6 / 43
Case.01【消えるピアニスト】
day5─沈黙─
しおりを挟む
翌日、金曜日。絢葉は放課後に先ず、職員室へ。
旧音楽室の鍵は、掛かったまま。貸し出し簿も白紙のままだ。
「今日も、出ない……?」
職員室を出て、史桜に連絡をする。
【ふむ……、軽く調査した所感では、もう少し出現頻度は高そうだったが……。東雲君。念の為、旧音楽室へ】
指示に従い、旧音楽室を確認したが、ピアノの音はない。扉もやはり鍵が掛かっている。
【なるほど。では今日は旧音楽室を張っても収穫は薄い。今は正確な“幽霊ピアニスト”の出現条件を探る方が先決だ。残っている生徒は少ないだろうが、天野と共に校内の聞き込みを。加えて可能ならば、村西教諭、山野辺女子、古谷女子の事も、他愛の無い事で構わないから調査してみてくれ。そちらは吹奏楽部の上級生を中心に聞くのが望ましい】
指示を受け、絢葉と奏汰は校舎を回る。夕暮れの光が廊下を朱に染め、残っている生徒は少ない。
───
奏汰と合流し、小一時間ほどで得られた情報をまとめると──
“幽霊ピアニスト”が現れるのは、ほとんどが月曜か金曜。ごく稀に別の日にもあるが、極端に少ないようだ。そして、その出現は去年の秋頃から始まったらしい。
そのうえで、僅かに残っていた吹奏楽部員の口から出てきたのは──
「山野辺先輩?あの人、たまに変なんだよ。いや、スランプのことじゃなくて」
課題のプリントに頭を抱えていた二年の女子部員は、声を潜めて続けた。
「部の予定表、見たことあるでしょ? 月曜と金曜は練習休みなのに、たまに下校時間ギリギリまで校舎に残ってるんだよ。随分、周りを気にしてキョロキョロしながら。……でも、私が見た時は丁度帰る所だったみたいで、それまで何してたかは知らない」
練習がない日。幽霊が出るとされる日。偶然なのか──絢葉は背筋に冷たいものを覚えた。
───
「古谷?そうだなぁ……」
昇降口で帰り支度をしていた進路相談終わりの三年の男子部員は、思い出すように首をひねった。
「毎年ピアノコンクールに誰が出場するか、部内で演奏会をして、村西先生が決めるんだけど。古谷が一年の時と比べて、二年の時、随分と上達してたんだ。それでも山野辺には勝てなかったんだけど。吹奏楽もやりながら、一年であれだけ上手くなれるのかって噂になってたんだ。こっそり一人で練習してるのかもな」
「一人で……」
「うん。山野辺と比べられることも多いし、嫉妬とか対抗心とか──って思う人もいるみたいだね」
さっきまで思い浮かべていた優しい笑顔に、別の影が差し込んだ気がした。
───
「村西先生のこと?そういえば……」
帰り際に捕まえた、補習を終えたばかりの女子部員は声を落とした。
「一年のとき、部活中に一度だけピアノを弾いてくれたんだ。ほんの少しだけだけど、鳥肌が立つくらい上手かった。事故で弾けなくなったって話だけど、本当なのかなって。また弾きたい気持ちもあるんじゃないのかな」
「未練がある、と?」
「かもね。だから山野辺先輩に厳しいのかも……って、みんな言ってる」
───
先に帰ると去った奏汰と別れ、部室に戻ると、史桜は聞き込みの報告を黙って聞き、やがて口の端を上げた。
「幽霊が出るのは月曜と金曜。奇しくも吹奏楽部の休みの日。そこに“残っている”山野辺女子。独り練習の噂がある古谷女子。そして未だ音を響かせられるかもしれぬ村西教諭。──なるほど、実に面白い」
「やっぱり、“幽霊ピアニスト”は吹奏楽部の誰か……?」
「随分と可能性は上がったと思う。練習が休みの日にピアノを弾いている。月曜と金曜以外に稀に現れるのは、恐らく他の曜日に臨時で吹奏楽部が休みになったなどが理由だろう」
「ですが、今日旧音楽室へ現れなかったのは?」
「……君だ。恐らく部内の一年生から、君が我が部と関わっていると聞いたのだろう。それで警戒した」
確かに、クラスメイトには吹奏楽部員が居る。絢葉本人は話していないが、話好きで友達の多い文子や京香から聞いた可能性は十分にある。
史桜は足を組み、ゆったりと椅子にもたれ掛かる。
「だったら、もう現れない可能性も……?」
「さて、どうだろうね。続きは次の月曜日だ」
史桜の低い声が、夕闇に溶けるように響いた。
