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第四章
5月1日(水):新聞部の二人
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【凛】
いよいよゴールデンウィークが間近に控える。
でも、私の気は休まらない。依然、父のことが心配なのだ。
そのせいか、その日の朝はあまり良い寝覚めではなかった。なにかこう、悪い夢でも見ていたような、胸がもやもやするような、……そんな気分だ。
そして私が弁当を作っているとき起きてきた父も、やはり疲れが抜けきっていない様子だった。
支度を済ませた父は、爽やかでない顔色のまま家を出る。私はただ「いってらっしゃい」と挨拶をして見送ることしかできない。
「頑張ってね」なんか言えないし、でもましてや「頑張らないでね」とも言えない。
私は父の助けになれないどころか、かけるべき適切な言葉が何かさえ分からない。
早くに家を出た父。
私は一人となった家の中、登校準備を進める。気は晴れやかでない。
学校。数学でたくさんの課題が出されたけど、今の私にはどちらかと言えばありがたいことだった。
先日、入試問題集に歯が立たなかったことから、もっと勉強を頑張らなくてはという思いがあったし、それに勉強に専念しているといくらか気が紛れる。
その一日の中で、時々、隣の席から視線を感じた。
――京一だ。
どうにも、ちらちらと私のことを横目で窺い見ている気がする。なんだろうか。彼は私にさほど関心はないだろうから、別にその視線に変な意味は含まれていないと思うけど。
もしかして、最近私が悩んでいることに気付いているのだろうか。
それを案じて、私のことを見ていたりなんて……。
まさか京一に限ってそんなことがあるだろうか。彼は、そういう他人の心の機微などには疎い方だと思うのだ。
無神経というわけではないけど、なんていうか、日ごろから割と気を抜いて生活しているって感じの男だから、いくら身近にいるとはいえ私の心の内なんて察せられるとは思えない。
そうだ。きっと視線が向けられているなんていうのもただの私の気のせいだろう。――いや、それはそれであまり認めたくはないのだけど。
「おや、高槻サンじゃないっすか。どもっす」
授業を終えて、放課後。
廊下で、ふと声をかけられた。見ると、鮮やかな赤色のフレームの眼鏡をかけた女生徒が立っている。
「遊免さん」
彼女は、遊免一佳。
現在のクラスは違うけど、去年は同じクラスメイトだったので彼女のことはよく知っている。――いや、おそらくクラスメイトになったことがなくとも彼女のことは知れていただろう。彼女は有名なのだ。
それに、一度でも話せばその印象は強く残る。なんていうか、彼女はかなり独特な雰囲気がある。
「高槻サン、手芸部に入ったんすね」
「ええ、まあ」
「部が存続できて、あの大倉サンって一年生はホントによかったですね。毎日楽しそうな声が聞こえてくるので、なんだか私も嬉しいですよ」
「ごめんなさい、騒いでしまって」
「いえいえ、賑やかなのはいいことです。楽しそうで何よりですよ」
「うん、まあ。……楽しいよ」
彼女は新聞部の部長だ。手芸部とは部室が隣同士。手芸部の騒ぎは筒抜けになってしまっているらしい。騒いでいるというのは主にイブと晃の二人だと思うけど。
「今から新聞部に行くの?」
「ええ。お料理研の取材がありましてね、耕太郎を呼びに来たんですよ。といっても取材には私一人で行くんですが」
耕太郎、というと私と同じクラスの山本君のこと。副委員長をしてくれている人だ。
二人は付き合っていると聞いたことがある。学年内では有名なカップルだ。……まあ遊免さん単体がまず有名人だからだけど。
「そういえば高槻サンは耕太郎と一緒に学級委員をしているんですよね。委員長として非常に頼もしいと、耕太郎が言っていますよ。それに成績も学年上位だし、ホント優等生で、羨ましいです」
「いえ、そんなことは……」
「あ、高槻サンって、小智君と幼馴染なんですよね。しかも家が隣同士、さらに教室の席まで隣同士!」
「ええ、まあ……」
「ぶっちゃけ、実際のトコどうなんすか?」
「な、何が?」
「いやァ、そういうのって、こう、やっぱりなんだかんだ異性として気になっちゃうって定番じゃないっすか。高槻サンはどうなのかな、と思って」
「…………」
マシンガントーク、という言葉があるけど、彼女の口はまさしく散弾銃のごとく言葉を撃ち立てる。
それに他人への質問に遠慮がない。
彼女とこうして話すのはクラスが離れて以来久しいが、なんというか、正直言って疲れてしまう。
