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第二章
4月18日(木):迷走、奔走
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【京一】
授業の合間の休憩時間。
僕は隣席の凛に声をかけてみた。
「あのさ、凛。……手芸部に入部しないか?」
「は?」
眉を顰め、僕を睨む凛。当然だ、圧倒的に説明不足である。
凛に何か誘いを申し入れるなんてそうあることではないので、いささか緊張してしまい、つい事情の説明をすっ飛ばしてしまった。
僕は気を取り直して、クララとイブが手芸部に入部したがっている事、しかし現在手芸部には部員がいない事、僕と晃が『善意』で入部したとしてもあと一人足りない事など――事の経緯を順々に説明していった。
聞き終えて、凛はすぐに言葉を返す。
「でも私、手芸なんかやんないんだけど」
「それを言うなら僕もやらないよ。廃部を免れるために入るだけだ」
「それだったら私じゃなくても良いじゃない」
「いや、それは……」
「ああ、そうだ、手芸部だったら有紗を誘ったら? あの子、裁縫とか好きだよ」
「…………」
そうか。凛は宮本と仲が良いので、彼女が裁縫を好きだと知っていたのか。
確かに凛にしてみれば、自分よりも宮本の方が適任だと思うだろう。しかし宮本は宮本で自分以外に適任がいる筈だと言い、それから凛を誘うことになったのだが。なんだこの堂々巡りのような状況は。
「それに、そもそも私を入れるのってみんなの合意なの? どうせさっさと空きを埋めたいからって、京一が適当に手近な私を誘ってるだけなんじゃないの」
「そんなことはないよ。ちゃんと、クララが言ったんだ。凛を誘おうって」
「蘭子が、ね」
なるほど察しがつく、というようにすんなり納得する凛。
夢見がちな少女といったクララなら、また昔のように五人で仲良くしたい――だとか考えるだろう、と凛にも容易に想像がついたのだ。
「そう言ったのは蘭子だけ? じゃあ、晃はどうなの?」
「ああ。晃もそれでいいって。ていうかこの場合晃の意見はどうでもいい」
「まあそっか」
そこもすんなり納得する凛。
「……じゃあ、美代は?」
「イブは、えっと……」
言葉が詰まってしまった。
ここで凛の入部を後押しするには、いっそそれをイブも望んでいるのだと言ってしまった方が確実ではある。
しかし今のところそれは真実ではない。
イブの気持ちは、分からない。
凛を誘うことに対して、拒否こそされていないが、乗り気でないのは明らかなのだ……。今ここで、「ああ大丈夫、イブだって凛が入部するのを歓迎しているよ」、などと適当な嘘をついては、なにか余計にこじれてしまう気がする。というかそもそもそんな嘘、凛に通用するとも思えないが。
僕が答えに窮していると、凛はふう、と息をついて口を開く。
「うん、やっぱり有紗を誘った方がいいんじゃない。あんたが有紗に声かけにくかったら、私が伝えてあげようか」
「…………。いや、宮本とはこのあと図書委員の当番で一緒だし……いいです」
「そ」
短く言って、凛はさっさと前に向き直った。それと同じタイミングで次の授業の担当教員が教室に入って来る。凛の号令を受けて、僕は他の生徒と同様に、立ち上がった。
イブはまだ熱が引いていないようで、本日も欠席だった。
昨日同様、食堂のテーブルには僕と晃とクララの三人だけ。
「もう木曜日だよお。どうしよう、もう一人の部員、月曜日までにちゃんと決まらないと手芸部が廃部になっちゃう。凛ちゃんを誘いたいなと思うけど、でもなんだか美代ちゃんはあんまり乗り気じゃなさそうだし……。うー、困ったなあ」
はうう、と息をつきながら、クララが言う。
「あ、京一君。もしかしてもう凛ちゃんに声をかけてくれてたり、する?」
「一応、うん」
さきほど授業の合間に、凛を誘ってみたばかりだ。
「それで、返事は?」
「えーと、それはまだ……保留、って感じかな」
思わず嘘を言った。
本当は保留などではなく、はっきり断られている。
「ごめんね、なんか京一君に任せてるみたいになっちゃってるよね、もともと私が手芸部に入りたいって言ったのに……」
「いや、いいよ。僕どうせヒマだし」
当初、新聞部で手芸部について話しを聞いて、そのとき山本から「宮本を誘ったらどうだ」と提案された。――そのとき、クララは特に口を挟まなかった。
なのに、わざわざ改めて誰を誘いたいかと希望を聞いたのは僕なのである。
ではその希望に沿うよう僕が動くべきなのだ。
おそらく宮本も、手芸部の残り一人は凛が適任であると考えているだろう。だから、それを叶えられずに結局宮本に入部をお願いすることになってしまった場合――彼女には幻滅されてしまうかもしれないと思う。それだけは避けたい。
したがって、――そうだ、これはクララのためであると同時に、何より自分のためでもあるのだ。
僕がなんとか話しを進めようと躍起になっていることに対して、クララが恩を感じてくれたとしても、しかしそれは僕が意図して売ったものではない。それはもうタダなので、勝手にもらってくれて良いのだ。
「まあ、なんとか僕が話を進めるよ。少なくとも手芸部の廃部だけは避けるようにするから、安心してくれ」
「えへへ、ありがとうね、京一君」
ふにゃっと、嬉しそうに笑うクララ。
まさしく幼い頃から変わらない無垢な笑顔である。
しかし……。気前のよいことを言ったものの、特になにか考えがあるわけではない。
凛を誘ったものの、断られてしまったし。
そもそも彼女の勧誘に成功したとして、イブがそれを受け入れてくれるのか不安がある。
現状から、望まれる形で手芸部を存続させることなどできるのだろうか。
