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54 天使の住む家
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『これは…っ。確かにじわっとくるな…』
昨日、華のところから町へ帰る途中、麓の方で華の家に使われていた細い竹と立派な太い竹をいくつか刈って来た。
この日の午前中は、アルベルトやファーナだけでなく、前日のメンバー全員が集まってその竹で“myタケフミ”を作っていたのだ。
竹を切るときに、始めは椅子の座面くらいの大きさで作り始めたのだが、いろいろ作っている内に小型化していき販売しやすいサイズに落ち着いた。
それとは別に、アルベルトが華から聞いた、太い竹を縦に割っただけの“タケフミ”。華が言うにはこちらが本来の“タケフミ”らしいが、男連中…特にエドワードはこちらの方が良いらしい。
『“タケフミ”と“タケフミマット”か。早速従業員控え室にでも置いてアンケートを取りましょう』
竹踏みを楽しんだホーソンが靴を履きながら言う。
『繁殖力が強いわりに使い途のない竹が材料なのがいいですね』
『あ…』
にこにこして話すホーソンに、華の家を思い出したマールの口から思わず声が出るが、声を出さないまでも山を登った組は皆同じような顔になった。
『なあに?』
華の家を見ていないファーナやホーソンが怪訝な顔をする。
『いや、ハナの家がね、この竹で出来ていたんだよ』
『んん?…どんな家だか想像が付かないのですが…』
『こう…、家の壁と敷地を囲む塀がぐるっと…』
アルベルトは手元の初期作の大きな竹踏みマットを立ててL字に曲げて見せた。
『叔父上、天使は一人暮らしと言っていませんでした?小さな女の子ひとりでそんな家を作ったって言うんですか?…あ、いや、この竹なら出来るのか?』
『“がんばった”って言っていたから恐らくそうなんだろうが…』
竹垣の塀を見て感心していたアルベルトに、可愛らしく両の拳を握って見せた華を思い出して思わずでれっとしてしまうが、不審な事はある。
塀は全て竹だったが、家の四隅と長い方の壁2ヵ所にはしっかりした柱が建っていた。6日前まで斧すら持っていなかった華がどうやってあの家を建てたのか。
(やはり誰かと住んでいた?いや、そんな気配はなかった。むしろまだ新しい家を調えている最中のような…)
『やっぱりわたしも行きたかったわ~』
『ゆっくり登ればファーナも行けるんじゃないかな。今度一緒に行ってみようか』
『まああ!もちろん行くわ!』
『あー、他にも何か作るものがあると言っていませんでした?この“タケフミ”だけじゃないのでしょう?』
このままきゃっきゃと盛り上がりそうな叔母夫婦を察してホーソンが話を促す。
『そうそう。これだよ』
アルベルトが取り出した紙を手に取ったホーソンは、いろいろな意味で驚いた。
『こんな書付けに紙を使うなんて!板書きで充分でしょう!?…あ、もしかして板がない?……この紙なんか薄くないですか?どんな職人がここまで薄く削って…。え、破って………?』
『驚くよね、それ。華の帳面の紙なんだけど、“フヅクエ”や“ショケンダイ”の詳細を描いてくれたと思ったら簡単に折り目を付けて木の小さな物差しを当ててびりっびりってあっという間に…』
『………』
『でさ、その紙見ていて思ったんだけど。それ、もしかして皮紙じゃないんじゃないかな』
皮じゃない。それは手渡された紙の破れ目を見てアルベルトが思った事だった。
『書いたものを綴じるんじゃなくて、白紙を束ねた帳面に書き付けているんだよね、ハナは。帳面の表紙はもう少し厚目の紙だったけど、そっちはそっちで美麗で可愛らしい絵が描かれていてね…。前の時は綺麗な紙の束を気軽に使うなあぐらいにしか思ってなかったんだけど、今回手にとって見せてもらったら、その倍の大きさの紙の真ん中を2ヵ所針金で綴じてあったよ。ハナは“ノート“とか“ザッキチョウ”とか言ってたかな』
『帳面に…表紙?美麗で可愛らしい?』
『うん。不思議な絵でね。後ろ足で立った兎が豪華なドレスを着ていて傘を差している奇妙な絵なんだけど、なんだろう美麗に描かれているからかな?妙にかわいく感じて…』
アルベルトたちのやり取りを聞いていたロイは、そういえば、と思う事があった。
(初めにハナが“ノート”を取り出した時、確か“薄い本”って思ったな…。絵の付いた表紙が付いていたからか…)
以後ずっと華は書き付ける白紙の面を外にしていた。
ファーナなどは数字を100も書いていたのに、鉛筆で書く方に夢中になっていて表紙には気付いていなかったのだ。
昨日、華のところから町へ帰る途中、麓の方で華の家に使われていた細い竹と立派な太い竹をいくつか刈って来た。
この日の午前中は、アルベルトやファーナだけでなく、前日のメンバー全員が集まってその竹で“myタケフミ”を作っていたのだ。
竹を切るときに、始めは椅子の座面くらいの大きさで作り始めたのだが、いろいろ作っている内に小型化していき販売しやすいサイズに落ち着いた。
それとは別に、アルベルトが華から聞いた、太い竹を縦に割っただけの“タケフミ”。華が言うにはこちらが本来の“タケフミ”らしいが、男連中…特にエドワードはこちらの方が良いらしい。
『“タケフミ”と“タケフミマット”か。早速従業員控え室にでも置いてアンケートを取りましょう』
竹踏みを楽しんだホーソンが靴を履きながら言う。
『繁殖力が強いわりに使い途のない竹が材料なのがいいですね』
『あ…』
にこにこして話すホーソンに、華の家を思い出したマールの口から思わず声が出るが、声を出さないまでも山を登った組は皆同じような顔になった。
『なあに?』
華の家を見ていないファーナやホーソンが怪訝な顔をする。
『いや、ハナの家がね、この竹で出来ていたんだよ』
『んん?…どんな家だか想像が付かないのですが…』
『こう…、家の壁と敷地を囲む塀がぐるっと…』
アルベルトは手元の初期作の大きな竹踏みマットを立ててL字に曲げて見せた。
『叔父上、天使は一人暮らしと言っていませんでした?小さな女の子ひとりでそんな家を作ったって言うんですか?…あ、いや、この竹なら出来るのか?』
『“がんばった”って言っていたから恐らくそうなんだろうが…』
竹垣の塀を見て感心していたアルベルトに、可愛らしく両の拳を握って見せた華を思い出して思わずでれっとしてしまうが、不審な事はある。
塀は全て竹だったが、家の四隅と長い方の壁2ヵ所にはしっかりした柱が建っていた。6日前まで斧すら持っていなかった華がどうやってあの家を建てたのか。
(やはり誰かと住んでいた?いや、そんな気配はなかった。むしろまだ新しい家を調えている最中のような…)
『やっぱりわたしも行きたかったわ~』
『ゆっくり登ればファーナも行けるんじゃないかな。今度一緒に行ってみようか』
『まああ!もちろん行くわ!』
『あー、他にも何か作るものがあると言っていませんでした?この“タケフミ”だけじゃないのでしょう?』
このままきゃっきゃと盛り上がりそうな叔母夫婦を察してホーソンが話を促す。
『そうそう。これだよ』
アルベルトが取り出した紙を手に取ったホーソンは、いろいろな意味で驚いた。
『こんな書付けに紙を使うなんて!板書きで充分でしょう!?…あ、もしかして板がない?……この紙なんか薄くないですか?どんな職人がここまで薄く削って…。え、破って………?』
『驚くよね、それ。華の帳面の紙なんだけど、“フヅクエ”や“ショケンダイ”の詳細を描いてくれたと思ったら簡単に折り目を付けて木の小さな物差しを当ててびりっびりってあっという間に…』
『………』
『でさ、その紙見ていて思ったんだけど。それ、もしかして皮紙じゃないんじゃないかな』
皮じゃない。それは手渡された紙の破れ目を見てアルベルトが思った事だった。
『書いたものを綴じるんじゃなくて、白紙を束ねた帳面に書き付けているんだよね、ハナは。帳面の表紙はもう少し厚目の紙だったけど、そっちはそっちで美麗で可愛らしい絵が描かれていてね…。前の時は綺麗な紙の束を気軽に使うなあぐらいにしか思ってなかったんだけど、今回手にとって見せてもらったら、その倍の大きさの紙の真ん中を2ヵ所針金で綴じてあったよ。ハナは“ノート“とか“ザッキチョウ”とか言ってたかな』
『帳面に…表紙?美麗で可愛らしい?』
『うん。不思議な絵でね。後ろ足で立った兎が豪華なドレスを着ていて傘を差している奇妙な絵なんだけど、なんだろう美麗に描かれているからかな?妙にかわいく感じて…』
アルベルトたちのやり取りを聞いていたロイは、そういえば、と思う事があった。
(初めにハナが“ノート”を取り出した時、確か“薄い本”って思ったな…。絵の付いた表紙が付いていたからか…)
以後ずっと華は書き付ける白紙の面を外にしていた。
ファーナなどは数字を100も書いていたのに、鉛筆で書く方に夢中になっていて表紙には気付いていなかったのだ。
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