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Case.04【虚ろな影】
day5─秘密の部屋─
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翌朝。
登校し、廊下を歩いていた絢葉は、職員室前で足を止めた。
少し先の廊下の曲がり角で、村西、飯沼、そして結城の教師三人が立ち話をしているのが見えたからだ。
言葉の端々が聞こえてくる。「放送室」「警察」「安全」そんな言葉が断片的に。
絢葉は一度深呼吸してから歩み寄り、軽く会釈した。
「おはようございます」
結城が振り返り、柔らかな笑みを浮かべた。
「おはよう、東雲さん。昨日もやっぱり“怪異”は現れたみたいだね。今、ちょうど村西先生からその話を聞いていたところなんだ」
「……はい。昨夜も放送が流れました」
飯沼が眉をひそめながら言葉を継ぐ。
「ここまで続くとなると、流石にそろそろ警察に相談することも考えているんだ。もしそうなったら、君たちにこれ以上負担をかけずに済む。来週には体育祭も控えているしね」
村西も頷きながら口を開いた。
「また呉宮の話も聞きに行くつもりだが、飯沼先生の言う通り、生徒に危険が及ぶ可能性があるという意見は多いんだ。……疲れもあるだろうし、今日は下校時刻後の調査は控えてはどうだ? 強制はしないが」
絢葉は少し戸惑いながらも、素直に頭を下げた。
「は、はい……呉宮先輩と相談してみます」
教師たちは軽く頷き合い、話題を変えるように去っていった。
────
放課後、部室。
机の上には、ここまでの調査で得られた資料が広げられている。
史桜が紅茶を口にしながら、いつもの穏やかな声で言った。
「うむ、昼休みに村西教諭が来てね。同じ話を聞いたよ。東雲君もよく頑張ってくれている。今日は早めに調査を切り上げて、下校時刻前には帰宅しよう」
「はい、分かりました」
史桜は少し苦笑し、スマホを軽く掲げた。
「実は奏汰も今日は都合が悪いようでね。さっき『今日は予定があるから帰る』とメッセージがあったところだ」
「そうですか……」
小さく頷く絢葉に、史桜は穏やかに告げた。
「では今日は、校庭の調査を頼む。人目も多いし、危険も少ないだろう」
────
そして、絢葉は校庭へ。
サッカー部や陸上部の掛け声が響き、まだ日も高い。
グラウンドの外周を歩く絢葉は、通話越しに史桜の指示を受けながら調査を進めていた。
『校庭の外周には茂みや樹木があるだろう? その辺りを重点的に見てくれ』
「分かりました」
フェンス沿いの茂みの間を抜けると、ふと、古びた木造の小屋が目に入った。
校舎の影から少し離れた場所に、ひっそりと佇むそれは、長い間放置されていたように見える。
近くで練習していたサッカー部の顧問に声をかけてみる。
「あぁ、それは昔サッカー部の道具倉庫だったんだよ。今は新しい倉庫があるから使ってなくてね。その後しばらくは用務員さんが資材を保管してたみたいだけど、今はもう長いこと誰も使ってないはずだよ」
「ありがとうございます」
絢葉は礼を述べ、小屋の前へ戻る。
扉は古びており、錆びついた南京錠がぶら下がっていたが、鍵はかかっていなかった。
きぃ、と音を立てて扉を開く。
中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っている──はずだった。
けれど、違和感がすぐに絢葉の鼻を掠めた。
埃の匂いが、ほとんどしない。
棚の上には、真新しいドライバーやはんだごて等の工具類、机の上にはスタンドライト。
それらが整然と並ぶ様は、とても“もう長いこと誰も使っていない”とは思えない。
──最近、誰かがここを使った。
絢葉はスマホで撮影し、史桜に送信する。
『確かに。明らかに誰かがここを使用しているね……倉庫の外には何がある?』
「フェンスと……その外は住宅地の路地裏です。あと、廃材みたいな木の板がフェンス沿いに立てかけてあって──」
ふと、絢葉の手が一枚の板に触れた。
ずらすと、そこにはフェンスの網目が大きく破れている。
人ひとり、なんとか通れるくらいの穴。
絢葉は息を呑み、通話口に声を落とした。
「……フェンスに、穴が空いてます。外の路地に、抜けられそうな」
史桜の声が、わずかに笑みを含んで返ってきた。
『あぁ、なるほどね。これは随分と線が繋がってきたじゃないか。問題は“誰が”“なんのために”したか、だが……よろしい。今日はここまでにしよう。明日は土曜。連休だし、早く帰ってゆっくり休みたまえ』
通話が切れた後、夕陽の赤がフェンスを越えて小屋の壁を染めていた。
絢葉はふと振り返る。
グラウンドの喧騒の向こう、校舎の窓のどこかに──
誰かが、自分を見ているような気がした。
