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9話 ランセルの思い
しおりを挟む「レイラ、好きだ……ずっとずっと君が好きだった」
「ーーえ?」
突然の告白に私はランセルの強く真剣な瞳を見つめて目を見開いた。
一瞬聞き間違いかと思った。
でも、ランセルのその綺麗な黄緑色の瞳が私をーー私だけを見つめていて、思いが一直線に伝わってくる。
ランセルの言う好きが、家族や友達に向ける好きでは無いことくらい私にも分かる。
だからいつもの様に『私も……』と返すことは出来なかった。
だって、私のランセルに対する気持ちは恋愛の好きではないから。
「……ランセル、あのーーっっ!」
私はランセル向かって口を開く。
私の好きな人は、今も昔もずっとグランだから……。
その気持ちをランセルに伝えようとした瞬間、私の口はランセルの手によって塞がれてしまう。
その行動に驚き自身の赤い瞳を丸くした私だったが、目の前のランセルの表情を見たらそれ以上の言葉を出す事が出来なかった。
「レイラの気持ちは分かってる。でも頼むから直ぐに答えを出さないで欲しいんだ……」
真剣な表情は変わらず、でも何処か悲しそうで辛そうで……苦しそうな声音でランセルは静かに呟いた。
「僕はレイラが幸せでいてくれたらそれで良いって思ってる。でも君の好きなジークスさんは君を幸せにしてくれない。だってずっと一緒だった君にも、重要な婚約の話をしてないんだろ?それにきっと結婚したらジークスさんはレイラを一緒に連れて行ってはくれないよ……君は確実に見捨てられる。君は独りぼっちになるんだ。また孤独になる。だから…だからお願い、僕と一緒になろう?僕は…僕は!レイラを絶対に見捨てたりしないからーー」
私の口元に当てていたランセルの両手は、そのまま私の後頭部へと周り、ギュッと引き寄せられる。
ランセルの胸からドクドクと早く脈打つ音が聞こえる。
『結婚したらジークスさんはレイラを一緒に連れて行ってはくれないよ』
『君は確実に見捨てられる』
『君は独りぼっちになるんだ』
『また孤独になる』
その言葉は、私を限界まで追い込んで、納得させた。
結婚したら、私は本当に邪魔な存在になる。
きっと、ランセルの言う通り私を連れて行く事は無いだろう……。
「……グラン」
私の口から、力なく掠れた声が漏れる。
普通なら聞こえない程度の声、でも犬獣人で耳のいいランセルには容易に聞こえてしまう距離だ。
「僕は、魔女であるレイラのその赤い瞳も、孤児だって事も気にしないよ。僕といたらレイラは絶対幸せになれるさ。返事はレイラの気持ちの整理が着いた時で良いから……僕は信じて待ってるから……だから…ね?」
ランセルがそう言って私の頭や背中を何度も何度も撫でた。
……いつも優しいランセル。
でも、ランセルの言葉と手は……私の身体を強ばらせただけだった。
お世話になっているノアの家のドアを開けると、それと同時にガバッと抱きつかれる。
冷えて固まった身体に体温を感じ少しだけ力が抜ける。
「レイラ!!どこ行ってたのよ!心配したんだからぁ!!」
綺麗な瞳には涙が溜まっていて、私の両頬に手を添えて心配するノアはそう言うともう一度私を強く抱き締めた。
「ご、ごめんね心配掛けて……」
「あ!レイラ姉ちゃん帰ってきた!!」
「レイラ、姉ちゃん……」
私は眉を下げ、ノアの背中を撫でた。
とてとてと可愛い足取りでノアの双子の弟も玄関先まで来ると、私とノアにギュッと抱きつく。
その姿が微笑ましくて、可愛くて、私はふっと笑みを浮かべたのだった。
それからノアの家族と私はテーブルを囲んで夕食をとり、お風呂で身体を温めた後、ノアの部屋に置かれた私用の布団に座り込んだ。
数分後に来たノアは両手にマグカップを持っていて、その1つを私へと差し出した。
「ありがとう、ノア」
「ん」
マグカップの中は蜂蜜の混ぜられた温たかいお茶で、1口飲むとその甘さが口に広がって、コクリと飲み込むと身体がホカホカと温かくなる。
「レイラ、その……大丈夫?」
金髪の髪を耳に掛ける姿は絵になる程綺麗で、そんなノアに見とれつつ私は力なく頷く。
「私、グランの事なんにも知らないんだなって」
「レイラ……」
ノアはマグカップをサイドテーブルへと置くと、私の隣に腰を下ろし私の背中を優しく撫でる。
「ランセルにね、好きだって言われたの……」
ランセルの気持ちを他人に話してしまうのは良くないことだと……思う。
でも今の私はどうしても1人で抱えることが出来なかった。
