【本編完結/R18】獣騎士様!私を食べてくださいっ!

天羽

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8話 不安な気持ち

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「急ですみません、暫くコイツをよろしくお願いします」


「全然いいのよ~、レイラちゃんよろしくね!」


「ユリアさんすみません、お世話になります」




朝ーーー。

私は自身の荷物を持ちグランと共にノアの家へと向かった。

街の住宅街へ入ってすぐの所にノアの家はあり、ノックするとノアとノアのお母さんであるユリアさんが笑顔で出迎えてくれたのだ。



「騎士様も大変ね~、レイラちゃんの事は心配しないでお仕事頑張ってちょうだいね」


「ありがとうございます。それでは、俺はこのまま行くので失礼します」


「あっ、まってグランお見送りするから!」


私は速やかに去ろうとするグランに慌てて声を掛けついて行った。


「見送りなんて良いから早く家ん中入れ。寒いだろ」

「寒くない!……ねぇグラン、早く帰ってきてね…あと手紙書くから……沢山書くから……だから……怪我だけはしないで、私の所に帰ってきてよ…絶対……」


あれからも不安な気持ちは拭えなくて、そんな気持ちからか涙が出そうになる。
でも泣かない……泣いたらグランにも不安を与えてしまいそうだったから。


「あぁ、仕事が片付いたらお前の元へ帰る」


優しいグランの声……。
それと共に私の頭に大きな手が触れ、ポンポンと撫でられた。
大好きなグランの声と手を感じて……苦しい。
いつもは嬉しくて、温かい気持ちになるのに……今日は酷く苦しくなった。


「お前も、出来るだけ暖かくして過ごせよ。あと変な男に声かけられても全部無視しろ。ランセルも同様だ……そんで暗くなる前にはここへ帰えれ、他の街には行くな。それとーーー」


「わ、分かったからグラン!大丈夫だから、心配しないで!」


私と離れる時のグランはだいたい同じような事を言うのだが、今日はいつにも増して長く、私は咄嗟に大声を出してグランの口を両手で塞いだのだった。


「手紙……俺も出来るだけ返すようにする」


「あ、うんっ……待ってるね」


「あぁ、それじゃ……行ってくる」


「……っっ!」


優しく微笑んだグランは静かにそう言うと、私の額に軽くキスを落とした。
ドクンと心臓が跳ね、頬が熱くなる。
……そんな事されたらもっと離れがたくなる。
苦しく鳴る胸を抑え、私はグランを見つめる。


「うん、行ってらっしゃい。グラン」


私はグランを心配させないように……笑みを向けたのだった。









ーーーそれから、1週間……2週間……1ヶ月……2ヶ月と時は過ぎていった。
あれ以来、グランが私の元へ帰ってくる事は1度も無く、不安は募るばかり。

3日に1度は出す手紙も、グランからの返事は未だ出発して2日後に届いた王都へ到着したという手紙一通しか届いていない……。

グランは仕事の為に王城へと赴き、仕事で忙しいから手紙を返せないって事は十分に分かっている。
だけど、毎日毎日郵便受けを確認したり外を眺める時間は、私の胸を重く、苦しくさせるのだ。



「ーーちゃん、レイラ姉ちゃん!!!」


「わわっ!!ーーーって…ユラとシノか……」


ガバッと小さな子供ながらに強い力で私の腰に両腕を回す双子の男の子……ユラとシノ。
2人はノアの弟で、私も幼い頃から2人の面倒を見ていたからか姉のノアよりも何故か懐かれているのだ。


「レイラ姉ちゃん、母ちゃんが朝飯出来たって!っていうかまた外見てるの?こんな薄着でいたら風邪ひくっていつも言ってるじゃん」

「……レイラ姉ちゃん、ご飯……お家……入ろ?」


双子で顔も似ているのだが、性格は正反対な2人。

ユラは活発でシノは引っ込み思案。
でもどちらも違った可愛さがあって私も本当の弟のように可愛がっていた。


「うん、2人とも寒いのに呼びに来てくれてありがとうね。よし!寒いから中に入ろうか」


「おう!なぁレイラ姉ちゃん、俺姉ちゃんの作ったオムレツ食いたい!オムレツ作って!」

「ぼ、僕もオムレツ……」

「はーい、でも朝ごはんはユリアさんが作ってくれたからお昼ね!」

「はーい!!」
「はぁい」


可愛いユラとシノを見てると気持ちが少しだけ楽になる。

私は2人の頭を撫でる。
するとユラとシノは嬉しそうに笑ったのだった。







午後からはレストランでの仕事だ。
今日は冒険者の人達や隣町の人達の入りも多く、午後一の店内は一層賑わっていた。

注文表を確認して1つづつ丁寧かつスピーディに作っていく。
元々料理をするのは好きだから、忙しくも楽しく仕事が出来るこの時間はぐるぐると良くない事を考えなくても良い貴重な時間になっていた。



「レイラ~、次ハンバーグステーキ、チーズトッピングでお願い!!」


「はーい!」


ホールの賑わいは厨房まで聞こえてくる。

冒険者の人達は特に声が大きいからすごくよく響き、話の内容は厨房にまで届くほどだった。




「なぁなぁ!俺この前王都ですげぇ面白ぇもん見ちまったんだけどよぉ!!」



冒険者であろう1人の大柄の男性が興奮気味に同じテーブルに座り食事する仲間に向かって話し出す。

そんな子供のようにワクワクした口調で言う冒険者の口調が面白くて、私も料理を作る手は止めずについ聞き耳を立ててしまう。


「それがよ!ギルドでも有名なあのが他の護衛も連れて貴族のお姫様と仲良さそ~に街を歩いてたんだよ!!!」


「それマジかよ!!あの視線だけで人殺せそうな暴れ竜がか!?!?」


冒険者の人がそう言うと、他の仲間の人も目を見開き声を上げる。


(……?すごく強そうな名前だけど、一体どんな人なんだろう)


