リス獣人の溺愛物語

15さい

82話 最上級魔法

バセスさんを初めとする使用人達もラディに挨拶をすると馬車へと荷物を運び始め、ライオネルは剣術稽古があるからとその場を後にした。






「そうだリツ、さっき僕がアカデミー入学までに習得したい魔法があるって話したでしょ？」



「あ、うん。あれ何だったの？」



ハビー先生の元に毎日夜遅くまで通って学んでいたという事は、それだけ難しい魔法なのだろうかと考えながら首を傾げる。

するとラディは地面へ片膝をつき、俺の手を優しく包み込む。



「……僕、心配なんだ…リツと離れる事。リツは見た目も中身も凄く綺麗で、可愛くて……それだけでも心配なのに発情期も始まって……僕が居ない間に、他の奴に取られてしまうんじゃないかと思うと気が気じゃない」


「ラディ……」



俺を見上げるラディは眉を寄せ苦しそうに呟く。


……そんな事絶対に無いのに。
いくら発情期がまた始まって、身体が誰かを求めたとしても、ラディ以外の人にーーーーなんて…俺は絶対考えられないのに。




「……だから、リツの発情期の後から直ぐにハビー先生の元でこれを学んだんだーーーーーー」



そう言ってラディは立ち上がり、魔力を集中させると小さく呟き詠唱する。


サラッーーと優しい風が吹いた後、パチッ！とラディが指を鳴らした。


瞬間、今の今まで目の前にいたラディが姿を消し、ラディの匂いさえもプツンと切れたように無くなってしまったのだ。
そんな光景に驚き目を見開いた俺は慌ててキョロキョロと辺りを見回す。


「え？ラディ！？……うわぁ！ラディが……ラディが消えちゃったぁぁ！！！」


驚き慌てふためく俺にくすくすと笑うパール様を不思議に思うと同時に、またも温かい風が吹き……大好きな匂いが俺の鼻を掠めた。


バッと勢いよく振り向くと得意そうに笑うラディと目が合う。


「ふはっ、びっくりした？結構上手に出来てたでしょ？」



「……え？……ラディこの魔法って」





この魔法は……移動魔法。


自身の身体を光の粒子へと変え、時空間に魔力を導入する……光属性の最上級魔法だ。

ハビー先生が普通に使っているから簡単そうに見えるけど……実際に使える人なんて指折りだし、そもそもこの魔法は膨大の魔力と類稀なる素質がないと習得出来ないもの……。


……そんな最上級の魔法を、ラディは1週間と少しで習得したのか……。




……ラディ、ラディは…本っ当にーーーーー。





「す、すげぇぇぇ！！！！！ラディ！凄いよ！！こんな難しい魔法を短期間で習得したなんて！！本当にすごい！かっこいい！！！！」


目をキラキラと輝かせて、ラディに尊敬の眼差しを向ける。


「あはは、ありがとうリツ。
ハビー先生にもそんな事言われて褒められたけど……リツに言われた方が何百倍も嬉しい」


魔法の事ならこの国で右に出る者は居ないスーパーエリートで、魔導士ギルドのギルドマスターであるハビー先生に褒められた事よりも、俺なんかに褒められた方が嬉しいなんて……ラディも変わってるなぁ～と思いつつ、俺はふと浮かんだ疑問を聞いてみる事にした。