいい男なのだ。
「遊よ、案ずるな。いつものお前でいれば——」
「サミュエルさん、こっちでソフトクリームをお願いできますか!?」
ドヤ顔で諭している場合ではなかった。スタッフはすでにフル稼働。コーンもカップも飛ぶように消えていく。
「未経験ゆえ……」
「ぜひ、一度やってみてください!」
魔法を使いたい衝動を抑える。ここでオーロラの輝きを放ったら、とんでもない騒ぎになるぞ。
だが、俺は最強天使だ。手先の器用さには自信がある。
「では、手始めに……」
スタッフからコーンを受け取ると、手首のスナップでくるくるとソフトクリームを巻いてみせた。美しく均等なフォルムだ。上出来である(満足)。
「サミュエルさん、上手ですね! ミルクソフトはお任せします!」
「うむ!」
イエスマンサミュエルは、なぜか一台のマシンを担当することになった。まあいい。ここなら、遊と久美ちゃんの様子を見守れる。
俺は次々とソフトクリームを仕上げながら、視線は常に遊へ向けていた。
「遊くん、こんにちは。ミルクジェラートをください!」
「は、はい!」
久美ちゃんの眩しい笑顔に、遊の手が震えている。それでも懸命に盛りつける姿の、なんと麗しいことか!
頑張れ、遊!そのひと盛りに、青春を込めるのだ!
——と、ふと気づけば。
「サミュエルさん、巻きすぎですよ!?」
手元を見ると、ソフトクリームは天を突くほど高く巻き上がっていた。まるで聖火ランナーのトーチである。
「すごーいっ!」
「ピューッッ!」
客たちは大盛り上がり。指笛を吹く青年までいるぞ。俺は手のひらを上げて、歓声に応えた。照れるではないか。
……満更でもない俺である。エプロン姿も含め、どうかバレットが見ていないことを願う。
——続く——
——カランカランッ!
甲高いベルの音と共に、アイスクリーム屋がオープン。ものすごい数の人間が、どやどやと店内へ流れ込んでくるぞ。
「こちらに並んでくださーい!」
遊が声を上げると、少女たちは「可愛い!」と大はしゃぎ。遊はアイスクリーム屋のマスコットにもなれそうだ。
その人気は、所在地は千葉にも関わらず、名称に東京をねじ込んでいるあの有名パークのキャラクターたちも、きっとびっくりするだろう。
……誤解しないで頂きたいのは、決して有名パークをいじっているわけではない。
だが、もし俺の語りがストップしたら、「ああ、そういうことか」と察して欲しい。
なんの話だ、これ。
視線を店内に戻す。磨き上げられたウッド調の床。そこかしこに漂う甘い匂い。透き通ったガラスのショーケースには、純白のミルク、鮮やかなイチゴ、爽やかなレモン——。
そして、淡いグリーンが輝くジェラート!遊よ、あれがピスタチオだ!!
少々取り乱したが、開店直後とは思えぬ大盛況ぶりだ。二階からは子どもたちの嬉しそうな声が聞こえ、テラス席ではカップルが大きなパラソルの下、互いにミルクソフトを食べさせ合っている。
ちなみに、俺も例のピンクのエプロンを着用している。この胸に抱かれたニコニコ乳牛。最強天使サミュエル、完全に威厳を喪失したのではないか。
「二階席も空いてますので、どうぞ」
「エプロン可愛いー! お兄さん似合ってるー!」
「ははは……」
少女に「可愛い」と褒められる。下界は奥が深い。
愛想笑いを送る俺をよそに、遊はせっせとカップを補充したり、テーブルを拭いたりと、終始動き回っている。笑顔を絶やさぬ姿勢は、まさに接客の鑑である。
「遊よ。ソフトクリームは巻かぬのか?」
「さっきちょっとやってみたんだけど、ヘビみたいにニョロニョロしちゃったや!」
普段の豪快さを思えば容易に予想できる。遊の家のドアが壊れたら、それは間違いなく彼が原因だ。
「でもさ、ジェラートを盛るのは褒められたんだ!」
「ははは。よかったではないか」
「うん! ……えっ!?」
笑っていた遊の表情が一変。入り口のほうを見て硬直している。どうしたのだと、振り返ると——?
「……く、久美ちゃんが来てる!」
ポニーテールに白いワンピース姿の久美ちゃんが、吹奏楽部の友達と順番を待っている。
あわあわする遊をよそに、店内はさらに賑わいを増していた。窓際では親子がレモン牛乳ソフトを片手に写真を撮り、テーブル席の少女たちはイチゴソフトを掲げて映えを競っている。
「美浜くん。その元気いっぱいな接客で、ジェラートの担当をお願いできるかしら?」
スタッフの一人が声をかける。遊は慌てふためき、自分を指さした。
「俺ですか!?」
「……あれ? 遊くんとサミュエルさんがいる!」
久美ちゃんと友達がこちらに気づいた。俺はにこやかに手を振ったが、遊はガチガチに固まってしまったぞ。
「ど、どうしよう! 久美ちゃんの前じゃ、緊張して上手くできないかも!?」
俺は微笑み、遊の肩にポンッと手を置いた。だいじだ。お前はいい男なのだ。
「遊よ、案ずるな。いつものお前でいれば——」
「サミュエルさん、こっちでソフトクリームをお願いできますか!?」
ドヤ顔で諭している場合ではなかった。スタッフはすでにフル稼働。コーンもカップも飛ぶように消えていく。
「未経験ゆえ……」
「ぜひ、一度やってみてください!」
魔法を使いたい衝動を抑える。ここでオーロラの輝きを放ったら、とんでもない騒ぎになるぞ。
だが、俺は最強天使だ。手先の器用さには自信がある。
「では、手始めに……」
スタッフからコーンを受け取ると、手首のスナップでくるくるとソフトクリームを巻いてみせた。美しく均等なフォルムだ。上出来である(満足)。
「サミュエルさん、上手ですね! ミルクソフトはお任せします!」
「うむ!」
イエスマンサミュエルは、なぜか一台のマシンを担当することになった。まあいい。ここなら、遊と久美ちゃんの様子を見守れる。
俺は次々とソフトクリームを仕上げながら、視線は常に遊へ向けていた。
「遊くん、こんにちは。ミルクジェラートをください!」
「は、はい!」
久美ちゃんの眩しい笑顔に、遊の手が震えている。それでも懸命に盛りつける姿の、なんと麗しいことか!
頑張れ、遊!そのひと盛りに、青春を込めるのだ!
——と、ふと気づけば。
「サミュエルさん、巻きすぎですよ!?」
手元を見ると、ソフトクリームは天を突くほど高く巻き上がっていた。まるで聖火ランナーのトーチである。
「すごーいっ!」
「ピューッッ!」
客たちは大盛り上がり。指笛を吹く青年までいるぞ。俺は手のひらを上げて、歓声に応えた。照れるではないか。
……満更でもない俺である。エプロン姿も含め、どうかバレットが見ていないことを願う。
——続く——
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