異世界で、平和を願う。

ちょこぼーらー

文字の大きさ
99 / 154

98 大きな猫

しおりを挟む
『なんじゃこりゃーー!?』

『なんじゃー?こ?』

 マールが上げた山中にこだまする大きな叫びを例によって華が反復しようとするが、シアによって止められる。

『覚えなくていいから』

 馬上からファーナが困った顔をしている。

『華みたいな小さくて可愛らしい子の口からそんな言葉が出てきたら、みんなびっくりしちゃうわ』

『意外にギャップが受けて変な輩に付きまとわれそうだね…』

『?』

 華は川に晒したままの大きな猫を見てマールが声を上げたので、大きな猫の名前を『なんじゃこりゃー』で覚えるところだった。どうやら違うらしい。
 大きな猫を指して『なんじゃ?』と聞くとロイが名前を教えてくれる。

『これは“闇豹”だな。“まだら猫”なんて言われたりもする。夜行性だから、この黒まだらの毛が迷彩になって忍び寄られると接近に気付き難いんだ。よく無事だったな』

『やみひょー?ゆうがた。かいどう下、出た。おもい。やり、おれた。…ごめんなさい』

 ロイに貰った槍が折れてしまったと肩を落とす華だが、元々折れて使えない槍だったし、そもそもちび鉛筆と交換したことを忘れている。

『無事ならいいさ。それで町に槍を買いに来たんだな』

 バルミラ討伐の前に槍を買いに来たとは聞いていたのだが、華の言う“大きな猫”を実際に見て納得した。岩熊もそうだがよく仕留めたな、と。

(それにしても…)

『ねえ、ハナ。やっぱり山で暮らすのは危険ではない?』

 こんな魔獣が出るなんて、とファーナが不安気に言う。
 ルナリアにも一緒に町で暮らそうと誘われていたが、『家、だいじ』だと華が言うのでルナリアはしぶしぶ引っ込んでいた。

 華としては藤棚さんを離れる気はなかった。
 藤棚さんといれば東京に帰れると思っている訳ではない。華はあちらですでに死んでいるのか、生きたまま異界の門をくぐったのかは分からないが、少なくとも今はまだこの山で、藤棚さんを家にして暮らしていきたかった。
 ここに来てから半月余りでせっかく快適に調えたのに、というのも今は大きい理由だが。

(あまりにも豪雪に見舞われるようなら、冬の間だけ町で暮らすのもいいかな)

 いちど町に行った事で、ようやくそんな選択肢も浮かんできたが、その時になってみないとわからない。
 それに、ファーナ達が心配しているのはおそらく魔獣の事だろう。

『ここ、まじゅうない。まじゅう、かいどう下』

『え!?どうゆうこと?』

 シアが驚いて聞いてくる。全員驚いているようだった。

『山、上。まじゅう、ない』

『……』

 華は魔獣が出るのは街道より下で、街道より上、少なくとも藤棚さん周辺では魔獣どころかうさぎやらリスやらも見ていない。たまに鳥を見るくらいか。
 例外は落ち化蛇と気弱さんだが、どちらも下で遭遇する魔獣と違って襲いかかって来てはいない。

『言われてみれば、ここまで魔獣を見ていないな…』

 街道を進んでいるときは今日も、遠くに狼種だと思われる姿を確認していたロイだったが、休憩場所からこちらまで、あまり生き物を見ないことに気が付いたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

処理中です...