その温もりを感じていたくて。

胡桃澪

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Chapter8. 離れなきゃいけないのに

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泣きながら駅に向かって歩いていると、スマホから通知音が流れた。

『あんまり飲みすぎてまた持ち帰られたりしないように! 俺以外の男に持ち帰られるの禁止! 』と琥珀からメッセージが来ていた。

琥珀……。

 私が返信しようとすると、また琥珀からメッセージが入った。

『優愛がいないとやっぱりすごく寂しい。でも、頑張ってご飯作るよ! 今日はボンゴレ作る。今日は言い間違えてないよね? 』

 このまま琥珀といたら、私は健介と別れた寂しさからまた琥珀にたくさん甘えてしまうに違いない。

「あの! 」
「えっ……」

 いきなり後ろから誰かに話しかけられ、私は慌てて涙を拭き、振り向く。

「貴方は琥珀の同級生の……」
「森園瑠美と申します。優愛さん、ですよね? 」

 私に突然、話しかけて来たのは琥珀の事を好きっぽい琥珀の同級生の女の子だった。

「な、何かな? 」
「彫刻家の先輩って嘘、ですよね? 」
「えっ? あ、はい……」
 
 嘘、ばれてるじゃない! 琥珀!

「琥珀の事、好きなんですか? 」
「えっと、あの子は弟的存在というか……」
「だったら、もう関わらないでください」
「えっ? 」
「最近、琥珀は貴方の話ばっかり。貴方を描いた絵も見ました。あんな琥珀初めて。せっかく、留学の話来てるのに断るし」
「留学……? 」

 琥珀、一度も私にそんな話……。

「一緒にいたい人がいるから留学には行けないって。きっと、貴方の事です。もし、貴方にその気がないのならもう琥珀を振り回さないで! 琥珀は世界で活躍出来る人。留学に行かないなんて勿体無い。ずっと行きたがってたフランスに行けるわけだし。とにかく、お願いします! 」
「あっ……」

 彼女は冷たく言い放つと、その場から走り去った。

 私は琥珀の人生を狂わす可能性がある。きっと、このまま一緒にいる事はお互いにとって良くない。

 健介と別れた事で甘える私と孤独が嫌で甘える琥珀。ただ傷を舐め合うだけな関係。

 これじゃあお互い強くなれないままだ。

「もしもし、梨々香? 不動産屋さん紹介して欲しいんだけど。うん、明日。すぐ……家決めたいんだ」

私は琥珀から離れる事を決めた。
 
梨々香に電話をした後、私はすぐに琥珀の待つ家へ帰った。

「あれ? 優愛、どうしたの? 飲み会は? 」
「キャンセルしちゃった。なんか飲みたい気分になれなくって」
「そっか。ボンゴレ食べる? 優愛にも食べさせたくてたくさん作っておいた」
「ありがとう、琥珀! 食べようかな。お茶出すね」
「優愛、本当は飲み会じゃなかったんだよね? 」
「えっ……? 」
「目が赤い」

 琥珀は私の頰に触れ、言う。

「デスクワークのしすぎなだけで……」
「会ったの? 彼氏と」

 琥珀は鋭いな。

「そうだよ。別れちゃった。結局、私は彼を許せなかった」
「優愛……」
「でも、大丈夫だから! あんな事があったら百年の恋も冷めちゃうよ」
「優愛には俺がいる。大丈夫だよ」
「えっ? 」
「だから、そんな男……さっさと忘れた方が良い。優愛の為にも」
「そうだね」

 やっぱりこの子は私が好きだ。だから、留学も辞めようとしている。きっと、私とこのままずっと一緒にいたいから。

だけど、琥珀の為にも私は……。

「うん、美味しいよ! 琥珀。初めてにしては上出来だよ」
「良かった。次はボロネーズに挑戦かな」
「なぜパスタばかり! あと、ボロネーゼね。マヨネーズじゃないんだから」
「ボロネーズ……ボロネーゼ! 」
「そうそう」
「たくさん料理作れる男子はモテるって細田も言ってたし」
「琥珀、モテたいの? 」
「だ、断じて違う! 」
「でも、今……」
「俺はただ料理作って優愛に褒めてもらいたいだけ」
「そっか、やっぱり琥珀は可愛いね」
「可愛い禁止! 優愛のバカ」
「怒らないでよ、琥珀ー! 」

 どうしよう、私……琥珀とずっとこんなやりとりをしていたい。だけど、一緒にいちゃだめなんだよ、私達は。

 私は琥珀に恋愛感情を抱いてるわけじゃないし。

「明日は優愛、今日より早く帰る? 」
「ごめん、明日は梨々香と……友達と約束してて」
「そっか」
「お祭り、明後日だよね? 今の内に着付け予約しておくから」
「ほ、本当に着付け行くのか……」
「うん! 琥珀、絶対和装似合うよ」
「が、頑張る」
「よし! 」

 これがきっと最後の思い出になる、私と琥珀の。

「優愛、お風呂上がった」

 夕飯を終え、先にお風呂に入った琥珀が出て来ると、私は驚く。

「ちょっと! 上着ないと風邪引くよ? 」
「夏だし、構わない」
「は、早く上を着なさい! 冷房かけてるから冷えちゃう! 」
「優愛、顔赤い? 」
「そ、そんな事は….…」
「俺の身体見てドキドキ、した? 」

 琥珀は私の顔を覗き込み、聞く。

「お、お風呂入る! 」
「あ、逃げた」

 私は着替えを持って慌ててお風呂へ向かった。琥珀の言う通り、ドキドキしてしまっている自分に動揺している。

 健介と別れたばかりだというのに。

「優愛、もう寝る? 」
「うん、明日も会社だし」

 私がお風呂から上がると、琥珀は布団に入っていた。

「明日は俺が朝ご飯作る」
「えっ? でも……」
「優愛とご飯食べれるの朝くらいだから。いつもより早起きする」
「寂しがり屋だなぁ、琥珀は」
「俺、優愛が大好きだから」

 この子はまた無意識にすごい発言をする。

「本当、琥珀は可愛いね」
「また子供扱い……」
「拗ねないの。そろそろ寝るね」
「優愛」
「ん? 」
「ほっとした。優愛が彼氏と別れたって聞いて」
「えっ? 」
「ひどいかもしれないけど、嬉しかったんだ」

 どうしてこんなにも胸の鼓動が速くなるんだろう。私は琥珀の為に出て行くのに。

 惹かれてる、間違いなく。彼氏と別れたばかりなのに彼に惹かれる私はだめな女だ。

「琥珀……」
「ごめん。おやすみ、優愛」
「おやすみ」

 やっぱり出て行くしかないよね。このままだと琥珀は私と一緒にいる事を選んで留学に行くのをやめてしまう。

 彼は世界で活躍できるかもしれない才能があると言うのに。
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