異世界英雄王譚〜転生したら即奴隷、だけどおじいちゃんの国に助けて貰う事になったのだが、俺が第一王子！？〜

少年篇

帝国脱走⑧

　作戦当日を迎えて、現在夜
　俺は、ビンケットの屋敷の中にある小屋みたいな、俺の部屋の中にいる
　今この部屋の中には、ビンケットの執事をしていて、帝国からベヒーモスの力を埋め込まれた元暗殺者のスセル
　もう一人は、ジークライア王国国王直轄諜報員ナイン
　この三人で、息を潜め結界を何重にも貼って作戦会議をしている
　実際の所詳しい作戦の内容を知らないのは俺だけだから、主に俺の為だ
　スセルはいつも通りニコニコしている、今は少しの着替えや食料などの荷造りなどをしているのだが、さすがは元暗殺者、緊張の色が全くないのだ
　対してナインは窓から辺りを見渡し、しっかり警戒して見張ってくれている
　そして俺はというと、勿論何もしていないわけではない
　スセルから逃走するために必要な、地図を渡されたので、それを見て逃走経路の確認をしている最中だ
　
　「カリル、しっかり私たちのスピードについてくるのですよ、私達にとってあなたさえ助かれば勝ちなのです」
　「そんなこと言わないでよ。スセルがいなきゃ、俺正直やっていける気がしない」
　「全く、こういう時は子供みたいなこと言うんだな、安心するぜ」
　
　今から、この帝国から俺を連れて逃げると言うのに案外落ち着いているのだ
　生きるか死ぬかのどちらかしかない
　だけどここを逃げださなければ、二度と自由なんて手に入らない気がする
　死ぬことより今のまま道具のように人生が終わることのほうが…………怖い
その為にはこの作戦を何としてでも成功させる、俺が足を引っ張るわけにはいかない
　スセルはきっと俺が危ない目に合えば助けるために、自分の命さえも捨てるだろう
　その理由に、今のニコニコしている中でも時折見せる覚悟をしているのか、ふぅと大きく息を吐きながら暗殺者の顔が出てくる
　スセルには生きていてほしいし、スセルは俺にとって大切な親代わりだ
　まぁ、恥ずかしいから本人には言わないけどな
　
　そんなことを考えている間に、ナインからそろそろ時間だと言う言葉をかけられる
　ナインの額には沢山の汗が出ていた、今回の救出に関してはそれほどに危険なのだろう
　俺よりも何倍も修羅場をくぐっているであろう、二人の反応を見て
　もう一度自分の心を引き締めた
　
　「じゃぁ、最終確認だ。まず俺たちは――」
　
　そう言って、作戦の内容を話す
　パールニア合衆国まで行けば俺たちの勝ちだ
　そして、パールニア合衆国にはここから馬車で一週間の場所にある
　まず俺たちは、スセルのスキルの力で俺の分身と自分の分身をここに置いていく
　理由は、俺達が逃げたことがばれる前に少しでも対応を遅らせるためだ
　どのみち聖女達がいなくなっていることで、すぐにばれるだろうからな
　この部屋から、スセルの無音の結界と不可視の結界を使って俺たちは、ここから抜け出しビンケットの領を囲んでいる外壁を超えた先にある、南東のほうにある森で聖女達と合流することになっている
　その後は、ナインのスキルにある一つで契約魔獣召喚を使い、パールニア合衆国に向かうそうだ
　二日間はあまり休まずに全速力で走るらしいのだが、理由は帝国の貴族の領内に入らないで迂回して行くからという事が理由だという
　三日目から昼は行商人に扮し、夜は契約魔獣で全力疾走だ
　逃走経路は、ほとんどが川の中を突き進んだり、森の中を走ることになる
　追跡されても、なんとかくくらませるためだ
　その説明が終わった後に、ナインから真っ黒のフードの着いたマントを受け取る
　夜の間はこれを着用して進むのだ
　少しこわばった表情だがナインは俺を安心させようとしているのか、少しぎこちない笑みを浮かべて、俺に声をかける
　
　「お前は、俺たちの国にとって家族だ。何が何でもお前は救い出してやる。だから、なにも、何も心配するこたぁねからな」
　「そうですよ、もし危なくなっても彼を肉の盾にしてあなたを守ります」
　「おい！　そいつはどういうことだ、糞爺！」
　
　いつものようにニコニコしながら俺の肩に手を置くスセルに、少しなんでだぁと言いながらスセルに怒っているナイン
　なんだかその光景が面白くなってしまった俺は、自然と笑いがこみあげてきて
　俺を見た二人も釣られて面白くなってきたのか、俺たちは三人で笑いあった
　
　「まったく、ほらいつまで笑っているの？　二人共早く行こうよ、自由になる為の戦いをしに」
　「そうですねぇ、私はあなたの親代わりとして」
　「俺は、カリルの未来のために」
　
　俺たちは互いに顔を見合わせ、マントをまといフードを被り小屋を飛び出した
　自由になる為に、明日の太陽をその身に沢山の光を浴びるために
　俺たちは、自らの願いのために走り出した