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第四章 少しだけ縮まる距離
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港町を出てから数時間が経過し、神子の体調のことも考え小川の見える草原で休憩をする事となりそれぞれ思い思いにくつろいでいた。
「ちょっといいか」
「伸介さん何か御用ですか?」
木陰に座り頬を撫ぜる風に目を閉じて感じていた神子へと伸介が声をかける。
「良いからちょっとこちに来い」
「は、はい」
彼に言われるがまま人気がない花畑の近くまで移動するとそこで立ち止まり何やらごそごそと袖の下を探る伸介。
「?」
「お前ずっと素足で下駄を履いてるだろ。だから足にまめができるんだ。だからこれ使え」
「え。伸介さんこれは……なんですか?」
その様子を不思議そうに眺めていたら振り返り何やら白い物体を渡してくる。それを見詰めて彼女は尋ねた。
「足袋だ。これを履いてれば下駄を履いていても足にまめができることはない」
「これが足袋……こんな高価なものを……頂いて宜しいのですか?」
伸介の言葉に神子は驚いて手の内にある足袋を見詰める。
「お前の足が豆だらけになってつぶれて血が出るくらいなら、足袋の一つや二つ買うくらいなんともない」
「有難う御座います。大切に使わせて頂きますね」
彼が笑顔で言うと彼女は嬉しくて微笑み礼を述べた。
「いいさ。どうせいつかはすり切れて履けなくなる。そうなったらまた新しいの買ってやっから」
「ふふ。伸介さんたら。早速はかせて頂きますね」
「ああ」
彼の言葉がおかしくて笑うと早速足袋を履かせてもらう。
「……えっとこう、でいいのでしょうか」
「そうそう。ちゃんと履けたな。ちょっとその辺歩いてみろよ」
はき方があってるかどうか不安で尋ねるとそれで大丈夫だと伸介が頷きそう促す。
「はい。……あ。足袋って不思議な感覚ですね」
「ま、慣れれば違和感も感じなくなるさ」
その辺りを歩いてみて初めての履き心地に足に違和感を覚える。その様子を微笑まし気に見詰めて伸介が言った。
「ですがさっきより歩きやすいです」
「それなら良かった」
笑顔で言われた言葉に彼も嬉しそうに笑い安堵する。
「伸介さん、もしかして私の足にまめができた事をずっと気にしていらしたのですか?」
「嫁入り前の娘の足に傷なんかできたら可哀そうだと思ってよ。お前も年頃の女なんだから少しは気にしろよな」
彼女の言葉に伸介が少しは気にしろとやんわり注意した。
「年頃の娘だなんて……私みたいな田舎娘嫁に欲しいなんて殿方はいらっしゃらないと思いますよ」
「なら俺が貰ってやるよ」
「え?」
神子が自分なんて欲しいと思う人はいないというと彼が笑顔でそう宣言する。その意外な言葉に面食らって呆けた顔で伸介を見詰めた。
「誰も貰わなかったらの話だがな」
「もう、伸介さんたら……ふふっ」
意地悪そうににやりと笑い言った彼へと彼女はからかわれたと思い、小さく抗議の声をあげたがおかしくて微笑む。
「さ、そろそろ皆のいるところに戻ろう」
「はい」
伸介が言うと神子も返事をして皆がいる場所まで戻っていった。
休息を終えた一行は小川の流れに沿って歩き次の村へと到着する。
「この村で今日は泊ります。次の町までは五里もありますので、ゆっくりと休んで身体の調子を整えてから旅を再開します」
「分かりました」
文彦の言葉に神子は返事をすると村長へと話をして小さなあばら家を借りてそこで寝泊まりすることとなった。
「村の中でしたら自由に散策して下さってかまわない。ただし誰か一人はお付きのものをつける事。神子様の身の安全のためですので、それだけは譲れません」
「分かりました。この近くなら一人でも大丈夫でしょうか?」
あばら屋へと到着し荷物を下ろすと隼人がそう言って説明する。彼女はそれに疑問を持ち尋ねた。
「家の近くでしたら私達がしっかりと見張っておりますので大丈夫です。ですがあまり一人で出歩かないように」
「はい」
家の周りなら構わないと承諾してくれるが、一人でどこかに行かないようにと忠告されそれに素直に頷くと早速家の庭へと出て雑木林へと目を向けた。
