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15さい
66話 意地悪な令嬢②
しおりを挟む「貴方、ラディアス様とどのような関係ですの」
庭へと連れ出された俺は勢い良く地面へと倒され、豪快に両肘を擦りむいて痛みで目元に涙が溜まる。
……うぇぇ……痛いよ。
見上げるとそこには腕を組み仁王立ちしたバルディン伯爵令嬢とその取り巻きの令嬢達が一斉に俺を睨み付けていた。
「え……ど、どのようなって……ただラディの家でお世話になってるだけ…だけど……」
怪我した肘を押さえながらゆっくりと立ち上がるも身長は俺が1番小さいため、令嬢達の威圧感は先程と変わらない。
「ラディアス様を愛称で呼んでいるの!?全く礼儀がなってないわね!貴方みたいな卑しい小型獣人が軽々しく呼んでいいお方ではないのよ!!」
鋭い目付きでそう言い放つ令嬢に俺も怒りが湧く。
……この人達小型獣人を馬鹿にしているのか?
王妃様だって小型獣人なのに、それを分かってるのかよ。
俺はすぐさま言い返したい気持ちに駆られたが、先程のラディとの約束を思い出してグッととどまる。
……駄目だ、ここで俺が反抗したらラディとの約束を破る事になる。
それに、この正装を着ている以上俺が何か問題を起こせばグラニード家に迷惑がかかるかもしれない……それだけは絶対に嫌だ。
そう思って何も言えない俺に対して、気分を良くしたバルディン伯爵令嬢は、ニヤリと性格の悪さが滲み出る笑みを浮かべたのだった。
「あ~あ、ラディアス様可哀想……そんな素性も分からない獣人に惑わされてしまって……見るからにラディアス様の使用人では無いようだけど、もしかして……ラディアス様のペットなのかしら?」
クスクスと笑う声が薄暗い庭に響く。
「違います……」
グッと掌を握り、その一言だけを呟いた。
「じゃあ貴方はラディアス様の何なのよ、使用人でもペットでも無いなら、貴方は何かラディアス様の役に立てているのかしら?」
令嬢のその言葉にドクンと心臓が打ち付けられる。
……確かにそうだ。
俺はラディに迷惑ばかりかけて、役に立つような事を1度だってしたことが無い。
「そ、それは……」
「ほらそうでしょう?ラディアス様はお優しいから貴方の事追い出したくても追い出せないのよ!!この様な豪華なパーティーにも来て……どれだけラディアス様に恥をかかせるつもり?」
……違う、ラディはそんな事思う様な人じゃない。
俺がどんなに失敗して迷惑かけても、ラディが呆れたり怒ったりする事は今まで1度だってなかった。
ラディはいつも……頑張ったねって俺の頭を撫でてくれた。
ラディは、どんな時でも優しく笑って抱きしめてキスしてくれるーーーーーーーー。
……あれ?、なんでラディは俺にキスするんだろう?
ラディは俺にキスすると、俺の唇に指を当てて、ここは僕だけとしかしちゃいけないよ……って言う。
俺もそれが当たり前だと思ってたし、ラディ以外の人となんて考えられなかった。
ーーーなんで、当たり前だと思ってたんだろう……。
大好きなラディ。
優しくて、俺が悪さすると怒って、でも落ち込んだ時は慰めてくれて……ちょっとの事でも直ぐ俺の世話を焼く……心配性なラディ。
俺の事を1番に考えてくれて、ずっと傍に居てくれるって約束してくれた。
いつの間にか、俺の中でじわじわと大きな存在となっていった……大切で大好きな人。
ラディの事を考えると同時に、トクンと胸が強く音を立てた気がした……。
あぁ、そうか……俺は……ラディの事が好きなんだ。
カオン様、パール様、ライオネルやヘレス、使用人の皆の事も大好きだけど、それとは違う好きなんだ……。
「ねぇ!話を聞いてますの!?分かったなら今後一切ラディアス様と関わらなーーーーーーーーーーー」
「嫌です……」
ポツリと呟いた俺の言葉に、バルディン伯爵令嬢とその取り巻き達が怒りを顕にして怒鳴り散らす。
「はぁ?ちょっと貴方!私の話聞いてまして!?!?自分の立場を分かってて言ってんのかしら!?!?なんの取り柄も無いお荷物が居ると、公爵家の嫡男で将来有望の騎士になられる素晴らしいお方の迷惑になると言っているの!!さっさとラディアス様の前から消えなさいよ!!!!!」
「ーーーー嫌だ!!俺は確かになんの取り柄もないお荷物かもしれないけど、俺はラディが大好きだから!!ラディの傍にずっと居たいんだ!!」
俺はブロンドの瞳でバルディン伯爵令嬢を睨み返し、強く言い放つ。
「それにバルディン伯爵令嬢はラディの事、上辺だけしか見てない!公爵家だとか騎士だとか……アカデミーに入学するまでに婚約者になりたい理由だって、ただ自慢したいだけなんだろ!!……俺は違う!!こんな俺にも優しく接してくれて、そりゃあ……ちょっと怖い時もあるけど……俺の事誰よりも心配してくれる、そんな優しいラディが大好きなんだ!!そ、そっちこそラディに近寄るなぁ!!」
はぁ、はぁと息が上がる。
……言ってやった。
……言って……しまった。
ラディの事全然見てないクセに、好き勝手言っているバルディン伯爵令嬢にムカついて……つい思っていた事が口から流れるように出てしまった。
俺は先程まで熱くなっていた身体から冷や汗が流れてくる感覚に襲われる。
……わぁぁ…どうしよう、あれだけラディが感情に任せて行動するなって言ってたのに……俺は本当に馬鹿だ……。
頭上の丸い耳が力を無くし、俺は俯く。
「……この……この!!卑しい獣人のくせにっ!!」
目の前の令嬢が深く怒りの声を出した瞬間、強い風が吹き始める。
……これはっ、風魔法か?
目の前に視線を向けると俺に向かって手を伸ばし、何かを詠唱している。
……やばいっ!コイツ……俺に魔法使う気だっっ!!
予想だにしていなかったその状況によろけ、尻餅をついた俺に向かって風の刃が襲いかかる。
神聖魔法持ちの俺はそれを避ける術もなければ、攻撃系魔法で反撃する手だてもない。
……あ、これ無理だ……避けれない。
今から来る衝撃に、冷たい身体を強ばらせギュッと目を瞑る。
ーーーーーー瞬間ギュッと大きくて暖かい何かに包まれた様な気がした。
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