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Case.04【虚ろな影】
day3.2─消失─
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夜の帳がゆっくりと校舎を包み込む頃、静英高校からは、部活動に勤しむ生徒たちの活気のある声や物音がようやく途絶えた。
空には雲が流れ、月明かりさえも頼りない。三階の廊下の窓辺に立つ絢葉は、校庭を見つめながら小さく息を吐いた。
「……やっぱり、夜は暗いですね」
窓際に双眼鏡を構えていた奏汰が小声で答える。
「校庭の照明も古いままだしな。グラウンドの端なんて、もうほとんど真っ暗だ。双眼鏡なんて意味なかったな」
廊下には彼ら二人の足音と、時折風に軋む窓枠の音しかない。
どこか遠くで誰かの笑い声がかすかに聞こえた気がしたが、それがまだ残っている生徒なのか、あるいは風の悪戯なのか分からなかった。
二人は言葉少なに、ただじっと校庭を見下ろしていた。
やがて、時間だけが過ぎていく。
──何も起こらない。
そんな空気が流れた、その時だった。
不意に、校内のスピーカーからざらついた音が漏れた。
次の瞬間、明るいブラスのメロディが夜の校舎に響き渡る。
──体育祭のBGM。昨日、放送室から流れたのと同じ曲だ。
「っ……!」
絢葉はビクリと肩を震わせた。
「また……!」
廊下に反響する軽快な音楽。
しかし校庭には、異変らしいものは見当たらない。
絢葉はイヤホンに手を当て、少し焦った声で言った。
「校庭には異常無いですし、やっぱり放送室に──」
『──待ちたまえ』
穏やかだが、鋭い史桜の声がイヤホン越しに響いた。
『すぐに動くな。よく校庭を観察するんだ』
「え……?」
絢葉は再び窓の外を見た。
その瞬間──視界の端に、微かに動く影が映る。
グラウンドの端、フェンスの近く。
何かが、ゆっくりと動いているように見えた。
「……誰か、います!」
絢葉が声を潜めて告げる。
同時に、その影の傍らで、小さな光がふっと瞬いた。
懐中電灯のような、けれどそれよりも弱々しい光。
「行ってみよう」
奏汰がすでに廊下を駆け出していた。
絢葉も慌ててその後を追う。
階段を降り、玄関を抜けて外へ出る。
夜の空気が頬を刺すように冷たい。
二人は息を切らしながら校庭へ向かい、影のあった場所まで走った。
──だが。
「……いない?」
奏汰が辺りを見回す。
風がグラウンドの砂をさらい、遠くで金網が揺れる音だけが響く。
人の気配はどこにもなかった。
絢葉はスマホを取り出し、史桜へ報告を入れる。
「……校庭にいた人影はもう見えません。近くで小さな光も見たんですが、それも……」
『ふむ。動く人影に、小さな光か。……しかし、あまりに情報が少ないな』
史桜の声はいつも通り冷静だったが、どこか思考の底に引っかかるものを探っているようにも聞こえた。
その時だった。
遠くから、足音と共に荒い息づかいが近づいてくる。
暗がりの中から、やや小太りの中年男性が駆けてきた。
「はぁ……! やっと見つけた……!」
額の汗を拭いながら、小太りの男性──教師の結城先生が声をかける。
「東雲さん、放送室はまた無人だったそうだよ。こっちはどうだい? また人影が?」
「は、はい。けど、私たちが来た時にはもう……」
「またか……」
結城は苦い表情で首を振り、しばらく空を見上げてから、手元のスマホに目を落とし、
「仕方ないね。今日ももう遅いし、ここまでにしようか」と言った。
「はい……」
絢葉は少し肩を落とし、奏汰と共に校庭を後にする。
その背後で、スピーカーから流れていたBGMがふっと止まった。
夜の校舎に、静寂だけが戻る。
────
その頃。
優雅部の部室では、史桜がひとり机に肘をつき、考え込んでいた。
ティーカップの中で、紅茶の表面がかすかに揺れている。
静まり返った部室に、時計の秒針が刻む音が響く。
「……さて、どこから進めたものか」
独りごちるように呟くと、史桜は窓の外へと視線を向けた。
