8 / 20
8話 不安な気持ち
しおりを挟む「急ですみません、暫くコイツをよろしくお願いします」
「全然いいのよ~、レイラちゃんよろしくね!」
「ユリアさんすみません、お世話になります」
朝ーーー。
私は自身の荷物を持ちグランと共にノアの家へと向かった。
街の住宅街へ入ってすぐの所にノアの家はあり、ノックするとノアとノアのお母さんであるユリアさんが笑顔で出迎えてくれたのだ。
「騎士様も大変ね~、レイラちゃんの事は心配しないでお仕事頑張ってちょうだいね」
「ありがとうございます。それでは、俺はこのまま行くので失礼します」
「あっ、まってグランお見送りするから!」
私は速やかに去ろうとするグランに慌てて声を掛けついて行った。
「見送りなんて良いから早く家ん中入れ。寒いだろ」
「寒くない!……ねぇグラン、早く帰ってきてね…あと手紙書くから……沢山書くから……だから……怪我だけはしないで、私の所に帰ってきてよ…絶対……」
あれからも不安な気持ちは拭えなくて、そんな気持ちからか涙が出そうになる。
でも泣かない……泣いたらグランにも不安を与えてしまいそうだったから。
「あぁ、仕事が片付いたらお前の元へ帰る」
優しいグランの声……。
それと共に私の頭に大きな手が触れ、ポンポンと撫でられた。
大好きなグランの声と手を感じて……苦しい。
いつもは嬉しくて、温かい気持ちになるのに……今日は酷く苦しくなった。
「お前も、出来るだけ暖かくして過ごせよ。あと変な男に声かけられても全部無視しろ。ランセルも同様だ……そんで暗くなる前にはここへ帰えれ、他の街には行くな。それとーーー」
「わ、分かったからグラン!大丈夫だから、心配しないで!」
私と離れる時のグランはだいたい同じような事を言うのだが、今日はいつにも増して長く、私は咄嗟に大声を出してグランの口を両手で塞いだのだった。
「手紙……俺も出来るだけ返すようにする」
「あ、うんっ……待ってるね」
「あぁ、それじゃ……行ってくる」
「……っっ!」
優しく微笑んだグランは静かにそう言うと、私の額に軽くキスを落とした。
ドクンと心臓が跳ね、頬が熱くなる。
……そんな事されたらもっと離れがたくなる。
苦しく鳴る胸を抑え、私はグランを見つめる。
「うん、行ってらっしゃい。グラン」
私はグランを心配させないように……笑みを向けたのだった。
ーーーそれから、1週間……2週間……1ヶ月……2ヶ月と時は過ぎていった。
あれ以来、グランが私の元へ帰ってくる事は1度も無く、不安は募るばかり。
3日に1度は出す手紙も、グランからの返事は未だ出発して2日後に届いた王都へ到着したという手紙一通しか届いていない……。
グランは仕事の為に王城へと赴き、仕事で忙しいから手紙を返せないって事は十分に分かっている。
だけど、毎日毎日郵便受けを確認したり外を眺める時間は、私の胸を重く、苦しくさせるのだ。
「ーーちゃん、レイラ姉ちゃん!!!」
「わわっ!!ーーーって…ユラとシノか……」
ガバッと小さな子供ながらに強い力で私の腰に両腕を回す双子の男の子……ユラとシノ。
2人はノアの弟で、私も幼い頃から2人の面倒を見ていたからか姉のノアよりも何故か懐かれているのだ。
「レイラ姉ちゃん、母ちゃんが朝飯出来たって!っていうかまた外見てるの?こんな薄着でいたら風邪ひくっていつも言ってるじゃん」
「……レイラ姉ちゃん、ご飯……お家……入ろ?」
双子で顔も似ているのだが、性格は正反対な2人。
ユラは活発でシノは引っ込み思案。
でもどちらも違った可愛さがあって私も本当の弟のように可愛がっていた。
「うん、2人とも寒いのに呼びに来てくれてありがとうね。よし!寒いから中に入ろうか」
「おう!なぁレイラ姉ちゃん、俺姉ちゃんの作ったオムレツ食いたい!オムレツ作って!」
「ぼ、僕もオムレツ……」
「はーい、でも朝ごはんはユリアさんが作ってくれたからお昼ね!」
「はーい!!」
「はぁい」
可愛いユラとシノを見てると気持ちが少しだけ楽になる。
私は2人の頭を撫でる。
するとユラとシノは嬉しそうに笑ったのだった。
午後からはレストランでの仕事だ。
今日は冒険者の人達や隣町の人達の入りも多く、午後一の店内は一層賑わっていた。
注文表を確認して1つづつ丁寧かつスピーディに作っていく。
元々料理をするのは好きだから、忙しくも楽しく仕事が出来るこの時間はぐるぐると良くない事を考えなくても良い貴重な時間になっていた。
「レイラ~、次ハンバーグステーキ、チーズトッピングでお願い!!」
「はーい!」
ホールの賑わいは厨房まで聞こえてくる。
冒険者の人達は特に声が大きいからすごくよく響き、話の内容は厨房にまで届くほどだった。
「なぁなぁ!俺この前王都ですげぇ面白ぇもん見ちまったんだけどよぉ!!」
冒険者であろう1人の大柄の男性が興奮気味に同じテーブルに座り食事する仲間に向かって話し出す。
そんな子供のようにワクワクした口調で言う冒険者の口調が面白くて、私も料理を作る手は止めずについ聞き耳を立ててしまう。
「それがよ!ギルドでも有名なあの獰猛暴れ竜が他の護衛も連れて貴族のお姫様と仲良さそ~に街を歩いてたんだよ!!!」
「それマジかよ!!あの視線だけで人殺せそうな暴れ竜がか!?!?」
冒険者の人がそう言うと、他の仲間の人も目を見開き声を上げる。
(……獰猛暴れ竜?すごく強そうな名前だけど、一体どんな人なんだろう)
小さく笑いながら呑気にそんな事を考える私だったが、次の言葉を聞いて、私の頭は真っ暗になったーー。
「うわまじかよ!!獰猛暴れ竜って言ったら、国王も信頼をよせる獣騎士団団長のグラン・ジークス様だよなぁ!!!」
「おお!それ俺も見た!!すっげぇ仲良さそぉ~に歩いててよ!姫様が段差に躓いた時咄嗟にギュッて受け止めててさぁ!!」
……グランが…お姫様と?
