お疲れ様でした。これからの時間は私がいただきます。

沐猫

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ひとときの休息

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 トオルたちが世界を救済後、大聖堂には毎日のように各地から被害報告や復旧の進捗、そして神子への追加救援要請が、分類ごとに帳面となって届けられていた。
 オルティスはその一枚一枚に目を通し、優先順位をつけながら処理の方針を記していく。

 世界救済における神子の功績は王家から讃えられたが、復旧には時間を要していた。
 実務の振り分けや雑務の多くは大聖堂に委ねられ、その大部分を担うのは、ほかでもないオルティスだった。

 窓から射す午後の光が紙面を照らし、淡い色を散らしている。
 世界が静けさを取り戻した証が、こうして目の前に積み上がっていた。

 オルティスは眼鏡を外し、目頭をそっと押さえる。
 深呼吸をひとつ。午後の柔らかな空気に、張りつめていた神経が少しだけほどけた。

「……これで、とりあえずは一区切りですね」

 柔らかく呟き、眼鏡をかけ直して椅子を離れる。
 午後の風が開いた扉から流れ込み、長い回廊に光と影を描いた。

 ほんのひと息つこうと歩みを進めた、その先に――アルヴェリオがいた。


 午後の光が差し込む回廊は静かだった。
 壁の影が長く伸び、ステンドグラスの模様が床を彩っている。

 その中で、アルヴェリオは一本の柱に寄りかかり、外を見ていた。
 腕を組んだまま、遠くを眺める横顔。視線の先には、誰もいない。
 ただ、風が花の香りを運び、彼の髪をそっと揺らした。

 オルティスは立ち止まり、しばらくその背を見つめた。その姿が、ほんの少し懐かしく思えた。

「おや、あなたとここでまた会うとは思いませんでした。神子様に何か御用でしたか?」

 穏やかに声をかけると、アルヴェリオは視線だけを向け、すぐに前へ戻した。

「あぁ、少し気になってることがあってな」

 短く答え、オルティスが立ち去らないことを察すると、再び顔をオルティスに向ける。
 ちょうど差し込む光が届かない場所に立つその姿を見据えたまま、低く言った。

「……お前、以前見た時よりだいぶ廃れてるな」

 柔らかな午後の風がふたりの間を抜ける。
 オルティスは目を細め、わずかに笑った。

「手厳しいですね。少々後処理に追われてまして――」

 軽く肩をすくめながらも、その声音はどこか穏やかだった。

「ようやく世界が落ち着いたかと思えば、私の机の上は戦場で」

 アルヴェリオは黙ったまま視線を外す。
 その横顔を見つめながら、オルティスは一拍置いて微笑んだ。

「……もしお時間があるなら、お茶でもどうです?
 ちょうど息抜きをしていたところなんです」

 アルヴェリオは黙ったまま、わずかに視線を伏せた。
 オルティスはその沈黙を咎めることなく、穏やかに言葉を継いだ。

「……無理にとは言いません。あなたの気が向いたらで構いませんので」

 その声には、ほんのわずかに安堵の色が滲んでいた。
 それを悟らせまいと、オルティスは視線を外し、静かに微笑む。

 柱の影が揺れ、午後の光が二人の間を照らした。

 アルヴェリオは黙ったまま、視線を上げて思案しているようだった。
 午後の光が彼の髪を照らし、風が裾を揺らす。
 オルティスの穏やかな声が、もう一度静かな回廊に落ちる。

「……無理にとは言いません。
  ――あなたの気が向いたらで構いませんので」
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