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第三章
4月21日(日):不思議なきもち
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【美代】
日曜日。
目を開けて、すぐに頭がはっきりと動いた。とても良い寝覚め。
上体を起こして、ふう、と息をつく。
とても清々しい。
なんだか、うまく言えないけど……じいいん、と、不思議な感覚が胸の奥底から湧き上がってくる感じがしていた。
目が覚めた後に不思議な感覚が胸に湧いている――っていうのは、一昨日もあった。
それでなんとなく気が向くまま、京一にドラコちゃんの写真をいっぱい送り付けた。『かわいいな』って返信してくれたし、まあそれは良かったんだけど。
その、一昨日の朝の感覚に近い……けどそれよりももっと大きくて、そしてとても暖かい思いが、胸にポウと灯っている。
なんだろう、不思議な感じ……とても、心地よい感じだ。
その余韻に浸っていたところ、ケータイが鳴った。
蘭子から電話だ。
『美代ちゃん、おはよう。風邪はもう治った?』
「うん。もう昨日のうちにばっちりよ」
『そっか。じゃあね、あのね、今日ちょっと一緒にお出かけしたいなと思って……。だめかな?』
「別にいいけど」
『ありがとう。じゃあ……』
そうして蘭子は嬉しそうに、時間や場所を提示してきた。
蘭子とはよく遊びに行くけど、こんなに突発で誘ってくるのは珍しい。あたしがしばらく風邪で学校を休んでいたから会いたかったのかな。そう考えると蘭子らしい。
すでに金曜の朝には熱は引いていた。
でもついでにもう一日休もう……と考えてその日は欠席。一日、だらだらと過ごしてしまった。そのうえ土曜も特に出かけはせずゆっくりしていたから、なんか体が鈍ってしまっていた。
今日、外出しようと蘭子が誘ってくれたのはちょうどよかった。
家を出て蘭子と合流し、電車に乗って都市部へ。
普通にご飯食べたり買い物したり。久しぶりに外に出たからあたしもテンション上がっちゃって、つい服とかいろいろ買ってしまった。散財だ。
午後、喫茶店で窓際の席についてゆっくり紅茶を飲んでいたとき。
「あ、そうだ美代ちゃん。あした、入部申請書の提出の締め切り日だよ」
ふと思い出したかのように、蘭子はそう言ってきた。ちょっと、しらじらしかった。
「私と美代ちゃんと、京一君と晃君。それで四人だから、あともう一人をどうしよかっていうこと、美代ちゃんお休みしてたから、あんまりお話しできてなかったよね」
「そうだね」
確かにあたしは間の悪い時に休んじゃっていたかもしれない。仕方ないのだけど、申し訳ない。
「あのね、――」
蘭子がなにか言おうとした。
でもあたしは、なんとなく彼女の方から言わせたくなくて、言葉を遮って口を開いた。
「蘭子はもう一人の部員には凛を入れたいんでしょ?」
「え、……うん」
「考えてみたけど。……あたしも、それがいいかなって思った」
あたしがそう言うと、ぱっと、顔に笑顔を咲かせる蘭子。
「ほ、ほんとっ? 凛ちゃんを誘うこと、美代ちゃんも賛成してくれるの?」
「だからそう言ってんでしょ」
「えへへ、よかったあ」
嬉しそうに笑いながら、ミルクティーを静かに飲む蘭子。
当初は、晃と京一と同じクラスの宮本さんとかいう人を誘うって話になっていた。
でも、蘭子が「もう一人を入れるならやっぱり四人とも共通の友人が良い」と言って、凛を誘ことになった――と聞いている。
だから、あたしがこうして凛を誘うのに前向きな姿勢を見せたことは、この子にとっては何よりうれしいのだろう。
「でも、どうして急に? 前は、その、なんだかあんまり乗り気じゃなかったみたいだから……」
カップをソーサーに置きつつ、蘭子はふと尋ねてきた。
「うーん……、この前まで、いまさら凛と話すのは気まずいなって思ってたんだけど、なんか、今日の朝から不思議な感じがしてさ。別に大丈夫かな、って。自信がついたっていうか……、なんだろ、うまく言えないんだけど」
そう、今朝感じた、不思議な感覚……。
始めは心地よく灯る暖かな感覚のようだったモノが、時間が経って粗熱が取れたみたいになって――形になって残ったのが、そんな感慨。
凛とまた、昔みたいに話せるかもしれない。
ううん、また昔みたいに話したい。
――そんな気持ちだ。
小さい頃は、ずっと五人で一緒に遊んでいたのだ。でも、中学に上がった頃から、凛とは疎遠になってしまった。
その頃に、凛に話しかけて素っ気ない態度を取られてしまったことがあった。それがショックで、……それ以来、話してない。
なんか気まずくて、顔を合わせてもつい知らん顔してすれ違ったりしてしまう。今更、凛と話すのは気まずい。
でも、その『三年間の空白期間』が、今日になって急に、何でもないようもののように感じられた。
五人で楽しく遊んでいた、もちろん凛とも何気なく会話をしていた、あの頃の感覚。当時のその思いが、今になって、はっきりと形として戻って来たみたいな……。
「私もね、もともと五人でまた仲良くなるのが一番だって思ってたけど、でも、今日になったら、その気持ちがもっと強くなって。――えへへ、やっぱり、みんな仲良しが一番だよね」
「あんた、たまに言うよね、それ」
「うん。だってそうでしょ?」
「そうだね」
