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最強天使、アイスクリーム屋でバイト!?
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朝の庭先。俺は麦わら帽子を目深にかぶり、家庭菜園で育ったきゅうりをハサミで切って収穫していた。汗が頬を伝っていく。今日も暑くなりそうだな。……最強天使サミュエルが、日本民家にすっかり馴染んでいる。
「サミュエルさん! 俺さ、今日バイトなんだ!」
振り返ると、遊が部屋の中から俺に満面の笑みを送っている。ソファに促され座ると、遊は俺から受け取ったきゅうりを手にキッチンへ。……乱雑に冷蔵庫を開け、野菜ボックスに投げ入れている。賽銭か。きゅうりもびっくりだぞ。
「バイトか。どこで働くんだ?」
「アイスクリーム屋! 今日開店するんだけど、そのオープニングスタッフに受かったんだあ!」
この季節にぴったりだ。甘党の俺は、上界でよくジェラートを食べている。バレットと共に味わうこともある。ツンデレの彼が唯一、顔をほころばせるのがスイーツを食べる時だ。
「ははは。バレットよ、良い表情をする。お前は本当に甘いものが好きだな?」
「サミュエル様ほどではございません」
スンッ。さっきまで上がっていた口角が、ぎゅっと一文字に。おやおや。
「バレット。俺ほどではないか」
「ええ。サミュエル様のほうが——」
「甘いものより俺のことを好いてくれている、ということか。主に仕える心を常に忘れないとは、さすがだな」
「ッ!? そういう意味ではございません! さっさとお召し上がりください!!」
……なぜか怒られてしまった、そんな夏の思い出。あれ?俺がおかしいのか?
「サミュエルさんもさ、一緒にバイト行こうよ!」
さて、栃木のアイスクリーム屋はどのようなものか。世界的にも有名な、3と1の数字からなるアイスクリーム屋には何度か訪れたことがあるが——。
「ははは。では、遊と共に向かい、その勇姿を見守るとするか」
「ううん! サミュエルさんもさ、俺とバイトしようよ!」
嘘だろ。
「遊よ、さすがにそれは難しいぞ。履歴書がいるだろう?」
・名前:サミュエル
・住所:上界
・年齢:四百二十歳
・特技:魔法
——間違いなく、即不採用だ。
「じゃあさ、アイスだけでも食べに来て! ジェラートもいっぱいあって、栃木の生乳を使ったミルクジェラートとか、ソフトクリームも名物なんだ。イチゴソフトとか、レモン牛乳ソフトもあるんだよ!」
「おお。ずいぶん豪華だな」
しかし、はて?栃木はレモンの名産地なのだろうか。あとでバレットに伝えてやろう。データの一つとしてよいかもしれぬ。
「ソフトクリームを巻くのはコツがいりそうだが、遊はやったことがあるのか?」
「ううん! ないよ!」
白い歯を見せて笑っている。迷いも不安も一切なし。強い。
「何時からバイトなんだ?」
「午前十時オープンで、早めに行って準備するんだ!」
——こうして、俺は遊と共にバスに揺られ、最新型の路面電車を窓越しに眺めている。地方とあなどることなかれ。自然と都会の融合、栃木。俺の中の魅力度ランキングは、急上昇だ!
「サミュエルさんはアイス好きなの?」
もっとも、その順位を上へ押し上げている大部分は、この美浜遊かもしれぬが。
「うむ。特にピスタチオのジェラートが好物だ」
「ピスタチオってなに?」
目をまん丸くしている。まん丸ほっぺと、まん丸の目。栃木のご当地キャラを遊にすれば、キーホルダーに、ぬいぐるみに、爆発的な人気が出るのでは。
「ピスタチオは緑色のナッツだ。鼻に抜ける香りが素晴らしいぞ」
「そっかあ! 枝豆だね!」
「ピスタチオだ」
そんな会話をしているうちに、バスは停車。灼熱の太陽のもと歩き、見えてきたのはウッド調の二階建て。窓にはステンドグラスがはめ込まれている。テラス席には大きなパラソルが咲き、まるで絵本から飛び出したようなアイスクリーム屋だ。すでにカップルや少女たちが列を作り、開店を待っているぞ。
「サミュエルさん、あそこが入口だよ!」
両手を広げ、飛行機ポーズで駆け出す遊。そして、勢いよくドアをバアアァンッ!と開け放った。……お、おい!開店前に壊すなよ!?
