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第三章 守られる私じゃなく。
女と剣
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馬車の揺れが次第に落ち着き、窓の外には王都の喧騒が遠ざかっていく。
代わりに広がるのは、荒れた平原と乾いた風。
行き先は王国北部の前線。
反乱軍との境界地帯にある駐屯地だった。
レオン様はほとんど口を開かなかった。
窓の外を見つめながら、ただ時折、何かを考えるように視線を伏せていた。
私も、言葉を探しては飲み込む。
胸の奥が少しだけ重かった。
――でも、もう戻らない。戻れない。
* * *
駐屯地に到着すると、冷たい空気と鋭い視線が迎えた。
整列した兵士たちの間を歩くたびに、ざわめきが起こる。
「……女?」
「まさか、婚約者ってあの子のことか?」
「冗談だろ……」
ひそひそ声が、まるで槍のように突き刺さる。
その中を、私はまっすぐ歩いた。
レオン様は無言のまま先を行く。
でも、その背中が私の盾のように感じられた。
やがて広場の中央に立つと、彼が低く声を上げた。
「紹介する。今日からこの部隊に加わる、リディア・ヴェルネだ」
空気が一瞬、静まり返る。
けれど次の瞬間、笑いが混じったざわめきが広がった。
「……あれが? 女だぞ?」
「剣を持ってるが、飾りだろ」
「おい、どうせ泣くんじゃねぇか」
その声に、手がかすかに震えた。
けれど、逃げたくなかった。
――怖くても、隣に立つって決めたんだから。
私は一歩前に出て、まっすぐ彼らを見返した。
「……笑うなら、勝ってからにしてください」
一瞬、風が止んだように静まり返る。
レオン様が、ゆっくりと口を開く。
その瞳にはかすかな光が宿っていた。
「面白い。なら――見せてやれ、リディア」
ざわつく兵士たちの間に緊張が走る。
「模擬戦を行う。手合わせできる者は前へ」
「へぇ、いいんですか? 女相手に」
一人の兵士が笑みを浮かべながら、前に出た。
筋肉質の体躯、鋭い眼光。明らかに試している目だった。
「……手加減はしないぞ」
「望むところです」
剣を抜く音が響く。
緊張と風が絡まり、空気が張りつめた。
レオン様の視線を感じる。
その瞳の奥に、確かに――期待の光があった。
胸の奥が熱くなる。
これは、私がただの女じゃないって証明するための一戦。
砂の舞う広場に、二人が向かい合って立つ。
周囲では兵士たちが輪を作り、面白そうに見守っている。
相手の男――ギルバート伍長。
分厚い腕を持つ歴戦の兵で、明らかに力任せの剣筋を得意とするタイプだ。
「泣くなよ、お嬢様」
挑発のように笑って、ギルバートは剣を構えた。
私は静かに息を吸い、胸の鼓動を押さえた。
恐怖を呑み込むように。
「――始め!」
号令と同時に、砂を蹴る音が響く。
その瞬間、一瞬で魔法陣を展開する。
ギルバートの剣が、風を切って振り下ろされた。
軽い一撃。
だが、速さも――見える。
私は一歩だけ身をひねって避け、相手の懐へ滑り込む。
そのまま、剣の腹で打ち上げた。
「なっ……!」
ギルバートの剣が宙に弾かれ、地面に落ちる。
ほんの一瞬の出来事だった。
「くっ、このっ……!」
怒りと同時に突進してくる。
だが次の瞬間、風の魔法を展開し足を払う。
彼は砂の上に膝をついた。
静寂。
その中で、私の足音だけが響く。
剣先を相手の喉元に向け、低く言った。
「……これでも、飾りに見えますか?まだ本気出していないですけど」
ギルバートは歯を食いしばり、そして――苦笑した。
「……参った」
その瞬間、兵士たちの間にどよめきが走る。
驚きと、わずかな称賛が混ざった空気。
広場の端に立っていたレオン様は、静かに腕を組んで見ていた。
その瞳が、どこか柔らかく光っていた。
「見事だ、リディア」
「ありがとうございます」
「……思った以上に速い。剣筋も無駄がない」
レオン様が近づき、低い声で続ける。
「誰に学んだ?」
「父です。かつて王国軍に仕えていました」
「そうか……納得だ」
彼の唇が、かすかに笑みに変わった。
その笑顔に、胸の奥が少し熱くなる。
「お前たち、見たか!」
レオン様の声が広場に響いた。
「性別など関係ない。実力で示した。――以後、軽口は慎め」
兵士たちが一斉に背筋を伸ばす。
その中で、私はそっと剣を鞘に収めた。
砂に差す陽の光がまぶしくて、思わず目を細める。
けれど――その光は、少しだけ優しく感じられた。
「……レオン様」
「なんだ?」
「私、少しは役に立てそうですか?」
