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最強天使、美浜兄弟にスルーされる
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車窓を流れる山道は、午前の光を浴びて穏やかに輝いていた。
遊と出会い、美浜家と共に温泉へ向かったあの日とは違い、どこか秋の気配が忍び寄っている。
——そう感じるのは俺だけか?
「……名残惜しいな」
「えっ?」
隣の遊がきょとんと目を丸くする。
「そろそろ着きます。力也くん、酔ってない?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
蒼くんの落ち着いたハンドルさばきで、車は駐車場へ滑り込む。
「サミュエルさんさ、さっきなんて言ったの?」
「遊よ。独り言だ」
俺は遊の頭をぽんぽんと撫でた。
最強天使らしからぬ本音が、つい漏れてしまった。
車を降り、敷地へ足を踏み入れると右手に教会が見えた。
石造りの優雅なアーチを抜ければ、芝生が陽光に照らされ、その奥にはイギリス貴族の邸宅を思わせる建物が佇んでいる。
屋根に絡む苔や花々、草木の香り、小鳥のさえずり。
空気が澄みきっていて、砂利を踏むたび、しゃりしゃりと心地よい音が響く。
なんと清らかな光景だろう——
「まるで、イギリスにワープしたかのようだ……」
隣を歩く蒼くんが、ちらりと俺を見上げて問いかける。
「サミュエルさん。ワープ、したことあるんですか?」
「……え? い、いや!」
今日の蒼くんはずっと、どこか探るような表情だ。
「せーのっ!」
遊が芝生の前で大きくジャンプし、それに合わせて力也くんがシャッターを切った。遊は跳ねる影まで愛らしいな。
ここで鐘の音でも鳴れば完璧なのだが……それは、あとのお楽しみとしよう。
「まずは体験を申し込もうよ! それからあの教会でコンサートね!」
「そうだな。洗練された音色は昔から大好きだ」
遊の写真を液晶で確認していた力也くんが俺に微笑む。
「サミュエルさんは、どこかでパイプオルガンの演奏を聴いたことがあるんですか?」
ぐっ……!最強天使、余計な墓穴を掘ってしまった!
「あ、あるぞ(上界で)」
「ねえ、サミュエルさんもキーホルダー作るよね?」
遊がスマホで体験の写真を見せてくる。子供も大人も、完成品を手に笑顔を浮かべていた。
「ほう。形が選べるのか」
「そうそう! 俺はさ、キノコにしよっかな!」
月や星、音符がある中で、あえてキノコを選ぶとは。遊よ、まるで森の小動物ではないか。
そしてキノコを用意する美術館も、なかなか自由奔放……む?もしや、栃木の特産を意識しているのか!?栃木はイチゴ帝国のみならず、キノコ帝国まで築いているというのか!?
「俺、前にしのぶとキーホルダー作ったことあるんですよ」
「おお、そうなのか」
「けど、なくしたので……。バレたら怒られそうだから作り直さないと」
しっかり者でありながら、そこはうっかりか。……そんな蒼くん、キノコ帝国の真実は知らぬか?
我々はまず体験工房へ。すでに席が埋まり始めていた。
「僕は月にしようかな?」
力也くんはキーホルダーの見本を手に、嬉しそうに微笑む。蒼くんは何にするんだろうかと見ていると——
「サミュエルさんさ、完成したら俺と交換しようよ!」
遊の思わぬひと言に、胸を突かれた。
「やっぱりキノコじゃなくて、星にしようかな? そのほうがサミュエルさんっぽいし!」
俺が魔法で創作したものは、俺が上界に戻れば全て消えてしまう。
では、このキーホルダーはどうなるのか。
下界のものだが、俺が触れて「生み出す」以上、やはり儚く、形を留めぬ陽炎となってしまうのか——
「サミュエルさん? 聞いてる?」
遊が不思議そうに首を傾げる。
「……うむ、いいぞ。遊は何が欲しいんだ? 希望する形のものを作ろう」
「蝶かなあ。サミュエルさん、芋虫をオーロラみたいに綺麗な蝶に変えてたからさ! ……はっ!」
両手で口を塞ぐ遊。「はっ!」まで言ってしまうとは、自由が過ぎるぞ(微笑)。
と、視線を感じた。蒼くんが俺を凝視している。
まるで俺の取り繕った仮面を見抜いているようだ。
「……さ、さっきからどうしたんだ? 蒼くん」
何か言わずにはいられぬ瞳だった。
「いえ。なんでもないです」
蒼くんはそれ以上何も言わず、視線を外した。
場の空気をつなぐように、スタッフの指示が流れる。我々はステンドグラスを選び、テープを巻きつけていった。
この作業も性格が出る。
力也くんは丁寧、蒼くんは慎重。遊は……おや?かなり綺麗だぞ!
