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最強天使、日光ゆばを堪能す
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タンタンタンと蕎麦を切る出刃包丁の音。漂うつゆの匂い。ジュワッと揚がった海老天にかぶりつく少年と、それを見て微笑む家族——。
旨さが溢れる店内で、俺は座敷に腰を下ろし、品書きの文字をじっと見つめた。
注文は終えたものの、気になることが一点。それは、全メニューがひらがなで『ゆば』と表記されている件だ。思えば、江戸ワンダフルランドの店前にも『ゆばめし』と書かれていた気がするぞ。
「ゆばとは、本来ひらがなで書くのが正解なのか?」
隣であぐらをかく遊に聞くと、何やら見せたいものがあるらしく、スマホを操作し始めた。俺の向かいには久美ちゃんが、そしてその隣には力也くんが座っている。ちなみにこれは、シャイな遊がテンパったゆえの席順だ。
四人用の座卓のため、蒼くんとしのぶちゃんは少し離れたテーブル席で食べることに。二人で仲良くメニューを覗いている。
「日光のゆばはさ、こう書くんだ!」
遊が見せた画面には、なんと湯波の文字が記されていた。湯葉ではなく、湯波だったとは……!
「遊よ、この漢字のゆばは初めて見たぞ!」
「俺はさ、波でも葉っぱでも、どっちでもいいと思うんだよね」
おや、栃木県民が気にせぬと。遊のおおらかさゆえだろうか。漢字を一字変えるには、それなりの理由があるのかと思ったが。俺の早合点だったか。ははは。
「そうか。特に意味などないということだな?」
「意味はあるよ!」
あるんかい。
「でも、俺がゆばだったらさ、いちいち気にしないから!」
遊がゆばなら気にしない。どう受け止めればよいのだ……。よくわからぬ理論である。戸惑いを隠せぬ俺に、久美ちゃんが笑って説明をした。
「栃木と京都のゆばは、作り方が違うんです。栃木のゆばは、豆乳を煮詰めたあとに二枚重ねで仕上げてるんです」
「おお、そうなのか!」
ゆばと一口に言えども、その世界はどうやら広いようだ。これは、ますます楽しみになってきたぞ。
「お待たせ致しました。ごゆっくりどうぞ」
俺の前に、注文したゆば定食が提供された。おや、バレットが好む白い蕎麦——更科そばではないか。日光でも楽しめるとは驚きだ。
おぼんの上にはほかに、ホカホカの白米、湯気の立つ天ぷら、そして別添えの器に入った……む?
「遊よ。ミニバームクーヘンのような、これはなんだ?」
「ゆばだよ!」
な、なんと……!しのぶちゃんの「ぐるぐる」という表現は、まさに言い得て妙だ!幾重にも巻かれたその断面は、まるで年輪のような厚みを持っている。
「そうか。これが、日光ゆばの真の姿——」
箸でひとつ取り、俺はゆばを口に含んだ。
——ジュワッ。
「!!!」
出汁の効いた煮汁がゆばの渦から飛び出し、大豆のまろやかさとふんわりとした甘みが口に広がる。栃木生乳を使ったミルクソフトのようなコクまで感じられるではないか!
噛めば噛むほど、豆乳の香りを感じるとは……。これは、ユネスコ無形文化遺産を名乗ったとて、誰も文句を言わぬのでは?
「和食はすでに評価をされている。だが、この日光ゆばは単独での登録も夢ではないぞ……」
ぶつぶつとつぶやきながら、もうひとつのゆばを味わう。一人で食べていたら出禁になりそうだが、天使のような青年と少女がいるゆえ問題はない。いや問題はあるがセーフなだけである。
いやはや、至高の美味だ。まるで肉のような弾力を持ちながら、低カロリー。だが、タンパク質を豊富に含み、その栄養価は高い。日光ゆばよ、俺は感激したぞ!
「江戸ワンダフルランドのゆばめしも旨かったが、あれは、このぐるぐるゆばを分解したものだったのだな?」
「ううん! 日光ゆばには平べったいのとか、こうやって巻かれてるのとか、いろんな種類があるんだよ!」
俺は、どうやら忘れていたようだ……。栃木と書いて「挑戦を怠らぬ地」と読んでも差し支えがないことを。
イチゴに加え、ゆばまで数種類あるとは脱帽だ。和食好きのバレットならば、このぐるぐるゆばをおかわりし、冷酒と合わせて——。
おお、そうだ。今夜はバレットと電話ができぬだろう。どこかでメッセージを送らねば。
「サミュエルさんはさ、晩飯なにがいい?」
ゆば蕎麦を平らげるや否や、遊の頭の中はすでにディナーのことでいっぱいのようだ。
「食材を自由に使っていいようだからな。協力して、何か作ろうではないか」
「あっ! サミュエルさんは刃物持たなくていいからね!? 俺がやるから!」
「……えっ! 遊くんって料理できるの!?」
死神扱いは、一旦スルーしよう。
久美ちゃんが驚いたように目を丸くしている。彼女は遊の特技を知らなかったようだ。これはチャンスだぞ!
「遊は手際もよく、その味も虜になるんだ」
「えーっ! そうなんですね!?」
「うむ。俺は包丁すら握らせて貰えないぞ(注:死神だと疑われているからな)」
「すごい!」
拍手をする久美ちゃんを見て、遊が耳を赤くしている。
「僕もね、遊のお料理を食べたことあるんだけれど、とっても美味しいんだ。久美ちゃん、びっくりすると思うよ?」
力也くんも俺に続き、遊を大絶賛した。久美ちゃんの笑顔が弾けているぞ。
「遊くん、楽しみにしてるね!」
「そんなあ……普通だよ……へへっ」
大照れの遊よ、久美ちゃんの胃袋をしっかりと掴むのだ!
