その吸血鬼、返品します!

胡桃澪

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吸血鬼だからこそ苦悩するんだ

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「黒月くん! 今日の放課後、一緒にカラオケ行こうよ?」
「うちら、黒月くんと仲良くなりたいな」

 放課後になると、女子達が響斗くんをカラオケに誘う。

 やっぱりモテるんだな。

「カラオケ……とは?」
「えっ!?」

 響斗くんはカラオケを知らないみたいだけど。

「皆で歌ったりするアレだよ!?」
「知らないの!?」
「俺のじだ……俺のいた国には無かったな」

 響斗くんは明治の人だからね。

「じゃあさ、行こうよ! わかんない曲は一緒に歌ってあげるし」
「黒月くんと仲良くなりたい!」

 響斗くんはちらっと私の顔を見る。

「どうぞ。私は帰って読みたい本が」
「雫が行かないなら俺いーかない」
「響斗くん!!」

 また女子達が私を睨んでるし!

「帰ろう? しーずく」
「か、軽々しく手を繋がないで!」
「やだ。離さない」

 力強い….…。

「ひ、響斗くん!」
「さらば!」

 響斗くんに強引に手を引かれ、私は学校を出た。

「あ、あの! こういうの困るんですけど」
「何で? あんな感じ悪い同級生達より俺といた方が楽しいぞ?」
「変質者とクラスメイトだったらクラスメイトのがマシです」
「雫さんはなかなかつれないな。でも、俺は雫といるのが一番楽しい」
「わ、私なんか….…」
「私なんかは禁句。雫は魅力的なんだぞ? 自分が思ってるよりも」
「ど、どうせ気が弱そうな私を自分の言いなりにして私を餌にするつもりなんでしょう? だから私にやたらと……」

 私みたいな女子を好きになるはずがない。

「俺が先程発作を起こしたからか?」
「それは……」
「雫からしたら化け物か、俺は」
「そ、そこまでは言ってな….…」
「良いよ。言われ慣れてるし」

 響斗くんは切ない表情で言った。

 私、悪い事言っちゃった……。

「あの……」
「雫が嫌なら襲わないよ、俺は」
「ご、ごめん….…」

 帰宅すると、響斗くんは部屋に篭った。

 いつもならやたらとしつこくつきまとってくるのに。

 私は部屋で読書を始める。

 だけど、私が本を開いた瞬間に母から携帯にメッセージが入った。

『ごめーん! 友達と飲みに行くからご飯適当にしといて!』

 えっ!?

 響斗くんと二人きりって事!?

 けど、響斗くんは私がさっき言った事を気にしてか家に帰るまでずっと静かにしていた。

 私は恐る恐る響斗くんのいる部屋へ。

「ひ、響斗くん……あの……今日、お母さんが遅いみたいなんだけど….…」

 私は響斗くんの部屋の扉を少し開け、声をかける。

「雫……」
「ご、ご飯……私が作るから….…何か食べたいのある?」
「雫が作るのか?」

 私が頷くと、響斗くんは瞳を輝かせる。

「じゃあ、ハンバーグが良い」
「えっ?」
「雫の作ったハンバーグが食べたい」
「わ、分かった。頑張ります」
「ああ。楽しみにしてる」

 良かった、調子戻ったみたい。

「あの、響斗くん」
「ん?」
「さっきはごめんなさい……」
「良いんだよ、雫。俺は人間とは違うから。さっきだって雫が怪我をしたって分かったのに手当てしなきゃって気持ちよりも血を吸いたいっていう欲求が勝ってしまってた。ひどいだろ」
「けど、それは仕方ない事なんですよね?」
「仕方ない……か」
「響斗くん?」
「吸血鬼である父は好きだ。けど、吸血鬼である自分は好きになれないんだ」

 響斗くんはまた暗い表情に戻った。

「嫌いって?」
「吸血鬼と人間のハーフってさ、この世界に俺だけなんだよ。だから、自分で自分がどうなっていくか分からない。親にも分からなかった。中途半端な存在は排除される。魔界でも人間界でも。産んでくれた親を恨む気は無い。けど、人間でありたかった」

 そうだ、今の彼には家族もいなければ一緒の時代を生きてきた友人すらいない。

 静流さんも……。

「吸血衝動を起こす自分が嫌……なんですか?」
「ああ。起こす度に恐ろしくなる。凶暴化する吸血鬼もいたからな。そういう吸血鬼が大量に発生した事があってな。俺の両親が殺された理由もきっと吸血鬼に恨みを持った人間が多かったからに違いない」
「響斗くんは封印で済んだんですね?」
「ああ。対吸血鬼用の刀を所持している人間がいなかったからだろう。けど、警察から拷問を受けた事はあるよ」
「えっ……」
「濡れ衣だったんだけど。村で女性が惨殺されて一番に俺が疑いをかけられた」

 頭に一瞬、響斗くんが軍服を着た人達に連れて行かれる映像が流れた。

「っ……」
「雫?」

 急に頭痛が起き、私はしゃがみ込む。

「今….…のは……」
「大丈夫か? 俺が魔界から仕入れた蜥蜴を煎じた薬が……」
「そ、それは勘弁して!」
「そうか」
「だ、大丈夫。一瞬くらっと来ただけ」
「無理するなよ? 夕飯なら俺が用意しても構わないし」
「け、結構です!」
「えー!」

