ゆめゆめうつつ【真面目委員長の幼馴染が夢の中で魔法少女に・・?】

喜太郎

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第四章

4月30日(火):案じる心

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 【凛】


 朝。お弁当を作り、学校に行くために支度をする。
 父は、気怠そうに起きてくると、早々に支度を済ませて弁当を持って家を出た。「いってらっしゃい」と私が言うと、父は不器用な笑顔を作って「いってきます」と言った。

 やはり、どうしても不安な気持ちが胸の内にくすぶってしまう。

 そもそも言えば、父は朝が弱いタイプではない。それなのにあれほど活力がないように見えるのは、それだけ疲労が溜まっている証だと思う。
 昔から仕事が忙しい父だけど、ここ最近、輪をかけて多忙そうなのだ。

 そんな父を見ると、――心配になる。

 でも、だからといって私にできることは、ない。



「どうした? 凛」

 学校。教室。
 ……挨拶を交わした後、ふと、京一が私の顔を見て聞いてきた。

「え? 何が?」

「いや、なんかいつもより元気ないように見えたから。昨日、オープンキャンパスで歩き回った疲れが残ってるのか?」

 しまった。父のことを考えて不安になっていたのが、顔に出ていたのだろうか。
 ――でも、きわめて意外だった。京一が、他人のそんな表情の機微きびに敏感に反応できるなんて。


「…………」
 何と答えるか少し逡巡しゅんじゅんしてから、私は言った。

「……別に。ちょっと寝不足なだけ。昨日の夜、ちょっと遅くまで勉強してたから」
 私は嘘をついた。


「勉強? 宿題出てたっけ?」
「昨日、大学でもらったでしょ。過去問題集。アレ、習ってる範囲だけ解いてみようと思って」
「へ、へえ……」

 過去問題集を解いてみたのは事実だけど、夜遅くまではしていない。なんなら昨日はいつもより早めに寝たぐらいだ。
 父のこと、特にそれで私が悩んでいるということを、彼に言うのは抵抗があった。
 言ったところで仕方がないことだし、何より京一に対して弱みを見せるなんてはっきり言って屈辱だ。

 京一は、授業が開始してすぐに机に伏して眠りこけてしまった。まったくこの男は。


        /


 学校を終えて、帰宅後。
 夕飯の支度をする。作り終えて、待つ間もないうちに連絡が入った。父からだ。今日も帰りが遅くなるから夕飯は先に食べておいてくれ、とのこと。

 孤食をすること自体は一向に構わない。

 でも、気分は晴れやかではない。


 自分で作った夕飯を一人で食べ終えて、自室に向かった。
 勉強机に向かい、勉強道具を広げる。
 ――昨日、入試の過去問題集を解いてみたわけだけど、正直言って全然わからなかった。習っている範囲とはいえ、さすがに国立大学の入試問題なんてそれを見越した勉強をしていなければ解けるものではないらしい。

 過去の入試問題集――和哉が受験した年のものも入っている。

 この試験を受けて、余裕をもって合格したという和哉はすごい人だなと思った。
 私も周りからは成績優秀だとか言われるけど、そんなものは井の中の――ああ、いや、なんでもない。……とにかく今の私では国立大学志望はまだまだ高い壁なのだと、まざまざと知らしめられた。

 難しい問題は、その分、やりがいもある。
 教科書と見比べたりして、解き方を必死に模索するのは、存外、楽しい。

 つい熱中しているうち、もう十時。――その時間になってようやく、父が帰って来た。


「……おかえり」
「ただいま」

 父はとても、疲れた顔をしている。
 当然だ、しばらくまともに休めていない。

 ――でも、それももう少し経てば変わるはずだ。あと二日で大型連休に突入する。父もゆっくり体を休められるだろう。

 そう、思っていた。


「次の連休、あまり休めないかもしれないな。人手が足りなくてな……。休みが取れても、一日か二日か……」

 父は、そう言うのだ。

「せっかくだからどこかに連れて行ってやりたいと思っていたんだが……。それに家事も手伝ってやれなくて、ごめんな凛」


 そんなこと、どうでもいい。
 この年になって遊びに連れて行ってほしいなんて思わないし、家事を任せきりにしているのを悪いだなんて思わないでほしい。

 私はただ、父に休んでほしかった。
 でも、――そうとは言えなかった。


 父には父の都合がある。きっと仕事場が大変なのに、「体が心配だから、休んだらどうか」と私が言ったって、父は困るだろう。
 困らせるだろうと分かっていては、言えない。
 しかし本当に父を想うなら、無理を押してでも言うべきなのだろうか。……分からない。

 ひどく、惨めな気持ちになった。


 父のためになりたい、と思っても、私にできることはない。
 父は、自分が大変なはずなのに、私のことを気遣おうとさえしてくる。……そんな自分が、ひどく、惨めだと思うのだ。
 私の仲に、むず痒いジレンマが渦巻いていた。

 そこからは勉強にも身が入らなかった。
 ……そのまま夜が更けていって、私はうなだれるように、とすん、とベッドに身を添える。
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