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最強天使、最後の夏休み
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八月三十一日。俺が栃木を去る日。
遊はいつものようにバンザイの姿勢で眠り、俺のそばに転がって目を覚ましていた。寝返りのたびに布団からはみ出し、最終的にはベッドから落ちる。これは、ほぼ日課と言っていいだろう。
だが、本人は全く気にしていない。目を覚ますと、寝ぐせだらけの天パの頭で屈託なく笑うのだ。
「おはよう! サミュエルさん!」
「おはよう。遊」
そんな朝も今日までだが、どうやら、俺も遊も重たい雰囲気が苦手らしい。いつも通りに朝食を摂ったあと、俺は食後のコーヒーを嗜んでいる。
「はあ……緊張するなあ」
遊は同じセリフを繰り返し、ソファで何度もでんぐり返しをしている。テレビをつけて、普段は気にもしない占いコーナーをじっと凝視し、蒼くんにそれを突っ込まれて照れ笑いをしていた。
「遊、占いとか興味ないだろ?」
「うんっ! 運命はさ、自分で決めたいかなあ……!」
玄関に向かう美浜兄弟の両親の姿が、ちらりと視界に入った。普段からご多忙ゆえ、なかなか言葉を交わす機会もなかったが——。
「お二人とも……この一ヶ月、大変お世話になりありがとうございました」
この言葉以外、浮かばぬ。頭を深く下げた俺に、二人はおおらかな笑顔を返した。
「私は毎日サミュエルさんが掃除してくださって、家がピッカピカで助かってましたよ!」
「いえいえ……」
「食器も、床も、お風呂も。まるで、天使の輪っかみたいにキラキラしてました!」
ドッキーン。
「ははは……」
「俺もイケメンを拝めて至福でしたよ! 蒼と遊の面倒も見て下さって、こちらこそありがとうございました!」
両親が二人揃って玄関のドアをガチャリと開けると、そこには麦わら帽子を被ったじーちゃんとばーちゃんが立っていた。おや、今日は四人で出かけるようだ。
「サミュエルさんや。また会いましょう」
「次は、バレットさんもご一緒にね?」
「ありがとうございます。彼も喜ぶはずです」
叶うことならば、ぜひ、またここで——。
「く、久美ちゃん! お、俺はああぁああああああーーーッッ!」
センチメンタルな気分が、一瞬で吹き飛ぶ。振り返ると、遊が逆立ちで階段を上がっていた。大声で叫びながら。どんな告白だ。
玄関の鍵を閉めてリビングに向かおうとすると、今度は遊がブリッジのまま二階から下りてきている。
「おれ……おれ……俺はあああああーーーッ!!」
逆さまの天パがわさわさと揺れ、意味ありげな笑顔を見せている。ホラー嫌いの遊が、いまや最も恐ろしい存在な件。
* * *
今日は、いつもより時間が倍速で進んでいるようだ。気づけばあっという間に夕方である。
遊の部屋をぐるりと見渡し、瞳に刻む。隣では遊が、ティラノサウルスとヴェロキラプトルのフィギュアを向かい合わせて告白の練習中だ。
久美ちゃん役まで肉食恐竜なのは、ぜひ再考して欲しい。
さて、そろそろ家を出る時間だ——。
俺は立ち上がり、黒のTシャツに着替える。いよいよ、この夏最後の舞台が始まる。
「えっ! サミュエルさんが黒着たらさ、暗闇に溶け込んじゃうよ!?」
肝試しに行くわけではあるまい。それとも、まだ俺を死神と混同しているのだろうか。
「そんなことはあるまい。提灯と屋台の明かりが華やかではないか」
「でもさ、サミュエルさんがそばにいなかったら……俺、アドバイス欲しいときにもらえなくなっちゃう」
やれやれ。何を心配しているのだ。
俺は微笑むと、遊の向かいに腰を下ろした。
「案ずるな。遊はいい男だと言っただろう?」
「サミュエルさあーんっ! ありがとうっ!!」
勢いよく飛びついてくる遊の頭を撫で、俺は微笑んだ。
「だいじだ。いつも通りのお前でいれば——」
「あとでさ、一緒にかき氷食おうね!?」
え?
告白の話から、なぜ、かき氷に繋がるのだ。相変わらず会話が噛み合わない遊である。
——コンコンコン。
ノック音が聞こえて、蒼くんがドアの隙間から顔を覗かせた。
「サミュエルさん、俺も行きます」
「おお、共に楽しもうではないか」
「遊が久美ちゃんと二人きりになったら、サミュエルさんが迷子になると思うので」
大学四年生にお世話をされる最強天使である。
——続く——
読んでくださりありがとうございます!とうとう、最終章のスタートです。土曜日まで駆け抜けていくので、ぜひ、最後までサミュエルと遊の友情を見守っていてください!引き続き、イベントの投票、お気に入り登録やいいね、感想での応援もよろしくお願いいたします。いつも感謝してます!
