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最強天使、遊のこだわり
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「おはようございまーす! いらっしゃいませー!」
遊の元気な挨拶は、ドアベルの音がかすむほどだ。オープン初日同様に、多くの客がどやどやと店内へ流れ込む。
だが、割り込む者など一人もおらぬ。スタッフの案内のもと、みな行儀よく順番を待っているぞ。ワンダフル、栃木!
「久美ちゃん、ここにカップ補充しておくね!」
「ありがとう!」
遊のリセットモードは解除されたようだ。久美ちゃんと協力し、次々とジェラートを盛りつけている。テキパキ対応する遊と、初日とは思えぬ接客の久美ちゃん。ぴったりの息だ。
そんな二人を観察しながら、ソフトクリームを次々と巻く。マシーンから絞り出すたび、ミルキーでコク深い香りが鼻を刺激してくるぞ。いつか全国区で、栃木生乳を使ったアイスが話題沸騰となるかもしれぬ。
「あっ! オリンピックのお兄さんがいるー!」
「私たちに、あのソフト作ってください!」
背後から、キャッキャッと盛り上がる少女たちの声。オリンピックのお兄さんとはなんだ?ミルクソフトを高く巻き上げ、トーチのように仕上げた男でもいるというのか?……俺である。
「あのオリンピックソフトは、オープン初日の特別演出だったんだ。どうぞ」
我ながらナイスな切り返しである。オリンピックソフトのどこがナイスなのかはわからぬが、俺は通常サイズでミルクソフトを巻き上げ、カウンター越しに手渡した。
「えー! ざんねーん!」
「でも、ピンクのエプロン姿かわいー!」
「ははは……」
可愛いに対して、なんと返すのが正解か。いまだつかめぬ俺である。
* * *
怒涛の混雑ぶりではあったが、勤務は無事終了。遊は店長から、今後も働けないかと声をかけられていた。ここでバイトを続けることになりそうだ。
「久美ちゃんはさ、まだ帰らないの?」
エプロンを外した遊が、テーブルを拭く久美ちゃんに声をかけた。背中に両手を回し、指先をもじもじさせている。おお!デートに誘うのか!?こぶしを握り、こっそりエールを送る。
「うん! 遊くんたちは、もう終わりだよね?」
「あ、うん」
「私は夕方までいるの!」
「そっかあ。えっと、そっかあ……」
遊は指先をほどき、そのまま背中で手のひらを合わせた。肩甲骨が柔らかい!違う、諦めるでない!
「遊くん」
「うん……?」
「また一緒に出かけようね!」
「えっ!? う、うん!」
遊のほっぺが、スカイベリーのように赤くなった。イチゴの品種紹介に挑む最強天使である。
どうやら、久美ちゃんは遊の心の内を読んだようだ。予想するに、彼女は年齢問わず、異性からの人気が高いだろう。愛嬌があり、面倒見もよく、優しさを兼ね備えた少女だ。遊よ、シャイだからといっていつまでもうかうかしていられんぞ?
「遊くん、また学校でね? サミュエルさんも、また!」
「うむ。頑張ってくれ」
店の外に出ると、重たい曇はすっかり消えていた。ミンミン蝉の鳴き声が響く中、俺と遊は並んでバス停へ向かう。
「さっきさ、久美ちゃん『出かけよう』って誘ってくれたよね?」
顎に伝った汗を指先で払い、遊は俺を見上げた。青春の恋模様と共に、この夏の気温はさらに上昇しそうである。
「そうだな。次はどこがいいだろうか」
「久美ちゃんが好きなところに連れていってあげたいなあ……」
遊がぽつりとつぶやいた。イチゴのように甘酸っぱい恋などとは決して言わぬが、なんとピュアな恋心だろうか。
「遊よ。次は、二人きりで遊びに行くのもいいのでは?」
「えっ?」
「ひょっとすると、久美ちゃんもそれを望んで——」
「俺さ、サミュエルさんっ! 二人きりは、花火までとっておきたいんだっ!!」
到着したバスが、車体ごと揺れそうな大声である。セミも一瞬、静かになったような……。
とっておきたいものが多すぎる、独特なこだわりを持つ遊である。
——続く——
遊の元気な挨拶は、ドアベルの音がかすむほどだ。オープン初日同様に、多くの客がどやどやと店内へ流れ込む。
だが、割り込む者など一人もおらぬ。スタッフの案内のもと、みな行儀よく順番を待っているぞ。ワンダフル、栃木!