相変わらず子供っぽい、無垢な笑顔を見せる蘭子。
あたしは、穏やかな気持ちで、紅茶をくっと喉に流した。
日曜日。
目を開けて、すぐに頭がはっきりと動いた。とても良い寝覚め。
上体を起こして、ふう、と息をつく。
とても清々しい。
なんだか、うまく言えないけど……じいいん、と、不思議な感覚が胸の奥底から湧き上がってくる感じがしていた。
目が覚めた後に不思議な感覚が胸に湧いている――っていうのは、一昨日もあった。
それでなんとなく気が向くまま、京一にドラコちゃんの写真をいっぱい送り付けた。『かわいいな』って返信してくれたし、まあそれは良かったんだけど。
その、一昨日の朝の感覚に近い……けどそれよりももっと大きくて、そしてとても暖かい思いが、胸にポウと灯っている。
なんだろう、不思議な感じ……とても、心地よい感じだ。
その余韻に浸っていたところ、ケータイが鳴った。
蘭子から電話だ。
『美代ちゃん、おはよう。風邪はもう治った?』
「うん。もう昨日のうちにばっちりよ」
『そっか。じゃあね、あのね、今日ちょっと一緒にお出かけしたいなと思って……。だめかな?』
「別にいいけど」
『ありがとう。じゃあ……』
そうして蘭子は嬉しそうに、時間や場所を提示してきた。
蘭子とはよく遊びに行くけど、こんなに突発で誘ってくるのは珍しい。あたしがしばらく風邪で学校を休んでいたから会いたかったのかな。そう考えると蘭子らしい。
すでに金曜の朝には熱は引いていた。
でもついでにもう一日休もう……と考えてその日は欠席。一日、だらだらと過ごしてしまった。そのうえ土曜も特に出かけはせずゆっくりしていたから、なんか体が鈍ってしまっていた。
今日、外出しようと蘭子が誘ってくれたのはちょうどよかった。
家を出て蘭子と合流し、電車に乗って都市部へ。
普通にご飯食べたり買い物したり。久しぶりに外に出たからあたしもテンション上がっちゃって、つい服とかいろいろ買ってしまった。散財だ。
午後、喫茶店で窓際の席についてゆっくり紅茶を飲んでいたとき。
「あ、そうだ美代ちゃん。あした、入部申請書の提出の締め切り日だよ」
ふと思い出したかのように、蘭子はそう言ってきた。ちょっと、しらじらしかった。
「私と美代ちゃんと、京一君と晃君。それで四人だから、あともう一人をどうしよかっていうこと、美代ちゃんお休みしてたから、あんまりお話しできてなかったよね」
「そうだね」
確かにあたしは間の悪い時に休んじゃっていたかもしれない。仕方ないのだけど、申し訳ない。
「あのね、――」
蘭子がなにか言おうとした。
でもあたしは、なんとなく彼女の方から言わせたくなくて、言葉を遮って口を開いた。
「蘭子はもう一人の部員には凛を入れたいんでしょ?」
「え、……うん」
「考えてみたけど。……あたしも、それがいいかなって思った」
あたしがそう言うと、ぱっと、顔に笑顔を咲かせる蘭子。
「ほ、ほんとっ? 凛ちゃんを誘うこと、美代ちゃんも賛成してくれるの?」
「だからそう言ってんでしょ」
「えへへ、よかったあ」
嬉しそうに笑いながら、ミルクティーを静かに飲む蘭子。
当初は、晃と京一と同じクラスの宮本さんとかいう人を誘うって話になっていた。
でも、蘭子が「もう一人を入れるならやっぱり四人とも共通の友人が良い」と言って、凛を誘ことになった――と聞いている。
だから、あたしがこうして凛を誘うのに前向きな姿勢を見せたことは、この子にとっては何よりうれしいのだろう。
「でも、どうして急に? 前は、その、なんだかあんまり乗り気じゃなかったみたいだから……」
カップをソーサーに置きつつ、蘭子はふと尋ねてきた。
「うーん……、この前まで、いまさら凛と話すのは気まずいなって思ってたんだけど、なんか、今日の朝から不思議な感じがしてさ。別に大丈夫かな、って。自信がついたっていうか……、なんだろ、うまく言えないんだけど」
そう、今朝感じた、不思議な感覚……。
始めは心地よく灯る暖かな感覚のようだったモノが、時間が経って粗熱が取れたみたいになって――形になって残ったのが、そんな感慨。
凛とまた、昔みたいに話せるかもしれない。
ううん、また昔みたいに話したい。
――そんな気持ちだ。
小さい頃は、ずっと五人で一緒に遊んでいたのだ。でも、中学に上がった頃から、凛とは疎遠になってしまった。
その頃に、凛に話しかけて素っ気ない態度を取られてしまったことがあった。それがショックで、……それ以来、話してない。
なんか気まずくて、顔を合わせてもつい知らん顔してすれ違ったりしてしまう。今更、凛と話すのは気まずい。
でも、その『三年間の空白期間』が、今日になって急に、何でもないようもののように感じられた。
五人で楽しく遊んでいた、もちろん凛とも何気なく会話をしていた、あの頃の感覚。当時のその思いが、今になって、はっきりと形として戻って来たみたいな……。
「私もね、もともと五人でまた仲良くなるのが一番だって思ってたけど、でも、今日になったら、その気持ちがもっと強くなって。――えへへ、やっぱり、みんな仲良しが一番だよね」
「あんた、たまに言うよね、それ」
「うん。だってそうでしょ?」
「そうだね」
相変わらず子供っぽい、無垢な笑顔を見せる蘭子。
あたしは、穏やかな気持ちで、紅茶をくっと喉に流した。
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