「この家の側には雑木林があるんですね。鳥の歌声がとても綺麗に聞こえます」
「神子様。雑木林に一人で入ってはいけないよ」
雑木林の方から聞こえてくる鳥のさえずりに耳を澄ませていると背後から誰かに声をかけられ慌てて振り返る。
「入ったりはしませんが、とてもきれいな景色でしたのでつい見惚れてまして……」
「神子様の村もこんな感じなんだろうね。だから懐かしく感じたのかもしれないね」
そこに立っていた弥三郎が微笑み彼女を見ていて、神子は見られていたことが恥ずかしくて頬を赤らめながら答えた。
それにくすりと笑い彼がそう話すと、神子はそれもあるかもと納得して小さく微笑む。
「たしかに懐かしい感じではありますね」
「いつか神子様のお育ちになられた村へと行ってみたいな」
彼女の言葉に目を細めて微笑むと弥三郎がそう言った。
「では、この旅が終わったら是非遊びにいらしてください。と言っても何もない村でつまらなく感じるかもしれませんが」
「そんな事ないよ。優しくて暖かいとても素敵な所だとぼくは思ってる。だってこんなにも優しくて純粋な神子様を育てた村なのですから。きっととても素晴らしい村なんだろうなって、だからこそ見てみたいんだ」
「弥三郎さん……」
笑顔で神子が言うとそんな事ないといって笑い答える。その言葉が以外で嬉しさと恥ずかしさとで頬を赤らめ困惑した顔で彼を見詰めた。
「!?」
「神子様!」
その時雑木林の中からうごめくなにかが神子達の方へと向かってきたかと思うと彼女は誰かに羽交い絞めに合い目を見開く。
弥三郎も誰かに腕を掴まれ身動きを封じられておりそれでも彼女の事を心配して叫ぶ。
「こんなところにいたとはずいぶんと探させてくれたな。弥三郎殿」
「「!?」」
男の声にそちらへと顔を向けると黒い着物を着た仕事人の様な風貌の男が刀を抜き放ち立っていた。
「ある方の命により貴様をここで始末する」
「どうした?」
「弥三郎様」
「「神子様」」
「神子さん」
男がそう言うとゆっくりとした動作で弥三郎の方へと近づく。その時異変に気付いた皆が庭へと駆け着けると、男達に羽交い絞めに合う神子と弥三郎の姿を見て全員の目つきが鋭くなる。
「貴様……この方が神子様と知ってのろうぜきか?」
「そいつに何かしたら許しはしない」
「……」
隼人と伸介が刀を抜き放ち構えると低い声でそう言い放つ。文彦も怒りを押し殺した顔で相手を睨み付けていた。
「あんたらの悪行を黙って見過ごすことはできない」
「貴様……その穢れた手で弥三郎様に触れるな!」
喜一も真顔になり言いながら武器を手に取る。亜人が今にも斬りかからん勢いでそう言い放つと刀をちらつかせ迫る。
「待って。これはぼくの家の問題なんだ。だから決着はぼくがつける」
「弥三郎さん?」
静かな声で制止をかけたのは腕を掴まれたままの状態の弥三郎だった。普段見た事のない怖い顔をする彼の様子に不思議そうに神子が声をかけた。
「神子様にまで手を出すなんて許せない」
「!?」
静かな声でそう言い放つと自分を捕まえている男を背負い投げして地面へとたたきつけると勢いそのままに神子を束縛している相手へと蹴りを入れる。
「弥三郎さん?」
「神子様、ごめんね」
普段からは考えられない動きに神子も驚く。そんな彼女へと小さく謝ると弥三郎は神子を突き飛ばす。
「きゃっ」
「亜人」
「はっ!」
突き飛ばされて短く悲鳴をあげる彼女の視界はすぐに紺色一色へと染まった。弥三郎の号令を受けて動いた亜人の胸へと抱きかかえられそのまま安全な位置まで移動していたのである。
「亜人さん」
「神子様弥三郎様なら大丈夫です。ですからどうか心配なさらずに」
「でも」
不思議そうに声をあげる彼女へと彼が安心させるように微笑み話す。それでも心配だといった顔をした時彼女の耳は優しくて温かな手に覆われた。
「神子様失礼いたします。しばらくこの体制のままでいることお許しください」
「は、はい」
意味が解らないといった顔をする神子へと彼が優しく説明する。それに頷くも男の人に抱きかかえられ耳をふさがれているという状況に恥ずかしさと緊張で心臓の音が早まり頬を紅潮させた。
