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第二章
4月17日(水):イブの意思
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【京一】
「げほげほ、うう……。しまった、テンション上げすぎた」
晃とトカゲトークで盛り上がった末に、熱をぶり返してしまったイブ。
「バカと一緒になってはしゃぐからだよ。……そもそもトカゲを見に来たんじゃなくてこれを渡しに来たんだ」
僕は半ば呆れつつ、ベッドに横になったイブに、クララから預かったプリントを手渡した。すなわちクララがイブへ渡すようにとクラス担任に託されたものである。
「あ。これ……」
イブは手に下プリントをまじまじと見る。
そのプリントは、部活動の入部申請書だった。
「週明けに提出だってさ」
クララに聞いた提出期限をイブに伝える。
本日は水曜日。次の月曜日が入部申請の締め切り日なのである。……つまりあと五日。
「それで、昨日言ってた宮本さんって人は結局どうだったの?」
「そのことなんだけど……。宮本を誘うのは、ちょっと保留。代わりにもう一人の部員には、凛を誘おうかという話になってるんだ」
「え。……凛を誘うの?」
イブは、意外そうな顔をする。
「クララに聞いたんだよ。他に誘いたい人はいないか、って。そしたら、やっぱり誘うなら四人の共通の友達のほうが良い、って」
「なるほど……、凛ね」
納得したようでいて、どこか複雑な心情を思わせる面持ちのイブ。
僕と凛と晃とイブとクララ。
小学校の頃は五人でよく遊んでいたものだが、中学になってからは、凛とは疎遠になってしまっている。
僕などは家が隣同士であるので、物理的な距離で言えば疎遠になることはない。でも心理的な距離で言えば、確かに、中学に入って以降はやはりはっきりと遠ざかったような気はする。
今、五人とも同じ高校に通っている。
だが、昼食の席を見れば分かる通り、僕ら四人は以前のようにまた一緒にいるのに、凛とは離れている。
晃とクララに関しては、以前のように凛と親しい関係性に戻れることを願っているように見える。
晃は、曲がりなりにも凛とクラスメイトである。凛から晃に話しかけることは皆無と言えるが、その逆はまあ、なくもない。というかそもそも晃は、中学以来疎遠になってしまっているから今更気まずいとか、そういうことはあまり気にしていないかもしれない。デリカシーの無い彼はそういった心の機微に疎い。この場合、しかしそれは良き方に転び得るわけだ。
クララは、現に手芸部に凛を誘いたいと言っているくらいだし、論ずるまでもない。
対してイブはどうか。
凛といま再び話すのは気まずい――前にもそう言っていた。クララが昼食の席に凛を交えたいと言ったときも微妙な反応だったし、今、手芸部に凛を入れたいという話をしても、同じく微妙な反応である。
曰く、凛が中学に上がったばかりの頃に彼女に話しかけたことがあったが、そのときに素っ気ない態度を取られてしまって、それ以来話しもしていない――と、いつかの朝に駅で会った際、言っていた。
『美代には多分、嫌われている気がするし』
凛も、そんなことを言っていた。
彼女もまた、イブと話すのは気まずいと感じているのだ。
ただし。……本当のところ、イブの気持ちは僕には計りかねる。
凛と話すのが気まずいとは言うも、だからといって、今、凛を手芸部に誘うことに対してはっきりと拒絶の意思を示しているわけではない。そう、さきほどから『微妙な』反応なのであり、露骨な拒否反応などではない。
……それは、凛に入部してもらいたいというクララの希望を無下にするのが忍びないという気遣いのためか?
それとも彼女の意思として、気まずくはあれども、決して嫌だというわけではない――ということか?
イブの気持ちは、僕にはよくわからない。
言葉にはしないだけで、イブもまた、凛と昔のように親しく話しをしたいと思っているのだろうか。
またあるいは明確な言葉にしないだけで、凛が懸念する通り、イブの彼女に対する心象ははっきり嫌いということなのか。
入部申請書を見つめる彼女の表情を窺う限りでは、その具体的な心情は察せられなかった。
イブは熱がぶり返してきたようだし、長居は憚られる。
……結局、手芸部のもう一人の部員をどうするかについては、なんとなく宙ぶらりんのまま。僕らは解散した。
/
夜。自室で寛ぎながら、僕はふと、あることに気づく。
手芸部の件についてである。
凛を勧誘することに対してイブが乗り気か否かという問題はあるが、そもそもまず凛に部への勧誘をしなければ話が始まらないではないか。
ではその役目は誰が担うべきか、決めていない。
だが、クララたち皆、その適任は僕であると考えているのではないだろうか。……特に名指しなどされていないが、いっそ彼らはわざわざ名指しをするまでもなく自然な流れとして僕が凛を誘うと思っているに違いない。
凛は隣の家にいるのだ。
話しをしようと思えばすぐにでもできる。
だが、夜にいきなり呼び出すなんてさすがに気が引けるし、凛も引くと思う。
携帯電話を取り出す。……一応、彼女の連絡先は知っている。お互いケータイを持ち出したタイミングで、連絡先の交換はしている。まあ彼女に電話をかけたことなどないが。
手芸部の勧誘。
申請書の提出は月曜日が締め切りなのだ、誘うなら、早いうちに越したことはないのだろうが……。
「…………」
しばし考えて、いやまあ、別に今でなければならないわけじゃない、たった一日の差なのだから明日でも問題ないだろう、と思い至った。
凛を誘ってみるのはまた明日にしよう。
そう割り切って、僕はベッドに横になった。
その後、相も変わらず奇妙な小人との邂逅、そして魔法少女の活躍劇。毎夜繰り返される不思議な体験は、もはや僕の日常と化していた。平常心のままにそれを終え、朝を迎える。
