ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘の日常~

水竜寺葵

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ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘とそれぞれの恋愛事情~

六章 ローズとキール

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 夏真っ盛りのある日のライゼン通り。パン屋の扉を開けて一人のお客が入って来た。

「ミラ、いるかしら」

「あ、ローズ様。いらっしゃい」

慌てて入って来たのはローズで、ミラはにこりと笑い出迎える。

「いらっしゃいませ」

「あら、貴女従業員でも雇ったの?」

厨房からパンを持ってきたアイクの姿に王女が尋ねた。

「従業員じゃないわ。彼はパン作りのお手伝いさんなの。私一人では朝の仕込みが大変だったから」

「成る程、それならわたしやレイヴィンに手伝わせても良かったのに」

ミラの説明を聞いて納得したローズが、そう言って不貞腐れる。

「流石にローズ様達を手伝わせるわけにはいかないからね。そ、それより。縁談の話はどうなったの?」

「それが、物凄く失礼な態度をとって嫌われようと思ったのよ。でも、相手が「貴女のような面白い方となら、きっと良い未来が見られそうです」とかって言って縁談を進めようとしてきたの。だからわたしこう言ってやったわ「貴方が本当にわたくしに似合う殿方かどうか、確かめるまでは、絶対にこの縁談は受けない」ってね」

「それでお相手はどう返事したの?」

王女の話に彼女は食らいつく。

「そこまで言われたれ普通は引き下がるでしょう。それが、相手はその気になってしまってね。「貴女のお返事を聞くまでこの国に滞在し、お待ちいたします」って言われてしまったの」

「ローズ様も変わりものですが、相手も相当の変わり者ですね」

話を聞いたミラは呆気に取られて呟く。

「わたしが変わり者って……そうね。変わり者の王女の方が相手にはいいかもしれないわ」

「失礼します。おや、ローズ様。こちらでお会いするとは、パン屋にお忍びで来ているというお噂は、本当だったのですね」

ローズが話していると扉が開かれお客が入って来る。

「どうして、貴方がここにいるのよ」

「ここのパンがとても美味しかったので、また買いに来たのですよ」

途端に不機嫌になった王女へと彼がにこりと笑い答えた。

「え、え~っと。キールさん。ローズ様と仲が悪かったの?」

「実直なご質問だな。仲が悪いというか……なんというか」

たじろぎながらミラは尋ねる。それにキールが困った顔でローズを見やりながら答えた。

「ふん! 付きまとわれているみたいで、嫌な気持ちだわ」

「貴女の機嫌を損ねてしまったのなら申し訳ない。だが、本当にただパンを買いに来ただけなのだ。だが、しかし。これ以上ここに留まるのは良くなさそうだな。ミラさん、済まない。また今度改めてパンを買いに来ます」

腕を組み明後日の方角へと顔を向けて話す王女へと、彼が弁解するも聞いては貰えず、お店を出て行くと告げた。

「え、えぇ。またのご来店お待ちいたしております」

「もう二度と来なくていいわ」

終始戸惑いながら対応するミラと、怒ったまま言い放つローズ。

「あ、あの。俺、パンを補充する為に厨房に取りに行きますね」

「え、ちょと。待ってアイクさん!」

居心地が悪くなったのか、厨房へと避難するアイクの背中へと向けて「ここに置いて行かないで」といいたげに彼女は呼び止めたが、彼が戻ってくることはなく、姿が見えなくなってしまった。

「わたし、気分が悪くなったわ。ミラ、また今度改めてパンを買いに来るから」

「は、はい」

不機嫌になってしまった王女が言うとお店を出て行く。

「……な、なんなのよ。もう」

一人きりになった空間でミラは疲労感を覚えながら呟いた。

「ミラ、ごめん。君を一人置いて行ってしまって」

「え、いいのよ。それより、ローズ様とキールさん。仲が悪いみたいね」

直ぐに戻って来たアイクが謝るので、彼女は慌てて答えると、困った顔で唸る。

「ローズ様とキール様って、お貴族様なんだよね。貴族の間で何か色々と抱えている事情があるのかも」

「え? あ~。そ、そうね。貴族だから色々とあるのかもしれないわね」

彼の言葉にミラは、ローズが王女だってことを話してしまいそうになったが、慌てて苦笑すると、言葉を濁して頷く。

「兎に角。二人の間に何があるのかは分からないけれど、私達はお客様同士の事情に突っ込むのは良くないから、今日の事は絶対に秘密にしておきましょうね」

「そうだね。お客様の情報漏洩しないように努めるか。これも勉強だな」

彼女の言葉にアイクが頷くと、ポケットに入れていたメモへと今日覚えた事を書き足す。

「さあ、気持ちを切り替えて、お仕事しましょう」

「うん」

手の平を叩いて空気を切り替えるミラの言葉に、彼も頷きお店の仕事へと戻る。

二人がローズとキールの関係を知るのは、もう少し後になってからであった。
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