ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘の日常~

水竜寺葵

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ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘とそれぞれの恋愛事情~

五章 雨の日のお客様とクリームパン

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 アイクがお店のお手伝いをしてくれるようになり、開店前の準備が大分楽になったある日の事。

「いらっしゃいませ……あれ?」

確かにお客が来たはずだと思ったがそこには誰もいない。

「あ、あのぅ……」

その時下から声が聞こえそちらを見やると、ウィルフィールがミラの顔を見詰めていた。

「あら、ウィルちゃん。いらっしゃい」

「今日はね、甘くて白いのがあるって、お友達から聞いて買いに来たの」

にこりと笑う彼女へと、少女が一生懸命に話す。

「甘くて白い……それって、パンが白いのかしら?」

「うんん、パンじゃなくて中が白いの」

まるで謎かけだと思いながらミラは尋ねる。それに首を振ったウィルフィールがそう説明した。

「中が白い……もしかしてクリームパンの事?」

「うん、多分。それ、だと思う」

答えが分かった気がして尋ねると、少女が小さく頷き同意する。

「分かったわ。ちょっと待っていてね」

「……お兄さんはここの人?」

「へ? あ、俺はお手伝いだよ」

ミラがそう言ってパンを取りに行った後、壁際に立ち、邪魔しないようにとしていたアイクへと、ウィルフィールがそっと声をかけた。

「お手伝いさん? そっか、そうなんだ。あのね、お兄さん」

「何だい?」

もじもじしながら、何か伝えたがっている少女へと、彼が視線を合わせる。

「お姉さんの彼氏さんなの?」

「へ?」

耳打ちしてきた内容にアイクが驚いて目を丸めた。

「ち、ち、違うよ! 俺はただのお手伝い」

「そうなの? そっか。分かった」

言われた言葉に恥ずかしくなった彼が、頬を赤らめ全力で否定すると、不思議そうに首を傾げながらウィルフィールが納得する。

「はい、お待たせ」

「有り難う。これ、お金です」

パンを入れた籠を持ってくるミラへとお金を渡し、少女はお店を出て行こうとした。

「あ、待って。雨に濡れてしまうわよ」

「大丈夫だよ。だって、わたし……」

「「えっ!?」」

慌てて傘を貸そうと動く彼女へと、ウィルフィールがにこりと笑い、虹色に輝く羽を出す。

その様子に二人は目を見開き、口を開けて呆ける。

「わたし、水の妖精だから」

「ウィルちゃんが……」

「妖精さん……」

にっこり笑い言われた言葉に、二人は呆気にとられたまま、譫言のように呟く。

「また、ね」

「あ、はい。またのご来店お待ちいたしております」

「気を付けて……」

ウィルフィールの言葉に二人は我に返り慌てて答える。

「す、凄い! アイクさん。私、妖精さんって初めて見たわ」

「俺も、初めてだよ!」

二人して先ほどの出来事に興奮して、お互いの両手を握りしめ振り回す。

「「あっ」」

しかしすぐに現状に気付き慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさい。つい、興奮してしまって」

「お、俺こそ、ごめん」

ぎこちない空気に、二人は居心地が悪そうにしながら、それぞれ背を向けて呟く。

「そ、それじゃあ、俺、パン作りの練習しに行ってきます」

「え、えぇ」

居心地が悪くなったのか、アイクがそう言うと、厨房へと立ち去る。

一人残されたミラは、もじもじしながら、小さく溜息を吐き出す。

「はぁ。私、どうしちゃったのかしら?」

心臓が早鐘のごとく打ち鳴る様子に、彼女は胸を押さえ呟いた。
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