グランは、仕事だって言ってた。
仕事で忙しくなるから、家には帰れないって……。
ずっと感じてた嫌な予感が、じわじわと膨れ上がっていく。
それと同時に、自分の中に黒い感情が湧き上がる。
私は直ぐさまキッチンの火を止め、厨房からホールへと足を進める。
そのまま真っ直ぐに冒険者の人達の元へ行き、勢いよく机を叩いたのだった。
「そ、その話!詳しく教えてくれませんか!!!!」
いきなり現れた私に冒険者の人達は目を丸くして見上げ、他のお客さんやノア達店員も驚きこちらを見ていたが、今の私にはそれに気付く余裕すら無かったのだ。
。。。。。。
「はぁ……」
仕事が終わった私は、街外れの丘に膝を両手で抱え込んだ体勢で腰を下ろすと夕日を眺めていた。
あの後、私は早めの休憩をもらって冒険者さん達に話を聞いたのだ。
冒険者さん達は私を見つめ「赤い瞳だ……」「伝説の……」と小さく呟いただけで特に恐れる様子もなく、先程よりもかなり落ち着いた口調で私に話してくれたのだった。
2人が王都にいたのは3日前ーー。
冒険者さんは高貴な若く綺麗な女性……お姫様が馬車から降りる所を目撃した様で、その時グランが女性をエスコートをしていたらしい……。
抱きついていたというのは、お姫様が馬車の段差に躓いて咄嗟にグランが抱き寄せた……みたい。
冒険者さんが言っていた言葉を思い出す。
『近くにいた店の主人に聞いたんだけどよ、なんでもあの2人婚約してるみてぇだぜ?』
「……婚約…か」
無意識に出る言葉には力がなく……私は俯く。
グランはそんな事一言も言ってなかった。
……いや、言えなかったのかな?
私のお守りで恋愛など全くしてこなかったグラン。
私のこの瞳のせいで人口の多い王都に住むことだって出来なくて、今までずっと、色々な事を我慢してきたはずだ。
「邪魔者は、私かぁ……」
何度もグランに好きだって伝えて、その度にスルリとかわされて……でも、もっと大人になって成長したら、いつかはーーーってどこかで思ってた。
でも、グランは好きな人がいた。
高貴で、若くて、物静かで、綺麗な、大人な女性。
『仕事が片付いたらお前の元へ帰る』
真っ直ぐに私に向けてグランが言った言葉。
グランは嘘をつかない……だから絶対に帰ってくる。
ーーでも。
「帰ってきたって……どうせ直ぐその人の所に行っちゃうんでしょ……」
胸がじわじわと黒に染まる感覚が苦しくて、私は両手で抱え込んだ膝に顔を埋めたのだった。
「ーーいた!!レイラっ!!!」
大きな声で名前を呼ばれて、私は声の方を振り向く。
「あ、ランセル」
目線の先には、額に汗を浮かべ息を切らしたランセルが私へと大きく手を振りながら駆け足で向かってきていた。
「探したよ、店に行ったらもう帰ったって言うし、ノアの家に行ってもまだ帰ってきてないって言われて」
少し呆れた様子で、でもとても優しく言うランセルは、私の横に腰を下ろした。
「大丈夫?レイラ」
「な、何が?別になんにもないよ?」
無理して笑顔を浮かべると、ランセルは苦しそうな表情をする。
「聞いたよ、ジークスさんの事」
ビクッと肩が跳ねる。
震えそうになる声を何とか我慢して、私は口を開いた。
「えへへ、全く……この街はすぐ噂が広まるね」
「それもあるけど、冒険者の人が話してる時、僕も丁度配達があって店に行ったんだよ」
「……そう、なんだ」
冒険者さんに聞いた時もそうだったが、改めて聞かされると先程よりももっと強く胸がチクリと痛む。
「レイラ……大丈夫?」
ランセルは私の顔を覗き込みながら、前に掛かった私の髪を優しい手つきで耳にかける。
「大丈夫だよ。
折角探しに来てくれたのにごめんね……今だけは1人にしてほしい……」
思った以上に余裕が無かったのか、そう口にした私の声音は酷く冷たかった。
ランセルの耳や尻尾は力を失い垂れ下がる。
だが、それは一瞬のことで、グッと掌に力を入れると真剣な声音と顔つきで私を見つめたのだった。
「それは出来ない。今のレイラを1人で放っておくなんて僕は出来ないよ」
いつものランセルとはどこか違う……強く真剣な顔つきのランセルに、私は首を傾げた。
1
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる