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最強天使、美浜兄弟の愛に沁みる
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「蒼さ……ま……いつの間……に……!」
ノイズが混ざったバレットの声が途切れる。蒼くんは、夜の闇にオーロラ色の光を放つスマホを見つめ、静かにこちらへ歩み寄った。
「バレット。優秀なお前ならば、必ず策を見つけられると信じている」
「サミュ……エル……さ……」
「頼んだぞ、我が無双執事——」
——プツッ。
光の軌跡がふわりと舞い上がる中、蒼くんは遊の部屋を覗き込み、ふっと優しく笑った。取り乱さず落ち着いた様子の彼に、俺はどう振る舞えばよいのだろうか。
「またカーテン開けっ放しで寝て。遊って、子どもみたいですよね?」
「そうだな……」
「サミュエルさんって、人間じゃないですよね?」
プーン——。
蚊の羽音が耳をかすめ、俺は咄嗟に頬を叩いた。腫れた肌は淡い光に包まれ、元の輪郭を取り戻していく。手のひらに残された小さな命はオーロラ色の輝きを放ったのち、青い蝶へと姿を変え、金の粉を散らしながら夜空へ舞い去った。
「サミュエルさん。それもマジックですか?」
「ははは。もう隠すのは不自然だな」
「おかしいと思ってましたよ。急に大量のサングラスを持っていたり、貰った団子で腹痛が治ったり。矢場の矢だってそうです。そもそも、あんみつのマジックも不自然でしたよ」
あんみつとか。かなり早い段階から疑われていたという。
「俺の予想ですが、サミュエルさんは天使で合ってますか?」
夜風が蒼くんの黒髪を揺らす。黒い瞳の色も、落ち着いた性格も、弟の遊とは対照的だ。
「蒼くん。その通りだ」
——それでも、美浜兄弟はよく似ている。愛情に溢れた性格が、瓜二つなのだ。
「サミュエルさんの休暇は、夏の終わりまでって話されてましたよね?」
「そうだ」
「明日までってことですか?」
「そうだ。九月一日になったら、蒼くんたちの記憶から俺は消えてしまう。それが、上界の掟だ」
蒼くんは眉間にしわを寄せ、こぶしを握った。驚きとショックを押しつぶすように、言葉を強く投げかける。
「俺たちの記憶は、上界のものじゃないです。本人が覚えていたいのに、無理やり忘れさせるなんて。上界って、ずいぶん残酷なところですね」
蒼くんの言う通りだ。記憶は本人の胸に宿るものであり、誰かの所有物ではない。
『サミュエルさんを忘れたくない』
その願いを無下にし、思い出をなきものとして塗りつぶすとは——。
いかに、残酷な行為であろうか。
「すみません。サミュエルさんにこんなこと言うなんて……」
蒼くんは自分に呆れたようにため息を漏らし、頭を掻いた。
「いや、正論だ。今ごろ裁定者たちが震え上がっているだろう」
「どうしよう。俺、地獄に堕ちるかも?」
俺は思わず笑い、首を左右に振った。
「ありえん。心配するな」
「だといいですけど。じゃあ、俺もそろそろ寝ますね」
「うむ。おやすみ、蒼くん」
部屋へ戻ろうとした蒼くんは、振り返りざまに微笑んだ。
「遊も駄々をこねたかと思いますが、俺もサミュエルさんのこと忘れたくないです。わがままな兄弟ですみません。おやすみなさい」
蒼くんは静かにカーテンの向こうへ消えて行った。
わがままではない。
この身にずしりと響く言葉を刻む、愛すべき兄弟だ——。
——続く——
ノイズが混ざったバレットの声が途切れる。蒼くんは、夜の闇にオーロラ色の光を放つスマホを見つめ、静かにこちらへ歩み寄った。
「バレット。優秀なお前ならば、必ず策を見つけられると信じている」
「サミュ……エル……さ……」
「頼んだぞ、我が無双執事——」
——プツッ。
光の軌跡がふわりと舞い上がる中、蒼くんは遊の部屋を覗き込み、ふっと優しく笑った。取り乱さず落ち着いた様子の彼に、俺はどう振る舞えばよいのだろうか。
「またカーテン開けっ放しで寝て。遊って、子どもみたいですよね?」
「そうだな……」
「サミュエルさんって、人間じゃないですよね?」
プーン——。
蚊の羽音が耳をかすめ、俺は咄嗟に頬を叩いた。腫れた肌は淡い光に包まれ、元の輪郭を取り戻していく。手のひらに残された小さな命はオーロラ色の輝きを放ったのち、青い蝶へと姿を変え、金の粉を散らしながら夜空へ舞い去った。
「サミュエルさん。それもマジックですか?」
「ははは。もう隠すのは不自然だな」
「おかしいと思ってましたよ。急に大量のサングラスを持っていたり、貰った団子で腹痛が治ったり。矢場の矢だってそうです。そもそも、あんみつのマジックも不自然でしたよ」
あんみつとか。かなり早い段階から疑われていたという。
「俺の予想ですが、サミュエルさんは天使で合ってますか?」
夜風が蒼くんの黒髪を揺らす。黒い瞳の色も、落ち着いた性格も、弟の遊とは対照的だ。
「蒼くん。その通りだ」
——それでも、美浜兄弟はよく似ている。愛情に溢れた性格が、瓜二つなのだ。
「サミュエルさんの休暇は、夏の終わりまでって話されてましたよね?」
「そうだ」
「明日までってことですか?」
「そうだ。九月一日になったら、蒼くんたちの記憶から俺は消えてしまう。それが、上界の掟だ」
蒼くんは眉間にしわを寄せ、こぶしを握った。驚きとショックを押しつぶすように、言葉を強く投げかける。
「俺たちの記憶は、上界のものじゃないです。本人が覚えていたいのに、無理やり忘れさせるなんて。上界って、ずいぶん残酷なところですね」
蒼くんの言う通りだ。記憶は本人の胸に宿るものであり、誰かの所有物ではない。
『サミュエルさんを忘れたくない』
その願いを無下にし、思い出をなきものとして塗りつぶすとは——。
いかに、残酷な行為であろうか。
「すみません。サミュエルさんにこんなこと言うなんて……」
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「いや、正論だ。今ごろ裁定者たちが震え上がっているだろう」
「どうしよう。俺、地獄に堕ちるかも?」
俺は思わず笑い、首を左右に振った。
「ありえん。心配するな」
「だといいですけど。じゃあ、俺もそろそろ寝ますね」
「うむ。おやすみ、蒼くん」
部屋へ戻ろうとした蒼くんは、振り返りざまに微笑んだ。
「遊も駄々をこねたかと思いますが、俺もサミュエルさんのこと忘れたくないです。わがままな兄弟ですみません。おやすみなさい」
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わがままではない。
この身にずしりと響く言葉を刻む、愛すべき兄弟だ——。
——続く——
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