最強天使の俺、日本で迷子になり高校生男子に懐かれ大混乱【改訂版】

エイト

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最強天使、未来を灯す

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 ステンドグラスの世界観にどっぷり浸り、気づけば夕方になっていた。

 キーホルダー作り、コンサート、サンドブラスト体験。一日を丸ごと、この場所に預けてしまったようだ。
 再入館できると聞き、昼は近くでランチをとり、また戻ってきたほどである。
 
 栃木に舞い降りて約一ヶ月。笑い声に囲まれ、光や音に触れ、舌で味わい、目で楽しみ……時が経つのも忘れてしまう。

 ——最強天使といえど、体がすっかりなまってしまったな。

「秋のイベントではキャンドルが灯るんだってさ! 綺麗だろうなあ!」

 遊は隣の蒼くんに向かって大声ではしゃいでいる。その声は敷地の向こうまで響きそうであった。朝から晩までテンションが変わらぬ青年である。

 秋の気配が漂い始めたとはいえ、まだ夏の夕暮れだ。キャンドルが灯るには少し早い時間かもしれぬ。
 だが、ここに灯りが揺らめいたら、どんなに美しいだろうか。

 ——どれ、少しだけ試してみるか。

 俺はそっと片手を背に回した。人差し指で軌跡を描くと、きらきらと金粉が芝生へ舞い降りる。

 *** パアアアアッ! ***

 草の上に小さなキャンドルがぽつり、またぽつりと広がっていく。
 オレンジと黄色の輝きは抱擁のように温かく、やがて芝生一面が光の草原へ変わっていった。
 
「……あれ? 今日は点灯の予定なんてなかったはずなのに」

 俺のそばを歩く力也くんが呟き、カメラを構えている。

「ははは。お試しだったのかもしれないな?」

 俺は教会の鐘を見つめ、軽く指先を揺らした。

 低く重厚な音色が空気を震わせ、この地に生きる全ての人々の胸へと響き渡る。

 ♬——

「うわああっ! にーちゃん、感動するね⁉」
「……うん」

 遊も蒼くんも見上げている。
 ——これ以上は目立つな。俺は手をポケットに収めた。

 カメラのシャッターを何度も切った力也くんは、やがて前を向いた。
 そして、細い手首を差し出した。

「僕、サミュエルさんと出会うことができて、たくさんお話できて、とても楽しかったです」
「俺もだ、力也くん」
「また……お会いできるでしょうか? 今度はいつ、栃木にいらっしゃいますか?」
 
 その小さな手を、俺は優しく握りしめた。
 
 ミッションでも休暇でも、再び栃木に舞い降りたとしても。

 俺が「サミュエル」だと気づくことは、もうないだろう。

 だがそれでも、俺は最強天使として伝えねばならぬ言葉がある。

 俺は力也くんの頭上の【数字】を見つめ、真っ黒な瞳をまっすぐに見返した。
 沈みゆく夕陽と、淡いキャンドルの光が映り込んでいる。

「力也くん」
「はい」
「太陽は、みなに平等に昇る。夜は、やがて明ける。光は必ず届くのだ」

 頭上の【93】が脈打つように、高速で明滅し始める。

「人間はときに脆く、判断を見失うこともある。だが、時間は絶え間なく進んでいくのだ」
「はい」
「……自らの手で、時を止めてはならぬ。よいな?」

 その瞬間、力也くんの瞳が大きく開かれ、かすかに揺らいだ。

「よいな? 力也くん」

 心の限界が【100】を超えぬように——

「はい……」

 ——太陽を待つのだ、力也くん。
 
 そして、まだ見ぬ未来を切りひらけ。
 人間の可能性は無限大だ。

 小さく息を震えさせたその返事を、俺は確かに受け止めたぞ。

「……今のは、『力也くん自身の言葉』として胸に刻んで欲しい」
「サミュエルさんの言葉なのに、ですか?」

 俺が微笑むと、力也くんも同じように微笑んだ。

「遊が力也くんを救っているように。今度はきみが、誰かの心を照らすのだ」
「サミュエルさん……」

 頭上の数字がオーロラ色の光を弾けさせ、【87】へと一気に減少した。
 その輝きが細かな粒となって降り注ぎ、力也くんの瞳に新たな生気を宿していく。

 だいじだ、力也くん——

 きみは強い。きみは一人ではない。

「……僕、今の言葉、絶対に忘れません。ありがとうございます」
「こちらこそ。たくさんの思い出をありがとう、力也くん」
「サミュエルさん、きっとまた会いましょうね?」

 再会を約束する一言、「また」。

 俺はほんの一瞬、言葉を探した。
 だが、次に浮かんだのは——

「ああ。力也くん、会おう」 

 ——最強天使のその願いが、たとえ届かぬ約束であったとしても。

 力也くんの心に、俺の言葉が永遠に刻まれることを願って。



 ——続く—— 
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