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XXしないと出られない部屋
自サツ未遂くん×霊感くん
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悪い予感がしていた。ざわざわと、毛並みをさかなぜられたような胸騒ぎにサツキを追いかける。彼は、自分が見張っていなきゃすぐどこかへ行ってしまう。向かう先は大抵大きな交差点、学校の屋上、もしくは人気のない倉庫か水のある場所。全てに気をつけなければ、どこにでもヒントはある。救うのは難しくても、絶ってしまうのは簡単だってことを知っているから、いつも手を繋いで見ておかなければいけない。
「さつき、皐月…!待ってください!待って!!」
いくら叫んでも声は届かず、どんどん先に行って引き離されてしまうから不安になる。そう、こうやって置いていかれていつか…。無造作に切られたおカッパの髪型や、蛇が這ったような紫色か茶色に見える首の縄の跡、見慣れたようでまるで現実味がない光景に息を切らし、喘ぎ、必死に手を伸ばす。絶対叶わない、届かない絶望的な情景に涙が溢れて止まらない。やめて、やめて。置いていかないで。
赤と黒の景色に、眩しくて大きくて不気味な夕日に、サツキは融ける。まるで彼はそこが居場所のように、当たり前に融けて消えてしまった。後悔も憧憬も驚きもなく、ただあった場所に帰っただけのようだった。
「皐月…なんで、やです……」
「麗明?あきら、どうしたの?どっか痛いの?」
全身にびっしょり汗をかいて、鼻も詰まって、頬をぐちゃぐちゃに濡らしてアキラは目覚めた。酷く嫌な夢で、現実のようにありえなく無いような光景で、隣で眠っていたサツキが起こしてくれ無かったら咄嗟に眠りの浅い彼をゆさぶっていただろう。そんな彼はきっとうなされるアキラの声で目覚め、顔を覗き込んでいたのだ。
少し前まで生傷の絶えなかった顔、茶色く線状の傷があったことを示す白い手首、まだ薄く残る首の縄の跡。夢よりは随分マシになったものだ。アキラが寄り添うようになってからぱったりと自傷行為をやめたサツキの代わりに、アキラは度々悪夢にうなされることになった。サツキが自殺してしまう夢、事故で死ぬ夢、もしくはその死体が朽ちていく様、サツキの消えた日常。アキラにとってこれ以上の苦痛はもちろんない。夢はわざとでもあるかのようにアキラにとって最悪のシチュエーションを上映するのだ。
「またやな夢見ちゃった?すげーうなされてたもん」
「…はい…………良かった、生きてて」
心底安心した声でぐったり目を閉じるアキラに、サツキは申し訳ない気持ちとどうにか悪夢をまた見ないように…少なくとももう一度寝た時には熟睡できるようにしてあげたいという感情を覚えた。
胸の真ん中に手を置いて軽くさすってあげると、アキラは口でやんわりと拒否した。代わりに「抱っこしてください」と甘えた口調で囁く。甘え方にもいろいろあるだろうが、アキラの場合は赤子のように甘えた。内心仕方ないなと思うことにしたが、サツキは彼のことが愛しい気持ちでいっぱいだ。軽く身を起こした彼の背中を引き寄せると、座ったまま肩に額を押し付けて背中に腕を回した。同じような体格でもサツキよりアキラの方が明らかに痩せている。体を合わせると伝わってくる熱にアキラは安心したのか動かなくなった。
「麗明、あのさ…顔上げてくれない?」
キョトンとした顔で肩から額を離したアキラに、サツキは口付けを施した。いつもなら嫌がるはずの行為なのに、アキラはやる気がないようで全く抵抗しない。それをいいことにサツキは歯列を割り、舌までむしゃぶりつく。蛇のように二股に割れた舌がびくりと逃げようとするが、もうそれ以上奥に行けるはずもなく二股の間に舌を入れられる。
アキラの舌には切れ込みが入れられていた。俗に言うスプリットタンというやつだ。彼の厳格な祖父が幼い頃からお守りだとメスを入れていた舌と、彼自身が生まれ持った切れ長で細い目がまるで蛇のようだと小学生の時から気味悪がられていた。けれど、この舌は肉が薄くなって神経が敏感になる特性がある。サツキがアキラに魅力を感じている1ピースに違いない。要するに、舌が性感帯になっている彼が可愛くて堪らなくて、時に加虐心を煽られるのだ。
「ふっ……ぅ、ん…」
体は逃げようとするが、そんな彼をがっちり捕まえて更に激しく口内を掻き回す。徐々に息が荒くなるアキラに、サツキはほくそ笑んでやっと解放した。女のように艶やかな黒くて太い髪を撫でて、頬を赤らませ視線を彷徨わせるアキラを愛撫する。
「なんで、キス…私が苦手なの知ってるでしょう…」
「えっと…キスしたら、麗明が大人しくなるから…?リラックス、してるじゃん?」
少し頭が悪いサツキなりに考えていたらしい。アキラを落ち着かせようとしての行動だったようだ。
確かに、とアキラは自分の胸を撫でる。暖かいミルクが注がれたカップのように満たされた温もりを感じる。目を瞑って彼の心音を感じていれば、確かに居心地がとてもいい。さっきは不快だった汗も乾いてしまったのか、気持ち悪さは感じなかった。
「皐月……勘違いしてました…。あ、ありがとうございます……」
素直にお礼を言おうとしたが照れてしまって上手く言葉が出ないアキラに、サツキは微笑み優しく寄り添っていた。
2人の眠れない夜は、もう何日も続いている。この部屋に閉じ込められて17日目。2人は、必死に過去の辛い思い出のトリガーとなるものを探していた。そのうち、まるで恋人のような愛しさを覚え、恋人のように親しく言葉を交わしていた。
「さつき、皐月…!待ってください!待って!!」
いくら叫んでも声は届かず、どんどん先に行って引き離されてしまうから不安になる。そう、こうやって置いていかれていつか…。無造作に切られたおカッパの髪型や、蛇が這ったような紫色か茶色に見える首の縄の跡、見慣れたようでまるで現実味がない光景に息を切らし、喘ぎ、必死に手を伸ばす。絶対叶わない、届かない絶望的な情景に涙が溢れて止まらない。やめて、やめて。置いていかないで。
赤と黒の景色に、眩しくて大きくて不気味な夕日に、サツキは融ける。まるで彼はそこが居場所のように、当たり前に融けて消えてしまった。後悔も憧憬も驚きもなく、ただあった場所に帰っただけのようだった。
「皐月…なんで、やです……」
「麗明?あきら、どうしたの?どっか痛いの?」
全身にびっしょり汗をかいて、鼻も詰まって、頬をぐちゃぐちゃに濡らしてアキラは目覚めた。酷く嫌な夢で、現実のようにありえなく無いような光景で、隣で眠っていたサツキが起こしてくれ無かったら咄嗟に眠りの浅い彼をゆさぶっていただろう。そんな彼はきっとうなされるアキラの声で目覚め、顔を覗き込んでいたのだ。
少し前まで生傷の絶えなかった顔、茶色く線状の傷があったことを示す白い手首、まだ薄く残る首の縄の跡。夢よりは随分マシになったものだ。アキラが寄り添うようになってからぱったりと自傷行為をやめたサツキの代わりに、アキラは度々悪夢にうなされることになった。サツキが自殺してしまう夢、事故で死ぬ夢、もしくはその死体が朽ちていく様、サツキの消えた日常。アキラにとってこれ以上の苦痛はもちろんない。夢はわざとでもあるかのようにアキラにとって最悪のシチュエーションを上映するのだ。
「またやな夢見ちゃった?すげーうなされてたもん」
「…はい…………良かった、生きてて」
心底安心した声でぐったり目を閉じるアキラに、サツキは申し訳ない気持ちとどうにか悪夢をまた見ないように…少なくとももう一度寝た時には熟睡できるようにしてあげたいという感情を覚えた。
胸の真ん中に手を置いて軽くさすってあげると、アキラは口でやんわりと拒否した。代わりに「抱っこしてください」と甘えた口調で囁く。甘え方にもいろいろあるだろうが、アキラの場合は赤子のように甘えた。内心仕方ないなと思うことにしたが、サツキは彼のことが愛しい気持ちでいっぱいだ。軽く身を起こした彼の背中を引き寄せると、座ったまま肩に額を押し付けて背中に腕を回した。同じような体格でもサツキよりアキラの方が明らかに痩せている。体を合わせると伝わってくる熱にアキラは安心したのか動かなくなった。
「麗明、あのさ…顔上げてくれない?」
キョトンとした顔で肩から額を離したアキラに、サツキは口付けを施した。いつもなら嫌がるはずの行為なのに、アキラはやる気がないようで全く抵抗しない。それをいいことにサツキは歯列を割り、舌までむしゃぶりつく。蛇のように二股に割れた舌がびくりと逃げようとするが、もうそれ以上奥に行けるはずもなく二股の間に舌を入れられる。
アキラの舌には切れ込みが入れられていた。俗に言うスプリットタンというやつだ。彼の厳格な祖父が幼い頃からお守りだとメスを入れていた舌と、彼自身が生まれ持った切れ長で細い目がまるで蛇のようだと小学生の時から気味悪がられていた。けれど、この舌は肉が薄くなって神経が敏感になる特性がある。サツキがアキラに魅力を感じている1ピースに違いない。要するに、舌が性感帯になっている彼が可愛くて堪らなくて、時に加虐心を煽られるのだ。
「ふっ……ぅ、ん…」
体は逃げようとするが、そんな彼をがっちり捕まえて更に激しく口内を掻き回す。徐々に息が荒くなるアキラに、サツキはほくそ笑んでやっと解放した。女のように艶やかな黒くて太い髪を撫でて、頬を赤らませ視線を彷徨わせるアキラを愛撫する。
「なんで、キス…私が苦手なの知ってるでしょう…」
「えっと…キスしたら、麗明が大人しくなるから…?リラックス、してるじゃん?」
少し頭が悪いサツキなりに考えていたらしい。アキラを落ち着かせようとしての行動だったようだ。
確かに、とアキラは自分の胸を撫でる。暖かいミルクが注がれたカップのように満たされた温もりを感じる。目を瞑って彼の心音を感じていれば、確かに居心地がとてもいい。さっきは不快だった汗も乾いてしまったのか、気持ち悪さは感じなかった。
「皐月……勘違いしてました…。あ、ありがとうございます……」
素直にお礼を言おうとしたが照れてしまって上手く言葉が出ないアキラに、サツキは微笑み優しく寄り添っていた。
2人の眠れない夜は、もう何日も続いている。この部屋に閉じ込められて17日目。2人は、必死に過去の辛い思い出のトリガーとなるものを探していた。そのうち、まるで恋人のような愛しさを覚え、恋人のように親しく言葉を交わしていた。
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