「少しじゃない。――充分だ」
その言葉が胸に響いて、
どうしてだろう、少しだけ涙が出そうになった。
代わりに広がるのは、荒れた平原と乾いた風。
行き先は王国北部の前線。
反乱軍との境界地帯にある駐屯地だった。
レオン様はほとんど口を開かなかった。
窓の外を見つめながら、ただ時折、何かを考えるように視線を伏せていた。
私も、言葉を探しては飲み込む。
胸の奥が少しだけ重かった。
――でも、もう戻らない。戻れない。
* * *
駐屯地に到着すると、冷たい空気と鋭い視線が迎えた。
整列した兵士たちの間を歩くたびに、ざわめきが起こる。
「……女?」
「まさか、婚約者ってあの子のことか?」
「冗談だろ……」
ひそひそ声が、まるで槍のように突き刺さる。
その中を、私はまっすぐ歩いた。
レオン様は無言のまま先を行く。
でも、その背中が私の盾のように感じられた。
やがて広場の中央に立つと、彼が低く声を上げた。
「紹介する。今日からこの部隊に加わる、リディア・ヴェルネだ」
空気が一瞬、静まり返る。
けれど次の瞬間、笑いが混じったざわめきが広がった。
「……あれが? 女だぞ?」
「剣を持ってるが、飾りだろ」
「おい、どうせ泣くんじゃねぇか」
その声に、手がかすかに震えた。
けれど、逃げたくなかった。
――怖くても、隣に立つって決めたんだから。
私は一歩前に出て、まっすぐ彼らを見返した。
「……笑うなら、勝ってからにしてください」
一瞬、風が止んだように静まり返る。
レオン様が、ゆっくりと口を開く。
その瞳にはかすかな光が宿っていた。
「面白い。なら――見せてやれ、リディア」
ざわつく兵士たちの間に緊張が走る。
「模擬戦を行う。手合わせできる者は前へ」
「へぇ、いいんですか? 女相手に」
一人の兵士が笑みを浮かべながら、前に出た。
筋肉質の体躯、鋭い眼光。明らかに試している目だった。
「……手加減はしないぞ」
「望むところです」
剣を抜く音が響く。
緊張と風が絡まり、空気が張りつめた。
レオン様の視線を感じる。
その瞳の奥に、確かに――期待の光があった。
胸の奥が熱くなる。
これは、私がただの女じゃないって証明するための一戦。
砂の舞う広場に、二人が向かい合って立つ。
周囲では兵士たちが輪を作り、面白そうに見守っている。
相手の男――ギルバート伍長。
分厚い腕を持つ歴戦の兵で、明らかに力任せの剣筋を得意とするタイプだ。
「泣くなよ、お嬢様」
挑発のように笑って、ギルバートは剣を構えた。
私は静かに息を吸い、胸の鼓動を押さえた。
恐怖を呑み込むように。
「――始め!」
号令と同時に、砂を蹴る音が響く。
その瞬間、一瞬で魔法陣を展開する。
ギルバートの剣が、風を切って振り下ろされた。
軽い一撃。
だが、速さも――見える。
私は一歩だけ身をひねって避け、相手の懐へ滑り込む。
そのまま、剣の腹で打ち上げた。
「なっ……!」
ギルバートの剣が宙に弾かれ、地面に落ちる。
ほんの一瞬の出来事だった。
「くっ、このっ……!」
怒りと同時に突進してくる。
だが次の瞬間、風の魔法を展開し足を払う。
彼は砂の上に膝をついた。
静寂。
その中で、私の足音だけが響く。
剣先を相手の喉元に向け、低く言った。
「……これでも、飾りに見えますか?まだ本気出していないですけど」
ギルバートは歯を食いしばり、そして――苦笑した。
「……参った」
その瞬間、兵士たちの間にどよめきが走る。
驚きと、わずかな称賛が混ざった空気。
広場の端に立っていたレオン様は、静かに腕を組んで見ていた。
その瞳が、どこか柔らかく光っていた。
「見事だ、リディア」
「ありがとうございます」
「……思った以上に速い。剣筋も無駄がない」
レオン様が近づき、低い声で続ける。
「誰に学んだ?」
「父です。かつて王国軍に仕えていました」
「そうか……納得だ」
彼の唇が、かすかに笑みに変わった。
その笑顔に、胸の奥が少し熱くなる。
「お前たち、見たか!」
レオン様の声が広場に響いた。
「性別など関係ない。実力で示した。――以後、軽口は慎め」
兵士たちが一斉に背筋を伸ばす。
その中で、私はそっと剣を鞘に収めた。
砂に差す陽の光がまぶしくて、思わず目を細める。
けれど――その光は、少しだけ優しく感じられた。
「……レオン様」
「なんだ?」
「私、少しは役に立てそうですか?」
「少しじゃない。――充分だ」
その言葉が胸に響いて、
どうしてだろう、少しだけ涙が出そうになった。
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