そういえば、ジェラートを盛るのも褒められていたな。料理も得意だったか。ははは。簡単には語り尽くせぬ青年だな、遊よ。
「僕、もうひとつ作ってもよろしいでしょうか?」
力也くんがスタッフに確認し、了承を得る。
二つ目も月を選び、色合いをそれぞれ変えて、さらに美しい仕上がりを目指していた。
「誰かとお揃いにするのか?」
「僕、叔父さんと叔母さんにお世話になってるので。二人にプレゼントしようと思います」
なんと愛のある青年だろう。自分の分は作らぬのか。
——俺も何かを残すことができればと、願わずにはいられぬ。
「力也くん。サンドブラスト体験も気になると言っていただろう? 俺からそれを、力也くんのギフトにしてもよいか?」
「えっ?」
驚きを隠そうとしたのか、力也くんは小さくまばたきを繰り返した。
「もちろん、蒼くんと遊の分もだ。……興味があればな?」
フッと微笑んだが、二人はハンダ付けに夢中。
またしても、美浜兄弟にスルーされた最強天使であった。
——続く——
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!九月三十日で完結予定です。変わらず毎日更新しますので、引き続き応援よろしくお願いします!
遊と出会い、美浜家と共に温泉へ向かったあの日とは違い、どこか秋の気配が忍び寄っている。
——そう感じるのは俺だけか?
「……名残惜しいな」
「えっ?」
隣の遊がきょとんと目を丸くする。
「そろそろ着きます。力也くん、酔ってない?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
蒼くんの落ち着いたハンドルさばきで、車は駐車場へ滑り込む。
「サミュエルさんさ、さっきなんて言ったの?」
「遊よ。独り言だ」
俺は遊の頭をぽんぽんと撫でた。
最強天使らしからぬ本音が、つい漏れてしまった。
車を降り、敷地へ足を踏み入れると右手に教会が見えた。
石造りの優雅なアーチを抜ければ、芝生が陽光に照らされ、その奥にはイギリス貴族の邸宅を思わせる建物が佇んでいる。
屋根に絡む苔や花々、草木の香り、小鳥のさえずり。
空気が澄みきっていて、砂利を踏むたび、しゃりしゃりと心地よい音が響く。
なんと清らかな光景だろう——
「まるで、イギリスにワープしたかのようだ……」
隣を歩く蒼くんが、ちらりと俺を見上げて問いかける。
「サミュエルさん。ワープ、したことあるんですか?」
「……え? い、いや!」
今日の蒼くんはずっと、どこか探るような表情だ。
「せーのっ!」
遊が芝生の前で大きくジャンプし、それに合わせて力也くんがシャッターを切った。遊は跳ねる影まで愛らしいな。
ここで鐘の音でも鳴れば完璧なのだが……それは、あとのお楽しみとしよう。
「まずは体験を申し込もうよ! それからあの教会でコンサートね!」
「そうだな。洗練された音色は昔から大好きだ」
遊の写真を液晶で確認していた力也くんが俺に微笑む。
「サミュエルさんは、どこかでパイプオルガンの演奏を聴いたことがあるんですか?」
ぐっ……!最強天使、余計な墓穴を掘ってしまった!
「あ、あるぞ(上界で)」
「ねえ、サミュエルさんもキーホルダー作るよね?」
遊がスマホで体験の写真を見せてくる。子供も大人も、完成品を手に笑顔を浮かべていた。
「ほう。形が選べるのか」
「そうそう! 俺はさ、キノコにしよっかな!」
月や星、音符がある中で、あえてキノコを選ぶとは。遊よ、まるで森の小動物ではないか。
そしてキノコを用意する美術館も、なかなか自由奔放……む?もしや、栃木の特産を意識しているのか!?栃木はイチゴ帝国のみならず、キノコ帝国まで築いているというのか!?
「俺、前にしのぶとキーホルダー作ったことあるんですよ」
「おお、そうなのか」
「けど、なくしたので……。バレたら怒られそうだから作り直さないと」
しっかり者でありながら、そこはうっかりか。……そんな蒼くん、キノコ帝国の真実は知らぬか?
我々はまず体験工房へ。すでに席が埋まり始めていた。
「僕は月にしようかな?」
力也くんはキーホルダーの見本を手に、嬉しそうに微笑む。蒼くんは何にするんだろうかと見ていると——
「サミュエルさんさ、完成したら俺と交換しようよ!」
遊の思わぬひと言に、胸を突かれた。
「やっぱりキノコじゃなくて、星にしようかな? そのほうがサミュエルさんっぽいし!」
俺が魔法で創作したものは、俺が上界に戻れば全て消えてしまう。
では、このキーホルダーはどうなるのか。
下界のものだが、俺が触れて「生み出す」以上、やはり儚く、形を留めぬ陽炎となってしまうのか——
「サミュエルさん? 聞いてる?」
遊が不思議そうに首を傾げる。
「……うむ、いいぞ。遊は何が欲しいんだ? 希望する形のものを作ろう」
「蝶かなあ。サミュエルさん、芋虫をオーロラみたいに綺麗な蝶に変えてたからさ! ……はっ!」
両手で口を塞ぐ遊。「はっ!」まで言ってしまうとは、自由が過ぎるぞ(微笑)。
と、視線を感じた。蒼くんが俺を凝視している。
まるで俺の取り繕った仮面を見抜いているようだ。
「……さ、さっきからどうしたんだ? 蒼くん」
何か言わずにはいられぬ瞳だった。
「いえ。なんでもないです」
蒼くんはそれ以上何も言わず、視線を外した。
場の空気をつなぐように、スタッフの指示が流れる。我々はステンドグラスを選び、テープを巻きつけていった。
この作業も性格が出る。
力也くんは丁寧、蒼くんは慎重。遊は……おや?かなり綺麗だぞ!
そういえば、ジェラートを盛るのも褒められていたな。料理も得意だったか。ははは。簡単には語り尽くせぬ青年だな、遊よ。
「僕、もうひとつ作ってもよろしいでしょうか?」
力也くんがスタッフに確認し、了承を得る。
二つ目も月を選び、色合いをそれぞれ変えて、さらに美しい仕上がりを目指していた。
「誰かとお揃いにするのか?」
「僕、叔父さんと叔母さんにお世話になってるので。二人にプレゼントしようと思います」
なんと愛のある青年だろう。自分の分は作らぬのか。
——俺も何かを残すことができればと、願わずにはいられぬ。
「力也くん。サンドブラスト体験も気になると言っていただろう? 俺からそれを、力也くんのギフトにしてもよいか?」
「えっ?」
驚きを隠そうとしたのか、力也くんは小さくまばたきを繰り返した。
「もちろん、蒼くんと遊の分もだ。……興味があればな?」
フッと微笑んだが、二人はハンダ付けに夢中。
またしても、美浜兄弟にスルーされた最強天使であった。
——続く——
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!九月三十日で完結予定です。変わらず毎日更新しますので、引き続き応援よろしくお願いします!
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