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Case.01【消えるピアニスト】
day2─もう一人の優雅部員─
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翌日、登校した絢葉の元へ文子と京香が駆けてきた。
「絢葉!大丈夫だった!?」
「ゴメンね置いて帰っちゃって!私たちも夢中になってて気づいてなかったの!」
昨日、絢葉を旧音楽室に残して走り去ってしまった事への謝罪だ。自分達の面白半分な行動で、絢葉に怖い思いをさせたと思ったらしい。
しかし、そもそも昨日絢葉が優雅部を後にした時に二人から同様の内容のメッセージが届いており、絢葉はそれに、問題なく下校しているから気にしないでと返信していた。勿論それは嘘偽りない事実で本心なので、絢葉は重ねて、気にしないよう二人に微笑む。
お昼休み、三人でお弁当を食べながら再びその話題になり、そこで絢葉は二人と別れた後優雅部へ迷い込んだ話をした。すると二人は目を丸くして、
「え、優雅部!?」
「あの“奇人”呉宮史桜先輩の?」
「き、奇人?あの人、そんな有名なの?」
今度は絢葉の目が丸くなる。
「有名有名!良い意味でかは微妙だけど。だって謎過ぎるじゃん、何優雅部って。活動内容が謎過ぎるし、部長はなんかずっと部室で紅茶飲んだり読書したりしてるだけなんだって」
「部の発足時は本当に謎しか無かったらしいけど、いつの間にかなんか、探偵というか、“何でも屋”みたいな扱いになって、色んな依頼とかを調査して解決してるんだって。こないだは近所で脱走した犬を捜索をしたって聞いたよ」
「へ、へぇ…?」
(確かに、呉宮先輩は紅茶飲んで座ってるだけで、自分は動かないって言ってたな…。ということは、他にも部員がいるのかな?昨日は先輩以外誰も居なかったけど…)
もしかして、結構面倒な所へ首を突っ込んだのでは?と昨日の自分の選択を少し後悔した絢葉だが、その時彼女のスマホが短く震えた。
史桜から届いたメッセージだ。内容は非常に簡潔だった。
『放課後、旧音楽室へ。もう一人の調査員と合流せよ』
─────
放課後、旧音楽室前。今日は現時点ではピアノの音は聴こえない。
扉の前に、気だるげな男子生徒が寄りかかっていた。寝起きのような目つき。ブレザーのボタンは留めておらず、緑のタイが少し曲がっている。
「……おまえが東雲?」
「はい。東雲絢葉です」
「天野奏汰。二年」
やや長めの茶髪を掻きながら雑に一言だけで挨拶を済ませ、彼は扉の取っ手に手をかけた。
「入るぞ」
しかし、扉は微動だにしない。
「鍵が掛かってる…。昨日、おまえと友達は普通に入ったんだよな?」
「は、はい…。もしかして、その後に来てた見回りの先生が施錠したのかも…?」
「ふぅん…。そもそも、長年使ってない教室の鍵を開けっぱにしとくか?それも怪異騒ぎが有るのに。……まぁ良いか、考えるのは俺の仕事じゃない」
そう言って奏汰は、ズボンのポケットに手を突っ込み、中身をチャラチャラと鳴らして、金属の棒の束を取り出した。真っ直ぐだったり、先が曲がっていたり、捻れていたり、一本一本形状が違う。
「それは…?」
「“ピッキング”。言いふらすなよ」
彼はその棒を鍵穴に差し込み、カチャカチャと器用に動かす。すると、ものの一〇秒程で、ガチャリ、と鍵穴から音が鳴った。
「開いた」
「凄い…」
感心する絢葉に目もくれず、奏汰は再び扉に手をかける。
重い金属音とともに、扉がじりじりと開く。
埃の匂いが鼻腔をくすぐる。グランドピアノは奥で静かに黒光りし、静かに鎮座していた。
二人はピアノに近付こうと一本、また一本と踏み出す。
──そのときだった。
ぽろん……と音。続いて旋律が織りあがる。確かに、今、鳴っている。
絢葉の背筋が凍った。
「だ、誰もいないのに……」
奏汰は肩をすくめ、耳を澄ませるだけだ。表情らしい表情を見せない。
絢葉は慌ててスマホを開いた。
『旧音楽室、誰もいないのにピアノが鳴ってます』
『ほう。それは興味深いが、まぁ良い。本日の調査は中止。退避せよ』
『えっ?良いんですか?』
『今日得たのは“驚き”だけだ。驚きは観察の敵。今日は直帰して構わない。明日、心の準備をして再度臨んでくれたまえ』
あまりにあっさりとした結論に、絢葉は戸惑い、奏汰に史桜からのメッセージを伝える。
「……なら帰る。今日はそれでいい」
短い言葉を残し、彼は踵を返した。
未だ戸惑いながらも、絢葉も従う。胸の中には、まだ音の残響が渦巻いていた。
「絢葉!大丈夫だった!?」
「ゴメンね置いて帰っちゃって!私たちも夢中になってて気づいてなかったの!」
昨日、絢葉を旧音楽室に残して走り去ってしまった事への謝罪だ。自分達の面白半分な行動で、絢葉に怖い思いをさせたと思ったらしい。
しかし、そもそも昨日絢葉が優雅部を後にした時に二人から同様の内容のメッセージが届いており、絢葉はそれに、問題なく下校しているから気にしないでと返信していた。勿論それは嘘偽りない事実で本心なので、絢葉は重ねて、気にしないよう二人に微笑む。
お昼休み、三人でお弁当を食べながら再びその話題になり、そこで絢葉は二人と別れた後優雅部へ迷い込んだ話をした。すると二人は目を丸くして、
「え、優雅部!?」
「あの“奇人”呉宮史桜先輩の?」
「き、奇人?あの人、そんな有名なの?」
今度は絢葉の目が丸くなる。
「有名有名!良い意味でかは微妙だけど。だって謎過ぎるじゃん、何優雅部って。活動内容が謎過ぎるし、部長はなんかずっと部室で紅茶飲んだり読書したりしてるだけなんだって」
「部の発足時は本当に謎しか無かったらしいけど、いつの間にかなんか、探偵というか、“何でも屋”みたいな扱いになって、色んな依頼とかを調査して解決してるんだって。こないだは近所で脱走した犬を捜索をしたって聞いたよ」
「へ、へぇ…?」
(確かに、呉宮先輩は紅茶飲んで座ってるだけで、自分は動かないって言ってたな…。ということは、他にも部員がいるのかな?昨日は先輩以外誰も居なかったけど…)
もしかして、結構面倒な所へ首を突っ込んだのでは?と昨日の自分の選択を少し後悔した絢葉だが、その時彼女のスマホが短く震えた。
史桜から届いたメッセージだ。内容は非常に簡潔だった。
『放課後、旧音楽室へ。もう一人の調査員と合流せよ』
─────
放課後、旧音楽室前。今日は現時点ではピアノの音は聴こえない。
扉の前に、気だるげな男子生徒が寄りかかっていた。寝起きのような目つき。ブレザーのボタンは留めておらず、緑のタイが少し曲がっている。
「……おまえが東雲?」
「はい。東雲絢葉です」
「天野奏汰。二年」
やや長めの茶髪を掻きながら雑に一言だけで挨拶を済ませ、彼は扉の取っ手に手をかけた。
「入るぞ」
しかし、扉は微動だにしない。
「鍵が掛かってる…。昨日、おまえと友達は普通に入ったんだよな?」
「は、はい…。もしかして、その後に来てた見回りの先生が施錠したのかも…?」
「ふぅん…。そもそも、長年使ってない教室の鍵を開けっぱにしとくか?それも怪異騒ぎが有るのに。……まぁ良いか、考えるのは俺の仕事じゃない」
そう言って奏汰は、ズボンのポケットに手を突っ込み、中身をチャラチャラと鳴らして、金属の棒の束を取り出した。真っ直ぐだったり、先が曲がっていたり、捻れていたり、一本一本形状が違う。
「それは…?」
「“ピッキング”。言いふらすなよ」
彼はその棒を鍵穴に差し込み、カチャカチャと器用に動かす。すると、ものの一〇秒程で、ガチャリ、と鍵穴から音が鳴った。
「開いた」
「凄い…」
感心する絢葉に目もくれず、奏汰は再び扉に手をかける。
重い金属音とともに、扉がじりじりと開く。
埃の匂いが鼻腔をくすぐる。グランドピアノは奥で静かに黒光りし、静かに鎮座していた。
二人はピアノに近付こうと一本、また一本と踏み出す。
──そのときだった。
ぽろん……と音。続いて旋律が織りあがる。確かに、今、鳴っている。
絢葉の背筋が凍った。
「だ、誰もいないのに……」
奏汰は肩をすくめ、耳を澄ませるだけだ。表情らしい表情を見せない。
絢葉は慌ててスマホを開いた。
『旧音楽室、誰もいないのにピアノが鳴ってます』
『ほう。それは興味深いが、まぁ良い。本日の調査は中止。退避せよ』
『えっ?良いんですか?』
『今日得たのは“驚き”だけだ。驚きは観察の敵。今日は直帰して構わない。明日、心の準備をして再度臨んでくれたまえ』
あまりにあっさりとした結論に、絢葉は戸惑い、奏汰に史桜からのメッセージを伝える。
「……なら帰る。今日はそれでいい」
短い言葉を残し、彼は踵を返した。
未だ戸惑いながらも、絢葉も従う。胸の中には、まだ音の残響が渦巻いていた。
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