遊はいつものようにバンザイの姿勢で眠り、俺のそばに転がって目を覚ましていた。寝返りのたびに布団からはみ出し、最終的にはベッドから落ちる。これは、ほぼ日課と言っていいだろう。
だが、本人は全く気にしていない。目を覚ますと、寝ぐせだらけの天パの頭で屈託なく笑うのだ。
「おはよう! サミュエルさん!」
「おはよう。遊」
そんな朝も今日までだが、どうやら、俺も遊も重たい雰囲気が苦手らしい。いつも通りに朝食を摂ったあと、俺は食後のコーヒーを嗜んでいる。
「はあ……緊張するなあ」
遊は同じセリフを繰り返し、ソファで何度もでんぐり返しをしている。テレビをつけて、普段は気にもしない占いコーナーをじっと凝視し、蒼くんにそれを突っ込まれて照れ笑いをしていた。
「遊、占いとか興味ないだろ?」
「うんっ! 運命はさ、自分で決めたいかなあ……!」
玄関に向かう美浜兄弟の両親の姿が、ちらりと視界に入った。普段からご多忙ゆえ、なかなか言葉を交わす機会もなかったが——。
「お二人とも……この一ヶ月、大変お世話になりありがとうございました」
この言葉以外、浮かばぬ。頭を深く下げた俺に、二人はおおらかな笑顔を返した。
「私は毎日サミュエルさんが掃除してくださって、家がピッカピカで助かってましたよ!」
「いえいえ……」
「食器も、床も、お風呂も。まるで、天使の輪っかみたいにキラキラしてました!」
ドッキーン。
「ははは……」
「俺もイケメンを拝めて至福でしたよ! 蒼と遊の面倒も見て下さって、こちらこそありがとうございました!」
両親が二人揃って玄関のドアをガチャリと開けると、そこには麦わら帽子を被ったじーちゃんとばーちゃんが立っていた。おや、今日は四人で出かけるようだ。
「サミュエルさんや。また会いましょう」
「次は、バレットさんもご一緒にね?」
「ありがとうございます。彼も喜ぶはずです」
叶うことならば、ぜひ、またここで——。
「く、久美ちゃん! お、俺はああぁああああああーーーッッ!」
センチメンタルな気分が、一瞬で吹き飛ぶ。振り返ると、遊が逆立ちで階段を上がっていた。大声で叫びながら。どんな告白だ。
玄関の鍵を閉めてリビングに向かおうとすると、今度は遊がブリッジのまま二階から下りてきている。
「おれ……おれ……俺はあああああーーーッ!!」
逆さまの天パがわさわさと揺れ、意味ありげな笑顔を見せている。ホラー嫌いの遊が、いまや最も恐ろしい存在な件。
* * *
今日は、いつもより時間が倍速で進んでいるようだ。気づけばあっという間に夕方である。
遊の部屋をぐるりと見渡し、瞳に刻む。隣では遊が、ティラノサウルスとヴェロキラプトルのフィギュアを向かい合わせて告白の練習中だ。
久美ちゃん役まで肉食恐竜なのは、ぜひ再考して欲しい。
さて、そろそろ家を出る時間だ——。
俺は立ち上がり、黒のTシャツに着替える。いよいよ、この夏最後の舞台が始まる。
「えっ! サミュエルさんが黒着たらさ、暗闇に溶け込んじゃうよ!?」
肝試しに行くわけではあるまい。それとも、まだ俺を死神と混同しているのだろうか。
「そんなことはあるまい。提灯と屋台の明かりが華やかではないか」
「でもさ、サミュエルさんがそばにいなかったら……俺、アドバイス欲しいときにもらえなくなっちゃう」
やれやれ。何を心配しているのだ。
俺は微笑むと、遊の向かいに腰を下ろした。
「案ずるな。遊はいい男だと言っただろう?」
「サミュエルさあーんっ! ありがとうっ!!」
勢いよく飛びついてくる遊の頭を撫で、俺は微笑んだ。
「だいじだ。いつも通りのお前でいれば——」
「あとでさ、一緒にかき氷食おうね!?」
え?
告白の話から、なぜ、かき氷に繋がるのだ。相変わらず会話が噛み合わない遊である。
——コンコンコン。
ノック音が聞こえて、蒼くんがドアの隙間から顔を覗かせた。
「サミュエルさん、俺も行きます」
「おお、共に楽しもうではないか」
「遊が久美ちゃんと二人きりになったら、サミュエルさんが迷子になると思うので」
大学四年生にお世話をされる最強天使である。
——続く——
読んでくださりありがとうございます!とうとう、最終章のスタートです。土曜日まで駆け抜けていくので、ぜひ、最後までサミュエルと遊の友情を見守っていてください!引き続き、イベントの投票、お気に入り登録やいいね、感想での応援もよろしくお願いいたします。いつも感謝してます!
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