ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

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第四章

4月29日(月):兄

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 【京一】


 『激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす』日、――それが、昭和の日。

 しかし今日日の高校生が昭和時代を顧みるような感慨を持ち合わせているわけもなく、我々が『思いをいた』さなければならないのは国の将来よりも自分の将来なのである。


 高校生としてその身の将来を考える上で、大学のオープンキャンパスというのはありがたいものだ。
 県内の国立大学が開催しているそれに、僕は今向かっている。


 ガタン、ガタン、と線路の継ぎ目ごとに電車の車体が揺れる。祝日だけあって、車内は混み合っていた。座席は空いていなかったので、僕と彼女はドア付近のポールのそばに並んで立っている。

「あれ? 乗り換えって次の駅だったっけ?」
「次の次」

 乗り換えのタイミングを失念したので聞くと、凛は端的に答えた。

 混雑した電車の中で、凛と二人、並んで立つ。祝日だがお互い制服姿である。


 真面目で成績優秀な学級委員長である高槻凛は、二年生の春のこの時期にしてすでに県内の国立大学への進学を心に決めているようである。難関とも言われるが、凛の成績なら難なく合格するのではないだろうか。

 凛が、本日開催されるそのオープンキャンパスへと向かうのは自然なことだ。共に行く相手として、宮本を誘ってみたが、どうしても用事があるとのことで断られてしまったらしい。

『別に私は一人でもよかったんだけど……、有紗が、京一を誘ったら? って、やたらと言うから』

 凛が一緒にオープンキャンパスに行こうと僕を誘って来たときにはかなり驚いたが、誘った後にそう付け足したのだ。納得した。


 逆に、僕がその誘いを即決で受けたとき、凛はかなり驚いていた。

 実は元々僕も、行こうかと考えていた。しかし一人で行くのは気が引けるし、かといって共に行く相手がいない。晃や山本など、この時期から真面目に進学を考えているわけもなく、当然、オープンキャンパスなど無関はないだろう。
 でも、それは僕も同じではある。
 関心があるというわけではない。ましてやこの時期から真面目に進学を考えているわけもない。
 ただ、オープンキャンパスのスタッフの一人から「せっかくだからぜひ来いよ」、と誘われていたのだ。それでどうしようかと迷っていたところに、ちょうど凛から声がかかったというわけである。



 路線を乗り換え、また十数分電車に揺れられたのち、大学前の駅に到着した。改札を抜けると、車道を挟んで立派な校舎が堂々と構えていた。

 周囲には、高校の制服を着た生徒たちが散見される。僕らと同じく大学を見物しに来た生徒たちだ。多くは三年生なのではないだろうか。
 彼らを見ていると、この大学への進学を真面目に考えているわけでもないのにここにきている自分が、かなり場違いであるように思えてきた。


 僕は門をくぐったその足で、そのまま学校説明会とやらが行われる講堂へと向かった。というか、凛についていった。
 大きな講堂で、大きなスクリーンを使用して、大学の特色やアピールポイントなどが語られる。そして僕らにはまだ一年早い入試に関する情報などが説明されていく。

 途中から居眠りをこいてしまって記憶がない。目を覚ますとすぐに隣から鋭い視線を感じた。凛がなじるように僕を睨んでいたのだ。いつも教室で受けている視線なので、さほど気にはしなかった。


 眠気と格闘しながらの中だったが、説明会の内容はぼんやりと聞いていた。
 ただ、それを思い返すに、この大学はすごく楽しそうだ、とか、やりたいことが見つかりそうだ、とか、――そういう感慨はどうにも湧かない。


「凛はなんでこの大学に行きたいんだ? なにかこの大学に特別なことでもあるのか?」
 したがって、そんな疑問を抱いた。

「別に。どうせなら国立大学を目指す方がメリットが大きい――ただそれだけよ」
 さらり、とそう答える凛。

 どうやらこの大学が他と違って良い、というような具体的な動機はないらしい。ただ、漠然とした夢を語るよりは、ずっと現実的で良いとは思った。



 講堂を出る際にパンフレットと共に過去の入試問題集を無料配布していたので、流れで僕も受け取ってしまったが、はっきり言って僕には不要だったろう。

 受験のときになれば当然その年に出されているものを使うわけで、では二年の僕がこれを手にしても、今の自主的な勉強としてしか使えない。
 僕がそんなことをするわけがない。
 まあでもまさか捨てるわけにはいかないので、ひとまず鞄の中に突っ込んでおいた。


 パンフレットの地図を確認しつつ、とある学科棟に向かった。
 国立大学ともなれば敷地は広大で、地図がなければ迷ってしまう。いや、僕一人なら地図があっても迷子になっていたかもしれない。ほとんど、凛の先導についていっただけなのだ。