 でも、響斗くんを吸血鬼だからって恐れていた自分を本当に嫌な奴だと思った。

 これじゃあ響斗くんを封印した人達と変わらないじゃない。

 排除される辛さは私が一番分かっていたはずなのに……。

『ほら、みんなー! 月宮さんを班に入れてあげて』
『えー! 月宮さん、暗いしなんかやだ』
『喋んないし、一緒にいてもつまらないよね』

 小学生の時、いつも皆から排除されていた。私が皆と上手くやれないから、暗いから。

 今も空気だし……。

 もしかしたら、私達は似た者同士なのかもしれない。孤独という点で。

「響斗くん、ハンバーグはケチャップとデミグラスソースどっちが良いの?」
「デミグラスソース! 今朝テレビで見て美味しそうだった」
「わ、分かった。とりあえず買い物しないと。色々足りないし」
「俺も行く!」
「一人で大丈夫だよ?」
「スーパーマーケットとやらに行ってみたい。明治には無かったからな!」
「わ、分かった」
「それに、雫が倒れたら大変だからな」
「あ、ありがとう」

 婚約者っていうのは認めないけど、友達なら始められるかな。

「うぉっ! 食べ物がたくさんあるぞ、雫! 見た事無い食材だらけだ!」
「あっ、お惣菜コーナーは行っちゃだめだよ。唐揚げあるし」
「唐揚げ?」
「に、にんにく使ってるから……」
「教えてくれてありがとうな」

 響斗くんは私の頭を優しく撫でる。

「す、スキンシップは駄目!」
「はーい。我慢しまーす」
「あっ! 籠にお菓子どんどん入れないで」
「安いし、俺が払うぞ? 一緒に食べよう」
「だーめ! ふ、太るし」
「俺はむっちりしている女子も許容範囲だ」
「ひ、響斗くんの好みは聞いてないし」
「なんだよ、朝倉の好みに合わせる気か?」
「えっ!」
「あんなのより俺のが良いだろう」
「好きなのは朝倉くんなんだもん」

 響斗くんみたくすけべじゃないし!

 でも、初めて会った時よりも響斗くんを身近に感じる。

 知ってみたいと思ったり。恋愛感情ではないはずだけど!

「雫の意地悪。お菓子一個だけか」
「たくさんあったらあるだけ食べたくなるもん」
「はぁ。けど、スーパーって楽しいな? 俺には新鮮すぎて」
「私はしょっちゅう来てるから楽しいとは思わないけど」
「俺は楽しいよ。まあ、好きな子と来てるってのもあるんだろうな」
「ちゃ、チャラい!」

 でも、私もちょっとだけ楽しいって思うかな?ちょっとだけね。

「たくさん買ったな」

 私と響斗くんは買い物を終えると、家に向かう。

「ハンバーグ以外にも作らなきゃいけないから」
「そうか。俺も手伝って良いか? 楽しそうだ」
「えっ?」

 どうしよう、私うっかりしてるから料理中にまた指切っちゃうかも。そしたら、響斗くんは……。

「あっ、そうか。包丁を扱うから俺は部屋にいた方が良い……よな」
「う、ううん! 私、気をつけるし。手伝っても良いよ?」
「ありがと。じゃあ、頑張りますか。一緒に」

 断ったらなんだか私まで彼を化け物のように扱ってるように感じて。

 彼は彼で吸血鬼である自分を嫌だと感じているのに。

 昨日までは関わらないようにしようとか思ってたのにな、私。

「玉ねぎを刻むのってこんなに辛い事なんだな、雫」
「吸血鬼でもやっぱり玉ねぎには敵わないんだね」
「涙止まらないんだが」

 響斗くんに玉ねぎのみじん切りを任せるも、涙が止まらず戸惑ってしまっている。

「あっ、鼻栓すると治るらしいよ?」
「それは絶対に嫌! 鼻栓してる俺より泣いている俺のが美しい」
「泣いている姿は別に美しくないと思うけど……」
「辛辣!」
「代わろうか?」
「いや、良い。やると言ったのは俺だからな。それに料理自体は楽しい」

 響斗くんって何でも楽しむ人なんだなぁ。

「私も頑張ろ。やっぱり髪結ばないとやりづらいな」

 私は髪をポニーテールにして作業再開する。

「し、雫……う、うなじを見せるのはやめろ」
「へ?」
「くそ。さっき魔界から仕入れた血清を飲んだのに……うぁっ……」
「響斗く……きゃっ……」

 いきなり響斗くんに私は首筋を噛みつかれる。

「ん……痛い….…やっ……」

 ちくっと針で刺されたような鋭い痛みが身体を走る。

「響斗く……ん」
「はぁ……」

 暫くして我に帰った響斗くんは口元についた血を拭いながら、しゃがみこんだ。

「くそ……何で……何でだよ、俺!」
「ひ、響斗くん……」
「悪い、やっぱり部屋に戻るわ。また衝動が起きたらまずい」
「だ、大丈夫。うなじを見せたのがいけなかったんだよね?」
「悪い。我慢……したかった」
「い、痛みそこまで無かったし、私は大丈夫だから気にしないで」
「でも、怖かっただろう?」
「そ、それは……」

 怖くないと言えば、嘘になる。

「夕飯出来たら呼んで。手伝えなくてごめん」
「あっ……」

 響斗くんは部屋にまた篭ってしまった。

 やっぱり響斗くんは吸血鬼として生きるのが嫌なんだな。私、また悪い事しちゃった。


 
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