——続く——
読んでくださりありがとうございます!日光ゆばの美味しさが届きますように!^^明日もぜひ、ご覧ください!
旨さが溢れる店内で、俺は座敷に腰を下ろし、品書きの文字をじっと見つめた。
注文は終えたものの、気になることが一点。それは、全メニューがひらがなで『ゆば』と表記されている件だ。思えば、江戸ワンダフルランドの店前にも『ゆばめし』と書かれていた気がするぞ。
「ゆばとは、本来ひらがなで書くのが正解なのか?」
隣であぐらをかく遊に聞くと、何やら見せたいものがあるらしく、スマホを操作し始めた。俺の向かいには久美ちゃんが、そしてその隣には力也くんが座っている。ちなみにこれは、シャイな遊がテンパったゆえの席順だ。
四人用の座卓のため、蒼くんとしのぶちゃんは少し離れたテーブル席で食べることに。二人で仲良くメニューを覗いている。
「日光のゆばはさ、こう書くんだ!」
遊が見せた画面には、なんと湯波の文字が記されていた。湯葉ではなく、湯波だったとは……!
「遊よ、この漢字のゆばは初めて見たぞ!」
「俺はさ、波でも葉っぱでも、どっちでもいいと思うんだよね」
おや、栃木県民が気にせぬと。遊のおおらかさゆえだろうか。漢字を一字変えるには、それなりの理由があるのかと思ったが。俺の早合点だったか。ははは。
「そうか。特に意味などないということだな?」
「意味はあるよ!」
あるんかい。
「でも、俺がゆばだったらさ、いちいち気にしないから!」
遊がゆばなら気にしない。どう受け止めればよいのだ……。よくわからぬ理論である。戸惑いを隠せぬ俺に、久美ちゃんが笑って説明をした。
「栃木と京都のゆばは、作り方が違うんです。栃木のゆばは、豆乳を煮詰めたあとに二枚重ねで仕上げてるんです」
「おお、そうなのか!」
ゆばと一口に言えども、その世界はどうやら広いようだ。これは、ますます楽しみになってきたぞ。
「お待たせ致しました。ごゆっくりどうぞ」
俺の前に、注文したゆば定食が提供された。おや、バレットが好む白い蕎麦——更科そばではないか。日光でも楽しめるとは驚きだ。
おぼんの上にはほかに、ホカホカの白米、湯気の立つ天ぷら、そして別添えの器に入った……む?
「遊よ。ミニバームクーヘンのような、これはなんだ?」
「ゆばだよ!」
な、なんと……!しのぶちゃんの「ぐるぐる」という表現は、まさに言い得て妙だ!幾重にも巻かれたその断面は、まるで年輪のような厚みを持っている。
「そうか。これが、日光ゆばの真の姿——」
箸でひとつ取り、俺はゆばを口に含んだ。
——ジュワッ。
「!!!」
出汁の効いた煮汁がゆばの渦から飛び出し、大豆のまろやかさとふんわりとした甘みが口に広がる。栃木生乳を使ったミルクソフトのようなコクまで感じられるではないか!
噛めば噛むほど、豆乳の香りを感じるとは……。これは、ユネスコ無形文化遺産を名乗ったとて、誰も文句を言わぬのでは?
「和食はすでに評価をされている。だが、この日光ゆばは単独での登録も夢ではないぞ……」
ぶつぶつとつぶやきながら、もうひとつのゆばを味わう。一人で食べていたら出禁になりそうだが、天使のような青年と少女がいるゆえ問題はない。いや問題はあるがセーフなだけである。
いやはや、至高の美味だ。まるで肉のような弾力を持ちながら、低カロリー。だが、タンパク質を豊富に含み、その栄養価は高い。日光ゆばよ、俺は感激したぞ!
「江戸ワンダフルランドのゆばめしも旨かったが、あれは、このぐるぐるゆばを分解したものだったのだな?」
「ううん! 日光ゆばには平べったいのとか、こうやって巻かれてるのとか、いろんな種類があるんだよ!」
俺は、どうやら忘れていたようだ……。栃木と書いて「挑戦を怠らぬ地」と読んでも差し支えがないことを。
イチゴに加え、ゆばまで数種類あるとは脱帽だ。和食好きのバレットならば、このぐるぐるゆばをおかわりし、冷酒と合わせて——。
おお、そうだ。今夜はバレットと電話ができぬだろう。どこかでメッセージを送らねば。
「サミュエルさんはさ、晩飯なにがいい?」
ゆば蕎麦を平らげるや否や、遊の頭の中はすでにディナーのことでいっぱいのようだ。
「食材を自由に使っていいようだからな。協力して、何か作ろうではないか」
「あっ! サミュエルさんは刃物持たなくていいからね!? 俺がやるから!」
「……えっ! 遊くんって料理できるの!?」
死神扱いは、一旦スルーしよう。
久美ちゃんが驚いたように目を丸くしている。彼女は遊の特技を知らなかったようだ。これはチャンスだぞ!
「遊は手際もよく、その味も虜になるんだ」
「えーっ! そうなんですね!?」
「うむ。俺は包丁すら握らせて貰えないぞ(注:死神だと疑われているからな)」
「すごい!」
拍手をする久美ちゃんを見て、遊が耳を赤くしている。
「僕もね、遊のお料理を食べたことあるんだけれど、とっても美味しいんだ。久美ちゃん、びっくりすると思うよ?」
力也くんも俺に続き、遊を大絶賛した。久美ちゃんの笑顔が弾けているぞ。
「遊くん、楽しみにしてるね!」
「そんなあ……普通だよ……へへっ」
大照れの遊よ、久美ちゃんの胃袋をしっかりと掴むのだ!
——続く——
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