「おはようございます! 美浜遊です! よろしくお願いします!」
大声で挨拶する遊を、ピンク色のエプロンをつけたスタッフたちが笑顔で迎える。エプロンには、イチゴとレモンを抱えたニコニコ顔の乳牛が描かれている。ほう。栃木の魅力をぎゅっと詰め込んだデザインだ。スタッフの頭上に浮かぶ数字は、【0】または一桁だ。うむ、いいぞ。
気づけば、その全員の視線が俺に注がれている。誰?と顔に書いてあるぞ。
「あ! 俺の友達のサミュエルさんです! レモン牛乳と枝豆アイス、餃子とラーメンが大好きです!」
……まるで、わんぱく小僧かのような紹介である。そして、ピスタチオだ(キリッ)。スタッフの一人がくすくす笑い、口を開いた。
「オープン前から、こんなに行列になるなんて想定外で。もしよければ、サミュエルさん助けていただけませんか?」
「え?」
「やったあ! サミュエルさん、俺と一緒に働こうよ!?」
Tシャツを引っ張られ、見上げてくる茶色い瞳から目をそらせない。そこに宿る期待は、ひょっとしたら上界の光より眩しいぞ……!
スタッフはにんまり、バイト仲間たちは拍手。栃木で拍手をされるのはこれで何度目だ?人間ではない俺を、どこまでも優しく包み込んでくれる土地だ。ははは。
……いや、今はそこではない!!
「サミュエルさん、さっき『履歴書がないからバイトできない』って落ち込んでたんです!」
「まあ、そうだったんですか! こちらはヘルプしていただく立場ですので、形式なんて気にしないでくださいね」
え。落ち込んでなどいないぞ。だが、遊にはそう見えたのだろうか?納得し、受け入れてしまうのもまた、遊の魔法によるものか。
こうして最強天使サミュエル、まさかのアイスクリーム屋でバイトをすることに!?
——続く——
「サミュエルさん! 俺さ、今日バイトなんだ!」
振り返ると、遊が部屋の中から俺に満面の笑みを送っている。ソファに促され座ると、遊は俺から受け取ったきゅうりを手にキッチンへ。……乱雑に冷蔵庫を開け、野菜ボックスに投げ入れている。賽銭か。きゅうりもびっくりだぞ。
「バイトか。どこで働くんだ?」
「アイスクリーム屋! 今日開店するんだけど、そのオープニングスタッフに受かったんだあ!」
この季節にぴったりだ。甘党の俺は、上界でよくジェラートを食べている。バレットと共に味わうこともある。ツンデレの彼が唯一、顔をほころばせるのがスイーツを食べる時だ。
「ははは。バレットよ、良い表情をする。お前は本当に甘いものが好きだな?」
「サミュエル様ほどではございません」
スンッ。さっきまで上がっていた口角が、ぎゅっと一文字に。おやおや。
「バレット。俺ほどではないか」
「ええ。サミュエル様のほうが——」
「甘いものより俺のことを好いてくれている、ということか。主に仕える心を常に忘れないとは、さすがだな」
「ッ!? そういう意味ではございません! さっさとお召し上がりください!!」
……なぜか怒られてしまった、そんな夏の思い出。あれ?俺がおかしいのか?