(う~。恥ずかしい。赤くなった顔を見られてないと良いのですが)
煩いくらいに聞こえる自分の心音のせいで周囲の音がまるで聞こえなくなり、彼女は早くこの羞恥心から逃れたいとだけ思う。
彼女が羞恥心に耐えている間目の前では大太刀を抜き放ち構えた弥三郎と男達との間で凍り付いたかのような空気が流れていて、その様子に伸介達もどうしたものかとたじろいでいた。
「神子様に手を出したことあの世で後悔するがいい。……はぁっ」
「ぐぅ」
「やっ。はっ」
「ぎゃあ」
神子と自分を羽交い絞めにしていた男達をあっさりと打倒すと残ったのは仕事人の様な感じの男一人。
「ちっ……」
「そはさせない。お前には黒幕を吐いてもらう。それまで死なせてたまるか」
男は分が悪いと思い自害しようとするがそれを弥三郎に邪魔され大太刀を首元に当てられ身動きを封じられる。
一瞬で間合いを詰められたことに驚いた男が目を見開き、彼のただならぬ強さに恐怖に怯えた。
「言え。誰に命令された」
「ひっ……あ、貴方の伯母上様です。伯母上様から弥三郎殿を殺すように頼まれたんです」
刃物を首に当てられ怯えた相手は誰に頼まれたのかを白状する。
「伯母上がなぜそんなことを頼むんだ」
「そ、それは……」
それに疑問を持った弥三郎が尋ねるが相手は目線を彷徨わせ口ごもった。
「言え」
「……っ。伯母上様には息子さんがいらしゃいます。当時ご子息のできなかった貴方のお父上様は伯母上様の息子さんを跡取りにすると約束されていた。しかし貴方が生まれた事によりそれが叶わなくなった。だから貴方の命を狙い殺めようとしたのです。そうすれば自分の息子が跡取りになると考えられたのです」
少しだけ刃を首に食い込ませると相手は慌てて口を開き説明する。
「そうか……分かった」
「!?」
全てを理解した彼が言うと大太刀を引き相手の心臓を貫く。男は一瞬の出来事に声もあげることができないまま事切れた。
「……今見たことは絶対に神子様には言わないでね。神子様はこんなどろどろした血生臭いことなんか知らなくていいんだ。だからお願いだよ」
「分かった。あいつには絶対に言わねえ」
「今見たことは俺達だけの胸に仕舞っといてやんよ」
皆の下へと戻ってきた弥三郎が困った顔でそうお願いする。それに伸介が神妙な顔で頷くと喜一も真顔で同意した。文彦と隼人も無言で頷く。
「有難う……神子様もう大丈夫だよ」
「? は、はい」
お礼を述べると神子の方へと向けて声をかける。それに亜人から解放された彼女は何が起こったのか分からないといった顔で返事をする。
「追い詰めたんだけど自害されちゃって……だけどぼくの命を狙った黒幕が分かったんだ」
「弥三郎さんの命を狙った人が分かったのですか」
困った顔で話す弥三郎の言葉に神子は驚き尋ねた。
「うん。ねえ、神子様。ちょっと立ち寄ってもらいたい町があるんだ。ぼくと亜人で決着をつけてくるから。その間神子様達は町でゆっくり休んでて」
「はい。分かりました」
彼の言葉に神子は頷くとあばら屋の中へと入り、彼女が怪我をしてないかどうかを文彦が見て過ごす。
「突然のことで驚かれたようですね。少し脈が速いようですが、とても怖い思いをなされた後ですからそれもしかたない事かと思われます。今はゆっくり休んでください」
「はい」
(まさか亜人さんに抱きかかえられた状態が恥ずかしくて脈があがったなんてとても言えない……)
心配した顔で話す文彦へと返事をしながら内心で言葉を呟き溜息を吐く。
「どこか具合でも悪いのか?」
「い、いえ。大丈夫です」
溜息を吐いた彼女の様子に伸介が尋ねる。それに神子は慌てて答えると苦笑した。
「ま、あんなことがあった後だからな。兎に角今はゆっくり寝かせてやろうぜ」
「では私は神子様の部屋の前で警備をしてますので何かありましたらすぐにお呼びください」
「はい」
喜一の言葉に皆それもそうだといった感じに納得すると部屋を出ていく。最後に隼人がそう言うと部屋から出ていった。
「……うぅ。殿方に抱きしめられるなんて初めてで……恥ずかしかった」
布団に顔を埋めて赤面すると誰もいなくなったことを幸いに声に出して呟く。
