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後日談
5月6日(月):兄バレ
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【京一】
『まさか京一と凛ちゃんが付き合うことになるなんてなあ、びっくりだよ。はっはっは』
電話口の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「……いつ知ったんだよ」
『昨日、母さんから聞いたんだ。嬉しそうに俺に報告してきたぞ』
僕と凛との関係は早くも母にばれていた。
僕から言ったわけではない。
その鋭い観察眼を以って昨日のうちに何かを察した母は、僕ではなく凛に問い詰めたようである。息子に聞いてもはぐらかされるに違いないと思ったのだろう。なんかもう丸々見透かされている。
そうして次男が隣の家の幼馴染と恋仲になったことを知った母は、早速その事実を長男にも伝えたのである。
すなわち今僕が通話している相手、わが兄・和哉である。
『まあ、びっくりはしたけど、でもなんだかんだこうなるような気もしてたよ』
ひとしきり笑ってから、落ち着いた様子で兄はそう言った。
「え? なんでだよ」
『だって凛ちゃん、可愛いし良い子だし。あと強気だし。京一はまさしく凛ちゃんみたいな子がタイプだろ。ていうかそもそも、凛ちゃんが初恋なんだろ?』
「…………」
どうやら母の観察眼は兄にしっかりと遺伝されていたらしい。
というか兄に100%遺伝したのだ。少しは僕にも残しておいてほしかったものだが。
『凛ちゃんだって、なんだかんだ昔から京一のこと好きだったと思うぜ。……あー、あれはいつ頃だったかな。子供の頃、なんか三人で散歩してた時にさ、野犬に遭遇したことあったろ。あのとき、京一が勇気を出して追い払ってくれたじゃん。あのときにはもう、凛ちゃん、京一にときめいてたんじゃねえの』
「は? なに、突然そんな話……」
確かに、そんな出来事はあった気がする。
しかし、あの時のことを言うなら、注目するのは僕じゃないだろう。
「そのときって、凛のこと庇ってたのは兄ちゃんの方じゃないか。ときめいてたとしたら、僕じゃなくて兄ちゃんだろ」
『うーん、まあ確かに、俺がこう、がばっと凛ちゃんを庇ったよ。凛ちゃん、めちゃくちゃ怖がってたしな。そんでお前の活躍劇は、凛ちゃんから見れば俺の陰になっちゃってたかもしれないけど。
でも、むしろそういう陰ながら人を助けるのがお前の良いところじゃん。だから、その京一のカッコ良さは、ちゃんと凛ちゃんにも伝わってたってことさ』
そんな昔の、しかも些細なことが、今につながっているとは思えないが。
それから、兄と色々と話しをした。
主に兄が僕の羞恥心を煽るようなことを言ってくる。僕より先に生まれた兄は、何事であっても僕より優位に立つ。それは死ぬまで覆らないものなのである。
「そういえば京一。お前、志望大学はもう決めてんのか?」
ふと思い出したように、兄が切り出してきた。
「え? ……い、いや。まだだけど」
「なんだ、そうなのか。ウチの大学受ける気、ないのか? だって凛ちゃんはもうウチに決めてるんだろ。じゃあ京一も一緒に受けようって決めたもんだと思ったんだが……」
もはやエスパーか。
「なんだ図星か、どうなんだ京一よ。ん?」
そう言って、兄はまたはっはっは、と笑う。
「まあオススメだよ。大学って、やる気さえあればとにかく色々な知識が入って来るんだ。学べることの幅はすこぶる広いぞ。国立ともなれば、なおさらな。ウチの大学は楽しいぞ」
「ふうん……」
兄はいつも飄々とした雰囲気だが、その実、勉学に関してはかなり真面目な人間なのである。
こうして学ぶことが楽しいと説くあたり、幼い頃から成績優秀な子供であった所以だろう。
『この間なんかよ、ウチのゼミの教授から面白い話を聞いたんだ』
「面白い話?」
『おう。あのな。なんでもその教授、昔から夢について研究をしているらしくてな』
「え……?」