「サミュエルさんもさ、一緒にバイト行こうよ!」
さて、栃木のアイスクリーム屋はどのようなものか。世界的にも有名な、3と1の数字からなるアイスクリーム屋には何度か訪れたことがあるが——。
「ははは。では、遊と共に向かい、その勇姿を見守るとするか」
「ううん! サミュエルさんもさ、俺とバイトしようよ!」
嘘だろ。
「遊よ、さすがにそれは難しいぞ。履歴書がいるだろう?」
・名前:サミュエル
・住所:上界
・年齢:四百二十歳
・特技:魔法
——間違いなく、即不採用だ。
「じゃあさ、アイスだけでも食べに来て! ジェラートもいっぱいあって、栃木の生乳を使ったミルクジェラートとか、ソフトクリームも名物なんだ。イチゴソフトとか、レモン牛乳ソフトもあるんだよ!」
「おお。ずいぶん豪華だな」
しかし、はて?栃木はレモンの名産地なのだろうか。あとでバレットに伝えてやろう。データの一つとしてよいかもしれぬ。
「ソフトクリームを巻くのはコツがいりそうだが、遊はやったことがあるのか?」
「ううん! ないよ!」
白い歯を見せて笑っている。迷いも不安も一切なし。強い。
「何時からバイトなんだ?」
「午前十時オープンで、早めに行って準備するんだ!」
——こうして、俺は遊と共にバスに揺られ、最新型の路面電車を窓越しに眺めている。地方とあなどることなかれ。自然と都会の融合、栃木。俺の中の魅力度ランキングは、急上昇だ!
「サミュエルさんはアイス好きなの?」
もっとも、その順位を上へ押し上げている大部分は、この美浜遊かもしれぬが。
「うむ。特にピスタチオのジェラートが好物だ」
「ピスタチオってなに?」
目をまん丸くしている。まん丸ほっぺと、まん丸の目。栃木のご当地キャラを遊にすれば、キーホルダーに、ぬいぐるみに、爆発的な人気が出るのでは。
「ピスタチオは緑色のナッツだ。鼻に抜ける香りが素晴らしいぞ」
「そっかあ! 枝豆だね!」
「ピスタチオだ」
そんな会話をしているうちに、バスは停車。灼熱の太陽のもと歩き、見えてきたのはウッド調の二階建て。窓にはステンドグラスがはめ込まれている。テラス席には大きなパラソルが咲き、まるで絵本から飛び出したようなアイスクリーム屋だ。すでにカップルや少女たちが列を作り、開店を待っているぞ。
「サミュエルさん、あそこが入口だよ!」
両手を広げ、飛行機ポーズで駆け出す遊。そして、勢いよくドアをバアアァンッ!と開け放った。……お、おい!開店前に壊すなよ!?
「おはようございます! 美浜遊です! よろしくお願いします!」
大声で挨拶する遊を、ピンク色のエプロンをつけたスタッフたちが笑顔で迎える。エプロンには、イチゴとレモンを抱えたニコニコ顔の乳牛が描かれている。ほう。栃木の魅力をぎゅっと詰め込んだデザインだ。スタッフの頭上に浮かぶ数字は、【0】または一桁だ。うむ、いいぞ。
気づけば、その全員の視線が俺に注がれている。誰?と顔に書いてあるぞ。
「あ! 俺の友達のサミュエルさんです! レモン牛乳と枝豆アイス、餃子とラーメンが大好きです!」
……まるで、わんぱく小僧かのような紹介である。そして、ピスタチオだ(キリッ)。スタッフの一人がくすくす笑い、口を開いた。
「オープン前から、こんなに行列になるなんて想定外で。もしよければ、サミュエルさん助けていただけませんか?」
「え?」
「やったあ! サミュエルさん、俺と一緒に働こうよ!?」
Tシャツを引っ張られ、見上げてくる茶色い瞳から目をそらせない。そこに宿る期待は、ひょっとしたら上界の光より眩しいぞ……!
スタッフはにんまり、バイト仲間たちは拍手。栃木で拍手をされるのはこれで何度目だ?人間ではない俺を、どこまでも優しく包み込んでくれる土地だ。ははは。
……いや、今はそこではない!!
「サミュエルさん、さっき『履歴書がないからバイトできない』って落ち込んでたんです!」
「まあ、そうだったんですか! こちらはヘルプしていただく立場ですので、形式なんて気にしないでくださいね」
え。落ち込んでなどいないぞ。だが、遊にはそう見えたのだろうか?納得し、受け入れてしまうのもまた、遊の魔法によるものか。
こうして最強天使サミュエル、まさかのアイスクリーム屋でバイトをすることに!?
——続く——
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