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最強天使、光のギフト
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「綺麗にできたあ!」
仕上がったキーホルダーを指に引っ掛け、ぶんぶん振り回しながら遊は砂利道をスキップした。完成した直後に壊してしまいそうでハラハラする件。
俺は青と水色のガラスを選び、グラデーションの蝶を仕上げた。遊がかつて目にしたあの蝶を模したのだが、色合いはかなり近づけたのではないか。
もっとも、天を彩るオーロラの輝きは、この手には映しきれぬが。
「……あの、本当に甘えてしまってよろしいんでしょうか?」
力也くんが遠慮がちに上目遣いで問いかける。
「気にするでない。サンドブラストもよい体験になるといいな」
「サミュエルさん、ありがとうございます」
「ははは。どの柄にするのか、もう決めたのか?」
「はい。『天使』があればいいなって」
砂利道につまづき、危うく転びそうになった。
「大丈夫ですか?」
「……あ、ああ。いろいろ見てから決めるといい」
我々より少し先に歩いていた蒼くんが、電話を終えて戻ってきた。
「しのぶ、俺がキーホルダーなくしたの知ってました」
苦笑いしながら肩をすぼめる。レディの直感は侮れぬな。
「そろそろパイプオルガンの演奏が始まるようなので、行きましょうか?」
「うむ」
「サミュエルさん」
蒼くんが俺を見上げ、微笑んだ。
「ここのパイプオルガンの演奏も、感動するので。楽しんでください」
……ここ、とは。
蒼くんが教会の扉を押し開けると、厳格な空気が肌を包んだ。通路の両脇や祭壇にはキャンドルが灯り、静かな炎が空間を揺らしている。
足音は、まるでコンサートの前奏のように響いていた。
——戻ってきたのか?
つい上界を思い出してしまう。少しだけ早く舞い戻ったような錯覚だ。
差し込む外光がステンドグラスを透かし、床や壁に赤や青、緑の光を散りばめている。
光を受けてこそ、ガラスは美を宿す。人もまた同じだ。誰かの思いやりに照らされ、そしてまた誰かを照らすからこそ——
心の色彩は、豊かに輝きだすのだ。
「サミュエルさん、これ」
遊が俺の手のひらに、星形のキーホルダーをそっと置いた。
色とりどりの輝きが反射し、教会全体がその小さな光を包み込む。
「俺さ、結構うまくない?」
白い歯を見せてニッと笑う遊は、ステンドグラスに描かれた天使そのものだ。
「ああ、上手だな」
俺も蝶のキーホルダーを遊に渡した。遊が嬉しそうに眺めている。
——俺が上界に戻っても、その輝きを失わぬままでいてくれ。
お互いの手に残る土産として、どうか消えぬままで。
俺だけギフトを受け取るなど、なんともアンフェアではないか。
「演奏、始まるね?」
「そうだな」
視線を横にやると、力也くんはまっすぐ前を見据えていた。
さらさらの黒髪。色白の肌。黒い瞳の奥が、どこか霞むように揺れている。
「力也くん。だいじか?」
「……え? あ、はい」
安心させるように笑ったその表情の裏には、言葉にできぬ影が潜んでいるように思えた。
その向こうで、蒼くんと目が合う。
相変わらず俺をじっと見つめている。
——何か……気づいているのか?蒼くん。
♬——
荘厳な音が空間を満たす。パイプオルガンの低音は生命の鼓動のように深く、高音は天使のはしごのように神々しい。
天井や壁に反響し、胸の奥底まで揺さぶられる。俺は目を閉じ、全身でその音を受け止めた。
温泉、遊園地、バイト、ブルーベリーファーム、資料館、部活、美術館……。