小さく笑いながら呑気にそんな事を考える私だったが、次の言葉を聞いて、私の頭は真っ暗になったーー。



「うわまじかよ!!獰猛暴れ竜って言ったら、国王も信頼をよせる獣騎士団団長のグラン・ジークス様だよなぁ!!!」

「おお!それ俺も見た!!すっげぇ仲良さそぉ~に歩いててよ!姫様が段差に躓いた時咄嗟にギュッて受け止めててさぁ!!」



……グランが…お姫様と?



グランは、仕事だって言ってた。
仕事で忙しくなるから、家には帰れないって……。

ずっと感じてた嫌な予感が、じわじわと膨れ上がっていく。
それと同時に、自分の中に黒い感情が湧き上がる。


私は直ぐさまキッチンの火を止め、厨房からホールへと足を進める。
そのまま真っ直ぐに冒険者の人達の元へ行き、勢いよく机を叩いたのだった。


「そ、その話!詳しく教えてくれませんか!!!!」


いきなり現れた私に冒険者の人達は目を丸くして見上げ、他のお客さんやノア達店員も驚きこちらを見ていたが、今の私にはそれに気付く余裕すら無かったのだ。








。。。。。。





「はぁ……」



仕事が終わった私は、街外れの丘に膝を両手で抱え込んだ体勢で腰を下ろすと夕日を眺めていた。

あの後、私は早めの休憩をもらって冒険者さん達に話を聞いたのだ。
冒険者さん達は私を見つめ「赤い瞳だ……」「伝説の……」と小さく呟いただけで特に恐れる様子もなく、先程よりもかなり落ち着いた口調で私に話してくれたのだった。


2人が王都にいたのは3日前ーー。
冒険者さんは高貴な若く綺麗な女性……お姫様が馬車から降りる所を目撃した様で、その時グランが女性をエスコートをしていたらしい……。

抱きついていたというのは、お姫様が馬車の段差に躓いて咄嗟にグランが抱き寄せた……みたい。

冒険者さんが言っていた言葉を思い出す。


『近くにいた店の主人に聞いたんだけどよ、なんでもあの2人してるみてぇだぜ?』


「……婚約…か」


無意識に出る言葉には力がなく……私は俯く。


グランはそんな事一言も言ってなかった。
……いや、言えなかったのかな?

私のお守りで恋愛など全くしてこなかったグラン。
私のこの瞳のせいで人口の多い王都に住むことだって出来なくて、今までずっと、色々な事を我慢してきたはずだ。


「邪魔者は、私かぁ……」


何度もグランに好きだって伝えて、その度にスルリとかわされて……でも、もっと大人になって成長したら、いつかはーーーってどこかで思ってた。
でも、グランは好きな人がいた。
高貴で、若くて、物静かで、綺麗な、大人な女性。


『仕事が片付いたらお前の元へ帰る』

真っ直ぐに私に向けてグランが言った言葉。
グランは嘘をつかない……だから絶対に帰ってくる。


ーーでも。


「帰ってきたって……どうせ直ぐその人の所に行っちゃうんでしょ……」


胸がじわじわと黒に染まる感覚が苦しくて、私は両手で抱え込んだ膝に顔を埋めたのだった。






「ーーいた!!レイラっ!!!」


大きな声で名前を呼ばれて、私は声の方を振り向く。


「あ、ランセル」


目線の先には、額に汗を浮かべ息を切らしたランセルが私へと大きく手を振りながら駆け足で向かってきていた。


「探したよ、店に行ったらもう帰ったって言うし、ノアの家に行ってもまだ帰ってきてないって言われて」

少し呆れた様子で、でもとても優しく言うランセルは、私の横に腰を下ろした。


「大丈夫?レイラ」


「な、何が?別になんにもないよ?」


無理して笑顔を浮かべると、ランセルは苦しそうな表情をする。


「聞いたよ、ジークスさんの事」


ビクッと肩が跳ねる。
震えそうになる声を何とか我慢して、私は口を開いた。


「えへへ、全く……この街はすぐ噂が広まるね」


「それもあるけど、冒険者の人が話してる時、僕も丁度配達があって店に行ったんだよ」


「……そう、なんだ」


冒険者さんに聞いた時もそうだったが、改めて聞かされると先程よりももっと強く胸がチクリと痛む。



「レイラ……大丈夫?」


ランセルは私の顔を覗き込みながら、前に掛かった私の髪を優しい手つきで耳にかける。


「大丈夫だよ。
折角探しに来てくれたのにごめんね……今だけは1人にしてほしい……」

思った以上に余裕が無かったのか、そう口にした私の声音は酷く冷たかった。
ランセルの耳や尻尾は力を失い垂れ下がる。
だが、それは一瞬のことで、グッと掌に力を入れると真剣な声音と顔つきで私を見つめたのだった。



「それは出来ない。今のレイラを1人で放っておくなんて僕は出来ないよ」


いつものランセルとはどこか違う……強く真剣な顔つきのランセルに、私は首を傾げた。



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