ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

文字の大きさ
46 / 72
第四章

4月30日(火):多忙な彼女

しおりを挟む
 【京一】


 三連休が明けた、本日。
 いつも通り、晃と共に授業開始間近の教室に入る。

「おはよう」

 席に着き、隣に座る凛に挨拶をした。

「……おはよ」

 一瞥いちべつし、短く返す凛。

 少しだけ違和感を覚えた。――こうして遅刻ギリギリに登校してきた僕に対し、いつもならばそれをとがめるために突き刺さるような鋭い視線を向けて来る。
 だが、今の凛の視線はどこか力ないように見えた。


「どうした? 凛」
「え? 何が?」

「いや、なんかいつもより元気ないように見えたから。昨日、オープンキャンパスで歩き回った疲れが残ってるのか?」
「…………」

 なにか意外そうな目で僕を見て、それから少し考えるように間をあけてから口を開く凛。


「……別に。ちょっと寝不足なだけ。昨日の夜、ちょっと遅くまで勉強してたから」

「勉強? 連休前に出てた課題か? でも凛ならあのぐらいすぐに終わるんじゃないのか」

「課題ならとっくに終わらしてるわよ。――昨日、大学でもらったでしょ。過去問題集。習ってる範囲だけ解いてみようと思って、帰った後、やってたのよ」

「へ、へえ……」

 僕は開けもせずに引き出しの奥にしまい込んだものだが、一方彼女はさっそく手を付けたのか。
 すなわちその意欲の差が、歴然たるテストの点数の差を生むわけである。

 ――そしてその意欲の差はそのまま授業態度にも表れるわけで、授業ごとに机に伏して眠りこける僕と、業間ごとにそんな僕に鋭い視線を突きさしてくる凛。
 ただ、その視線はいつも通りの鋭利さであり、なるほど少々の寝不足程度で彼女の活力は損なわれないものなのだと知った。


        /


 放課後になり、向かうのは手芸部室。

 一週間前に部が結成されて以来、毎日放課後に手芸部は活動している。
 しかし活動といっても、部室に部員が集まって雑談するだけである。そもそも手芸部に興味があったのはクララだけ。他四人は、手芸部に入ったからといって手芸を嗜むつもりは毛頭ないのである。

 手芸の部活としてはいささか問題があるかもしれないが、しかしある意味では、手芸部の活動は順調であると言える。


 本日もまた、手芸部部室は賑わいを見せている。

 凛とイブは今やとても仲が良く、むしろ昔より距離が縮まったのではないかと思うほどだ。
 今更話すのが気まずいだとか、嫌われているかもしれないだとか、そんなものは杞憂きゆうだったのだとその様子が表している。


 ただし凛はこの一週間、毎日顔を出しているというわけではない。それは決して気まずいからとか部室に赴くのが億劫だとかではなく、ただ彼女が忙しいから。

 彼女は学級委員長だけでなく生徒会にまで所属しているし、そして帰宅後には家事をこなさなければならないのだ。
 高槻家の家庭内において彼女が家事全般をこなしている。
 あるいは、入試の過去問題集をもらった当日にさっそく解いてみたというぐらい、彼女は勉強にも一切余念がないのである。

 凛は、僕らと違って決して暇ではないのだ。



 その日の、部活のおわり。今日は凛も参加していた。下校の際は五人で電車に乗るが、駅に着いてからは僕と凛の二人で歩いて帰るわけである。

「凛が来てくれるのはありがたいし、イブとかは特に喜んでるけどさ。でも家事とか勉強とかで忙しいなら、無理してこなくても大丈夫だからな?」

 お互い隣り合う家へと帰る道中、僕は凛に言った。

「別に、無理なんかしてないわよ。楽しいから。……本当なら、毎日行きたいぐらいだし」

 いささか照れ臭そうに、凛はそう言った。彼女の歩みに合わせて、その後ろ頭に垂れたポニーテールがひらり、ひらりと踊っている。

「それに、誘った本人のあんたが、来なくていいとか言うの変じゃない?」

「まあ、確かにそうだけど」

 そう言われると返す言葉もない。


 駅から自宅まではすぐに着いた。
 凛に「じゃ」と短く挨拶され、「うん、じゃあ」と返した。


        /


 ……
 …………

 夜。

「ドモッス、京一サン!」

 相変わらず、僕の夜はこのハイテンションで奇抜な小人と共にある。


 すでに慣れたというのもおこがましいぐらい、奇妙な夢を見る夜はすでに日常と化してしまっている。――だからこそ、そのうえで感じる不満がある。

 正直、この先に待つ魔法少女の活躍劇には、もう飽き飽きしているのだ。
 なにせ、怪物が出てきて凛が魔法少女に変身してそれを倒すという、完全なワンパターンしか存在しないのだ。


 思い返せばこの夢を見始めて二日目、苦手なカエルに対して苦戦していたのが唯一の例外であった。そのほかは、魔法少女はすっかり負け知らず、魔法をぶっ放して圧勝というパターンのみである。

 どうせ、今晩の夢もまたそうだ。

 日常的な場面の中に突如として怪物が現れるが、魔法少女に変身した凛が颯爽と登場し、そして怪物を得意の魔法であっさり退治してしまう。始めから先の読める話ほど、退屈なものはない。


 気が乗らないまま、小人の後についていき、そしてもやを抜けた先は、――見覚えのある商店街だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...