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第三章
4月21日(日):夜の幼馴染
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【京一】
すでに、夜の帳は降りている。
帳というのは垂れ幕などのことで、要するに現代風に言えばカーテンである。
陽が落ち、暗い夜が空を覆うのをそのように言うのは、なんだかおしゃれな感じがする。ただ『夜になった』と言うのでなく、取り繕い、洒落っ気をまとわせた言い方なのである。
比して、何の取り繕いもない姿の凛が、目の前にいた。
人は誰しも、外出をする際には少なからず『取り繕う』ものだ。当然、僕でも。お洒落に気を遣わないまでも、外に出るなら必ず何か繕うもの。
女性ならば、化粧をしたりおしゃれな服を着たりと、それは顕著であろう。
凛もそうだ。学校に行くのにも身だしなみには女子らしい気遣いがあるはずだ。
化粧は……うっすらとはしているのだろうか? それは知らないが、――少なくとも、彼女が家の外に出る際に必ずしているのは、髪を後ろ頭でまとめて一つ括にすること。ポニーテールだ。
今の彼女は、それをしていない。
長い髪を、そのまま背中に流している。凛が髪を下ろしているのを見るのは非常に稀なのである。
髪を下ろし、しかも服装はというとルームウェア。上は、簡素なTシャツの上に、フルジップのスウェットパーカーを羽織っている。下はハーフパンツ。
別段、だらしない格好ということはないが、しかし学校で見る彼女とはギャップは激しい。
とはいえ、特に何とも思わない。
彼女のそういう姿を見ることもあるだろう――それは、僕と彼女が隣家に住む幼馴染だから。
「はい。これ」
「ん」
僕の家の前、玄関先にて。僕が差し出した入部申請書を、凛は静かに受け取る。
「あんたは、もう出したの?」
凛が、申請書を眺めながら聞いてきた。ついさきほどまで電話で話していたのに、今、目の前で直接声を聞くというのはなんだか妙な心地だった。
「いや、まだ……」
「明日なんでしょ? 16時締切……ぜったい、忘れちゃだめよ」
「分かってるよ」
「あんたが出し忘れたら、手芸部、廃部決定なんだからね」
「分かってるって」
強く念を押される。そんなに僕は信用できないか。
「それと、さ。……明日こそはいい加減、遅刻せずに来なよ」
「うん、まあ、善処だけはするよ」
「まったく、もう。……じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
凛と、就寝の挨拶を交わす――いささか気恥ずかしさを覚えた。
それは彼女も同じだったのだろうか、凛はそそくさと歩き出して、隣の家の玄関に向かう。
玄関扉を開け、するり、と輪を潜り抜けるように家に入る凛。束ねられていない髪がふわりと揺れていた。
僕も、家へ戻る。
すぐ自室に行き、ベッドに入って就寝の構え。
――と、こうしている今、向かう合う位置にある凛の部屋で、彼女もまた同じくベッドに入ったのだろうかと思うと不思議な感慨が得られた。
いつもはそんなの意識することはないのに。通話した末、直接顔を合わせるという奇妙な流れがあったせいか。
不思議な居心地の中、僕は静かに目を閉じる。
……
…………
「じゃっじゃーーーん、ドモドモ、京一サン!」
「……ああ、どうも」
なんとなく感慨に耽りながら眠りに就いたのに、すぐに奇天烈な小人のハイテンションな挨拶を間近に受けて、少し、苛立ちを覚える。
「ふふん、京一サン。昨晩はお疲れ様でしたネ。うまくいきマシタ」
「ああ。まあ現実の方でも、丸く収まりそうだよ」
「そうデスカー。それはそれは、よかったデス!」
それもひとえにワタシのおかげだ、とでも言いたいのか、小さな胸を大きく誇示するキューピー。
……まあ、それもそうなのだ。この小人の存在がなければ、凛が入部を受け入れることにはならなかったかもしれない。
でも、そうだと言い切れるわけでもない。
結局、夢の深層部とは無意識の世界なのだ。
イブや、凛、クララと晃などが、本当に無意識での影響を受けているのかどうかなど確認のしようがない。……もしかすれば、僕が夢の世界で暗躍することなどせずとも、望まれるべき形になっていたかもしれないのだ。
目の前に浮揚するこの小人の助力があったおかげだと、断言できるものではない。
ましてや、自分が夢の世界にて暗躍したおかげ――なんて思わない。
そんなことは、どうでもよいのだ。ただとにかく好ましい結果があるなら、それで良いのだ。過程は別にどうでも。
「京一サン、昨日はクララチャンや晃クンの夢、そのさらに前日はイブチャンの夢へと行っていましたけど」
「ああ」
「しかしデス、アナタが夢の中でやるべきことが終えられたのなら、では……以前までと同じ場所への『案内』に戻しましょうかネ」
ピコン、と人差し指を立てて、小人が言う。
「以前までの?」
「エエ。昨日と一昨日は特例の『案内』。今晩からまた通常運行へと戻しまショウ、――そう、凛チャンの夢に行くのデスヨ」
「あ……」
忘れていた。
さきほどまでの居心地の良い感傷などすぐに消え去る。
僕は、抗うこともできず、小人による『案内』を大人しく享受するだけ……辿りついた先は、凛の夢――『マジカル☆リンちゃん』の世界だ。
また別種のギャップと言える……。