羞恥心により脈が乱れただけであるという事は絶対口が裂けても言わないでおこうと心に決める神子であった。
「ちょっといいか」
「伸介さん何か御用ですか?」
木陰に座り頬を撫ぜる風に目を閉じて感じていた神子へと伸介が声をかける。
「良いからちょっとこちに来い」
「は、はい」
彼に言われるがまま人気がない花畑の近くまで移動するとそこで立ち止まり何やらごそごそと袖の下を探る伸介。
「?」
「お前ずっと素足で下駄を履いてるだろ。だから足にまめができるんだ。だからこれ使え」
「え。伸介さんこれは……なんですか?」
その様子を不思議そうに眺めていたら振り返り何やら白い物体を渡してくる。それを見詰めて彼女は尋ねた。
「足袋だ。これを履いてれば下駄を履いていても足にまめができることはない」
「これが足袋……こんな高価なものを……頂いて宜しいのですか?」
伸介の言葉に神子は驚いて手の内にある足袋を見詰める。
「お前の足が豆だらけになってつぶれて血が出るくらいなら、足袋の一つや二つ買うくらいなんともない」
「有難う御座います。大切に使わせて頂きますね」
彼が笑顔で言うと彼女は嬉しくて微笑み礼を述べた。
「いいさ。どうせいつかはすり切れて履けなくなる。そうなったらまた新しいの買ってやっから」
「ふふ。伸介さんたら。早速はかせて頂きますね」
「ああ」
彼の言葉がおかしくて笑うと早速足袋を履かせてもらう。
「……えっとこう、でいいのでしょうか」
「そうそう。ちゃんと履けたな。ちょっとその辺歩いてみろよ」
はき方があってるかどうか不安で尋ねるとそれで大丈夫だと伸介が頷きそう促す。
「はい。……あ。足袋って不思議な感覚ですね」
「ま、慣れれば違和感も感じなくなるさ」
その辺りを歩いてみて初めての履き心地に足に違和感を覚える。その様子を微笑まし気に見詰めて伸介が言った。
「ですがさっきより歩きやすいです」
「それなら良かった」
笑顔で言われた言葉に彼も嬉しそうに笑い安堵する。
「伸介さん、もしかして私の足にまめができた事をずっと気にしていらしたのですか?」
「嫁入り前の娘の足に傷なんかできたら可哀そうだと思ってよ。お前も年頃の女なんだから少しは気にしろよな」
彼女の言葉に伸介が少しは気にしろとやんわり注意した。
「年頃の娘だなんて……私みたいな田舎娘嫁に欲しいなんて殿方はいらっしゃらないと思いますよ」
「なら俺が貰ってやるよ」
「え?」
神子が自分なんて欲しいと思う人はいないというと彼が笑顔でそう宣言する。その意外な言葉に面食らって呆けた顔で伸介を見詰めた。
「誰も貰わなかったらの話だがな」
「もう、伸介さんたら……ふふっ」
意地悪そうににやりと笑い言った彼へと彼女はからかわれたと思い、小さく抗議の声をあげたがおかしくて微笑む。
「さ、そろそろ皆のいるところに戻ろう」
「はい」
伸介が言うと神子も返事をして皆がいる場所まで戻っていった。
休息を終えた一行は小川の流れに沿って歩き次の村へと到着する。
「この村で今日は泊ります。次の町までは五里もありますので、ゆっくりと休んで身体の調子を整えてから旅を再開します」
「分かりました」
文彦の言葉に神子は返事をすると村長へと話をして小さなあばら家を借りてそこで寝泊まりすることとなった。
「村の中でしたら自由に散策して下さってかまわない。ただし誰か一人はお付きのものをつける事。神子様の身の安全のためですので、それだけは譲れません」
「分かりました。この近くなら一人でも大丈夫でしょうか?」
あばら屋へと到着し荷物を下ろすと隼人がそう言って説明する。彼女はそれに疑問を持ち尋ねた。
「家の近くでしたら私達がしっかりと見張っておりますので大丈夫です。ですがあまり一人で出歩かないように」
「はい」
家の周りなら構わないと承諾してくれるが、一人でどこかに行かないようにと忠告されそれに素直に頷くと早速家の庭へと出て雑木林へと目を向けた。
「この家の側には雑木林があるんですね。鳥の歌声がとても綺麗に聞こえます」
「神子様。雑木林に一人で入ってはいけないよ」
