ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

文字の大きさ
28 / 72
第二章

4月18日(木):新聞部部長からの生物教師

しおりを挟む
 【京一】

 当番を終え、宮本と共に並んで廊下を歩く。
 初めて彼女と図書委員の当番で二人きりになったときと比べれば、いくらか緊張は緩和されている。

 僕は宮本に惚れている。
 ただ、かといって本気でお近づきになろうなんて思っていない。いつぞや夢で見たように、告白をする勇気なんてないし、そもそもそれが無謀だと知っている。

 だから、宮本に嫌われたりしたくはない……とは思っていても、好きに合ってもらいたいなんて思わないのだ。叶わないと分かっているから。彼女の笑顔に惹かれ、惚れたその日のうちに結論を出したことだ。
 だからこそ、彼女と二人きりという状況においても、必要以上に気張る必要もないわけである。

 ――などと考えながらも、しっかり心臓は高鳴っているのだが。


 宮本と二人、並んで歩く。
 ふと、廊下の向こうから身長差の激しい二人組が歩いて来るのが見えた。

「おやおやっ、有紗と小智君? 放課後の学校で二人でいるなんて、一体なにしてるんですかぁ?」

 赤い眼鏡をくい、と釣り上げて遊免一佳が寄って来た。その後ろにひょろ長い男もいる。

「一佳。耕太郎くんも」

 宮本は遊免のことを下の名で呼ぶ。そしてやはり山本も下の名前で呼ばれている。僕の中で醜く嫉妬心がくすぶる。……いやまあ、遊免も含めて三人は同じ中学出身なのだから、自然なことだろうか。

 遊免が僕の方に寄って来て、こそっと耳打ちで聞いてきた。


「手芸部の件、どうなんです? 進捗は?」
「なんでコソコソ聞いてくるんだよ」
「いやまァ、なんとなく」
「……まだ決まってない」
「ふうん? そうかと思いました。小智君、なんだか浮かない顔してますもん」

 そう言ってふふんと偉そうな笑顔を見せる遊免。
 なんだかあの小人を思わせる所作だ。というかよくよく思えばこのハイテンションな眼鏡女とあの小人は少し似ている。胡散臭いところとか特に。


「京一、そういえばお前、入部申請書は持ってるのか?」
「え? ……あ」

 山本に言われ、僕は初めて気づく。

 入部申請書。昨日、イブに手渡したあれだ。イブやクララは新入生だからクラスで配られたわけだが、僕らはそうではない。

「確か、申請書は担任からもらわなきゃいけないんじゃなかったか。真田先生なら、ちょうど今、職員室にいるぞ」

「そうか。ありがとう。……さすが新聞部は何でも知ってるな」


       /


「おやおや、小智クン、キミが遅くまで学校にいるなんて珍しいネ」
「……図書委員の仕事です、先生」

 真田先生は自らのデスクにつきながら僕を見上げる。
 遊免と話した直後に真田先生と話すと、奇妙な感覚になった。この二人の間にも、少し似た雰囲気を感じる。胡散臭いところとか。あとは芝居くさい喋り方とか、内に秘めきれていない変人オーラとか。


「あの、真田先生。入部申請の書類をもらいたいんですけど」
「入部申請? 小智クン、部活に入るんですか」
「ええ、まあ。後輩に頼まれて、人数の埋め合わせで。手芸部に」
「似合いませんネ」
「そう思います」

 それ以上突っ込んで事情を聞いて来ることはなく、先生はデスクの引き出しを開ける。探し始めてからすぐに目的の書類を発見し、渡してくれた。
 僕はあと二枚を要求する。すなわち僕以外に、晃の分と、一応、凛の分。

 真田先生のデスクは、意外にもきれいに整頓されていた。彼のことはマッドサイエンティストのような人物だと認識していたので、その印象でいくと物の整理なんかは苦手でデスクはぐちゃぐちゃであろうと思ったが。彼は別に狂人的で無頓着というわけではなく、常識人的な几帳面さもあるのか。そのギャップがむしろ怖い。


「しかし小智クン。なんだか浮かない顔をしてますネ、悩み事ですか?」
「…………」

 不快な既視感が襲う。

「まあ、悩み事っていうか、手芸部の人数合わせがあまりうまくいっていなくて」
「フウム。人間関係の悩みですか。キミもそういうことを考えるんですネ、小智クンは他人には無関心なものかと思ってました」

 あなたにだけは言われたくありません先生――喉頭部こうとうぶまで上って来たその言葉を寸でで留める。

「明晰夢というのを見られれば、人間関係のお悩みなんてすぐに解消できるのですがネ」
「えっ?」

「知りませんか? 明晰夢。夢の中で意識を持って自由に動けるというものですヨ。しかも、夢世界を自由に行き来することすらできると言いますからネ」

 相変わらず、唐突に夢うんちくを語り出す真田先生。
 確か、大学のときのゼミの教授からの受け売りだと言っていたが。彼は、僕が『夢』に関して興味が深い生徒だと思い込んでいて、その大学への進学を薦めてまで来た。国立大学なんて、僕の学力では無謀なのだが。


「へ、へえ……、そうなんですか」

 嬉しそうに夢うんちくを語る真田先生。そんな彼にいささか引きつつも、僕は相月を打つ。明晰夢……。割合、僕には身近な話である。


「でもなんで明晰夢を見られれば、人間関係の悩みを解消できるなんてことになるんですか?」

「いやなに、この間も話したでしょう、レム睡眠とノンレム睡眠のことです。ノンレム睡眠のときに見る夢というのは、意識の深層部、無意識の世界なのですヨ。
 明晰夢の力があれば他人の深層夢世界に介入することができるのですから、すなわち、その人の剥き出しの本心に触れられるというわけなのですヨ。『この人は自分のことどう思ってるんだろう?』なんて疑問は、即刻解決ですヨ。その人の夢に行って、聞けば良いのですから。
 しかも、深層意識たるその夢での出来事は、目覚めたのち本人の記憶には残らない。フム、素晴らしい!」

 そう言ってにやにやと笑う真田先生。


 本来、その狂気的な笑みを見れば心の底から恐怖が込み上げるのが自然だろう。
 しかしそのときの僕は違った。

 彼の言葉を聞いて、ある考えが浮かんでいたのだ。――そう、今晩の夢のことを考えて頭がいっぱいで、担任教師に恐れを抱くどころではなかったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...