凛自身にはこのような夢世界を形成している自覚などないのだろうが。僕は辟易しながらも、魔法少女の活躍劇を眺め見ていた――……。
すでに、夜の帳は降りている。
帳というのは垂れ幕などのことで、要するに現代風に言えばカーテンである。
陽が落ち、暗い夜が空を覆うのをそのように言うのは、なんだかおしゃれな感じがする。ただ『夜になった』と言うのでなく、取り繕い、洒落っ気をまとわせた言い方なのである。
比して、何の取り繕いもない姿の凛が、目の前にいた。
人は誰しも、外出をする際には少なからず『取り繕う』ものだ。当然、僕でも。お洒落に気を遣わないまでも、外に出るなら必ず何か繕うもの。
女性ならば、化粧をしたりおしゃれな服を着たりと、それは顕著であろう。
凛もそうだ。学校に行くのにも身だしなみには女子らしい気遣いがあるはずだ。
化粧は……うっすらとはしているのだろうか? それは知らないが、――少なくとも、彼女が家の外に出る際に必ずしているのは、髪を後ろ頭でまとめて一つ括にすること。ポニーテールだ。
今の彼女は、それをしていない。
長い髪を、そのまま背中に流している。凛が髪を下ろしているのを見るのは非常に稀なのである。
髪を下ろし、しかも服装はというとルームウェア。上は、簡素なTシャツの上に、フルジップのスウェットパーカーを羽織っている。下はハーフパンツ。
別段、だらしない格好ということはないが、しかし学校で見る彼女とはギャップは激しい。
とはいえ、特に何とも思わない。
彼女のそういう姿を見ることもあるだろう――それは、僕と彼女が隣家に住む幼馴染だから。
「はい。これ」
「ん」
僕の家の前、玄関先にて。僕が差し出した入部申請書を、凛は静かに受け取る。
「あんたは、もう出したの?」
凛が、申請書を眺めながら聞いてきた。ついさきほどまで電話で話していたのに、今、目の前で直接声を聞くというのはなんだか妙な心地だった。
「いや、まだ……」
「明日なんでしょ? 16時締切……ぜったい、忘れちゃだめよ」
「分かってるよ」
「あんたが出し忘れたら、手芸部、廃部決定なんだからね」
「分かってるって」
強く念を押される。そんなに僕は信用できないか。
「それと、さ。……明日こそはいい加減、遅刻せずに来なよ」
「うん、まあ、善処だけはするよ」
「まったく、もう。……じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
凛と、就寝の挨拶を交わす――いささか気恥ずかしさを覚えた。
それは彼女も同じだったのだろうか、凛はそそくさと歩き出して、隣の家の玄関に向かう。
玄関扉を開け、するり、と輪を潜り抜けるように家に入る凛。束ねられていない髪がふわりと揺れていた。
僕も、家へ戻る。
すぐ自室に行き、ベッドに入って就寝の構え。
――と、こうしている今、向かう合う位置にある凛の部屋で、彼女もまた同じくベッドに入ったのだろうかと思うと不思議な感慨が得られた。
いつもはそんなの意識することはないのに。通話した末、直接顔を合わせるという奇妙な流れがあったせいか。
不思議な居心地の中、僕は静かに目を閉じる。
……
…………
「じゃっじゃーーーん、ドモドモ、京一サン!」
「……ああ、どうも」
なんとなく感慨に耽りながら眠りに就いたのに、すぐに奇天烈な小人のハイテンションな挨拶を間近に受けて、少し、苛立ちを覚える。
「ふふん、京一サン。昨晩はお疲れ様でしたネ。うまくいきマシタ」
「ああ。まあ現実の方でも、丸く収まりそうだよ」
「そうデスカー。それはそれは、よかったデス!」
それもひとえにワタシのおかげだ、とでも言いたいのか、小さな胸を大きく誇示するキューピー。
……まあ、それもそうなのだ。この小人の存在がなければ、凛が入部を受け入れることにはならなかったかもしれない。
でも、そうだと言い切れるわけでもない。
結局、夢の深層部とは無意識の世界なのだ。
イブや、凛、クララと晃などが、本当に無意識での影響を受けているのかどうかなど確認のしようがない。……もしかすれば、僕が夢の世界で暗躍することなどせずとも、望まれるべき形になっていたかもしれないのだ。
目の前に浮揚するこの小人の助力があったおかげだと、断言できるものではない。
ましてや、自分が夢の世界にて暗躍したおかげ――なんて思わない。
そんなことは、どうでもよいのだ。ただとにかく好ましい結果があるなら、それで良いのだ。過程は別にどうでも。
「京一サン、昨日はクララチャンや晃クンの夢、そのさらに前日はイブチャンの夢へと行っていましたけど」
「ああ」
「しかしデス、アナタが夢の中でやるべきことが終えられたのなら、では……以前までと同じ場所への『案内』に戻しましょうかネ」
ピコン、と人差し指を立てて、小人が言う。
「以前までの?」
「エエ。昨日と一昨日は特例の『案内』。今晩からまた通常運行へと戻しまショウ、――そう、凛チャンの夢に行くのデスヨ」
「あ……」
忘れていた。
さきほどまでの居心地の良い感傷などすぐに消え去る。
僕は、抗うこともできず、小人による『案内』を大人しく享受するだけ……辿りついた先は、凛の夢――『マジカル☆リンちゃん』の世界だ。
また別種のギャップと言える……。
凛自身にはこのような夢世界を形成している自覚などないのだろうが。僕は辟易しながらも、魔法少女の活躍劇を眺め見ていた――……。
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