掌を強く握りそう言うと、ノアは全く驚く様子もなく静かに頷いた。
「ノア驚かないの?」
私が首を傾げると、ノアは「はぁぁー」と深くため息を吐く。
「驚くも何も、街でランセルの気持ちに気付いていなかったのは当の本人であるアンタだけよ」
「え!?」
私は目を見開き声を上げる。
そんな私にノアは自身の唇に指を当て「しぃー!」と声を抑えるよう注意をする。
「あんだけ分かりやすいんだもん、みんな知ってるわよ。レイラの大好きなジークス様だってきっと気付いてる」
ノアは静かにそう言うと、お茶を飲む。
ランセルの事はずっと友達で、それ以上に見たことがなかったから気付かなかったけど……グランは獣人だし、職業柄勘だって鋭い。
ノアや街の人達が気付くんだもん、きっとグランだって気付いていただろう。
そう思うと、自分の鈍感さが恥ずかしくなって私はほんのり頬を赤らめた。
「……グラン、何してるかな。こ、婚約者さんといるのかな……」
弱々しい声でポツリと呟く。
言葉にすると更に胸が苦しくなって眉を顰めた。
「どうだろうね。レイラはさ……あの言葉を信じてるの?」
「あの言葉?」
私は昼に聞いた冒険者さんの言葉を思い返す。
『近くにいた店の主人に聞いたんだけどよ、なんでもあの2人婚約してるみてぇだせ!』
綺麗な貴族のお姫様と婚約している。
その噂は街の民にまで広がる程だ。
「信じたく、ない……でも、グランは貴族の家系だから、いつかは結婚しなきゃいけないし……あんなに優しくてかっこいいんだもん、きっとモテるだろうし……」
グランのお母様だって、そろそろ結婚しろと言っていた。もしかしたらそのお母様が取り繋いだ婚約話かも知れない。
赤い瞳で……魔女の瞳で孤児で平民の私よりも、貴族の可愛らしくて綺麗な淑女の方がいいに決まってる。
『俺はお前みたいな騒がしい自称大人より、物静かで美人な淑女が好みなんだ』
いつの日か、グランがそう言っていた。
考えれば考える程、私はグランに釣り合っていなくて……焦りと不安と、醜い嫉妬と、いくつもの負の感情が渦巻いていく。
「はぁ……」
私が溜息を漏らすと、そんな暗い空気を一掃する様にノアが明るい声で私へと口を開いた。
「もーおっ!暗い暗い!!まだ決まった訳じゃないんだしさっ、分からないじゃん?レイラだって手紙出してないんでしょ?」
「う、うん」
今日送ろうと思った手紙は、婚約話の事を聞こうと思ったのだが、勇気が出なくて書くのを辞めたのだ。
「ジークス様は何も言わずに自分勝手に決める人じゃないってレイラが1番分かってるんじゃないの?アタシは小さい時からずっとアンタとジークスさんを見てきたけど、ジークスさんはレイラの事本当に大切に、何よりも大事に思ってるわ」
確信のある表情で見つめるノアは、私の頭を優しく撫でる。
「レイラがちょっと出掛ける時でさえも心配して付いてきて、レイラが熱出した時は団長のクセして大事な仕事だって休むのよ?レイラの事大好きなランセルと2人で出掛けるのだって1つも許さなかったし、何よりもジークスさんはレイラを見る時だけ……瞳が凄く優しかった」
「瞳?」
ノアが私目元を親指でなぞり、笑顔で頷く。
「アタシ、そう言う勘だけは鋭いんだから!間違いないわ!ーーー果たしてレイラ以上にあの方の心を動かせる人なんているのかしら?」
最後の言葉は何処かノアの独り言のように聞こえた。
「とにかく!噂なんてあてにしないで、自分の目で見てきたらどう?」
「え?見てきたらってーー」
驚く私に、ノアは楽しそうな表情を浮かべて顔を近づける。
「そりゃアンタ!ジークスさんの居る王都に行くの!」
「え!?で、でも……グランが1人で遠くに行くなってーーー」
「ーーーだったらレイラはずっとここで、いつ帰るかも分からないジークスさんをモヤモヤした気持ちのまま待ってるって言うの?」
私の言葉に被せて勢いよく言うノア。
ーー確かに、ノアの言う通りだ。
手紙も、グラン自身も帰って来ないまま、婚約の話にモヤモヤしていつまでも振り回されるのは耐えられそうにない。
私はもう一度強く掌を握りしめ、決意した面持ちでノアを見つめ返した。
「ありがとう、ノア。私行ってくるね」
私が強くそう言うと、ノアは綺麗な顔を嬉しそうにして笑った。
「ええ、その意気よ!仕事は代わってあげるから、王都の美味しいお菓子買ってきてよね!」
「うん!約束!」
心強い大好きな友達に背中を押され、私は感謝の気持ちと強い決意を胸に、満面の笑みで笑い返したのだった。
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