雑木林の方から聞こえてくる鳥のさえずりに耳を澄ませていると背後から誰かに声をかけられ慌てて振り返る。
「入ったりはしませんが、とてもきれいな景色でしたのでつい見惚れてまして……」
「神子様の村もこんな感じなんだろうね。だから懐かしく感じたのかもしれないね」
そこに立っていた弥三郎が微笑み彼女を見ていて、神子は見られていたことが恥ずかしくて頬を赤らめながら答えた。
それにくすりと笑い彼がそう話すと、神子はそれもあるかもと納得して小さく微笑む。
「たしかに懐かしい感じではありますね」
「いつか神子様のお育ちになられた村へと行ってみたいな」
彼女の言葉に目を細めて微笑むと弥三郎がそう言った。
「では、この旅が終わったら是非遊びにいらしてください。と言っても何もない村でつまらなく感じるかもしれませんが」
「そんな事ないよ。優しくて暖かいとても素敵な所だとぼくは思ってる。だってこんなにも優しくて純粋な神子様を育てた村なのですから。きっととても素晴らしい村なんだろうなって、だからこそ見てみたいんだ」
「弥三郎さん……」
笑顔で神子が言うとそんな事ないといって笑い答える。その言葉が以外で嬉しさと恥ずかしさとで頬を赤らめ困惑した顔で彼を見詰めた。
「!?」
「神子様!」
その時雑木林の中からうごめくなにかが神子達の方へと向かってきたかと思うと彼女は誰かに羽交い絞めに合い目を見開く。
弥三郎も誰かに腕を掴まれ身動きを封じられておりそれでも彼女の事を心配して叫ぶ。
「こんなところにいたとはずいぶんと探させてくれたな。弥三郎殿」
「「!?」」
男の声にそちらへと顔を向けると黒い着物を着た仕事人の様な風貌の男が刀を抜き放ち立っていた。
「ある方の命により貴様をここで始末する」
「どうした?」
「弥三郎様」
「「神子様」」
「神子さん」
男がそう言うとゆっくりとした動作で弥三郎の方へと近づく。その時異変に気付いた皆が庭へと駆け着けると、男達に羽交い絞めに合う神子と弥三郎の姿を見て全員の目つきが鋭くなる。
「貴様……この方が神子様と知ってのろうぜきか?」
「そいつに何かしたら許しはしない」
「……」
隼人と伸介が刀を抜き放ち構えると低い声でそう言い放つ。文彦も怒りを押し殺した顔で相手を睨み付けていた。
「あんたらの悪行を黙って見過ごすことはできない」
「貴様……その穢れた手で弥三郎様に触れるな!」
喜一も真顔になり言いながら武器を手に取る。亜人が今にも斬りかからん勢いでそう言い放つと刀をちらつかせ迫る。
「待って。これはぼくの家の問題なんだ。だから決着はぼくがつける」
「弥三郎さん?」
静かな声で制止をかけたのは腕を掴まれたままの状態の弥三郎だった。普段見た事のない怖い顔をする彼の様子に不思議そうに神子が声をかけた。
「神子様にまで手を出すなんて許せない」
「!?」
静かな声でそう言い放つと自分を捕まえている男を背負い投げして地面へとたたきつけると勢いそのままに神子を束縛している相手へと蹴りを入れる。
「弥三郎さん?」
「神子様、ごめんね」
普段からは考えられない動きに神子も驚く。そんな彼女へと小さく謝ると弥三郎は神子を突き飛ばす。
「きゃっ」
「亜人」
「はっ!」
突き飛ばされて短く悲鳴をあげる彼女の視界はすぐに紺色一色へと染まった。弥三郎の号令を受けて動いた亜人の胸へと抱きかかえられそのまま安全な位置まで移動していたのである。
「亜人さん」
「神子様弥三郎様なら大丈夫です。ですからどうか心配なさらずに」
「でも」
不思議そうに声をあげる彼女へと彼が安心させるように微笑み話す。それでも心配だといった顔をした時彼女の耳は優しくて温かな手に覆われた。
「神子様失礼いたします。しばらくこの体制のままでいることお許しください」
「は、はい」
意味が解らないといった顔をする神子へと彼が優しく説明する。それに頷くも男の人に抱きかかえられ耳をふさがれているという状況に恥ずかしさと緊張で心臓の音が早まり頬を紅潮させた。
(う~。恥ずかしい。赤くなった顔を見られてないと良いのですが)
煩いくらいに聞こえる自分の心音のせいで周囲の音がまるで聞こえなくなり、彼女は早くこの羞恥心から逃れたいとだけ思う。
彼女が羞恥心に耐えている間目の前では大太刀を抜き放ち構えた弥三郎と男達との間で凍り付いたかのような空気が流れていて、その様子に伸介達もどうしたものかとたじろいでいた。
「神子様に手を出したことあの世で後悔するがいい。……はぁっ」
「ぐぅ」
「やっ。はっ」
「ぎゃあ」
神子と自分を羽交い絞めにしていた男達をあっさりと打倒すと残ったのは仕事人の様な感じの男一人。
「ちっ……」
「そはさせない。お前には黒幕を吐いてもらう。それまで死なせてたまるか」
男は分が悪いと思い自害しようとするがそれを弥三郎に邪魔され大太刀を首元に当てられ身動きを封じられる。
一瞬で間合いを詰められたことに驚いた男が目を見開き、彼のただならぬ強さに恐怖に怯えた。
「言え。誰に命令された」
「ひっ……あ、貴方の伯母上様です。伯母上様から弥三郎殿を殺すように頼まれたんです」
刃物を首に当てられ怯えた相手は誰に頼まれたのかを白状する。
「伯母上がなぜそんなことを頼むんだ」
「そ、それは……」
それに疑問を持った弥三郎が尋ねるが相手は目線を彷徨わせ口ごもった。
「言え」
「……っ。伯母上様には息子さんがいらしゃいます。当時ご子息のできなかった貴方のお父上様は伯母上様の息子さんを跡取りにすると約束されていた。しかし貴方が生まれた事によりそれが叶わなくなった。だから貴方の命を狙い殺めようとしたのです。そうすれば自分の息子が跡取りになると考えられたのです」
少しだけ刃を首に食い込ませると相手は慌てて口を開き説明する。
「そうか……分かった」
「!?」
全てを理解した彼が言うと大太刀を引き相手の心臓を貫く。男は一瞬の出来事に声もあげることができないまま事切れた。
「……今見たことは絶対に神子様には言わないでね。神子様はこんなどろどろした血生臭いことなんか知らなくていいんだ。だからお願いだよ」
「分かった。あいつには絶対に言わねえ」
「今見たことは俺達だけの胸に仕舞っといてやんよ」
皆の下へと戻ってきた弥三郎が困った顔でそうお願いする。それに伸介が神妙な顔で頷くと喜一も真顔で同意した。文彦と隼人も無言で頷く。
「有難う……神子様もう大丈夫だよ」
「? は、はい」
お礼を述べると神子の方へと向けて声をかける。それに亜人から解放された彼女は何が起こったのか分からないといった顔で返事をする。
「追い詰めたんだけど自害されちゃって……だけどぼくの命を狙った黒幕が分かったんだ」
「弥三郎さんの命を狙った人が分かったのですか」
困った顔で話す弥三郎の言葉に神子は驚き尋ねた。
「うん。ねえ、神子様。ちょっと立ち寄ってもらいたい町があるんだ。ぼくと亜人で決着をつけてくるから。その間神子様達は町でゆっくり休んでて」
「はい。分かりました」
彼の言葉に神子は頷くとあばら屋の中へと入り、彼女が怪我をしてないかどうかを文彦が見て過ごす。
「突然のことで驚かれたようですね。少し脈が速いようですが、とても怖い思いをなされた後ですからそれもしかたない事かと思われます。今はゆっくり休んでください」
「はい」
(まさか亜人さんに抱きかかえられた状態が恥ずかしくて脈があがったなんてとても言えない……)
心配した顔で話す文彦へと返事をしながら内心で言葉を呟き溜息を吐く。
「どこか具合でも悪いのか?」
「い、いえ。大丈夫です」
溜息を吐いた彼女の様子に伸介が尋ねる。それに神子は慌てて答えると苦笑した。
「ま、あんなことがあった後だからな。兎に角今はゆっくり寝かせてやろうぜ」
「では私は神子様の部屋の前で警備をしてますので何かありましたらすぐにお呼びください」
「はい」
喜一の言葉に皆それもそうだといった感じに納得すると部屋を出ていく。最後に隼人がそう言うと部屋から出ていった。
「……うぅ。殿方に抱きしめられるなんて初めてで……恥ずかしかった」
布団に顔を埋めて赤面すると誰もいなくなったことを幸いに声に出して呟く。
羞恥心により脈が乱れただけであるという事は絶対口が裂けても言わないでおこうと心に決める神子であった。
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