旧音楽室の鍵は、掛かったまま。貸し出し簿も白紙のままだ。
「今日も、出ない……?」
職員室を出て、史桜に連絡をする。
【ふむ……、軽く調査した所感では、もう少し出現頻度は高そうだったが……。東雲君。念の為、旧音楽室へ】
指示に従い、旧音楽室を確認したが、ピアノの音はない。扉もやはり鍵が掛かっている。
【なるほど。では今日は旧音楽室を張っても収穫は薄い。今は正確な“幽霊ピアニスト”の出現条件を探る方が先決だ。残っている生徒は少ないだろうが、天野と共に校内の聞き込みを。加えて可能ならば、村西教諭、山野辺女子、古谷女子の事も、他愛の無い事で構わないから調査してみてくれ。そちらは吹奏楽部の上級生を中心に聞くのが望ましい】
指示を受け、絢葉と奏汰は校舎を回る。夕暮れの光が廊下を朱に染め、残っている生徒は少ない。
───
奏汰と合流し、小一時間ほどで得られた情報をまとめると──
“幽霊ピアニスト”が現れるのは、ほとんどが月曜か金曜。ごく稀に別の日にもあるが、極端に少ないようだ。そして、その出現は去年の秋頃から始まったらしい。
そのうえで、僅かに残っていた吹奏楽部員の口から出てきたのは──
「山野辺先輩?あの人、たまに変なんだよ。いや、スランプのことじゃなくて」
課題のプリントに頭を抱えていた二年の女子部員は、声を潜めて続けた。
「部の予定表、見たことあるでしょ? 月曜と金曜は練習休みなのに、たまに下校時間ギリギリまで校舎に残ってるんだよ。随分、周りを気にしてキョロキョロしながら。……でも、私が見た時は丁度帰る所だったみたいで、それまで何してたかは知らない」
練習がない日。幽霊が出るとされる日。偶然なのか──絢葉は背筋に冷たいものを覚えた。
───
「古谷?そうだなぁ……」
昇降口で帰り支度をしていた進路相談終わりの三年の男子部員は、思い出すように首をひねった。
「毎年ピアノコンクールに誰が出場するか、部内で演奏会をして、村西先生が決めるんだけど。古谷が一年の時と比べて、二年の時、随分と上達してたんだ。それでも山野辺には勝てなかったんだけど。吹奏楽もやりながら、一年であれだけ上手くなれるのかって噂になってたんだ。こっそり一人で練習してるのかもな」
「一人で……」
「うん。山野辺と比べられることも多いし、嫉妬とか対抗心とか──って思う人もいるみたいだね」
さっきまで思い浮かべていた優しい笑顔に、別の影が差し込んだ気がした。
───
「村西先生のこと?そういえば……」
帰り際に捕まえた、補習を終えたばかりの女子部員は声を落とした。
「一年のとき、部活中に一度だけピアノを弾いてくれたんだ。ほんの少しだけだけど、鳥肌が立つくらい上手かった。事故で弾けなくなったって話だけど、本当なのかなって。また弾きたい気持ちもあるんじゃないのかな」
「未練がある、と?」
「かもね。だから山野辺先輩に厳しいのかも……って、みんな言ってる」
───
先に帰ると去った奏汰と別れ、部室に戻ると、史桜は聞き込みの報告を黙って聞き、やがて口の端を上げた。
「幽霊が出るのは月曜と金曜。奇しくも吹奏楽部の休みの日。そこに“残っている”山野辺女子。独り練習の噂がある古谷女子。そして未だ音を響かせられるかもしれぬ村西教諭。──なるほど、実に面白い」
「やっぱり、“幽霊ピアニスト”は吹奏楽部の誰か……?」
「随分と可能性は上がったと思う。練習が休みの日にピアノを弾いている。月曜と金曜以外に稀に現れるのは、恐らく他の曜日に臨時で吹奏楽部が休みになったなどが理由だろう」
「ですが、今日旧音楽室へ現れなかったのは?」
「……君だ。恐らく部内の一年生から、君が我が部と関わっていると聞いたのだろう。それで警戒した」
確かに、クラスメイトには吹奏楽部員が居る。絢葉本人は話していないが、話好きで友達の多い文子や京香から聞いた可能性は十分にある。
史桜は足を組み、ゆったりと椅子にもたれ掛かる。
「だったら、もう現れない可能性も……?」
「さて、どうだろうね。続きは次の月曜日だ」
史桜の低い声が、夕闇に溶けるように響いた。
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる