97 / 154
96 見てるだけ
しおりを挟む
グレイルはファーナの言い付けをひたすら守っていた。
ーーー挨拶以外、グレイルからは何もしてはいけない。
(何もするな、なんて)
こうして見ているだけで胸がいっぱいなのに。
あの大きな襟の服も可愛く似合っていたが、ルナリアの趣味だろうか、白色のワンピースに髪を下ろしてレースのリボンで飾り立てられた姿で階段を降りて来るのを見た時には駆け寄って跪きたくなってしまった。
しかし祖母の言い付けを守りじっとしていた。
正直に言うと言い付けは半分頭から飛んでいたのだが、華がグレイルに向かって歩いて来る事に感動して動けなかったのだ。
(歩いて来る。喋ってる。…なんか光ってる)
白色のワンピースのせいか、グレイルには華がうっすらと光っているように見えていた。
もう瞬きもしたくない。
そんなグレイルは、何もしないどころか自分が挨拶すらしていないことにも気が付いていない。
『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』
名前を呼んだ!!
店で会ったことを覚えていた!!
店員だと思われている事などグレイルはどうでもよかった。
華に名前を呼ばれて有頂天になっていた。
食事中もグレイルは食事をすることも忘れて華の食べる姿を見ていた。
(小さい口…可愛い……!)
小さな口に料理を運んでもぐもぐと咀嚼する華はずっと見ていたいと思うくらい可愛いくて。
隣で父が何か言っていたがそれよりも。
(ずるい…。あんなに仲良く話して…)
グレイルにはシアと華がいちゃいちゃしているのが羨ましくて仕方なかった。
自分は華と話せない癖に、シアと華の間に入りたくて仕方がなかったのだ。
そんなグレイルに祖父母は危機感を募らせていた。
(これは怖い…)
脇目もふらずとはこの事か。
食事にも手を付けずにひたすらに華を見詰めるグレイルに、ラインハルトはどうしたものかと悩んでいた。
息子が町で一目惚れをしたという。
帰って来て早々に好きな相手が出来たのなら目出度い事だとさえ初めは思ったくらいだ。
それがファーナやアルベルトの言う“ハナ”という少女だと言うのはまだいい。いくら重要案件だとしても、二人が“天使”だとか言うからにはさぞや愛らしい娘さんなのだろう。
しかし、後を付けるのは駄目だ。
ルナリアも泣いてしまった。檻に入れるべきか。
ただ、ふらふらと後を付いて行ってしまっただけで何もしていないのは確かなようだった。相手にも気付かれていない。
義母もグレイルの処遇には迷っていたが、結局処分保留というか、様子を見ることにしたようだった。
グレイルがその少女と上手く行って家の嫁に来てくれれば…という思惑があるのは間違いない。
昨日の時点では、肝心のその少女がグレイルをどの程度認識しているのかも不明だった。
それが今朝聞いた話では、グレイルは顔すら覚えてもらっていない、なんと知り合い以下だったということが判明。
それでも朝から少女に会えたと満足した顔をしている息子にラインハルトは心底不安になった。
息子は帝国の、畏れ多くも皇家に連なる方に若年ながら推薦されて近衛師団入りし、皇子殿下の部隊で副部隊長まで務めたはずだった。
それがーー。
(しっかりしてくれよ…)
これからこの町の兵達の指揮官となる騎士が不審者として捕まるのが絶対駄目なのは勿論だが、そもそも騎士としての振舞いをして欲しい。
そんな不安も、正式な着任前ではあるが昼の仕事ぶりを見て払拭したはずだったのに…。
自宅に帰るまでは良かった。
貿易の件でラインハルトの執務室に顔を出したアルベルトと一緒に前日のように3人で帰宅してーー。
しかし、その少女を見た途端にグレイルは挙動不審になり、ラインハルトは危機感を覚えた。
挙動不審とはいっても何をするでもない。むしろ何もしていない。挨拶すらしていない。
ただひたすらに見詰めている。
(駄目だろうこれは…!)
祖母の何もしてはいけないという言い付けを守っているのか、ただ見ているだけで満足しているのかは判らないが、これは怖い!
こんな風に凝視されたら魔獣だって目を逸らしたくなるに違いない。
これは何とかしなければと、グレイルを食堂から連れ出そうとしたラインハルトは、はっとしてルナリアを見た。
華を挟んでシアの反対隣に陣取っているルナリアは、涙を浮かべた目でグレイルを見詰めて震えていた。
ラインハルトが慌ててグレイルを追い出そうとした時、高く澄んだ声音が食堂に響いた。
『グレイルさん』
華だった。
グレイルの凝視に耐え兼ねてシアの方を向いていた華が、グレイルを見てグレイルの名前を呼んだ。
『ぉ……』
大きく肩を揺らしたグレイルは、小さく呻き声を上げて動かなくなった。
全員が固唾を飲んで見守る中、華はほんの僅かに前のめりになってグレイルに話し掛けた。
『きのう、ひがしもん、そと。にぐるま、おした?』
(昨日。東門。外。荷車?…………あ!)
『…………………ぅ』
微かに呻いてぎぎっと小さく頷いたグレイルに、華がぱあっと笑顔になった。
『グレイルさん、かっこいい……え~と、かっこ良かった!』
ルナリアの目からぽろりと涙が零れた。
ーーー挨拶以外、グレイルからは何もしてはいけない。
(何もするな、なんて)
こうして見ているだけで胸がいっぱいなのに。
あの大きな襟の服も可愛く似合っていたが、ルナリアの趣味だろうか、白色のワンピースに髪を下ろしてレースのリボンで飾り立てられた姿で階段を降りて来るのを見た時には駆け寄って跪きたくなってしまった。
しかし祖母の言い付けを守りじっとしていた。
正直に言うと言い付けは半分頭から飛んでいたのだが、華がグレイルに向かって歩いて来る事に感動して動けなかったのだ。
(歩いて来る。喋ってる。…なんか光ってる)
白色のワンピースのせいか、グレイルには華がうっすらと光っているように見えていた。
もう瞬きもしたくない。
そんなグレイルは、何もしないどころか自分が挨拶すらしていないことにも気が付いていない。
『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』
名前を呼んだ!!
店で会ったことを覚えていた!!
店員だと思われている事などグレイルはどうでもよかった。
華に名前を呼ばれて有頂天になっていた。
食事中もグレイルは食事をすることも忘れて華の食べる姿を見ていた。
(小さい口…可愛い……!)
小さな口に料理を運んでもぐもぐと咀嚼する華はずっと見ていたいと思うくらい可愛いくて。
隣で父が何か言っていたがそれよりも。
(ずるい…。あんなに仲良く話して…)
グレイルにはシアと華がいちゃいちゃしているのが羨ましくて仕方なかった。
自分は華と話せない癖に、シアと華の間に入りたくて仕方がなかったのだ。
そんなグレイルに祖父母は危機感を募らせていた。
(これは怖い…)
脇目もふらずとはこの事か。
食事にも手を付けずにひたすらに華を見詰めるグレイルに、ラインハルトはどうしたものかと悩んでいた。
息子が町で一目惚れをしたという。
帰って来て早々に好きな相手が出来たのなら目出度い事だとさえ初めは思ったくらいだ。
それがファーナやアルベルトの言う“ハナ”という少女だと言うのはまだいい。いくら重要案件だとしても、二人が“天使”だとか言うからにはさぞや愛らしい娘さんなのだろう。
しかし、後を付けるのは駄目だ。
ルナリアも泣いてしまった。檻に入れるべきか。
ただ、ふらふらと後を付いて行ってしまっただけで何もしていないのは確かなようだった。相手にも気付かれていない。
義母もグレイルの処遇には迷っていたが、結局処分保留というか、様子を見ることにしたようだった。
グレイルがその少女と上手く行って家の嫁に来てくれれば…という思惑があるのは間違いない。
昨日の時点では、肝心のその少女がグレイルをどの程度認識しているのかも不明だった。
それが今朝聞いた話では、グレイルは顔すら覚えてもらっていない、なんと知り合い以下だったということが判明。
それでも朝から少女に会えたと満足した顔をしている息子にラインハルトは心底不安になった。
息子は帝国の、畏れ多くも皇家に連なる方に若年ながら推薦されて近衛師団入りし、皇子殿下の部隊で副部隊長まで務めたはずだった。
それがーー。
(しっかりしてくれよ…)
これからこの町の兵達の指揮官となる騎士が不審者として捕まるのが絶対駄目なのは勿論だが、そもそも騎士としての振舞いをして欲しい。
そんな不安も、正式な着任前ではあるが昼の仕事ぶりを見て払拭したはずだったのに…。
自宅に帰るまでは良かった。
貿易の件でラインハルトの執務室に顔を出したアルベルトと一緒に前日のように3人で帰宅してーー。
しかし、その少女を見た途端にグレイルは挙動不審になり、ラインハルトは危機感を覚えた。
挙動不審とはいっても何をするでもない。むしろ何もしていない。挨拶すらしていない。
ただひたすらに見詰めている。
(駄目だろうこれは…!)
祖母の何もしてはいけないという言い付けを守っているのか、ただ見ているだけで満足しているのかは判らないが、これは怖い!
こんな風に凝視されたら魔獣だって目を逸らしたくなるに違いない。
これは何とかしなければと、グレイルを食堂から連れ出そうとしたラインハルトは、はっとしてルナリアを見た。
華を挟んでシアの反対隣に陣取っているルナリアは、涙を浮かべた目でグレイルを見詰めて震えていた。
ラインハルトが慌ててグレイルを追い出そうとした時、高く澄んだ声音が食堂に響いた。
『グレイルさん』
華だった。
グレイルの凝視に耐え兼ねてシアの方を向いていた華が、グレイルを見てグレイルの名前を呼んだ。
『ぉ……』
大きく肩を揺らしたグレイルは、小さく呻き声を上げて動かなくなった。
全員が固唾を飲んで見守る中、華はほんの僅かに前のめりになってグレイルに話し掛けた。
『きのう、ひがしもん、そと。にぐるま、おした?』
(昨日。東門。外。荷車?…………あ!)
『…………………ぅ』
微かに呻いてぎぎっと小さく頷いたグレイルに、華がぱあっと笑顔になった。
『グレイルさん、かっこいい……え~と、かっこ良かった!』
ルナリアの目からぽろりと涙が零れた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる