呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

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Case.04【虚ろな影】

day7.2─怒り─

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 軽傷ながら怪我をしていた眞鍋の手当をするために、三人は保健室を訪れていた。
 保健室の前には「外出中」の札が出ていた。絢葉が眞鍋の手当を引き受けることになり、二人は静まり返った保健室へ足を踏み入れる。
 奏汰は周囲を見張るようで、廊下に残った。

 眞鍋はベッドに腰を下ろし、絢葉は救急箱を開きながらそっと膝をついた。その距離に、眞鍋はどこか落ち着かない様子で視線を泳がせていた。

「痛くありませんか?」

「えっ!? あ、う、うん……大丈夫」

 眞鍋は慌てて顔を背ける。その様子に絢葉は気付かず、淡々と丁寧に処置を進めていく。
 包帯を留め終え、絢葉はそっと眞鍋の正面に回った。

「ごめんなさい、質問に答えてませんでしたね。私たちは優雅部の者です」

 その言葉に、眞鍋の表情がわずかに強張る。

「優雅部……?」

「はい。その……さっきの“笠松翔”さんについて、お聞きしたくて」

「……笠松くんのこと?」

 そのとき、絢葉のスマホからスピーカーモードの声が響いた。

『そうとも! 本来なら本人へ突撃するつもりだったのだが、あの様子で君を放ってはおけなかった。話しづらいこともあるだろうが、話を聞かせて欲しい』

 眞鍋は驚いたように画面を見つめる。

「えっと……君は、呉宮くんだよね?」

『いかにも! 優雅部の名声も、いよいよ学内に轟きはじめたようだ』

 絢葉は心の中で(呉宮先輩に限っては、前から校内に知れ渡ってると思うけど……)とため息をついた。

 史桜はひと呼吸置き、本題へ踏み込む。

『単刀直入に聞こう。君は──以前から笠松男子にいじめられているね?』

 眞鍋は肩を震わせ、視線を落とす。沈黙が流れ、やがて小さく語り出した。

「……うん。いじめが始まったのは、二年前の体育祭のあと。僕と笠松くん、一年の頃からずっと同じクラスでさ。あの時、笠松くんはサッカー部のホープだったんだ。体育祭もすごく張り切ってて……クラスは最終種目まで一位で……」

 眞鍋は苦い記憶を噛みしめるように続けた。

「でも、最後のリレーのアンカーが僕で……ゴール直前で転んじゃった。それでクラスは優勝を逃した。笠松くん、すごく怒って……クラスのみんなの前で、僕、殴られたんだ。それで笠松くんは停学になって、部活も辞めたって……。それがきっかけで性格も荒れちゃって、停学明けから、ずっと、隠れて僕を……」

 絢葉は拳を握りしめた。

「そんな……そんなことで……!」

 眞鍋は自嘲気味に笑う。

「だよね。でも……あの時、笠松くんは本気だった。それを台無しにしたのは僕だから……」

 史桜が落ち着いた声で問う。

『いじめの件、先生には?』

「言ってない。……恥ずかしいし、情けない。君たちも……告げ口は、しないで欲しいんだけど」

 絢葉が口を開きかけたが、史桜の声がそれを制した。

『それによっていじめがより陰湿になる可能性もある。何の策もなく動くのは賢明ではないな』

「呉宮先輩……!」

『落ち着きたまえ、東雲くん。優雅部の矜恃は?』

 絢葉は胸の内で言葉をなぞり、静かに答えた。

「……『人の威厳を守りつつ、真実に到達する』」

『よろしい。現状では、我々では眞鍋男子の威厳を守ってやれない。ならば、然るべきタイミングで助力できるよう、備えるのみだ』

 眞鍋が不安げに尋ねる。

「えっと……聞きたいことって、これだけ?」

『主には、ね。だが他にもある。最近の怪異騒ぎについてはご存知かな?』

 眞鍋は思い出したように頷いた。

「夜に校内放送が鳴ったり、校庭に人影が出たりってやつ? みんな噂してるよ」

『教師の中には、犯人が笠松男子ではないかと疑う者もいる』

「え、そうなの?……まぁ確かに。夜は警備員さんがいて普通は入れないけど……笠松くん達、何度か忍び込んで悪戯してたし。今回も……もしかしたら」

『なるほど。村西教諭から聞いた話と一致する。ありがとう。……笠松男子らがまだ校内に残っているかもしれない。気をつけて帰りたまえ』

 眞鍋は小さく頷き、保健室を後にした。


────


 戸を閉める音が響いたあと、絢葉はスマホを握りしめたまま深く息をつく。


 そして、帰宅するという奏汰と別れ、彼女はひとり校舎を歩いて優雅部部室へ向かった。
 薄暗い夕暮れの部室には、椅子に腰かけた史桜が待っていた。

 絢葉は扉を閉めながら言った。

「本当に……あれでよかったんでしょうか。眞鍋先輩のこと」

 史桜は机に肘をつき、指を組む。

「安心したまえ。恐らく──“そちらも”解決の見込みはある」

「そちら“も”……って、まさか……」

 絢葉はハッと息を呑む。
 史桜は静かに微笑み、静かに宣言した。

「明日、動こう。真実を確かめに」
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