登校し、廊下を歩いていた絢葉は、職員室前で足を止めた。
少し先の廊下の曲がり角で、村西、飯沼、そして結城の教師三人が立ち話をしているのが見えたからだ。
言葉の端々が聞こえてくる。「放送室」「警察」「安全」そんな言葉が断片的に。
絢葉は一度深呼吸してから歩み寄り、軽く会釈した。
「おはようございます」
結城が振り返り、柔らかな笑みを浮かべた。
「おはよう、東雲さん。昨日もやっぱり“怪異”は現れたみたいだね。今、ちょうど村西先生からその話を聞いていたところなんだ」
「……はい。昨夜も放送が流れました」
飯沼が眉をひそめながら言葉を継ぐ。
「ここまで続くとなると、流石にそろそろ警察に相談することも考えているんだ。もしそうなったら、君たちにこれ以上負担をかけずに済む。来週には体育祭も控えているしね」
村西も頷きながら口を開いた。
「また呉宮の話も聞きに行くつもりだが、飯沼先生の言う通り、生徒に危険が及ぶ可能性があるという意見は多いんだ。……疲れもあるだろうし、今日は下校時刻後の調査は控えてはどうだ? 強制はしないが」
絢葉は少し戸惑いながらも、素直に頭を下げた。
「は、はい……呉宮先輩と相談してみます」
教師たちは軽く頷き合い、話題を変えるように去っていった。
────
放課後、部室。
机の上には、ここまでの調査で得られた資料が広げられている。
史桜が紅茶を口にしながら、いつもの穏やかな声で言った。
「うむ、昼休みに村西教諭が来てね。同じ話を聞いたよ。東雲君もよく頑張ってくれている。今日は早めに調査を切り上げて、下校時刻前には帰宅しよう」
「はい、分かりました」
史桜は少し苦笑し、スマホを軽く掲げた。
「実は奏汰も今日は都合が悪いようでね。さっき『今日は予定があるから帰る』とメッセージがあったところだ」
「そうですか……」
小さく頷く絢葉に、史桜は穏やかに告げた。
「では今日は、校庭の調査を頼む。人目も多いし、危険も少ないだろう」
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そして、絢葉は校庭へ。
サッカー部や陸上部の掛け声が響き、まだ日も高い。
グラウンドの外周を歩く絢葉は、通話越しに史桜の指示を受けながら調査を進めていた。
『校庭の外周には茂みや樹木があるだろう? その辺りを重点的に見てくれ』
「分かりました」
フェンス沿いの茂みの間を抜けると、ふと、古びた木造の小屋が目に入った。
校舎の影から少し離れた場所に、ひっそりと佇むそれは、長い間放置されていたように見える。
近くで練習していたサッカー部の顧問に声をかけてみる。
「あぁ、それは昔サッカー部の道具倉庫だったんだよ。今は新しい倉庫があるから使ってなくてね。その後しばらくは用務員さんが資材を保管してたみたいだけど、今はもう長いこと誰も使ってないはずだよ」
「ありがとうございます」
絢葉は礼を述べ、小屋の前へ戻る。
扉は古びており、錆びついた南京錠がぶら下がっていたが、鍵はかかっていなかった。
きぃ、と音を立てて扉を開く。
中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っている──はずだった。
けれど、違和感がすぐに絢葉の鼻を掠めた。
埃の匂いが、ほとんどしない。
棚の上には、真新しいドライバーやはんだごて等の工具類、机の上にはスタンドライト。
それらが整然と並ぶ様は、とても“もう長いこと誰も使っていない”とは思えない。
──最近、誰かがここを使った。
絢葉はスマホで撮影し、史桜に送信する。
『確かに。明らかに誰かがここを使用しているね……倉庫の外には何がある?』
「フェンスと……その外は住宅地の路地裏です。あと、廃材みたいな木の板がフェンス沿いに立てかけてあって──」
ふと、絢葉の手が一枚の板に触れた。
ずらすと、そこにはフェンスの網目が大きく破れている。
人ひとり、なんとか通れるくらいの穴。
絢葉は息を呑み、通話口に声を落とした。
「……フェンスに、穴が空いてます。外の路地に、抜けられそうな」
史桜の声が、わずかに笑みを含んで返ってきた。
『あぁ、なるほどね。これは随分と線が繋がってきたじゃないか。問題は“誰が”“なんのために”したか、だが……よろしい。今日はここまでにしよう。明日は土曜。連休だし、早く帰ってゆっくり休みたまえ』
通話が切れた後、夕陽の赤がフェンスを越えて小屋の壁を染めていた。
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グラウンドの喧騒の向こう、校舎の窓のどこかに──
誰かが、自分を見ているような気がした。
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