「……別に、そんなことないよ。ただの幼馴染、それだけよ」
私がそう言うと、遊免さんは、ふむふむなるほどなるほど、と言って頷いた。彼女は一つ一つの仕草がいささか芝居がかっている。
「ふむ、それはまあ、安心しました」
「え?」
「いえね、もし高槻サンが小智君のこと気になってるなら、どうにもまずいなァ、と思ってたんですが。小智君ってば有紗のこと好きなんですもん」
「ええっ!?」
衝撃の事実が、彼女の口から語られた。
「…………、あ。しまった。つい言ってしまいました」
あはは、とばつが悪そうに笑う遊免さん。なんて恐ろしい人だ。
ちょうどそのタイミングで、教室から山本君が出て来る。
「あ、耕太郎。遅いよ」
「ああ、うん。わりわり」
山本君は
「高槻サンと話してたん?」
「ええ。去年同じクラスでしたし、私たち、実は仲良しなのですよ。ね、高槻サン!」
「……そうね」
私がつい苦笑気味に答えたのを、山本君は気付いたらしい、「悪いね高槻さん、一佳がうるさくして。……じゃあ、俺たち行くから」と、彼女の肩に手をおいて促し、そのまま去って行った。
なんていうか、呆気に取られてしまった。私はしばし、ぽかん、とその場に立ち尽くしてしまう。
嵐が過ぎ去った後のよう、と比喩するまでもなく、遊免一佳が過ぎ去った後、としてそのまま言える感じだ。
……今聞いたことは、ううん、何も聞かなかったことにしよう。
/
帰宅した。その後の流れは、ここ数日と全く同じなのだ。
依然、父の帰りは遅い。
不安な気持ちを誤魔化すように、私は自室にこもって勉強に専念した。
私は勉強の際、音楽をかけたりなんてことはしない。無音だ。部屋の中には、ただノートの上をシャープペンシルが滑り走る音だけが静かに響く。それ以外に音はない。
――当然、家に他に人がいないのだから、誰かの生活音が漏れ聞こえるなんてこともない。
さらり、さらり――と、細い黒鉛の芯がB5サイズの中性紙を細かに滑る。無音の部屋に穏やかに奏でられるその音が、この頃やたらとざわめき立っている私の心をいくらか落ち着けてくれた。
でも、難問に当たってペンが止まったとき、そんな誤魔化しはたちどころに利かなくなる。
――まだ父の帰らないことへの不安と共に、問題が解けない自分に対して強い苛立ちも覚えてしまう。
父とのことも勉強も。……これで何が優等生だというのか。
いよいよゴールデンウィークが間近に控える。
でも、私の気は休まらない。依然、父のことが心配なのだ。
そのせいか、その日の朝はあまり良い寝覚めではなかった。なにかこう、悪い夢でも見ていたような、胸がもやもやするような、……そんな気分だ。
そして私が弁当を作っているとき起きてきた父も、やはり疲れが抜けきっていない様子だった。
支度を済ませた父は、爽やかでない顔色のまま家を出る。私はただ「いってらっしゃい」と挨拶をして見送ることしかできない。
「頑張ってね」なんか言えないし、でもましてや「頑張らないでね」とも言えない。
私は父の助けになれないどころか、かけるべき適切な言葉が何かさえ分からない。
早くに家を出た父。
私は一人となった家の中、登校準備を進める。気は晴れやかでない。
学校。数学でたくさんの課題が出されたけど、今の私にはどちらかと言えばありがたいことだった。
先日、入試問題集に歯が立たなかったことから、もっと勉強を頑張らなくてはという思いがあったし、それに勉強に専念しているといくらか気が紛れる。
その一日の中で、時々、隣の席から視線を感じた。
――京一だ。
どうにも、ちらちらと私のことを横目で窺い見ている気がする。なんだろうか。彼は私にさほど関心はないだろうから、別にその視線に変な意味は含まれていないと思うけど。
もしかして、最近私が悩んでいることに気付いているのだろうか。
それを案じて、私のことを見ていたりなんて……。
まさか京一に限ってそんなことがあるだろうか。彼は、そういう他人の心の機微などには疎い方だと思うのだ。
無神経というわけではないけど、なんていうか、日ごろから割と気を抜いて生活しているって感じの男だから、いくら身近にいるとはいえ私の心の内なんて察せられるとは思えない。
そうだ。きっと視線が向けられているなんていうのもただの私の気のせいだろう。――いや、それはそれであまり認めたくはないのだけど。
「おや、高槻サンじゃないっすか。どもっす」
授業を終えて、放課後。
廊下で、ふと声をかけられた。見ると、鮮やかな赤色のフレームの眼鏡をかけた女生徒が立っている。
「遊免さん」
彼女は、遊免一佳。
現在のクラスは違うけど、去年は同じクラスメイトだったので彼女のことはよく知っている。――いや、おそらくクラスメイトになったことがなくとも彼女のことは知れていただろう。彼女は有名なのだ。
それに、一度でも話せばその印象は強く残る。なんていうか、彼女はかなり独特な雰囲気がある。
「高槻サン、手芸部に入ったんすね」
「ええ、まあ」
「部が存続できて、あの大倉サンって一年生はホントによかったですね。毎日楽しそうな声が聞こえてくるので、なんだか私も嬉しいですよ」
「ごめんなさい、騒いでしまって」
「いえいえ、賑やかなのはいいことです。楽しそうで何よりですよ」
「うん、まあ。……楽しいよ」
彼女は新聞部の部長だ。手芸部とは部室が隣同士。手芸部の騒ぎは筒抜けになってしまっているらしい。騒いでいるというのは主にイブと晃の二人だと思うけど。
「今から新聞部に行くの?」
「ええ。お料理研の取材がありましてね、耕太郎を呼びに来たんですよ。といっても取材には私一人で行くんですが」
耕太郎、というと私と同じクラスの山本君のこと。副委員長をしてくれている人だ。
二人は付き合っていると聞いたことがある。学年内では有名なカップルだ。……まあ遊免さん単体がまず有名人だからだけど。
「そういえば高槻サンは耕太郎と一緒に学級委員をしているんですよね。委員長として非常に頼もしいと、耕太郎が言っていますよ。それに成績も学年上位だし、ホント優等生で、羨ましいです」
「いえ、そんなことは……」
「あ、高槻サンって、小智君と幼馴染なんですよね。しかも家が隣同士、さらに教室の席まで隣同士!」
「ええ、まあ……」
「ぶっちゃけ、実際のトコどうなんすか?」
「な、何が?」
「いやァ、そういうのって、こう、やっぱりなんだかんだ異性として気になっちゃうって定番じゃないっすか。高槻サンはどうなのかな、と思って」
「…………」
マシンガントーク、という言葉があるけど、彼女の口はまさしく散弾銃のごとく言葉を撃ち立てる。
それに他人への質問に遠慮がない。
彼女とこうして話すのはクラスが離れて以来久しいが、なんというか、正直言って疲れてしまう。
「……別に、そんなことないよ。ただの幼馴染、それだけよ」
私がそう言うと、遊免さんは、ふむふむなるほどなるほど、と言って頷いた。彼女は一つ一つの仕草がいささか芝居がかっている。
「ふむ、それはまあ、安心しました」
「え?」
「いえね、もし高槻サンが小智君のこと気になってるなら、どうにもまずいなァ、と思ってたんですが。小智君ってば有紗のこと好きなんですもん」
「ええっ!?」
衝撃の事実が、彼女の口から語られた。
「…………、あ。しまった。つい言ってしまいました」
あはは、とばつが悪そうに笑う遊免さん。なんて恐ろしい人だ。
ちょうどそのタイミングで、教室から山本君が出て来る。
「あ、耕太郎。遅いよ」
「ああ、うん。わりわり」
山本君は
「高槻サンと話してたん?」
「ええ。去年同じクラスでしたし、私たち、実は仲良しなのですよ。ね、高槻サン!」
「……そうね」
私がつい苦笑気味に答えたのを、山本君は気付いたらしい、「悪いね高槻さん、一佳がうるさくして。……じゃあ、俺たち行くから」と、彼女の肩に手をおいて促し、そのまま去って行った。
なんていうか、呆気に取られてしまった。私はしばし、ぽかん、とその場に立ち尽くしてしまう。
嵐が過ぎ去った後のよう、と比喩するまでもなく、遊免一佳が過ぎ去った後、としてそのまま言える感じだ。
……今聞いたことは、ううん、何も聞かなかったことにしよう。
/
帰宅した。その後の流れは、ここ数日と全く同じなのだ。
依然、父の帰りは遅い。
不安な気持ちを誤魔化すように、私は自室にこもって勉強に専念した。
私は勉強の際、音楽をかけたりなんてことはしない。無音だ。部屋の中には、ただノートの上をシャープペンシルが滑り走る音だけが静かに響く。それ以外に音はない。
――当然、家に他に人がいないのだから、誰かの生活音が漏れ聞こえるなんてこともない。
さらり、さらり――と、細い黒鉛の芯がB5サイズの中性紙を細かに滑る。無音の部屋に穏やかに奏でられるその音が、この頃やたらとざわめき立っている私の心をいくらか落ち着けてくれた。
でも、難問に当たってペンが止まったとき、そんな誤魔化しはたちどころに利かなくなる。
――まだ父の帰らないことへの不安と共に、問題が解けない自分に対して強い苛立ちも覚えてしまう。
父とのことも勉強も。……これで何が優等生だというのか。
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