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15さい
67話 ラディの思い
しおりを挟む……あれ?……痛くない。
そう思ったと同時に、キャァァ!!……と令嬢達の悲鳴が聞こえてきた。
その声に釣られてゆっくりと瞼を開き見上げると……俺はその光景に驚き…呟いた。
「え?……ラディ……?」
鋭い目付きで令嬢達を睨み付けるラディに声を掛けると、より一層守る様に俺を強く抱き締める。
「っっ……!!ラディ、それっ!」
よく見るとラディの頬や首元には切り傷ができ、そこからは血が滲み出ていた。
服も所々切れているようで、ラディは俺を守った所為で怪我を負ったのだと瞬時に理解する。
「ら、ラディ……ごめ……俺が……」
震える手をラディの頬へ伸ばした時、ギュッと大きな手に俺の小さな手が包まれた。
「リツ、大丈夫だから……泣かないで」
そう言って俺を見つめ微笑んだラディは、再度鋭い目付きで令嬢達を睨み付ける。
「ーーーーこれはどういう事だ」
震え上がりそうな程、重圧のある声。
問い詰められていない俺ですら震えそうになるその声音に、既に令嬢達は青ざめ…震えている。
……ラディ、凄く怒ってる……。
こんなにも怒りを顕にしたラディ…今まで見た事なくて、俺はただ黙っている事しか出来なかった。
「君達は、自分達よりも年下のか弱い子1人に寄って集って何をしていたんだい?」
声の方向を向くと、そこには王太子であるアルベール殿下が居て、ラディと共にこの場所へ来た様だった。
「な、何でもありませんわ!!私達はラディアス様をお助けしようとしたまででーーーーー」
「僕を……何からだ」
「そ、その卑しい小型獣人からですわ!!!ラディアス様はその者に騙されています!!何処ぞの者かも分からない様なーーーーーーーーー」
「黙れ」
その恐ろしい声音に令嬢の喉がヒュッと鳴る。
「僕はこれまで、貴方が剣術稽古中にいくら押し掛けて来ても、会う度に執拗に話し掛けられたとしても何も言わなかった……それは貴方の事などどうでもよかったからだ」
「なっ……っっ!!」
「だが、僕の大切な人まで傷付ける様であれば……もう黙っては居られない」
ラディのこの言葉に震えながらも怒りを顕にする令嬢は俺を指さすと大きく口を開く。
「何故です!!?何故こんな無能を守るのですか!!何も出来ない!ただ子供を産む事しか能のない小型獣人のくせに!!ラディアス様が大切にするほど価値のある者ではーーーーーーーーー」
「黙れと言っている!!!!!!」
ラディの咆哮にも似たこの怒りの声に俺の心臓はビクッと飛び跳ねる。
でもそれは、俺よりも直接言われている令嬢の方が凄かった様で、その場に力無く座り込んでしまった。
「それ以上の侮辱はいくら伯爵家の令嬢であったとしても許さない。それに貴方は、この国の王妃様も小型獣人である事を忘れたのか?お前は今この瞬間、王妃様を……国王を……国全体を馬鹿にしたのだぞ?」
ラディがそう冷たく口にした言葉に令嬢は目を見開き、先程まで意地悪な笑みを浮かべていた人だとは想像もつかない程精気は薄れ、青ざめた表情で俯いた。
「あ……あぁ、あ………………」
令嬢は思い出したのか今まで以上に身体を震わせ手で顔を覆う。
「王城で魔法を使用するのは禁止の筈だが、貴方はそれを破り、そしてこの国の最高権力者である王族を侮辱した……言い逃れは出来ないぞ。そうだよな、アルベール」
「ーーーーあぁ、そうだね。この件は全て国王である俺の父上に報告させてもらうよ」
ラディと同じ様にアルベール殿下も鋭い目付きで令嬢達を睨み付け言葉を放つ。
「も、申し訳……ござい、ません……」
その様子にバルディン伯爵令嬢は力無く小さく呟いた。
「バルディン伯爵令嬢。貴方は先程、リツの事を無能だと、僕が大切にする価値が無いと……そう言ったよな」
「……は、い」
冷たくそして無機質な声音で問いかけるラディは、それと同時に俺の頭を優しく撫でた。
「僕は…リツが無能だなんて思った事はただの一度も無い。上辺だけ取り繕うこの貴族社会で、ただ言われた事を意味も見いだせずにこなす毎日が僕は心底つまらなかった。でもそんな時リツに出会った……確かにリツは目を離すと直ぐに何処かへ行ってしまって、無茶して…僕を何度も心配させる……言う事だって聞かないし、それに頑固な所もあるーーーーーーーーーー」
……ん?まって、これは俺の悪口…だよね?
ちょっと!なんで今俺の悪口言うのさっ!!!
俺はちょっとだけムカついて、ラディの洋服を両手で掴む。
「もう!ラディーーーーーーーー」
「ーーーーでも、それ以上に僕はリツから温かい気持ちを教わった。リツの笑顔を見るだけで、僕は何にでも頑張れる。リツの元気さと裏表の無い真っ直ぐで純粋な心に惹かれた……そして、辛い記憶さえ飲み込んで我慢しようとする姿を見て、守ってあげたいと思った。
ーーーーーーーリツの全部が僕は大好きなんだ」
……ラディ。
ギュッと抱き締めるラディの腕はとても温かくて……胸がいっぱいになって……ポタポタと涙が溢れる。
「リツが好きで……誰よりも大好きで、傍にいて欲しい……この感情は家族や使用人に対する思いよりも何倍も大きい……生涯僕はリツと共に歩んで行きたい……そう思うくらいに僕はリツが大切で、僕にとってリツは何にも変える事の出来無い……かけがえのない存在なんだ」
ラディは俺を見つめるとチュッと額にキスを落とした。
……その様子はまるで、今話したラディの気持ち全てを、俺に向かって言っていたかの様だった……。
……生涯って……ラディ、それって……。
そう思うと同時に、王城の護衛騎士が到着した様で、アルベール殿下の指示でバルディン伯爵令嬢は連れて行かれたのだったーーーーー。
……俺はそんなぐったりと意気消沈したバルディン伯爵令嬢を……ただ見つめている事しか出来なかった。
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