この一ヶ月、どれほど濃く、数え切れぬ思い出を重ねてきたことか。
明日は夏祭りと花火大会、そして遊の告白。——これ以上ない幕締めが待っている。
それが、俺と遊の最後の光となるだろう。
「……俺さ、感動して泣きそうだった」
演奏が終わると同時に、遊が俺の腕にすり寄ってきた。遊はどうやら感動しやすい性分のようだ。
立ち上がってふと力也くんの頭上を見ると、【数字】が明滅を繰り返している。胸に何か大きなものが触れた証だ。
よいぞ、力也くん。
「俺さ、サンドブラストで作るコップ、久美ちゃんにあげてもいい?」
遊が無邪気に俺のTシャツを引っ張る。力也くん同様に、愛のある青年だ。
「もちろんだ。きっと喜ぶだろう」
「……俺も、しのぶにあげようかな。キーホルダーのお詫びで」
「ははは。きっと許してくれるだろう」
邸内を巡り、ステンドグラスのランプもじっくりと眺めて、再び工房へ。
サンドブラスト体験は単純かと思いきや、集中力を要する細かい作業で、気づけば全員が無言になっていた。
「ふふふっ……」
力也くんが堪えきれず笑った。
「みんな無言だから、なんだかおかしくって」
「確かに! 俺、歌いましょうか?」
「遊……ほかにも人いるから」
完成したそれぞれのグラス。遊はプリンセスをモチーフに、蒼くんは猫、力也くんは薔薇。俺は……さすがに天使アピールは避け、星を選んだ。
魔法を使わずに自らの手で生み出すものは、不思議と愛おしい。手間暇はかかるが確かな存在感を放つ。
「『これあげるよ!』っと!」
遊が写真を撮り、メッセージを打っている。
「遊よ」
「うんっ?」
「サプライズにはせず、久美ちゃんに伝えるのか?」
遊は思い切り口を開けたまま固まった。
「……思いつかなかった! しかも、写真もう送っちゃった!」
力也くんと蒼くんが顔を見合わせ、同時に吹き出した。
やはり、遊はどこまでも遊である。
だがその無邪気さこそ、知らぬうちに誰かの心を照らし続けているのだ。
——続く——
仕上がったキーホルダーを指に引っ掛け、ぶんぶん振り回しながら遊は砂利道をスキップした。完成した直後に壊してしまいそうでハラハラする件。
俺は青と水色のガラスを選び、グラデーションの蝶を仕上げた。遊がかつて目にしたあの蝶を模したのだが、色合いはかなり近づけたのではないか。
もっとも、天を彩るオーロラの輝きは、この手には映しきれぬが。
「……あの、本当に甘えてしまってよろしいんでしょうか?」
力也くんが遠慮がちに上目遣いで問いかける。
「気にするでない。サンドブラストもよい体験になるといいな」
「サミュエルさん、ありがとうございます」
「ははは。どの柄にするのか、もう決めたのか?」
「はい。『天使』があればいいなって」
砂利道につまづき、危うく転びそうになった。
「大丈夫ですか?」
「……あ、ああ。いろいろ見てから決めるといい」
我々より少し先に歩いていた蒼くんが、電話を終えて戻ってきた。
「しのぶ、俺がキーホルダーなくしたの知ってました」
苦笑いしながら肩をすぼめる。レディの直感は侮れぬな。
「そろそろパイプオルガンの演奏が始まるようなので、行きましょうか?」
「うむ」
「サミュエルさん」
蒼くんが俺を見上げ、微笑んだ。
「ここのパイプオルガンの演奏も、感動するので。楽しんでください」
……ここ、とは。
蒼くんが教会の扉を押し開けると、厳格な空気が肌を包んだ。通路の両脇や祭壇にはキャンドルが灯り、静かな炎が空間を揺らしている。
足音は、まるでコンサートの前奏のように響いていた。
——戻ってきたのか?
つい上界を思い出してしまう。少しだけ早く舞い戻ったような錯覚だ。
差し込む外光がステンドグラスを透かし、床や壁に赤や青、緑の光を散りばめている。
光を受けてこそ、ガラスは美を宿す。人もまた同じだ。誰かの思いやりに照らされ、そしてまた誰かを照らすからこそ——
心の色彩は、豊かに輝きだすのだ。
「サミュエルさん、これ」
遊が俺の手のひらに、星形のキーホルダーをそっと置いた。
色とりどりの輝きが反射し、教会全体がその小さな光を包み込む。
「俺さ、結構うまくない?」
白い歯を見せてニッと笑う遊は、ステンドグラスに描かれた天使そのものだ。
「ああ、上手だな」
俺も蝶のキーホルダーを遊に渡した。遊が嬉しそうに眺めている。
——俺が上界に戻っても、その輝きを失わぬままでいてくれ。
お互いの手に残る土産として、どうか消えぬままで。
俺だけギフトを受け取るなど、なんともアンフェアではないか。
「演奏、始まるね?」
「そうだな」
視線を横にやると、力也くんはまっすぐ前を見据えていた。
さらさらの黒髪。色白の肌。黒い瞳の奥が、どこか霞むように揺れている。
「力也くん。だいじか?」
「……え? あ、はい」
安心させるように笑ったその表情の裏には、言葉にできぬ影が潜んでいるように思えた。
その向こうで、蒼くんと目が合う。
相変わらず俺をじっと見つめている。
——何か……気づいているのか?蒼くん。
♬——
荘厳な音が空間を満たす。パイプオルガンの低音は生命の鼓動のように深く、高音は天使のはしごのように神々しい。
天井や壁に反響し、胸の奥底まで揺さぶられる。俺は目を閉じ、全身でその音を受け止めた。
温泉、遊園地、バイト、ブルーベリーファーム、資料館、部活、美術館……。
この一ヶ月、どれほど濃く、数え切れぬ思い出を重ねてきたことか。
明日は夏祭りと花火大会、そして遊の告白。——これ以上ない幕締めが待っている。
それが、俺と遊の最後の光となるだろう。
「……俺さ、感動して泣きそうだった」
演奏が終わると同時に、遊が俺の腕にすり寄ってきた。遊はどうやら感動しやすい性分のようだ。
立ち上がってふと力也くんの頭上を見ると、【数字】が明滅を繰り返している。胸に何か大きなものが触れた証だ。
よいぞ、力也くん。
「俺さ、サンドブラストで作るコップ、久美ちゃんにあげてもいい?」
遊が無邪気に俺のTシャツを引っ張る。力也くん同様に、愛のある青年だ。
「もちろんだ。きっと喜ぶだろう」
「……俺も、しのぶにあげようかな。キーホルダーのお詫びで」
「ははは。きっと許してくれるだろう」
邸内を巡り、ステンドグラスのランプもじっくりと眺めて、再び工房へ。
サンドブラスト体験は単純かと思いきや、集中力を要する細かい作業で、気づけば全員が無言になっていた。
「ふふふっ……」
力也くんが堪えきれず笑った。
「みんな無言だから、なんだかおかしくって」
「確かに! 俺、歌いましょうか?」
「遊……ほかにも人いるから」
完成したそれぞれのグラス。遊はプリンセスをモチーフに、蒼くんは猫、力也くんは薔薇。俺は……さすがに天使アピールは避け、星を選んだ。
魔法を使わずに自らの手で生み出すものは、不思議と愛おしい。手間暇はかかるが確かな存在感を放つ。
「『これあげるよ!』っと!」
遊が写真を撮り、メッセージを打っている。
「遊よ」
「うんっ?」
「サプライズにはせず、久美ちゃんに伝えるのか?」
遊は思い切り口を開けたまま固まった。
「……思いつかなかった! しかも、写真もう送っちゃった!」
力也くんと蒼くんが顔を見合わせ、同時に吹き出した。
やはり、遊はどこまでも遊である。
だがその無邪気さこそ、知らぬうちに誰かの心を照らし続けているのだ。
——続く——
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