入部申請書の提出締め切りまで、あと四日しかない。
授業の合間の休憩時間。
僕は隣席の凛に声をかけてみた。
「あのさ、凛。……手芸部に入部しないか?」
「は?」
眉を顰め、僕を睨む凛。当然だ、圧倒的に説明不足である。
凛に何か誘いを申し入れるなんてそうあることではないので、いささか緊張してしまい、つい事情の説明をすっ飛ばしてしまった。
僕は気を取り直して、クララとイブが手芸部に入部したがっている事、しかし現在手芸部には部員がいない事、僕と晃が『善意』で入部したとしてもあと一人足りない事など――事の経緯を順々に説明していった。
聞き終えて、凛はすぐに言葉を返す。
「でも私、手芸なんかやんないんだけど」
「それを言うなら僕もやらないよ。廃部を免れるために入るだけだ」
「それだったら私じゃなくても良いじゃない」
「いや、それは……」
「ああ、そうだ、手芸部だったら有紗を誘ったら? あの子、裁縫とか好きだよ」
「…………」
そうか。凛は宮本と仲が良いので、彼女が裁縫を好きだと知っていたのか。
確かに凛にしてみれば、自分よりも宮本の方が適任だと思うだろう。しかし宮本は宮本で自分以外に適任がいる筈だと言い、それから凛を誘うことになったのだが。なんだこの堂々巡りのような状況は。
「それに、そもそも私を入れるのってみんなの合意なの? どうせさっさと空きを埋めたいからって、京一が適当に手近な私を誘ってるだけなんじゃないの」
「そんなことはないよ。ちゃんと、クララが言ったんだ。凛を誘おうって」
「蘭子が、ね」
なるほど察しがつく、というようにすんなり納得する凛。
夢見がちな少女といったクララなら、また昔のように五人で仲良くしたい――だとか考えるだろう、と凛にも容易に想像がついたのだ。
「そう言ったのは蘭子だけ? じゃあ、晃はどうなの?」
「ああ。晃もそれでいいって。ていうかこの場合晃の意見はどうでもいい」
「まあそっか」
そこもすんなり納得する凛。
「……じゃあ、美代は?」
「イブは、えっと……」
言葉が詰まってしまった。
ここで凛の入部を後押しするには、いっそそれをイブも望んでいるのだと言ってしまった方が確実ではある。
しかし今のところそれは真実ではない。
イブの気持ちは、分からない。
凛を誘うことに対して、拒否こそされていないが、乗り気でないのは明らかなのだ……。今ここで、「ああ大丈夫、イブだって凛が入部するのを歓迎しているよ」、などと適当な嘘をついては、なにか余計にこじれてしまう気がする。というかそもそもそんな嘘、凛に通用するとも思えないが。
僕が答えに窮していると、凛はふう、と息をついて口を開く。
「うん、やっぱり有紗を誘った方がいいんじゃない。あんたが有紗に声かけにくかったら、私が伝えてあげようか」
「…………。いや、宮本とはこのあと図書委員の当番で一緒だし……いいです」
「そ」
短く言って、凛はさっさと前に向き直った。それと同じタイミングで次の授業の担当教員が教室に入って来る。凛の号令を受けて、僕は他の生徒と同様に、立ち上がった。
イブはまだ熱が引いていないようで、本日も欠席だった。
昨日同様、食堂のテーブルには僕と晃とクララの三人だけ。
「もう木曜日だよお。どうしよう、もう一人の部員、月曜日までにちゃんと決まらないと手芸部が廃部になっちゃう。凛ちゃんを誘いたいなと思うけど、でもなんだか美代ちゃんはあんまり乗り気じゃなさそうだし……。うー、困ったなあ」
はうう、と息をつきながら、クララが言う。
「あ、京一君。もしかしてもう凛ちゃんに声をかけてくれてたり、する?」
「一応、うん」
さきほど授業の合間に、凛を誘ってみたばかりだ。
「それで、返事は?」
「えーと、それはまだ……保留、って感じかな」
思わず嘘を言った。
本当は保留などではなく、はっきり断られている。
「ごめんね、なんか京一君に任せてるみたいになっちゃってるよね、もともと私が手芸部に入りたいって言ったのに……」
「いや、いいよ。僕どうせヒマだし」
当初、新聞部で手芸部について話しを聞いて、そのとき山本から「宮本を誘ったらどうだ」と提案された。――そのとき、クララは特に口を挟まなかった。
なのに、わざわざ改めて誰を誘いたいかと希望を聞いたのは僕なのである。
ではその希望に沿うよう僕が動くべきなのだ。
おそらく宮本も、手芸部の残り一人は凛が適任であると考えているだろう。だから、それを叶えられずに結局宮本に入部をお願いすることになってしまった場合――彼女には幻滅されてしまうかもしれないと思う。それだけは避けたい。
したがって、――そうだ、これはクララのためであると同時に、何より自分のためでもあるのだ。
僕がなんとか話しを進めようと躍起になっていることに対して、クララが恩を感じてくれたとしても、しかしそれは僕が意図して売ったものではない。それはもうタダなので、勝手にもらってくれて良いのだ。
「まあ、なんとか僕が話を進めるよ。少なくとも手芸部の廃部だけは避けるようにするから、安心してくれ」
「えへへ、ありがとうね、京一君」
ふにゃっと、嬉しそうに笑うクララ。
まさしく幼い頃から変わらない無垢な笑顔である。
しかし……。気前のよいことを言ったものの、特になにか考えがあるわけではない。
凛を誘ったものの、断られてしまったし。
そもそも彼女の勧誘に成功したとして、イブがそれを受け入れてくれるのか不安がある。
現状から、望まれる形で手芸部を存続させることなどできるのだろうか。
入部申請書の提出締め切りまで、あと四日しかない。
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