「げほげほ、うう……。しまった、テンション上げすぎた」
晃とトカゲトークで盛り上がった末に、熱をぶり返してしまったイブ。
「バカと一緒になってはしゃぐからだよ。……そもそもトカゲを見に来たんじゃなくてこれを渡しに来たんだ」
僕は半ば呆れつつ、ベッドに横になったイブに、クララから預かったプリントを手渡した。すなわちクララがイブへ渡すようにとクラス担任に託されたものである。
「あ。これ……」
イブは手に下プリントをまじまじと見る。
そのプリントは、部活動の入部申請書だった。
「週明けに提出だってさ」
クララに聞いた提出期限をイブに伝える。
本日は水曜日。次の月曜日が入部申請の締め切り日なのである。……つまりあと五日。
「それで、昨日言ってた宮本さんって人は結局どうだったの?」
「そのことなんだけど……。宮本を誘うのは、ちょっと保留。代わりにもう一人の部員には、凛を誘おうかという話になってるんだ」
「え。……凛を誘うの?」
イブは、意外そうな顔をする。
「クララに聞いたんだよ。他に誘いたい人はいないか、って。そしたら、やっぱり誘うなら四人の共通の友達のほうが良い、って」
「なるほど……、凛ね」
納得したようでいて、どこか複雑な心情を思わせる面持ちのイブ。
僕と凛と晃とイブとクララ。
小学校の頃は五人でよく遊んでいたものだが、中学になってからは、凛とは疎遠になってしまっている。
僕などは家が隣同士であるので、物理的な距離で言えば疎遠になることはない。でも心理的な距離で言えば、確かに、中学に入って以降はやはりはっきりと遠ざかったような気はする。
今、五人とも同じ高校に通っている。
だが、昼食の席を見れば分かる通り、僕ら四人は以前のようにまた一緒にいるのに、凛とは離れている。
晃とクララに関しては、以前のように凛と親しい関係性に戻れることを願っているように見える。
晃は、曲がりなりにも凛とクラスメイトである。凛から晃に話しかけることは皆無と言えるが、その逆はまあ、なくもない。というかそもそも晃は、中学以来疎遠になってしまっているから今更気まずいとか、そういうことはあまり気にしていないかもしれない。デリカシーの無い彼はそういった心の機微に疎い。この場合、しかしそれは良き方に転び得るわけだ。
クララは、現に手芸部に凛を誘いたいと言っているくらいだし、論ずるまでもない。
対してイブはどうか。
凛といま再び話すのは気まずい――前にもそう言っていた。クララが昼食の席に凛を交えたいと言ったときも微妙な反応だったし、今、手芸部に凛を入れたいという話をしても、同じく微妙な反応である。
曰く、凛が中学に上がったばかりの頃に彼女に話しかけたことがあったが、そのときに素っ気ない態度を取られてしまって、それ以来話しもしていない――と、いつかの朝に駅で会った際、言っていた。
『美代には多分、嫌われている気がするし』
凛も、そんなことを言っていた。
彼女もまた、イブと話すのは気まずいと感じているのだ。
ただし。……本当のところ、イブの気持ちは僕には計りかねる。
凛と話すのが気まずいとは言うも、だからといって、今、凛を手芸部に誘うことに対してはっきりと拒絶の意思を示しているわけではない。そう、さきほどから『微妙な』反応なのであり、露骨な拒否反応などではない。
……それは、凛に入部してもらいたいというクララの希望を無下にするのが忍びないという気遣いのためか?
それとも彼女の意思として、気まずくはあれども、決して嫌だというわけではない――ということか?
イブの気持ちは、僕にはよくわからない。
言葉にはしないだけで、イブもまた、凛と昔のように親しく話しをしたいと思っているのだろうか。
またあるいは明確な言葉にしないだけで、凛が懸念する通り、イブの彼女に対する心象ははっきり嫌いということなのか。
入部申請書を見つめる彼女の表情を窺う限りでは、その具体的な心情は察せられなかった。
イブは熱がぶり返してきたようだし、長居は憚られる。
……結局、手芸部のもう一人の部員をどうするかについては、なんとなく宙ぶらりんのまま。僕らは解散した。
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夜。自室で寛ぎながら、僕はふと、あることに気づく。
手芸部の件についてである。
凛を勧誘することに対してイブが乗り気か否かという問題はあるが、そもそもまず凛に部への勧誘をしなければ話が始まらないではないか。
ではその役目は誰が担うべきか、決めていない。
だが、クララたち皆、その適任は僕であると考えているのではないだろうか。……特に名指しなどされていないが、いっそ彼らはわざわざ名指しをするまでもなく自然な流れとして僕が凛を誘うと思っているに違いない。
凛は隣の家にいるのだ。
話しをしようと思えばすぐにでもできる。
だが、夜にいきなり呼び出すなんてさすがに気が引けるし、凛も引くと思う。
携帯電話を取り出す。……一応、彼女の連絡先は知っている。お互いケータイを持ち出したタイミングで、連絡先の交換はしている。まあ彼女に電話をかけたことなどないが。
手芸部の勧誘。
申請書の提出は月曜日が締め切りなのだ、誘うなら、早いうちに越したことはないのだろうが……。
「…………」
しばし考えて、いやまあ、別に今でなければならないわけじゃない、たった一日の差なのだから明日でも問題ないだろう、と思い至った。
凛を誘ってみるのはまた明日にしよう。
そう割り切って、僕はベッドに横になった。
その後、相も変わらず奇妙な小人との邂逅、そして魔法少女の活躍劇。毎夜繰り返される不思議な体験は、もはや僕の日常と化していた。平常心のままにそれを終え、朝を迎える。
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