夜風がカーテンを揺らし、微かに電灯の光を反射させる。
「──さて、“何”が彼らを見つめているのか」
その声は誰にも届かぬまま、紅茶の香りと共に夜に溶けていった。
空には雲が流れ、月明かりさえも頼りない。三階の廊下の窓辺に立つ絢葉は、校庭を見つめながら小さく息を吐いた。
「……やっぱり、夜は暗いですね」
窓際に双眼鏡を構えていた奏汰が小声で答える。
「校庭の照明も古いままだしな。グラウンドの端なんて、もうほとんど真っ暗だ。双眼鏡なんて意味なかったな」
廊下には彼ら二人の足音と、時折風に軋む窓枠の音しかない。
どこか遠くで誰かの笑い声がかすかに聞こえた気がしたが、それがまだ残っている生徒なのか、あるいは風の悪戯なのか分からなかった。
二人は言葉少なに、ただじっと校庭を見下ろしていた。
やがて、時間だけが過ぎていく。
──何も起こらない。
そんな空気が流れた、その時だった。
不意に、校内のスピーカーからざらついた音が漏れた。
次の瞬間、明るいブラスのメロディが夜の校舎に響き渡る。
──体育祭のBGM。昨日、放送室から流れたのと同じ曲だ。
「っ……!」
絢葉はビクリと肩を震わせた。
「また……!」
廊下に反響する軽快な音楽。
しかし校庭には、異変らしいものは見当たらない。
絢葉はイヤホンに手を当て、少し焦った声で言った。
「校庭には異常無いですし、やっぱり放送室に──」
『──待ちたまえ』
穏やかだが、鋭い史桜の声がイヤホン越しに響いた。
『すぐに動くな。よく校庭を観察するんだ』
「え……?」
絢葉は再び窓の外を見た。
その瞬間──視界の端に、微かに動く影が映る。
グラウンドの端、フェンスの近く。
何かが、ゆっくりと動いているように見えた。
「……誰か、います!」
絢葉が声を潜めて告げる。
同時に、その影の傍らで、小さな光がふっと瞬いた。
懐中電灯のような、けれどそれよりも弱々しい光。
「行ってみよう」
奏汰がすでに廊下を駆け出していた。
絢葉も慌ててその後を追う。
階段を降り、玄関を抜けて外へ出る。
夜の空気が頬を刺すように冷たい。
二人は息を切らしながら校庭へ向かい、影のあった場所まで走った。
──だが。
「……いない?」
奏汰が辺りを見回す。
風がグラウンドの砂をさらい、遠くで金網が揺れる音だけが響く。
人の気配はどこにもなかった。
絢葉はスマホを取り出し、史桜へ報告を入れる。
「……校庭にいた人影はもう見えません。近くで小さな光も見たんですが、それも……」
『ふむ。動く人影に、小さな光か。……しかし、あまりに情報が少ないな』
史桜の声はいつも通り冷静だったが、どこか思考の底に引っかかるものを探っているようにも聞こえた。
その時だった。
遠くから、足音と共に荒い息づかいが近づいてくる。
暗がりの中から、やや小太りの中年男性が駆けてきた。
「はぁ……! やっと見つけた……!」
額の汗を拭いながら、小太りの男性──教師の結城先生が声をかける。
「東雲さん、放送室はまた無人だったそうだよ。こっちはどうだい? また人影が?」
「は、はい。けど、私たちが来た時にはもう……」
「またか……」
結城は苦い表情で首を振り、しばらく空を見上げてから、手元のスマホに目を落とし、
「仕方ないね。今日ももう遅いし、ここまでにしようか」と言った。
「はい……」
絢葉は少し肩を落とし、奏汰と共に校庭を後にする。
その背後で、スピーカーから流れていたBGMがふっと止まった。
夜の校舎に、静寂だけが戻る。
────
その頃。
優雅部の部室では、史桜がひとり机に肘をつき、考え込んでいた。
ティーカップの中で、紅茶の表面がかすかに揺れている。
静まり返った部室に、時計の秒針が刻む音が響く。
「……さて、どこから進めたものか」
独りごちるように呟くと、史桜は窓の外へと視線を向けた。
夜風がカーテンを揺らし、微かに電灯の光を反射させる。
「──さて、“何”が彼らを見つめているのか」
その声は誰にも届かぬまま、紅茶の香りと共に夜に溶けていった。
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