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15さい
81話 出発の前
しおりを挟むアカデミーの入学式1日前。
今日からラディは王都へ行く。
入学してからは寮生活になるため、ラディは暫くここへは帰ってこない。
…別に…寂しくなんて無い。
長期休みには帰ってくるって言うし、俺だって治癒魔法の練習で、王都にある騎士団の訓練施設へ赴く時があるからその時だって会おうと思えば会えるはず……。
……だからほんの少しも、寂しくない……。
「リツ、どうしたの……?」
ダイニングルームへと向かう途中、ラディは心配そうに俺を覗き込む。
「あ、いや……別に」
「もしかして、まだ怒ってる?」
「おっ……怒ってない!別に……あれくらいで!!」
眉を寄せ声を荒らげる俺の頭を、ラディは優しく撫でる。
……俺の機嫌がなぜ悪いのか。
それは、1週間ほど前からの話ーーーー。
そう、これから暫く会えなくなるラディと俺はもっと一緒に居たかったのに……それなのにコイツは俺との時間よりもーーーーハビー先生との魔法実習を選んだんだ!!!!
確かにラディは、将来このグラニード公爵家を継ぐ存在で、まだまだ色々な事を学び蓄えなければいけないのは分かってる……。
でも!!いくらなんでも最後の1週間ですら殆ど家に帰ってこないのは……こ、恋人として……あんまりだと思う……。
ラディは俺が寝た頃に帰ってきて、俺が起きた頃には既に家を出ている。
屋敷に帰ってこないこともあったくらいで……疑っているとかでは……ないけど……一体ハビー先生と2人でどんな事をしているんだ…ってモヤモヤと考えてしまってその度に何故か腹が立つ……。
でも……そんなしょうもない、馬鹿げた我儘な気持ちを…毎日一生懸命頑張っているラディに向けてしまう自分自身に、俺は1番ムカムカしているんだ……。
「……ツ……リーツ」
「……んわぁ!!」
不意に後ろから大きな腕に抱きしめられる。
「ら、ラディ!?なんだよいきなり」
「ん、なんでもないよ?……ただ大好きな恋人を抱きしめたかっただけ」
……大好きな恋人……。
ラディにそう言われただけで、ついさっきまでのモヤモヤが見事に晴れていく様で……単純な自分に、俺は心の中で苦笑する。
「俺の事なんか放っといたクセに……」
そう呟いた瞬間、はっと我に返る。
……駄目だ、ラディ頑張ってるのに…そんな事言っちゃ……。
「あ、いや!ごめん……なんでもない!!!」
直ぐに謝りはぐらかすも、俺のつぶやきはラディに聞こえていた様で、振り返ると目を見開いたラディと目が合ってしまう。
「リツ……」
「ごめん、本当に……ラディ頑張ってるのに、俺が我儘言ったらダメだよね……俺なら大丈夫!別に全然会えなくなる訳じゃなーーーーーーーーーーーーー」
ブンブンと手を振りながら必死に弁解する俺に、瞬間……ラディが強く抱きしめる。
「え?……ら、ラディ?」
「リツ……リツ、寂しい思いをさせてしまったよね?……でもごめん、僕今……凄く、嬉しい……」
スリスリとラディは頬を擦り合わせ、チュッチュッとキスをする。
「ちょ、まって……ら、ラディ!!」
「無理、待てない。リツが可愛いのが悪いよ」
「んー!!可愛い事なんて行ってない!」
いつも以上に嬉しそうに笑うラディの言っていることがよく分からなくて、俺は頭上にハテナを浮かべながら、されるがままになっていた……。
「リツ、さっきの話だけど……実は僕、アカデミー入学までにどうしても習得したい魔法があって、その為にずっとハビー先生の所へ通っていたんだ」
「習得したい…魔法?」
……この短期間で、寝る間も惜しんで習得したい魔法って一体何なのだろうか?
これからアカデミーで様々な事を学ぶと言うのに……。
「うん、ここで話すのもなんだし、実際見てもらった方が早いから、出発前に話すよ」
「お?……う、うん」
そう言ってニッコリ笑ったラディは、不思議そうに見つめて頷く俺の頭をポンと撫でた。
朝食も終え、ついにラディ出発の時が来た。
カオン様やパール様、ライオネルを初め、ボブや使用人も総出でラディを見送る……もちろん俺も。
「ラディ、行ってらっしゃい。頑張ってくるのよ!」
パール様が涙目になってそう言うと、ラディは優しく微笑んで「はい」と応えた。
昔は無表情で声も口調も冷めていたラディ……。
でも今は……俺の前だけじゃなくて、家族の前でも…少しだけ笑うようになった。
「ラディアス、色々な事を学び吸収してきなさい」
カオン様は相変わらずの強い口調でそう言うと「それとだな……」と言いにくそうに言葉を続ける。
「リツくんとの婚約の話だが、陛下が自分の息子と婚約させたいと言い出してな……直ぐに了承を頂くのは難しくなった……」
……えぇ!?なんで!!俺そんなの聞いてないよ!?
いきなり伝えられた事実に衝撃を受け、俺はカオン様とラディを交互に見る。
「……そうですか、陛下が……」
静かに呟くラディの声音は怒りを顕にした様に低くなり、背後からは黒いモヤが出始めた気がした。
……うわぁ、ラディ怒ってるよ。
俺との関係を確実なものにして、安心して俺の元から離れるつもりだったみたいだから、行く寸前で言われた事や王子殿下との婚約話が上がりそうなこの状況に苛立っているのだろうと容易に想像できた。
「あの、ラディ?俺ーーーーーーー」
「なーんだ!まだ兄さんとリツ婚約しないんだ~。だったらまだ俺にも勝算あるよね!これからも俺はリツとずっと一緒だし!……ね!リツ~」
そう言って俺にウィンクして抱きつくライオネル。
……あぁ、ラオ何わけの分かんないこと言ってんだよ!ラディもっと怒ってるじゃんか!!
そう思うと同時に、ライオネルの頭上にラディの拳が落ちる。
「いったぁぁぁ!!!何すんの兄さん!!」
「うるさいライオネル、リツに変な事したら許さないからな」
黒いモヤを纏い、鋭い目付きでライオネルを睨みつけるラディ。
それはもう、目だけで人を殺せそうな程に……。
これはヤバいと思った俺は、皆が見てる前で恥ずかしくはあったもののラディにギュッと抱き、ラディの耳元でコソッと呟く。
「ら、ラディ……俺はラディとしか結婚したくないから……だから心配しないで?」
そう言って耳から顔を離し、おずおずとラディを見る。
パチリと目が合わさった時、驚いた表情をしていたラディは瞬間、綺麗な顔を綻ばせて「……あぁ」と嬉しそうに笑った。
……良かった、機嫌直ったみたいだ……。
ほっと一安心した俺もニカッとラディに笑い返した。
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