そうして、電話口の向こう、兄の和哉は自身の所属するゼミの教授から聞いたという話を楽しそうに僕に語るのだ――……。
『まさか京一と凛ちゃんが付き合うことになるなんてなあ、びっくりだよ。はっはっは』
電話口の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「……いつ知ったんだよ」
『昨日、母さんから聞いたんだ。嬉しそうに俺に報告してきたぞ』
僕と凛との関係は早くも母にばれていた。
僕から言ったわけではない。
その鋭い観察眼を以って昨日のうちに何かを察した母は、僕ではなく凛に問い詰めたようである。息子に聞いてもはぐらかされるに違いないと思ったのだろう。なんかもう丸々見透かされている。
そうして次男が隣の家の幼馴染と恋仲になったことを知った母は、早速その事実を長男にも伝えたのである。
すなわち今僕が通話している相手、わが兄・和哉である。
『まあ、びっくりはしたけど、でもなんだかんだこうなるような気もしてたよ』
ひとしきり笑ってから、落ち着いた様子で兄はそう言った。
「え? なんでだよ」
『だって凛ちゃん、可愛いし良い子だし。あと強気だし。京一はまさしく凛ちゃんみたいな子がタイプだろ。ていうかそもそも、凛ちゃんが初恋なんだろ?』
「…………」
どうやら母の観察眼は兄にしっかりと遺伝されていたらしい。
というか兄に100%遺伝したのだ。少しは僕にも残しておいてほしかったものだが。
『凛ちゃんだって、なんだかんだ昔から京一のこと好きだったと思うぜ。……あー、あれはいつ頃だったかな。子供の頃、なんか三人で散歩してた時にさ、野犬に遭遇したことあったろ。あのとき、京一が勇気を出して追い払ってくれたじゃん。あのときにはもう、凛ちゃん、京一にときめいてたんじゃねえの』
「は? なに、突然そんな話……」
確かに、そんな出来事はあった気がする。
しかし、あの時のことを言うなら、注目するのは僕じゃないだろう。
「そのときって、凛のこと庇ってたのは兄ちゃんの方じゃないか。ときめいてたとしたら、僕じゃなくて兄ちゃんだろ」
『うーん、まあ確かに、俺がこう、がばっと凛ちゃんを庇ったよ。凛ちゃん、めちゃくちゃ怖がってたしな。そんでお前の活躍劇は、凛ちゃんから見れば俺の陰になっちゃってたかもしれないけど。
でも、むしろそういう陰ながら人を助けるのがお前の良いところじゃん。だから、その京一のカッコ良さは、ちゃんと凛ちゃんにも伝わってたってことさ』
そんな昔の、しかも些細なことが、今につながっているとは思えないが。
それから、兄と色々と話しをした。
主に兄が僕の羞恥心を煽るようなことを言ってくる。僕より先に生まれた兄は、何事であっても僕より優位に立つ。それは死ぬまで覆らないものなのである。
「そういえば京一。お前、志望大学はもう決めてんのか?」
ふと思い出したように、兄が切り出してきた。
「え? ……い、いや。まだだけど」
「なんだ、そうなのか。ウチの大学受ける気、ないのか? だって凛ちゃんはもうウチに決めてるんだろ。じゃあ京一も一緒に受けようって決めたもんだと思ったんだが……」
もはやエスパーか。
「なんだ図星か、どうなんだ京一よ。ん?」
そう言って、兄はまたはっはっは、と笑う。
「まあオススメだよ。大学って、やる気さえあればとにかく色々な知識が入って来るんだ。学べることの幅はすこぶる広いぞ。国立ともなれば、なおさらな。ウチの大学は楽しいぞ」
「ふうん……」
兄はいつも飄々とした雰囲気だが、その実、勉学に関してはかなり真面目な人間なのである。
こうして学ぶことが楽しいと説くあたり、幼い頃から成績優秀な子供であった所以だろう。
『この間なんかよ、ウチのゼミの教授から面白い話を聞いたんだ』
「面白い話?」
『おう。あのな。なんでもその教授、昔から夢について研究をしているらしくてな』
「え……?」
そうして、電話口の向こう、兄の和哉は自身の所属するゼミの教授から聞いたという話を楽しそうに僕に語るのだ――……。
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