呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

文字の大きさ
37 / 43
Case.04【虚ろな影】

day6.1─慧眼─

しおりを挟む
 翌週、月曜日の放課後。
 窓の外に夕陽が傾き、部室の中を赤く染めていた。
 机の上には、史桜が用意した資料や、ノートPC。
 絢葉は史桜の正面に腰を下ろし、軽く深呼吸をした。

「……それじゃ、ここまでの整理をしようか」
 史桜が静かに言った。

「まず最初に起きたのは、無人の放送室から音楽が流れた件。曲は体育祭で使用される予定のBGM。放送室に人が入ると、音は止む。次に確認されたのは、放送機器のデスク下に取り付けられた謎の装置と配線。そして──音楽と同時に出現し、やがて消える“動く人影”と“光”」

 彼は手元のメモを一瞥し、視線を上げる。
「さらに先週、校庭端の倉庫に人の出入りの形跡。フェンスには外に通じる穴。これらを統合すれば──“怪異”は独立した現象ではなく、互いに関連している。そして……おそらく、人為的な仕掛けだと考えるのが妥当だね」

 絢葉は無意識に息を呑んだ。
「じゃあ……誰が、何のために……?」

「そこだ」
 史桜は軽く頷き、瞳が一瞬だけ夕日の光を帯びた。
「そこが、今のところまったく見えていない点だ。今週には体育祭。出来ればそれまでに、すべてを明らかにしたい」

 そう言うと、史桜はノートPCの画面をこちらに向けた。
 そこには二つの動画が並んでいる。
 一つは、絢葉が先週撮影した校庭の映像。
 もう一つは、それより前──怪異騒ぎが起き始めた頃に教員が撮ったという動画。どちらも暗がりの校庭に、例の動く“影”と“光”が映っていた。

「この二つを見比べてみてほしい」
 史桜は言う。
「そして、君が“初めて”その人影を目にした時の光景を思い出して。違和感は、ないかい?」

 絢葉はしばし黙り、動画を何度も再生した。
 目を凝らす。
 確かにどちらの映像にも、人影のそばに小さな光が見える。
 だが──

「……あ」
 思わず声が漏れた。
「この光、先生の撮った動画では、人影から少し離れた位置にあります。私が初めて“動く人影”を見た時も同じでした。でも、私が撮ったものは……暗くてよく見えないですけど、人影の胸元? のあたりに……」

「その通りだ」
 史桜の口元が僅かに持ち上がる。
「素晴らしい。観察眼が磨かれてきたね。私はこの“光の位置の違い”こそ、今回の核心に繋がる手がかりの一つだと思っている」

 彼はパソコンを閉じ、椅子の背にもたれた。
「それを踏まえて──今日は、職員室へ行ってほしい。村西教諭に話を聞いてくるんだ」

「村西先生に……ですか?」

「ああ。私の見たてでは、ここまで今回の件に関わっている人物の中で、現状彼女が最も容疑者から遠い。だからこそ、話を聞く価値がある」

 史桜は書類をまとめ、穏やかな笑みを見せる。

「頼んだよ、東雲君」

 絢葉は頷き、静かに立ち上がる。
 部室を出ると、校内のあちこちから、部活動や体育祭の準備に励む生徒たちの声が響く。その賑やかさの中に、彼女だけがひとり、静かな目的を胸に歩き出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

配信の果て

ほわとじゅら
ミステリー
大人気配信グループ、パンファミのリーダー・スノーの中の人と出会った御堂紗由(みどうさゆ)は、結婚に至るも我慢できないことがあり別れてしまう。配信者とは二度と恋仲にならないことを胸に秘めるも離婚後、困窮した生活から抜け出すため、一時的に配信業界で働くことを決める。 一方、夕暮れの個人配信で宇多野泰人(うたのやすと)は、数年前に大ヒットした「やさいゲーム」の開発者であることをリスナーたちに告白する。昨今、配信界隈で起きた脅迫・器物損壊事件は「やさいゲーム」の実況配信を行った配信者をターゲットとした嫌からせで起きた事件であったため、泰人は配信上で注意喚起を行った。 さらに泰人の相棒・二川幸見(にがわゆきみ)は、配信界隈の嫌からせ事件の裏には、パンファミが所属する事務所ナインズの暗躍を確信する。以前ナインズによる執拗なコラボ勧誘を何度も拒んだことで、事務所側が事件を裏で糸を引いて仕組んでいた可能性が濃厚となった。 真相を暴くため、宇多野と二川は探偵まで雇い、事件の鍵を握るパンファミのリーダーの元妻・紗由に接触を試みようとする。 配信界隈・業界をベースに描くミステリー長編。 ★は、リアルな配信アーカイブのエピソードです。一部、英語配信有り。 ※本作は、紗由と二川の2視点構成。「あらすじ」「タグ」「登場人物」は連載過程で適宜変化します。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。またAI生成による文章作成・構成相談も含め一切行っておりません。本作品は筆者がゼロから執筆しておりますオリジナル作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ノストラダムスの大予言とひふみ神示

蔵屋
ミステリー
 私が高校三年生の時、ある書籍を読んだことがある。  その書籍とは『ノストラダムスの大予言』である。  1973年に祥伝社から発行された五島勉氏の著書。  「ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月人類滅亡の日」  今回、このノストラダムスの大予言について考えて見たい。  そして聖典とも言える『ひふみ神示』について分かりやすく解説していきたい。  この小説が読者の皆様の何かのお役にたてれば幸いです。  令和八年二月吉日  小説家 蔵屋日唱

同級生

真田直樹
青春
主人公:新田里奈(にった・りな) 彼氏:藤川優斗(ふじかわ・ゆうと)

処理中です...