「久美ちゃん、ここにカップ補充しておくね!」
「ありがとう!」
遊のリセットモードは解除されたようだ。久美ちゃんと協力し、次々とジェラートを盛りつけている。テキパキ対応する遊と、初日とは思えぬ接客の久美ちゃん。ぴったりの息だ。
そんな二人を観察しながら、ソフトクリームを次々と巻く。マシーンから絞り出すたび、ミルキーでコク深い香りが鼻を刺激してくるぞ。いつか全国区で、栃木生乳を使ったアイスが話題沸騰となるかもしれぬ。
「あっ! オリンピックのお兄さんがいるー!」
「私たちに、あのソフト作ってください!」
背後から、キャッキャッと盛り上がる少女たちの声。オリンピックのお兄さんとはなんだ?ミルクソフトを高く巻き上げ、トーチのように仕上げた男でもいるというのか?……俺である。
「あのオリンピックソフトは、オープン初日の特別演出だったんだ。どうぞ」
我ながらナイスな切り返しである。オリンピックソフトのどこがナイスなのかはわからぬが、俺は通常サイズでミルクソフトを巻き上げ、カウンター越しに手渡した。
「えー! ざんねーん!」
「でも、ピンクのエプロン姿かわいー!」
「ははは……」
可愛いに対して、なんと返すのが正解か。いまだつかめぬ俺である。
* * *
怒涛の混雑ぶりではあったが、勤務は無事終了。遊は店長から、今後も働けないかと声をかけられていた。ここでバイトを続けることになりそうだ。
「久美ちゃんはさ、まだ帰らないの?」
エプロンを外した遊が、テーブルを拭く久美ちゃんに声をかけた。背中に両手を回し、指先をもじもじさせている。おお!デートに誘うのか!?こぶしを握り、こっそりエールを送る。
「うん! 遊くんたちは、もう終わりだよね?」
「あ、うん」
「私は夕方までいるの!」
「そっかあ。えっと、そっかあ……」
遊は指先をほどき、そのまま背中で手のひらを合わせた。肩甲骨が柔らかい!違う、諦めるでない!
「遊くん」
「うん……?」
「また一緒に出かけようね!」
「えっ!? う、うん!」
遊のほっぺが、スカイベリーのように赤くなった。イチゴの品種紹介に挑む最強天使である。
どうやら、久美ちゃんは遊の心の内を読んだようだ。予想するに、彼女は年齢問わず、異性からの人気が高いだろう。愛嬌があり、面倒見もよく、優しさを兼ね備えた少女だ。遊よ、シャイだからといっていつまでもうかうかしていられんぞ?
「遊くん、また学校でね? サミュエルさんも、また!」
「うむ。頑張ってくれ」
店の外に出ると、重たい曇はすっかり消えていた。ミンミン蝉の鳴き声が響く中、俺と遊は並んでバス停へ向かう。
「さっきさ、久美ちゃん『出かけよう』って誘ってくれたよね?」
顎に伝った汗を指先で払い、遊は俺を見上げた。青春の恋模様と共に、この夏の気温はさらに上昇しそうである。
「そうだな。次はどこがいいだろうか」
「久美ちゃんが好きなところに連れていってあげたいなあ……」
遊がぽつりとつぶやいた。イチゴのように甘酸っぱい恋などとは決して言わぬが、なんとピュアな恋心だろうか。
「遊よ。次は、二人きりで遊びに行くのもいいのでは?」
「えっ?」
「ひょっとすると、久美ちゃんもそれを望んで——」
「俺さ、サミュエルさんっ! 二人きりは、花火までとっておきたいんだっ!!」
到着したバスが、車体ごと揺れそうな大声である。セミも一瞬、静かになったような……。
とっておきたいものが多すぎる、独特なこだわりを持つ遊である。
——続く——
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