「おー京一。来てくれたんだな」


 その棟の前に、在校生のスタッフが数名、立っている。その中の一人、身長の高い男が僕の名を呼んで手を振って来た。

「凛ちゃんも。久しぶりだな」

 彼は爽やかな笑顔でそう言う。
 凛は表情の変化こそ乏しいが、少しだけ照れ臭そうにしているのがわずかに窺えた。


 小智和哉おちかずや
 僕らを見下ろす長身の男の名前だ。

 僕の兄である。


「来てくれて助かったよ。ウチの学科、全然人気ないんだ」

 僕らを先導しつつ、兄はそう言ってぼやく。
 学科ごとに、研究棟案内が実施されている。この学科生である兄は、その案内のスタッフをしているわけである。学科内でボランティアが募られた際、兄は迷いなく立候補したようだ。



 兄は小智家の長男で、僕より三年早く生まれた。付近のアパートに下宿をしつつこの大学に通っている。

 同じ親のもとに生まれた僕たちは、しかしあまり似ていないのだ。顔を見れば、確かに兄弟だと分かるのだろうが、――僕らが懸隔けんかくたるは、その内面だ。

 僕は、自分の性分というものをちゃんと自覚している。
 面倒ごとを嫌うし、人目に立つことを極力避けるし、かげかならば逡巡しゅんじゅんなく後者の道を行くし、及第点たる可を得られるならば些細な不可は甘受かんじゅすべしと考える、――そんな性分だ。

 兄は、したがってその逆だ。

 すなわち端的に言える、――優秀である、と。


 現に国立大学の学生であることからも分かるように、学力が高い。
 さらに運動神経も良く、ついでに人当たりも良い。
 無敵だ。

 子供の頃からそうだった。近所の大人たちや同級生たちからの評判がすこぶる高く、優秀であることが周知されていたので、両親にとっては、いっそ自慢するまでもない子であっただろう。

 僕にとって、非常に尊敬できる偉大な兄である。正直言って、今でも憧れる。
 幼い頃などはずっと、兄の背中に隠れるように、影のように付いて回ったものだった。兄は本当に出来た人間で、そんな弟のことを邪険にすることもなく面倒を見てくれていたのだ。



「和哉さん、この大学でもかなり余裕で受かったんでしょ? すごいですね」
「おいおい、なんだよ凛ちゃん。久しぶりに会ったら『和哉さん』って。昔は『かずくん』って呼んでくれてたのに」
「そ、そんなの、すごく小さい頃の話でしょ……」

「京一のことは『きょーくん』だったよな。今は違うの?」
「そんな呼び方しないわよ」

「ていうか君ら付き合ってないの?」
「そんなわけないでしょ!」

 兄は、はっはっは、と大胆に笑った。

 あの強気な凛が、押されている。普段の高校生活ではおよそ見られない光景である。


 小智家と高槻家は隣同士である。僕と凛が幼馴染というなら、兄と凛との関係もまた同様だと言える。

 特に、優しい兄・和哉は、僕だけでなく凛のことも含めて面倒を見てくれていたのだ。当時の彼は凛のことをまるで実の妹のように見ていただろうし、それは今になっても変わりないのだろう。
 逆に、凛にとっても彼はまるで実の兄のような存在なのかもしれない。今のこのやり取りの上下関係も、まるで兄妹のそれに見える。


「二階は各ゼミの研究室が並んでるんだ。ウチのゼミの部屋、見せてやりたいけど、今日は教授がいないから閉まってんだ」

 ゼミ。いかにも大学、と感じる単語である。
 ただ、高校生に僕にはその実態がいまいちよくわからない。ゼミ、って何をするものなんだろうか。

 教授の名前を冠して○○ゼミとか言うんだよな、略さず言えば『ゼミナール』か、そういえば塾とか予備校とかでもなんとかゼミナールって言うけど、それはまた別物なのか? ……考え始めたらなにやら不思議な言葉である、『ゼミ』。


 学科棟内の案内なのか、はたまた久しく会った兄との談話なのか、――ともかくそんな時間を終えて兄と別れ、彼に勧められたので凛と共に学食へ行って昼食を取り、そのあとキャンパスを出た。


 高校とは違って大学の敷地はとても広い。歩き回るのに随分疲れてしまった。
 帰るための電車に乗ると、近場の席が一つだけ空いている。できれば座りたいが、凛を無視して僕だけ座るわけにもいくまい。

 しかし凛はその座席に座ろうとしない。なぜか僕に不満げな目を向けている。

 察するに、そうして僕に気を遣われることが不本意だ、ということだろうか。譲り合いなのか意地の張り合いなのか、二人の意志が拮抗しているうち、近くに立っていた青年が隙を見てそこに腰を下ろしたのだった。
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